表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界はタバコの煙と共に  作者: 空飛ぶペンギン
第1章 「LUCKY STRIKE」20本入りと共に
6/18

第4話 VS人界の王『覇王ゼロ』

 史上最強の生物『覇王』と史上唯一落ちた神『堕神』の血は、何世代も何十世代経っても、この世界における最強の『人間』を作り続けた。


 彼らの子供たちは、神の血により他の『人間』より長生きで強かった。

 その子供たちの中でも覇王の称号を継ぎし者は、別格だった。


 彼らは生まれながらして、王の道を進む。邪魔するものを無慈悲な暴力により倒し、王の座をより高位なものにする。そうして長い年月をかけ、初代覇王の作った小さな町は大きく大きくなる。


 彼らの国は、覇王という最強の攻めと守りを要する国となり、現世最強の国である「シンロード王国」を建国する。


 「シンロード王国」では皆、初代覇王を崇め、神の血を引く彼の子供も崇めて奉った。「シンロード王国」では父と母の教えを守り、誰にも差別しない国となった。王への信仰、神への信仰があれば、どんな生き物でも(獣族や魔族でも)、そして黄泉のものでも平等に扱った。現世における一つの国に、これほど他種族が混沌としている国は類を見ない。


 そして、今「シンロード王国」最強の矛であり、最強の盾である、覇王ゼロの攻撃がサトシを襲った。


 『覇壊』


 初代覇王が考案したという、歴代の覇王の得意技である。


 剣で空気を切り裂き、莫大な衝撃波を生み出すという原理は簡単な技である。


 だがこれはそんじょそこらの有象無象のどこの馬の骨か分からない、剣士が剣を振るうわけではない。史上最強の生物の血を引く男が振るうのだ。


 その技は、山を割り、海を割り、空を割るとも言われている。


 史上最強に恥じないその技を直撃して、立てる者はほとんどいないだろう。


 それこそ異世界生まれの勇者でもない限り……




 覇王は己の城の大広間に空いた穴をじっと見つめている。


 この穴を開けてしまったことで、修繕には多くの時間がかかるはずだ。

 それを妻に責められ、仲間や家来にもどやされるだろう。


 また王の悪い癖が出た。尻拭いをするのは俺たちなんだからさ。と疲弊したあいつらが目に浮かぶ。


 しかし、この勇者として召喚された若者の強さを把握しないといけない。この勇者と名乗る若造が弱かったら話にならない。それを確かめなければいけない。

 それが王たるものの使命だ。

 断じて、最近戦闘を行っていないから、体を動かすという目的だけで、勇者に力を振るったのではない……


 この攻撃ぐらいなんとかするレベルではないと、現魔王サタンに抵抗することは出来ないだろう。こちらも勇者を召喚するために多くの犠牲を払ったのだから。


 だから、こいつは強くなければならない。


 誰よりも、なによりもずっと。






 俺は気が付いたら、また地面に横たわっていた。


 しかも今度の横たわりの地面は、THEツチ! だ。

 先ほど召喚された場所は、青白く光っていたし、ひんやりとした床だったはずだ。

 でも今度の召喚は、土だ。


 ゴツゴツしているから、横たわっていても体が痛む。


 体を起こす。

 自分の体を見るが、今回も前回同様傷一つない。

 周りを見渡すが、土の壁、壁、壁。


 えっ、ここどこ?


 俺また異世界に飛ばされたの?


 しっかし今回はまた辺鄙なところに飛ばされたな


 周りには、なにもない。

 土の壁のみである。


 先のようにローブを着て、杖を持った魔術師も、ロリロリしている聖女少女もだれもいない。


 ただの土だ。


 タバコもなくなっており、口元も寂しい。

 ブレザーの内ポケットから、封を切っていないラキストを取り出そうかと思ったが、この異世界にタバコがあるか分からないので、少し遠慮しておこう。


 よし、現実逃避はいったん終了だ。


 なんだ、さっきの衝撃は。

 びっくりしたってもんではない。


 気が付くとあの高い天井が鼻の先に迫っていたし

 高級そうな床に激突した瞬間に体が床を突き破って埋まってしまった


 なんなんだよ

 あれが魔術か?

 あんなことやられてたら、ふつーに死んじまうぞ


 ……なんで俺は生きてるんだろう……


 俺だって前の世界じゃ自慢にならないけど、フツーの、フツー過ぎる人間だった。


 小学生の頃、車にひかれて、吹っ飛ばされて、足の骨を骨折したこともある。

 あれは俺がバカで、トンボをおっかけたら車道に飛び出し、そのまま車にズドンだ。


 あの時と比べて確実に吹っ飛ばされたし、体に受けた衝撃は比べるにもあらずだ。

 それなのに、今はへっちゃらだ。あの時と違うのはここが異世界で、俺が勇者として召喚されたということだ。

 ここは俺が住み慣れた日本ではない。


 これが、俺の異世界でのチート能力なんかな

 攻撃無効化、とかなかなかいいもんくれるじゃん。

 異世界転生を読んだことがある俺からすると、こういうことが考えられる。


 ありがとう、この世界の神。


 近くにいたセリリリスのことも心配だ。


 あの聖女を名乗る、少女は大丈夫だろうか。でも多分だが、彼女は無事なはずだ。

 彼女はここはシンロード王国と言っていたし、周りにも彼女の仲間となる人間が沢山いた。

 これはその中で起こった出来事だし、その前も俺が穴に落ちた後も、特に騒ぎになっている様子もなかった。


 多分だが、誰かが俺が本当に勇者なのか調べるために行ったことだろう。

 頭のおかしなイカれた野郎もいるもんだ。

 そうなるとこれは俺を試した試練のようなものなのかもしれない。ただその試しで、俺が死んでしまったらどうするつもりなのだろう。


 いくら勇者といっても、無効化のチート能力が備わっているのか分からないはずだ。それとも代々の勇者はそういったチートを持っていたのか…


 分からないことだらけだ


 でも一つ分かることがある、俺だって急に攻撃されて吹っ飛ばされて怒りを感じてる。

 誰だよ、いきなり、試すとてももっといい方法あるだろ。


 セリリリスと手握ってたんだから邪魔すんなよ。

 せっかくの異世界への第一歩を邪魔して、ふざけんなよ。


 穴から出たら絶対一言言ってやる。




 ……さあ、……どうやってこの穴から出よう。

 穴はざっと見積もっても前の世界の電柱以上の高さがある。

 異世界チートで、身体能力も強化されてるのかと思ってジャンプしてみたものの、ジャンプの飛距離は前の世界と全く変わらない。


 ピョンピョン跳ねているだけである。


 ピョンピョン……ピョン…ピョン


 別に17歳の高校生がこんなことをしても何一つ可愛くない…

 …疲れてきた。


 さあ、どうしよう……






 …やはり、あいつは勇者なのだろう。

 本気ではないといえ俺の「覇壊」を食らって、ピンピンしてピョンピョン飛び跳ねている奴など、現世にはほとんどいなかったはずだ。


 少なくとも並の人間ではない。


 しかし、なぜこの穴から出てこないのか。

 我の攻撃を受けて無傷な身体能力があるなら、この穴ぐらい飛び越えるぐらいの力はあるだろう。

 その力がなくても、風魔法でも使えばこのぐらいの高さは、ないに等しいはずだ。


 あいつはなんであの中でピョンピョン飛び跳ねているのか。


「覇王様、勇者さまはご無事でしょうか。覇王様のあの技を受けてしまっては……」

「ああ、聖女か。いやあの通り生きているのだが、なかなか這い上がってこないので、疑問におもっているところだ。あいつはなんなんのだろうな。我の攻撃を生身で受けて無傷なのだから、勇者と認めても良いのだが……。仕方ない。おい魔導士、風魔法を送ってあいつを穴から出してやれ」

「はいはい。また私ですが、どーせ雑用は私ですよーだ。あの攻撃を受けても平気なんて考えられない化け物がなんでー。あと神官さんが言ってたんですけどこの穴、覇王様がなんとかしてくださいねー」

「えっ、なん」

「頼みますよー。文句は神官さんにー」


 緑と黒のローブを羽織った背の高い女がブツブツと小声で何か言いながら、手に持っている金色に光る宝石を先につけた杖を穴の下に向かって振り下ろす。






 急に上から引っ張られる感覚と共に俺は穴から投げ飛ばされる。


 ちょっと見慣れた床だ。

 先まで俺が横たわってた、前の世界では見たことのない床が眼下に迫る。


 前の世界ならこの勢いで床に激突していたら、当たり前のようにケガをしていたはずだが、今の俺なら大丈夫だ。

 なんてったって、異世界に来たチート持ちの勇者なのだから。

 そう思いながら、俺は床に顔を強かにぶつける。


 ゴン


 酷く鈍い音が床にぶつけた鼻を通して俺の頭の中に鳴り響く。鼻からツーと汁が流れ落ちるのが分かる。


 ああ、これ後から痛みくるやつじゃん。


 俺は、気絶回数の自己新記録を更新中だなとうっすら考えながら、闇に落ちていった。






「えー。なんでこれで鼻血出して、気絶してるんですかー。覇王様の攻撃では、ピンピンしてたのにー」


感想お待ちしております!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ