化学の場合!
この世界には魔法がある。何が作用して魔法が発動するのか全く不明。さながら神の恩恵と言われた方が納得できる。なんせ異世界だから。だが、魔法でもイメージ力は大切だ。どうして、火が起こるのか。どうして、雷が起きるのか。それを補助するための地球での化学の知識はうってつけだった。
「魔法が使える人挙手。」
現在いる生徒全員の手が上がる。
「そう、全員つかえるんだ。じゃあ、ステータスが出ない人挙手。」
誰も手を上げない。
「やっぱ、俺だけ。ぐす。」
「ツカサ先生どうしたのー?」
「いや、何でもないぞ。さて、空気が何でできているかは説明したな。その中で主に2つ。何と何だ!?」
「「「「「酸素と窒素!!」」」」」
「おぉ、よく覚えてたな。じゃあ、物が燃えるのに必要なのはその中でどっち!?」
「「「「「酸素!!」」」」」
「本当よく覚えてるな。じゃあ、実際に火魔法を使ってみよう。すごくイメージしやすくなってるはずだ。あっ、保護者の方もどうぞ。」
生徒と保護者が外に移動していく。保護者がいるのは今日を授業参観の日にしたからだ。雑貨屋の店主ジョンが観に行きたいと言い始めたからだ。
「ツカサお兄ちゃんすごいね!」
「本当、ツカサは物知りだな。」
ジョンの娘、シャリーンとジョンが話しかけてくる。
「まぁ、確かに皆よりは知ってること多いですね。あっ、皆位置についてますよ。シャリーン達も。」
「はい!」
「おう!」
俺たちは孤児院の後ろにある草原にいる。こんなところで火魔法なんて使ったら火事になりそうだが、水魔法を使える人を呼んでいるので大丈夫だ。そして、ここの草原を焼いたら畑にしようと思っている。
「では、燃えるイメージを大切に、酸素の働きを意識して発動しろ。3人ずつでどうぞ!」
「「「【バーン】!」」」
ごおおおおおおお!!
唱えたとたん前方50m3つの巨大な魔法陣が描かれ、魔法陣から上空にむけて巨大な火柱が上がる。
魔法すげー、魔族の火力すげー、化学と魔法の融合ってすげー。
俺は半ば放心状態になる。周りも放心状態、発動させた本人達でさえポカーンとしている。しばらく経てば、放心状態だった人が復活して、発動させた本人達も復活して、皆興奮状態になっていた。
「ツカサ先生ありがとう!俺できたよ!」
「ツカサ先生ありがとう!」
「ありがとう!」
「おぉ、どういたしましてな。」
「次私達!」
3人が交代して次の3人が魔法を発動する。ここでも巨大な火柱が発生。他の子達もどんどん交代で魔法を発動させていく。やっぱり巨大な火柱が発生する。
「ツカサくん。」
リンダが話しかけてくる。かなり顔が引きつってる。俺も引きつってる。
「うん、これはヤバい。想定外過ぎる。俺の知識はヤバいかも。でも、燃焼の原理なんていずれ発見されることだからなー。」
「にしも、ヤバくないですか、ツカサくん。」
「大丈夫。リンダが道徳の授業の時間で倫理観をしっかり教え込めばいい。」
「うっ。道徳の授業が億劫に思えてきましたよ。」
リンダが反対側に行き生徒の監視につく。
「よし、お前ら全員終わったな。みんなすごいな、俺が教えたことが意識できてる。そこは褒める。が、この魔法を無闇やたらと使ったら街がなくなる。だから、魔法が使いたくなったら俺に言え。ちゃんと魔法が使える場所を用意する。絶対、街中で使うなよ!」
「「「「「はい!」」」」」
「じゃあ、今日はもう解散しよう。皆、魔力切れ起こしそうになってて足フラフラだぞ。ちゃんと、しっかり休めよ。」
「「「「「はい!」」」」」
「じゃあ、解散!さよなら!」
「「「「「さようなら!」」」」」
孤児院の子供達は孤児院に帰って行き、その他の子供達は親と手をつないで帰っていく。
「母さんとシオリは何をやってるんだろうなー。」
自分の右手を見る。
久しく家族と触れ合うことはなくなった手。
だが、足に妹の感触がまだ残ってるような気がした。
その足をさする。
「ツカサくん、どうしたんですか?」
「リンダか…。別に何でもないよ。」
「でも、悲しい顔になってますよ。」
「……。」
話を聞いてもらったら楽になるだろうか。
「ツカサくん?」
「俺って転生者って言っただろ?」
「はい。」
「その、向こうにおいてきた家族は今どうしてるのかなー、ってちょっと感傷的になってたんだよ。それだけ。ごめん、くだらないこと言って。さっ、俺たちも孤児院に帰ろうか。」
「ツカサくん!」
ーギュ
「前世の家族が気になるのは当たり前です。くだらなくなんてありません。でも、今世では私達が家族です。悲しくなったら私達に甘えてくれて良いんですよ。いくらでも話を聞いてあげます。」
「リンダ…。」
「ツカサくん、泣いて良いんですよ。」
「っ!」
心の中でせき止めていた蓋が決壊したような音が聞こえた。
「母さん…、母さん!…弁当食べられなくてごめんなさい!…死んじゃってごめんなさい!…親不孝者でごめんなさい!」
涙が出てくる。
リンダに背中をさすられる。
「シオリ、…もっと遊んでやれなくてごめん!…勉強も教えてあげられなくてごめん!…何一つ兄貴面できなくてごめん!」
リンダに抱きしめられる。
強く、強く、強く…。
「死んじゃって、ごめんなさいぃぃ!!」
しばらく泣き続けた。
リンダは抱きしめ続けた。
「リンダ、ありがとう。」
「良いんですよ。家族なんですから。」
「そうだな。今はリンダや子供達がいるもんな。」
「そうですよ。じゃあ、帰りましょうか。」
「そうだな。」
手を繋いで孤児院の方に行く。
するとまだ外にいたフィルアとでくわした。
「ツカサ、目赤いよ?」
「あぁ、これは何でもないよ。」
「ツカサ、泣いてたの?」
「っ!」
フィルアの目ざとい観察力に驚く。
驚いていると、フィルアが俺の頭に手を伸ばす。
「大丈夫だよ、ツカサ。」
頭をフィルアに撫でられる。
「私はツカサといるから大丈夫だよ。」
優しく撫でられ続ける。
「ツカサ?」
「ありがとな、フィルア。」
「どういたしまして!」
ツカサがあんまり悲しそうになかったので悲しくなってみました。
ちょっと、強引だったかなー。