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3.逃避行〈Ⅱ〉

 坑道を抜け出し、崖の一本道へと抜け出すために施設の廊下を走っている彼らを、突如地響きが襲った。その地響きの影響で廊下が抜けてしまい、グループの後ろにいた遥香、誠、慎二が隊列から分断されてしまった。

「おい! こんなところで、冗談じゃねえぞ!」

 列から切り離されてしまった誠は言った。

「大丈夫か!」

 大声で亮輔が取り残された誠達に聞いた。

「大丈夫だ! とりあえず生きてる! それよりも早くここから出て助けを呼んでくれよ! 期待してるぜ!」

 誠の声を聞くと、亮輔は少女達を連れて走り出した。

 その姿を見送ると、誠は少し不安そうな顔になった。

「とは言ったものの、どうするよ?」

「……どうしようもないんじゃないの?」

「てめえはこういう時にどうしてみもふたもないことしか言えねえんだよ!」

 誠は慎二を睨んだ。

「……まずは、別の出口を捜しましょう。あの、朝比奈さんという人が洞窟からこの施設にたどり着いたんですから、きっとあの坑道は別の場所に繋がっているはずです」

「そうか、そこまでは考えが回らなかったけど、朝比奈があの坑道からやってきたんならそれもありえるよな」

 廊下に胡座をかいて座っていた誠は立ち上がる。

「……でもよ、てことは戻るんだよな? ……あの場所に。俺、やだぜ」

「そうなるけど、行くしかないだろ? 大丈夫、いざとなったときには期待してるよ。戦力になりそうなのは誠だけだからね」

 慎二は誠の肩をポンと叩いた。

「何言ってんだ! お前もやるんだよ!」

 誠は少し腹立たしくなり、慎二の頭に軽く拳骨を喰らわした。

「そこにいたか、てめえら。随分となめた真似しやがって」

 突然聞こえた声に振り返ると、そこには誠達が最初に連れてこられた部屋を見張っていたチンピラ風の男がいた。しかし、立ち姿が少しがに股になっている。おそらく誠の渾身の一撃が効いているのだろう。こころなしか膝も笑っている。

「へへへ、後ろは行き止まりだな。ゆっくりとてめえらを始末してやるよ。まずは俺をこんな風にしてくれたチビ野郎! てめえからだ!」

 匕首を抜き、その切っ先を誠に向ける。

「切り刻んでやるぜ! このチビが」

「てめえ! 人の気にしてることを二度も言いやがって!」

 男から発せられた「チビ」という言葉に、誠は怒りまくって猛烈に突進していく。

 それを待っていたかのように、刃物の切っ先を誠の首筋めがけて突きだした。

 咄嗟に、後ろに飛び退いてかろうじて首に突き刺さることは避けれたが、刃先で上着が切れてしまった。

「どうした? せいぜい逃げ回れよ」

 歓喜に浸りながら男は、誠の身体を切り刻んでいく。

 頬、肩口、手の甲、ありとあらゆる箇所に裂傷が生じていく。

 男は「とどめだ」と言い、彼の身体に深々と刺し込もうと、ナイフを持った右手を振り上げる。

 誠は自分に迫り来る相手の右手を、左の手で掴んで止めると、気合いをこめて言った。

「よくもやったな! コノヤロー!」

 そのまま相手の懐に飛び込み、一本背負いを豪快に決めた。

 二人は同体になって床に倒れ込む。男は全身を床に強く叩きつけられたうえに、誠の下敷きにされて意識を失った。

 誠も、緊張の糸が切れたのか、切り刻まれた痛みのせいなのか、その場から立ち上がることができなかった。

 そんな誠のもとに慎二、遥香は駆け寄っていった。

「大丈夫? 誠」

 慎二は誠を気遣い声を掛ける。

「ばかやろ! 色んなところ切られて痛えよ!」

「大丈夫ですか? あの、何か手当てを……」

 誠の言葉に遥香が心底心配したような顔をした。その顔に、誠は少し自分の言い方が不味かったような気持ちになった。

「い、いや……、いいよ。それより早く出口を見つけようぜ。こんなのたいしたことねえ。ツバ付けりゃ治るよ」

 慌てて、誠は立ちあがった。


     ※


「先輩! 朝比奈先輩! こんなところまで来て何を調べるって言うんですか?」

 沢村刑事が、抗議するように朝比奈夏希に言った。

「何って、連続失踪事件と脱獄事件の調査に決まってるでしょう」

 悠然とタバコに火をつけて一服を入れると、きょとんとしている沢村を置いて歩き出す。

「ちょ、ちょっと待ってください! こんな辺鄙なところと件の二つの事件とどういう関係があるんですか! まさか、またああいう連中から金で買った情報を信じてるんですか!? いい加減そういうのやめないと。ばれたら洒落にならないですよ!」

 沢村の言葉を無視し、漁村に足を踏み入れる。

 そのまま埠頭に向かい、そこから龍巫島をじっと見つめる。

「龍巫島ですか? あそこはずいぶん前から無人島ですよ。大体さっきからここに来る理由を話してくれないじゃないですか」

 ――そんなの、身内が事件に関わってたら、人員から外されるからに決まってるじゃない。

 心の中だけで、職務に愚直なほど忠実なこの青年に返事をした。

「どうも胡散臭いのよね、あの島。オカルト本とかにも訳の分からない記事で取り上げられてたし。何とか調べられないかしら」

「確かにそうですけど、橋が壊れてるのにどうやって調べるんですか? それに、今回の事件との関係がはっきりと言えなければ村の誰も手伝ってくれませんよ」

「それを考えないとね……。私の取り越し苦労なら良いけど」

 埠頭で、島をただ見つづける二人の視界に黒い塊がゆっくりと近づいてくるのが見えた。

 それに気づき、眼を細めて凝視する。

 塊はどんどんと近づいてきて、やがて本当の姿を確認できる大きさになった。

 その塊の正体、それは船であった。

 波止場に接近するにつれて徐々に速度を落としゆっくりと船着き場に入ってくる。その光景に漁村の住民も驚き、凝視する。

 すぐに漁師達の誘導で船は停泊した。

 船には、夏希と沢村がよく知る少年と年頃の少女が乗っていた。

「あなた、水原亮輔君ね! 何で船なんか、何処にあったの?」

 夏希は船に駆け寄り、乗っていた少年に話しかけた。

「朝比奈さんか。大変だ! あんたの娘と友達があの島にいる! あそこ、変な連中のアジトになってたんだ。この子達はそいつらに攫われたんだ。早くしねえと」

 息切らしながら船を固定させると、亮輔は埠頭に飛び乗って夏希に告げた。

 その少年が見るからに狼狽しているところを見ると、彼の言っていることがあながち嘘ではないように夏希には感じられた。しかし、ひとまずはここまで不明者であった少年少女を連れてきた彼に感謝すべきだろう。おかげで動きやすくなる。

 夏希は肩で息をしている少年の肩に両手を置いた。

「ありがと、水原君。あとはおばさんとお兄さんに任せておきなさい。君はこの子達をしっかりと見ててあげなさい。沢村君、応援の要請を頼むわよ」

 夏希は、龍巫島を力強く見つめた。

「間に合うと良いけど……」

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