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第0話 異世界はタバコの煙と共に(1本目) 前編

 中澤ナカザワ サトシは高校からの帰り道にある、彼しか知らない秘密の隠れ家を目指し歩いていた。


 高校三年である彼は、夏休みが終わって数日経った学校の受験ムードに慣れることが出来なかった。

 夏休み前と、夏休み後の今を比べるとクラスのムードは一遍していた。

 休み時間の騒ぎの中にも焦りが見え隠れしており、ピリピリとしたムードがクラス全体を包んでいる。


 クラスの黒板には「センター試験まで後○○日」という張り紙がデカデカ貼られている。それが目に入るたびに心の底がズキズキと悲鳴をあげる。


 なぜそんなに一生懸命勉強をしなくてはいけないのか。

 そんなに受験が大事か。

 そんなに良い大学に入らないといけないのか。


 そうした疑問がふつふつと湧いてくる。


 ……でも、サトシは分かっていた。


 それはただの逃げだと。

 辛いことから逃げる、勉強から逃げるために考えている言い訳に過ぎないのだと。


 でも、それでも一生懸命勉強に取り組むことは出来なかった。

 ページが進まない真っ白なノートを毎日、毎日開く。

 ただ開くだけだ。

 ただ開いて勉強をしているフリをする。


 勿論、サトシ全く勉強をやっていないわけではない。


 夏休み中には、塾の夏期講習にも通っていたし、毎日ゼロではない程度に勉強も行っていた。

 けれど、それだけでは足りないことも分かっていたし、たったそれだけしか勉強していないため、その結果は如実に表れていた。 

 しかしサトシはこの受験ムードが学校から、社会から勉強をすることだけを正とされているようで、なにかとっつきにくかった。

 勉強をする意義を見いだせないため、もうやる気のスイッチを入れて勉強を行うことは出来なかった。


 クラス中に佇む雰囲気に馴染むことは不可能だった。


 今日も夏休み前と変わらず友達たちと放課後少々だべっていたところに、クラスに残って自習していた者たちから顰蹙を買い、逃げるように慌てて帰ったのである。

 放課後残って話していた友達も、塾や自学があるから、「また学校で」という言葉を言い残して散り散りに帰っていった。


 高校三年間、特に部活もすることもなく過ごした彼には、あまり友達も多くなかった。学校で会えば話す程度の仲の者はおったが、休みの日までイチイチ遊ぶ仲の者は数えるほどもいなかった。


 そんな彼だからこそ、あるアウトローなモノに憧れ、ハマってしまったのだろう。


 止める者は誰もおらず、たった一つ残った良心も、将来への漠然とした不安、人間関係の不得意さからくる自分への苛立ち、受験ムードへの反骨心のストレスで薄れてしまったのだろう。


 その薄れてしまった良心では、サトシの蛮行を止めることは出来なかったし、良心が残っていたところで、ストレスは止まることなく、彼の高校三年生の背としては中の下ほどである、170cmジャストの体に降り注ぎ続けている事実は変わらない。


 ストレスから体を、心を守るため、サトシはそれに走ってしまったのだろう。

 これは仕方のないことだったのだろう。

 それ以外に手はなかったのかもしれない……




 人通りの少ない路地道を進むと、そこは10畳ほどの袋小路になっていた。


 ここは、唯一彼の心が安らぐ場所だ。


 人が来ることは殆どない。

 いやこの袋小路を見つけて入ってきてから一回もないのだ。


 まるで世界から隔離された場所。

 彼だけの10畳である。

 辺りは一面ビルが立ち並んでおり、その高い壁や塀も相まって、日の光も殆ど入ってこない。

 放課後から少し時間が経ったといえ、また夏が終わり秋に差し掛かっている季節であり、日は完全には落ち切っておらず薄暗くなりかけているという状態である。

 外の世界は丁度黄昏時であった。


 しかし、この袋小路の中の世界には、外の世界の光は殆ど差し込んでこない。辺りが薄暗くなってきたこの時間には、もうほぼ真っ暗なのである。


 この隔離された、外の世界とは全く違う場所。そこはまるで異世界のような場所であった。


 彼はその異世界感漂う10畳のスペースのど真ん中に位置取り、学校指定の制服であるブレザーの内ポケットに手を入れ、気怠げにあるモノを取り出した。

 そのあるモノとは、白地に縦に黄色のストライプが入り、ど真ん中に赤丸が印字してある、小さなソフトケース。

 箱の真ん中にある赤丸の中には


「LUCKY STRIKE」


 と黒字でテカテカと書かれている、そんなモノだ。


 そうこれは俗に言う、「タバコ」である。


 彼、中澤智は高校三年にしてスモーカーなのである。


感想、檄ぜひぜひお待ちしています!

今日中にもう一話更新します。

明日以降も更新を続けていきます。

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