エルフの国の田舎から首都へ(2)
つかせたよ…。
「ご主人様…。」
銀色の美しい髪を持つ彼女は可愛らしい声をあげて己のご主人様に体を擦り寄せる。
そして、ご主人様の腕を自分の胸に抱く。
「んっ…。」
さらに己の足をご主人様の足に絡ませる。
その行為に愛おしさを感じ、ご主人様はその美しい奴隷に口を寄せ…。
「ないから。リンダ、実況するなよって言ったよな?」
《でも、実況通り、擦り寄せて、抱いて、絡ませてますよ。》
「…確かに、擦り寄せて、抱いて、絡ませてるな。」
昨日、同じベッドに入りエルシアと共に寝た。
その時に抱きつき癖を心配していたのだが、案の定エルシアに抱きつかれていた。
《エルシアちゃんに抱きつかれてどうですか?》
「どうですかって…。」
《どうですか?ツカサくん。》
リンダが俺の隣で寝転びニヤニヤしながら聞いてくる。
早くエルシアを起こそう。
このままだと面倒なこと間違いない。
「エルシア起きろ。」
《あぁ、起こしちゃうんですか?》
起こすに決まってるだろ。
リンダにいじられるの回避するためもあるけど、もう朝なんだよ。
テントだと起きてくるのに、どうして宿だと起きないんだ。
「エルシア起きろ。」
「ん、んー…。ぁ、ご主人様?」
「ご主人様だよ。」
「ご主人…様?」
おっと、寝ぼけエルシアになったか。
このあとの展開は大体予想がつくぞ。
撫で撫でを所望するするんだろ。
「ご主人様…。」
ームギュ
おぉっと、これは予想外だ。
さらに抱きついてくるとは思わなかった。
《エルシアちゃん、柔らかいですか?》
「……。」
《無視ですか。》
にやにや顏のリンダが消えていったところで俺はエルシアの肩を揺する。
「エルシア起きろ。」
「ご主人様?」
超至近距離にあるエルシアの目がやっとしっかり開いてきた。
「おはよう、エルシア。」
「おはようございます、ご主人様。」
エルシアは俺の目を見てしっかりと挨拶を返してくる。
起きた瞬間に俺の顔が見れて嬉しいのか、笑顔のまま俺を見てくる。
いや、何でどかないんだよ。
「エルシア、何でどかない?」
「それは、ご主人様が私に抱きついているので……っ!申し訳ありません!」
どうやら俺が抱きついていると思っていたらしい。
エルシアは自分の状況を正しく理解すると俺から離れて頭を下げる。
「大丈夫だ。頭を上げろ。」
「はい。」
「今日はエルシアの服と武器を買ったらすぐルフランに出発するからな。」
「わかりました。ありがとうございます。」
「じゃあ、準備開始。」
俺とエルシアはベッドから立ち上がり外に出かける準備をする。
朝食も宿で手早く済ませ、おじちゃんに聞いた店の場所に移動する。
先に着いたのは服屋だった。
「いらっしゃ…い、ませ。」
スニーカーの時と同じような反応をエルフのお姉さんにされる。
「こっちで選ぶので気にしないでください。」
お姉さんにそう告げ店の奥に入る。
「二着ぐらい買っておこう。エルシアには…これと、これだな。」
「あの、良いのですか?」
「良いから。試着してこい。」
「わかりました。」
俺はエルシアに選んだ服を渡して待つ。
《エルシアちゃんまた可愛くなりますね。》
「そうだな。」
《エルシアちゃんに服を選ばせないんですか?》
「絶対一番安いやつを選ぶから却下。」
《確かにそうかもしれませんね。》
最近のエルシアは奴隷なのか疑いたくなるような言動が多いが、一応本人は奴隷だと思っているようで宿の朝食は一番安いものを選んだりする。
ここでもエルシアに選ばせたら恐らく一番安いものを選ぶ。
「ご主人様、試着しました。」
シャッと試着室のパーテーションが開かれる。
エルシアが今着てるのは白いシャツに赤いチェックのシャツを着て、それにデニムのパンツを履いている。
手にはジージャンを持っている。
《似合ってますね。》
「似合ってるよ。」
「ありがとうございます。」
もう、何を着せてもエルシアには似合いそうな気がする。
「よし、それは買いだな。次、試着しろ。」
「わかりました。」
試着室に戻っていく。
《本当にスニーカーの時とは大違いですね。今、うっすら笑顔でしたよ。》
「そうだよな。あの時頑張って良かったよ。」
俺もあの時他人なんかどうでもいいって言っていたはずなのに、こうもエルシアに気をかけてしまう。
早く手放してしまいたい。
これ以上、情がわかないうちに。
でも、できない…。
「くそっ。」
これじゃあ、こっちが依存してるみたいだ。
《突然どうしたんですか?》
「なんでもないよ、リンダ。」
思考を打ち切る。
「ご主人様、試着しました。」
再び試着室のパーテーションが開く。
《また似合ってますね。》
「やっぱり、エルシアは何着ても似合うのかもしれないな。」
「あ、ありがとうございます。」
今度のエルシアは白いフリルのついたスカートにカーキのジャケット。
巷で言う甘辛ミックスだ。
「本当に似合ってるな。」
「ありがとうございます!」
俺はエルシアにその服を着せたままお金を払う。
「ご主人様、マントを羽織ってもいいですか?」
「もちろん、いいよ。」
甘辛ミックスで決めていたエルシアがフードを被る。
オシャレをしてもマントで隠れてしまうのがもったいない。
「次は武器屋で軽防具と弓だな。」
「ありがとうございます。」
エルシアのお礼に軽い返答をしながら武器屋に入る。
ここでは特に選ぶようなことはなく前買った同じ防具と弓を買う。
「じゃあ、出発しよう。エルシア案内しろ。」
「わかりました。」
武器屋で買った弓を背中に担ぎ、軽防具に身を包んだエルシアが【身体強化】を使い前を走る。
もうここからはどこかに寄るということはせず、ただひたすらにルフランを目指して足を動かす。
時々エルシアから魔物の警告が発せられるが俺が刀で全て斬り伏せていく。
その後、日が暮れると宿がなければテントで見張りを交代して過ごし、宿があればエルシアの寝ぼけモードで朝を迎える。
そして、とうとう一週間が経った。
「ここが、エルフの国…。」
丘の上から眺めるエルフの国は結界と緑に囲まれ、中央には大きな大きな木が大地に根を張り、葉の間から差し込む光がとても幻想的だ。
「さぁ、入国するか。」
「はい。」
俺たちはエルフの国の入国場に歩みを進める。
他からは結界が張ってあり侵入することはできないようだ。
「あ、そういえば警備が厳しくなってるかもしれないんだった。」
約三週間前に自分が黒い風を吹かせたことを思い出してどうすべきか悩む。
やっぱり光学迷彩か?
いや、仕組みがわからん。
「さて、どうしようか。」
「ご主人様、私におまかせください。」
エルシアが入国場から外れてルフランの結界に沿って歩きちょうど入国場の反対側にくる。
そこに何かあるのかと思っていたが家の外壁しかなくどこにも入れるような場所はない。
「何かあるのか?」
「ご主人様、お待ちください。」
エルシアはそう言うと真後ろにあった木の幹をペタペタ触り始めた。
「あ。ありました。」
ーカチリ
歯車が噛み合ったような音がした。
ーガラガラ
「おぉ、すごい。」
家の外壁だったものが一部くるりと回って結界の外に出てきた。
それは紛れもなく通路だった。
「結界が張ってあるのにどうやって?」
「この通路だけ結界の除外ができるように設定してあるのです。」
へぇ。
なんで、エルシアがそんなこと知っているのでしょうか。
「ご主人様、どうぞお入りください。」
エルシアに促されて俺は中に入っていく。
やけに長く感じる通路は俺に鼓動の上昇をさせる。
ようやくリンダを生き還すためのピースが…。
そして緑のカーテンの下の暖かい木漏れ日の中に出る。
「エルフばっかりだ。」
街を歩く人は人間や獣人などがいるが、それでもエルフばかり。
「ご主人様。」
エルシアが俺の前に立つ。
「エルフの国、エルフリーデ王国首都ルフランにようこそ。」
マントの端を持って、舞踏会でするような礼をする。
とても上品でどこかのお姫様みたいな雰囲気がマントをしていても伝わってくる。
あれ、エルフリーデ王国…?
「エルシアの本名って、エルシア・エルフリーデだよな?」
「はい。」
え、マジ…。
ここに来てテンプレ発動ですか。
「もしかして、王国関係者?」
「はい。」
愕然とする俺にエルシアは言う。
「ご主人様、私、エルシア・エルフリーデはエルフリーデ王国の王女です。」
ここで、どこかの物語の主人公だったら、何だってー、と叫んでいたところだろう。
だが、俺は違った。
これで風の宝玉がすぐに手に入る。
どこか神々しいオーラをまとっているエルシアに対し、俺は悪どい笑みを浮かべてしまうのだった。
エルシアが可愛くていろいろ盛りすぎてしまった。
エルシアのステータス
エルフ・奴隷・銀髪・依存・幼児退行・寝ぼける・王女・etc
はたして他ヒロインはこれに対抗できるのか!?
…頑張ってさせます。
てか、早くハーレムさせないと…。
ハーレムタグが行方不明になっちょる。




