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救出後のひと時

 エルシアはとても軽かったがお姫様抱っこで移動はさすがに疲れたので途中でおんぶに変えて野営地に着いた。

 魔物の襲撃はなかったようで荒らされていなかった。


「よいしょ。」


 テントの中にエルシアを横たわらせる。


「すぅすぅ。」

「まだ寝てる。まぁ、しょうがないか。」


 頭を一撫でしてテントの外に出る。

 その時に白いワンピースも置いた。

 軽装備はボロボロになり使い物にならないと思ったからだ。


 辺りはもう大分暗くなってきていた。


「夕ご飯はどうしようか。…肉が大量にあるから焼肉にするか。」


 ポーチの中に大量に詰め込んだオークの肉を見て笑みを浮かべてしまう。


 《エルシアちゃんより先に食べてしまうんですか?》

「え、まだ肉あるから先に食べても…。」

 《ツカサくん…。》


 リンダに睨まれる。


 確かにエルシアはやらかしたけど、オークの肉を見つけたのもまたエルシアか。


 と、納得しかけて考える。


 いや、どうして奴隷のエルシアより先に食べちゃいけないんだ?

 別に食べても良いよな。


 《ツカサくん、食べたらダメですよ。》

「でも、肉がダメなら食料は何かの植物になるんだけど。」

 《あ、確かにそうですね。》


 リンダはやっと気付いたようだ。

 食料は何かの植物かオーク肉しかないのだ。


「……。」


 俺はテントの中にいるエルシアを見る。


「…まぁ。一食ぐらい食べなくてもいいか。」

 《ツカサくん!》


 リンダが笑顔になる。

 リンダはエルシアに肩入れしすぎな気がする。


 《エルシアちゃんが美人ですから!》


 …確かに美人だと思うよ。


 俺は寝転び星空を眺める。

 この世界の空は綺麗だ。

 あの東京のような汚染された空気はどこにも見当たらず、闇に輝き流れる天の河はどこまでも続いている。


 ー【世界時計】を獲得しましたー


 頭の中に突然声が響いた。


「何かのスキルか?【ステータス】」


 ツカサ 13歳 男 レベル:56

 種族:魔族(魔王)

 筋力:1120

 体力:1120

 耐性:1120

 敏捷:1120

 魔力:1120

 魔耐:1120

 技能:限界突破・経験値取得倍加・全属性魔法・全属性耐性・魔力自動回復・複合魔法・対勇者・痛分・覇気・刀術・身体強化・虚偽察知・世界時計(19:45)


 《ついに1000超えましたね。》

「そうだな、でもまだ足りないよ。あいつを殺すには…。」

 《そうですね。》


 リンダが一瞬だけ悲しい顔をした気がした。


 《それよりも新しいスキルありますね!》

「そうだけど、これは腕時計があるから意味ないような…。」

 《確かにそうですね。》

「エルシアに腕時計はあげるか。」

 《プレゼントですね!》

「…プレゼントだね。」


 リンダがニヤニヤして見てくる。

 なぜか段々リンダがウザいおばちゃんにしか見えなくなってきた。

 82歳だからか?


 《ツカサくん、今失礼なこと考えました?》

「なんでもない。」

 《どうでしょうか…。》


 ジーっと、リンダが見てくる。

 俺はその目に視線を合わせないように星空を見る。

 リンダと会話をしながら時間を過ごしていく。


【世界時計(5:30)】


 月が沈み、日が昇ってきて新しい朝を迎える。


「おはよう、リンダ。」

 《おはようございます、ツカサくん。》

「さて、今日はエルシアに俺のことを口止めさせないとな。」


 昨日はあの状況だったからか何もなかったが今日は落ち着いて俺を認識してしまう。

 一体、エルシアからどんな反応をされるのだろう。

 叫ばれる?怯えられる?逃げ出そうとする?殺そうとする?


 いつでもどこでも魔族は排斥対象だ。

 その一体だけの身体能力や魔王を生み出す素質により疎まれる。


 そして、俺は魔族よりさらに憎まれる魔王だ。


「…んっ!」


 テントの方からエルシアが伸びをした声がした。


「準備…。あれ、服は…、あ!」


 昨日のことを思い出したのか驚いた声を上げると、白いワンピースを着始める。

 俺は目を逸らしてエルシアが出てくるのを待つ。


「おはようございます、ご主人様。」


 声がかけられたのでそちらの方を向く。

 表情が柔らかくなったエルシアがテントから出てきた。


「おはよう、エルシア。」

「ご主人様…。」


 エルシアが近づいてくる。

 そして膝を折ろうとしたが、俺が嫌がるのを思い出したのか途中でやめて、俺の前で頭を下げる。


「ご主人様、昨日はありがとうございました。」

「気にするな。どこか痛いところはあるか?」

「いえ、大丈夫です。」


 すごい柔らかい口調でそう話すエルシアは白いワンピースを着てまるで妖精のようだ。


「何も言わないのか?」

「何がですか?」

「俺が魔族だってこと。」


 俺がそう言うと、エルシアはふわっと柔らかい笑みを浮かべて言う。


「そんなのはどうでもいいことです。私はご主人様の奴隷ですから。」


 やっぱり美人だな。

 画になってる。

 だが俺はそれをぶち壊すようなことを言う。


「【覇気】」


 この野営地に黒い風を吹かせる。

 もちろんエルシアも風にあたる。


「こ、この風…!ご主人様は!」

「魔王だよ。」


 震えるエルシアにさらに近づく。


「これでもどうでもいいことだって言えるのか?」


 なぜ、こんなことをしたのかと言われれば俺は知りたくなったのだ。

 魔族は肯定してくれたが魔王はどうなのか。

 世界を混沌と破滅に導き、悪の化身とも言われてしまう魔王はどうなのか。


【覇気】を解除する。


「どうなんだ?」


 自分の震えていた手を握りしめ、ほっ、と一息つくと俺を真っ向から見つめてくる。


「やっぱり、そんなことはどうでもいいことです。魔王様でもご主人様は私のご主人様ですから。」


 魔王様でも私のご主人様か。

 そうだったな。

 エルシアが何を言ってもそれを変えることは今はできない。

 でも、こんなに笑顔で言ってくることじゃない。


 エルシアの言葉に何かを感じた。

 それは魔族の可能性か。

 それとも別の何かか。


 考えてもわからない。


「エルシア、俺が魔族で魔王だってことは口外するなよ。」

「もちろんです。」

「じゃあ、飯にするか。」

「はい!」


 ポーチから豚の肉を取り出す。

 それをエルシアに渡すとすぐさま料理に取りかかる。


「ちょっと待て。」


 俺はバスタオルを取り出してエルシアに渡す。


「白いワンピースが汚れるだろ?これ巻いておけ。」

「ありがとうございます。……。」


 渡されたエルシアは動きが止まり、俺とバスタオルを交互に見る。

 そして、何を思ったかおもむろに白いワンピースを脱ぎ始めた。


 綺麗な白い足が太ももまで晒される。


「エルシア!なんで脱ぐ!?」


 エルシアの奇行に俺は驚き声をあげてしまった。


「ご主人様がバスタオルを巻いておけとおっしゃったので。」

「確かに俺はバスタオルを巻いておけとは言ったが、俺が言ったのは白いワンピースの上から巻いておけってことだ。」

「あ……。失礼しました。」


 少し頬を朱に染めたエルシアは太ももまでたくし上げた白いワンピースを下ろし、その上からバスタオルを巻く。


「じゃあ、よろしくな。」

「はい!」


 意気揚々とエルシアは肉を焼いていく。

 それを俺は後ろから眺める、ということはせず湯浴みの準備をする。

 特にエルシアは早く入りたいはずだ。


「ご主人様、ご飯ができました。」

「はいよ。」


 エルシアと共に卓を囲み、


「「いただきます。」」


 豚肉を食べる。

 溢れ出す肉汁がとても美味しく、肉自体もとても柔らかい。


「美味しいよ。」

「っ、ありがとうございます。」


 エルシアの料理はピカイチだ。

 俺が料理してもここまで良いものはできなかっただろう。


「「ごちそうさまでした。」」


 食べ終わった俺たちは皿を洗い、調理器具をポーチの中にしまっていく。

 この六日でこの作業は慣れたものだ。


「エルシア、湯浴みをしてこい。昨日から入ってないだろ。」

「よろしいですか?」

「あぁ。」

「では、いただきます。」


 テントの後ろに用意した場所にエルシアが消えていく。

 今まで気にならなかった水音がやけに耳の中を震わせる。


 《エルシアちゃんのこと好きになりましたね?》

「違う。これはペットを可愛がるような慈愛の気持ちだ。」

 《そうですか?》

「そうだ。」


 本当にウザいおばちゃんになってきたな。


 《フィルアちゃんは元気にしてますかね?》

「フィルアは元気にしてるはずだよ。魔国の中にいれば絶対安全なんだから。」


 そうとう強力な結界をはったからな。


 《会いたくはありませんか?》

「そうだな。今は大丈夫だな。」

 《じゃあ、そのうち会いたくなりそうですか?》

「そうかもな。」


 フィルアには悪いことをしたと思っている。

 でも、フィルアまで失ってしまったら俺は今の俺を保つことは恐らくできない。

 今のままでもギリギリなのに。


「ご主人様、いただきました。」


 エルシアが上がってきた。

 少しくすんでいた銀髪が綺麗な輝きを取り戻している。


「じゃあ、次は俺か。」


 俺はポーチからタオルを取り出し、近づいてきたエルシアに目隠しをする。


「んっ……。」


 いつもの声より少し艶っぽく聞こえた気がする。


「ご、ご主人様いますよね?」

「うん?いるけど?」


 あれ、こんな事一回も聞いてこなかったよな。


「じゃあ、湯浴みしてくるから。」

「はい。いってらっしゃいませ。」


 目が見えないエルシアに見送られ俺は湯浴みをする。

 水音が周囲に広がる。


「あ、もう、目隠しする必要ないじゃん。」


 頭を洗っている途中に手がツノにあたった時に、自分が魔族、それに魔王だと言ったことを思い出した。


 なんで、言わないんだよ。


 湯浴みを終わらせて、エルシアの目隠しを外す。


「おかえりなさいませ、ご主人様。」

「あ、あぁ。ただいま。」


 じゃなくて。


「エルシア、目隠しのことなぜ言わないんだ?する必要なかったよな?」

「そうでした。忘れていました。」


 エルシアも忘れていたのか。


「悪かったな。」

「いえっ。これからも目隠ししていただいても構いませんっ。」


 エルシアが若干迫り声を弾ませて言ってきた。

  なんだか嫌な予感がしたが俺は何も言わずテントをしまってエルフの国に行くのを再開する。


「あと二日か…。」

「あの、ご主人様、実はもっと早く着くことができるかもしれません。」

「なぜ?」

「実は新しいスキルを手に入れました。【ステータス】」


 エルシア・エルフリーデ 14歳 女 レベル:62

 種族:エルフ(奴隷)

 筋力:186

 体力:186

 耐性:186

 敏捷:372

 魔力:748

 魔耐:748

 技能:風魔法・生活魔法・治癒魔法・属性付与・遠視・弓術・身体強化


「【身体強化】が増えました。」

「じゃあ、今日でエルフの国に着くのか?」

「はい!」

「じゃあ、【身体強化】を足に使ってここの森を早いところ抜けてしまおう。」

「わかりました!」


 俺は再びフードを被りエルシアのスピードが上がった案内の後ろをついていく。

 フードを被っているのは、エルシアの前では素のままで良いが他の人は違うからだ。


「ご主人様、そろそろ森を抜けます。」


 やっとだ。やっと、リンダを生き還すための第一歩だ。

 そして、森を抜け目の前の光景を見る。


「これは…。」


 俺が見たのは畑と田んぼが広がっている、のどかな田舎の風景だった。

エルシアに何かの片鱗が…。


あと、そろそろクラスメイトの方も書かなければ…。

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