学校開校まで!
日常パートはもうちょっと続きます。
黒板もチョークも揃ったところで、リンダと予定を合わせ、明後日から開校という話になった。それを子供達に話すと喜ぶ。なんだか純粋に学校が楽しかった時のことを思い出して嬉しくなった。
「リンダは普段通り国語の方を教えてくれ。」
「わかりました。」
リンダがいつも教えているのは文字や言葉の読み方書き方。リンダのおかげで俺はこっちの共通語を使えるようになった。方言はあるらしいが、共通語一つで世界中の人としゃべることができるなんて前世では考えられない。異世界はすごい。
「それと、道徳も教えてくれ。」
「道徳…ですか。」
「そう。この世界で生きるための常識を教えてくれると嬉しいな。」
「そうですね。わかりました。」
俺はまだこの世界にきて少ししか経っていない。70年以上生きてるリンダからこの世界の常識を知る方が得策だ。
「ところで神殿には行かないんですか?」
「あぁー、そうだったー。学校のことですっかり頭から抜け落ちてた。」
相変わらず、俺は魔法どころかステータスすら出てこない。せっかく異世界にいるのに魔法と剣で無双ができない。
「なぁ、リンダ。魔法って使うとどんな感じ?」
「そうですねー。体の中が熱くなって、運動をした様な感じになりますね。」
「へぇー。俺も早く魔法使いたいな。でも、まずは学校だな。」
リノリウムではない木の床を見る。床が抜けていることはないが、相当年季が入っているようで張り替えをしたい。
「リンダ床の張り替えしないか?」
「そうですね。けっこう経ちますししましょうか。」
リンダの了承と共に床の張り替え作業が始まった。まず、リンダが木材屋にいって新しい木材を調達してくる。沢山の木材があるので心配したが魔法を使うから大丈夫とのこと。魔法すげー。
リンダが木材を調達している間、俺ら子供達は机や椅子を外に運んで床を剥がしていく。
「【ウィンドカッター】!」
フィルアが魔法を使い床を切っていく。
「フィルアって魔法使えたのか!?」
「そうだよ!」
「フィルアちゃんは魔法の天才だよね!」
「すごいフィルアちゃん!」
思わぬ新事実。子供達の中でフィルアが最も魔法が上手らしい。彼と同じ5歳児の少女が魔法をあっさり使えるところを見て悲しくなる。
「ツカサ、どうしたの?」
「フィルアはすごいなー。」
「本当!? えへへー。」
頭を撫でてやると満面の笑みを返してくれるフィルアを見て荒んだ心が癒されていく。
「じゃあ、フィルアが切ってくれたから床を取り外しちゃおう。」
「「「「「おぉ!!」」」」」
せっせと切られた床を皆で外に運んでいく。
はぁはぁ。…5歳児にはきついぜ。ん?なんで子供達は余裕なんだ?
「はぁはぁ。お前ら余裕だなー。」
「【身体強化】してるからだよ!」
マジかー。身体強化ってWEB小説ではチート扱いされてなかったっけ?魔族は皆使うの?魔族って高スペックだったんだな!俺は角があるだけの二足歩行生物…。
チート子供達のおかげであっという間に床から木が取り払われていき、見えるのは骨組みだけになった。骨組みは劣化してるようには見えず、ところどころ魔法陣が刻まれている。この魔法陣が劣化を防いでいるのだろうか。
「戻りましたよ〜。」
「リン…、院長先生おかえりなさい。」
「先生、おかえり!」
「おかえりなさい!」
「は〜い。もう木がなくなってますね!すごいですね!じゃあ、新しい床にしましょう!」
ここからはリンダが作業をした。あっという間に床ができていく。
「完成です!」
「「「「「おおお!」」」」」
なんということでしょう。
黒ずんでいたり、へっこんでいたり、欠けていたりした床が匠の手により光り輝く新品の床に。
新品の床に子供達がゴロゴロと転がる。転がって壁に頭をぶつけてるやつもいる。
「ツカサもゴロゴロしようよ!」
フィルアが誘ってくる。
「そうだな!」
俺も一緒にゴロゴロする。
「ゴロゴロ楽しいですね。」
隣でリンダもゴロゴロしている。
「なんでリンダもゴロゴロしてるんだよ!」
「呼び捨てっ!皆の前ですよ!」
「あっ!…院長先生もなんでゴロゴロしてるんですか!」
「子供達とゴロゴロしたいからです!」
75歳それでいいのか…。
「今なんか失礼なこと考えましたね!」
「い、いえ、別に。」
「ふーん。」
ひとしきりゴロゴロした後、皆疲れたのか昼寝タイムになった。俺は寝ることはなく黒板に時間割を書いていた。授業は週5で午前のみで国語、数学、化学、物理、道徳である。
「ツカサくんは寝ないのですか?」
「リンダか。寝ないよ、まだやることあるから。」
「今度は何をやるのですか?」
「挨拶回りとか、机と椅子の掃除とか。」
「ほぉ。机と椅子の掃除は明日皆でやれば良いでしょう。挨拶回りは今行きましょうか。子供達は寝てますし。」
「そうだな。皆頑張ってたから後3時間ぐらいは起きてこなさそうだし。」
「じゃあ、行きましょう!」
リンダと街を歩いていく。
ムギュ
隣を歩くリンダの手を握る。
「い、いきなりなんですか?」
「まぁなんとなく。嫌なら離すけど?」
「い、嫌ではありませんよ。」
はたから見れば普通の母子の関係に見えるが、よく見るとリンダは恥ずかしそうにして、一方の俺は余裕の笑みを浮かべている。
一軒一軒家を回り学校開校の案内と学費、授業時間、授業内容の説明をしていく。リンダの顔が広いおかげか、嫌な顔をされることはなくむしろ通学に積極的な家庭が多く学校開校は成功を収められるかもしれない。
「まずは40軒ですね。」
「ここから何人来るか。それでどれくらい口コミが広がるかが勝負だな。」
「ですね。そろそろ帰って夕食を作りましょうか。子供たちも起きてくるでしょう。」
三時間はあっという間に過ぎていて、リンダと共に少し駆け足で孤児院に帰っていく。
「ただいまーって、まだ寝てるよ。」
「ふふ。そうですね。魔法も行使してたらしいですからかなり疲れたのでしょう。」
「うわー、なんか申し訳ないわ。俺も魔法使えたら良かったんだけど。」
「でも、皆をまとめてたんだからそんなに気にしないでください。」
「あぁ、うん。わかったよ。」
「では、私は夕食を作ります。」
「あっ、俺も手伝うよ。」
「じゃあ、一緒に作りましょう。」
大広間を出て、台所に行く。台所はもちろんガスコンロはなく、台の窪みに鍋を入れて下から木を燃やして暖かくする様になっている。
「何を作るんだ?」
「野菜たっぷりのスープを作ろうと思います。」
「じゃあ、俺は野菜の下ごしらえを手伝えば良いんだな。」
「よろしくお願いします。」
「了解。」
まな板の上で野菜を丁寧に水洗いして皮をむいたり切ったりしていく。ただ、このまな板が置いてあるところはとても狭い。というか台所自体が狭い。だから。
「リンダ、胸が頭に乗ってる…。」
「胸ぐらい良いじゃないですか。ほらほらー。」
乗っけていたものを押し付けてくる。
「重い…、首が痛い…。」
「あれ、男の子はみんなおっぱいが好きではないのですか?」
「俺、ちっぱい派だから。」
「そうなんですか!? はっ! まさか、また子供達に手を…。」
「出してないからな!またってなんだ!? そこまで畜生じゃねぇよ!」
「わかってますよ。」
「……。」
「わかってますよ!」
「はいはい。」
一件落着したが狭いのは変わらないので胸が乗り続ける。
野菜の下ごしらえが終わったら後はリンダがやるから大丈夫とのこと。その間、俺は子供たちの様子を見に行く。
「まだ、寝てる。ったく、相変わらずフィルアの寝相は悪いな。」
フィルアのめくれた布団を直す。そして、幼い彼女の頭を撫でる。
「んにゅ?」
「あっ、悪い。起こしちゃったか。」
「ツカサ?」
「まだ寝てていいぞ。」
「じゃあ、一緒に寝よ。」
「んー、まぁ、良いか。寝ようか。」
フィルアの横で寝転び同じ布団をかぶる。
「やっと一緒に寝れた。」
「そんなに寝たかったのか?」
「うん。」
「そうか。」
「うん。」
ぽんぽん、と頭に手を当てる。
「じゃあ、寝ような。おやすみ。」
「おやすみ、ツカサ。」
目を瞑る。案外疲れていたのか、すぐに睡魔が襲ってくる。そのまま、意識を手放した。
◆
「起きてください。ツカサくん。起きてください。」
「んあ?」
リンダに起こされて目が覚める。横で寝ていたはずのフィルアはいなくなっていた。どうやらかなり長い時間眠ってしまったようだ。
「夕ご飯食べますか?」
「そうだな。せっかく手伝ったわけだし食べるよ。」
「わかりました!」
リンダが台所に引っこんでいった。俺は体を起こし机の方に歩いていく。寝てる間に片づけたのか、椅子と机が元通りになっていた。それに気づかないあたり相当疲れていたようだ。
「野菜スープですよ。」
「おお、おいしそうだ!」
シンプルだが自分が手伝ったからかとてもおいしそうだ。
「うん、おいしい。」
「みんなもおいしいって言ってましたよ。フィルアちゃんは今度一緒に作りたいって言ってましたよ。」
「あの狭い台所じゃなぁ。用検討だな。」
「そうですね。」
スープを食べる手を止め少し考える。お金は床の張替えでそれなりに使ったから、自重しないといけないし、広くするには、壁を取り除かないといけない。
ムムムと悩む。
「まぁ、悩んでもしょうがないですよ。」
「そうだな。」
「そうです。じゃあ、はい。あーん。」
「えっ?」
「口を開けてください。」
「えと。」
「早く!」
「分かったよ。あーん。」
「あー、んっ。食べてくれましたね。」
「いきなりなんだよ。」
「お礼ですよ。学校のことも床のこともとても助かりました。」
「安いお礼だなー。」
「えっ、これ以上は、だ、ダメですよ。大人になってからです。」
一体この院長先生は何をお礼にしようとしたのか。再び言うが俺は5歳児である。そこをしっかりと認識してもらいたい。
「ごちそうさまでした。」
「お粗末様でした。」
随分と遅い時間に食べてしまったが、今すぐ寝ないと生活バランスが崩れそうだったからすぐ寝ることにする。
「おやすみリンダ。」
「おやすみなさい。明日も準備頑張りましょう。」
◆
翌日、明日に開校を迎える日になり今日は授業の進め方について最終確認をする。
「今ので分かりにくいところあったか?」
「ないよー。」
「はいよ。じゃあ、こんな感じでこれからやっていくからな。」
「はーい。」
子供達に太鼓判を押してもらい、確認を終了する。
明日は授業だ。貧乏くじを毎回引いている魔族を発展させることができる。
明日が楽しみだ。