道徳の場合!
本日2話投稿します。
この世界では生きるための殺人は極々当たり前のものである。
特に魔族にとっては 殺人というのは最も有効な身の守り方である。
それは現状の被排斥対象となっている魔族の立ち位置のためである。
魔族は魔王を生み出す。
魔王というのは、獣人やエルフ、人間等の脅威となる存在である。
その魔王の芽を摘むために魔族は被排斥対象になっているのである。
しかし、だからと言って魔族側にとっては殺されるのが良いことではない。
ゆえに殺人が肯定されるのだ。
一方的な虐殺を受け続けないために自らも殺しを行わないといけない。
だから、この負のスパイラルを抜け出すことはほぼ不可能なことである。
だが、やはりこのスパイラルを抜け出したい。
負の連鎖を断ち切りたい。
大切な人が殺されない世界にしたい。
リンダの道徳の授業が始まる。
「私が今日のこの授業で伝えたいことは相手を見極める力を身につけることです。ここで、みんなは他種族を傷つけることをどう思っていますか?」
リンダが子供達に問いかけると案の定返ってきた言葉は、殺すべきだ、排除すべきだ、とかなり辛辣なものであった。
だがリンダはそれを聞いて少し苦笑をして今までの半常識化していたことを否定しようとしている。
「確かに魔族は他種族からかなり厳しい扱いを受けていますね。でも、殺し殺されることを続けていたらいつまで経っても平和にはなりません。」
リンダの言葉で多少理解を示すような反応の子供達が出てくる。
しかし反論する子供達もいる。
「じゃあ、殺すのをやめて黙って殺されろって言うんですか!?」
この言葉で理解を示していた子供達がリンダを睨みつける。
だが、リンダは優しく微笑む。
「そうではありませんよ。」
「じゃあ…!」
「聞いてください。」
いったん間をおき口を開く。
「私は相手を見極める力を身につけてほしいのです。そうすることによって話し合いで解決できるかもしれないのです。」
リンダは相手を見極めることによって自分の力が相手より上だとわかれば殺すことはせず話し合いで解決しようとすることを提案する。
負の連鎖は殺す殺されることに起因している。
もし、殺さず場を収めることができ話し合いで魔族の本当の心、他種族を排除しようとはしていないと説明ができれば、その連鎖はそこで終わり、友好まで結べるかもしれない。
そうリンダは説明をする。
「じゃあ、相手が強かったら?」
「その時は戦おうとせず全力で逃げるのです。これも、相手を見極める力がないとできません。」
もし、自分達より強かったら逃げるという方法をとることにより殺されないかもしれない。
自分より強いとわかっている相手に戦いを挑むの愚かである。
「でも、大切なものが殺されたら?復讐を絶対してしまうよ?」
他種族との殺し殺される関係はほとんどが復讐が原因で起こっている。
復讐がある限りこの関係が終わることがない。
リンダは話す。
「復讐はするなとは言いません。大切な者が殺されて笑顔で過ごせるわけがないですから。」
そんな人がいるならその人はどこか狂っていると思う。
リンダは続ける。
「けれど、復讐の相手を見誤ってはいけません。復讐する人以外の人を殺してしまったらそれはただの殺人鬼と変わりません。だから、復讐をしたいのであれば種族全体に恨みをぶつけるのではなく個人を殺してください。」
この言葉に子供達全員が納得してるように見える。
俺はリンダの話を聞いた時、レイナを思い出した。
レイナも俺に復讐をしたいのだろうか。
大切な兄を殺したこの俺に。
今でも覚えている。
頭をトロフィーで殴った時の頭蓋骨から響いてくる硬い振動の波と鈍い音。
そして、床に倒れこんだ彼の頭から吹き出す赤い血。
吹き出して吹き出して真っ赤な池が作られた時のこと。
俺の鼓動が少し速くなる。
「もちろん、復讐なんてしない方が良いですからね。相手を殺してしまったら、自分も恨みを買い、殺されてしまうかもしれないんですから。」
リンダはそう言っているが俺は大切な人が殺されたら復讐をしないことなんてないと思う。
だが、俺に人殺しなんてできるのだろうか。
それは、日本にいて殺人が身近に起こったことはなかったし、なにより学校全体で人殺しと罵られたことで自分の身体が殺人に対して強い嫌悪感を示しているからだ。
「私はあなた達が平和に暮らしていけるようになることを願ってこの話をしました。怨嗟の連鎖はどこかで断ち切らなければなりません。そのためにも相手を見極める力をつけてください。」
相手を見極める力。
それは恐らくステータスに現れるようなものではないのだろう。
物事の本質を見抜き対処できる能力。
リンダはそういうものを養っていけば良いと願ったのだろう。
少し話が難しかったが子供達はしっかり話を理解しようとしている。
実際、かなりの割合の子供達が理解を示している。
どこの世界でも知的生命体の最終目標は平和なんだとしみじみ実感した。