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2.駅前にて

 部活を終え、葵がバス停に行くと、ベンチには和彦と美穂が座っていた。

「あれ、相原君は歩きだったんじゃ?」

「ああ、今日は駅前まで用事があってね。昨日の晩、本屋から電話があったんだ。注文しておいた本が届いたそうだから」

 和彦が真ん中に寄って、スペースを作った。

 葵は少し迷った後、遠慮気味にベンチに腰掛ける。異性の隣に座るわけであるからどうしても躊躇いがでてしまうのだ。

 ベンチは小さく、三人が腰掛けると一杯になってしまう。それだけ近い距離に男子がいると思うと、ついつい稽古中にかいた汗の臭い(もちろんしっかりと拭き取ってはいる)が気になってしまう。

 葵は妙な気分に駆られた。どれだけ激しく練習しても、すぐ近くで稽古していた誠に対してはそんなことを全然気にしたりはしないのに、和彦の前に来るとなぜか意識してしまう。その原因は、今朝に裕美が少年との関係について変なことを口走った所為なのか、それとも別の何かなのか、はっきりと分からない。

 自分の胸の中で渦巻く奇妙な気持ちの動揺を誤魔化すため、葵はその抜け道を求めて同じベンチに行儀良く腰掛けている華奢な体型の少女を見た。

「ごめんね、高橋さん。今日大変だったでしょ?」

 真ん中の和彦を挟むようにして腰掛ける美穂に、葵は申し訳なさそうに詫びる。

「え、櫻井君のこと? う、うん、大変……だったよ。けど、相原君にも説得してもらって引き取ってもらったし、だから大丈夫」

 葵を気遣う言葉を掛ける美穂であったが、その顔はこころなしか、ほのかに赤くなっていた。

 何故赤くなっているのか、その時の葵には見当がつかなかった。

「ね、相原君。あの人、変な人だよね? 私の写真が撮りたいだなんて」

 美穂は何故か恥ずかしそうにモジモジとしている。視線もあちらこちらに動くし、意味もなく結われた髪の房を前に持ってきて指の腹でいじったりしている。

「ねえ、高橋さん?」

「ううん、何でもないよ! 何でも」

 まだ何も聞いていないというのに、否定の言葉を発する。そこには普段の美穂の落ち着いたたたずまいは微塵も見えなかった。もしかしたら、本人にとってはまんざらでもなかったのかもしれない。

 葵がバス停に到着してから数分後に後を追うように裕美がやってきた。彼女も普段バス停で見ない人物に驚きを見せた。

「あれー? 相原君、何でここに居んの? もしかしてこれからデート?  ……ところで、相手は葵? それとも美穂かな? それとも二人とも?」

 ――きっと、今朝の裕美の発言が原因の一つであることは間違いないだろう。

 突拍子もない裕美の発言を聞き、葵は「どう想像したらそうなるのよ」と冷たく言い放ち、裕美の頭を軽く小突いた。


 駅前のバス停から降りた時にはもう日は傾きかけていた。

「さて、それじゃあ帰るとしますかね。……って、葵どうしたのよ」

 裕美はある一点をずっと見つめている葵が気になり、彼女の視線を追っていく。その先には、背の高い少年の姿があった。昨夜、葵が目撃した少年とまったくの同一人物である。

「ねえ、あれってもしかして四組の水原じゃないの?」

 葵に確認すると、無言で葵は首を縦に振った。

「やっぱり、あーそれにしてもひどい格好になってるわね。ありゃ何日も家に帰ってないわ、どう思う? あれは家出ではなかろうかねえ?」

「そんなもの私に聞かれても解んないわよ。でも、なんだろ? 遠いから判断しづらいけどなんかそんなことよりも変な様子じゃない?」

 話を振られた美穂は水原のただならぬ様子に気付いていた。

「ふーん、言われてみればそんな感じするよね。ねえ葵、アンタ昼休みに言ってた事って何だったっけ? ……って、あれっ? どこ行った?」

 裕美は葵の姿がそこにはないと知ると、あたりを見渡した。

「あっ、いたいた。おーいどこ行くのよー!」

「やっぱり気になる! 後を追う」

 葵はそれだけを裕美達に伝えると、走り出した。走っていく方向に目を向けると、それは水原がさっきまでいた方向であった。胸騒ぎが裕美を襲った。

「美穂! 行くわよ。……と、それから相原君もとりあえず付き合って!」

 裕美は言うやいなや、状況が飲み込めずにいた和彦の右腕を掴むと、青信号が点滅する横断歩道を一気に駆け抜けた。それよりも少し遅れて美穂も文句を言いながら駆け足で慌てて横断歩道を渡った。

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