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She is my……

サブタイトルはカッコつけてみた。

 一時間待って、さらに数分待った。

 それでも戻ってこなかった。

 逃げたのか。

 いや、奴隷が飼い主から逃げることなんてできない。

 首輪にはそうならないように逃亡防止装置が組み込まれており、もし逃亡の意思があったら首が締まるようになっている。


 《やっぱり何かあったんですよ。探しに行きましょうよ。》


 なんで俺が、なんて思ったがエルフの国までの道を知ってるのはエルシアだけだ。


 ったく、早く戻ってこいよ。

 どんだけ世話かけさせるんだよ。


 柄にもなくイライラしてしまう。


「…そうだな。」


 マジックポーチはエルシアに預けてしまったのでテントや寝袋などはしまえず、そのままにしたままエルシアが歩いて行った方に探しに行く。


 《どうやって探しましょうか。闇雲に探しても見つからないですよ。》

「そうだよな。」


 この森は広大だ。

 闇雲に探してミイラ取りがミイラになったら洒落にならない。

 なにか魔法やスキルを使って探したかった。


「【ステータス】」


 ツカサ 13歳 男 レベル:46

 種族:魔族(魔王)

 筋力:920

 体力:920

 耐性:920

 敏捷:920

 魔力:920

 魔耐:920

 技能:限界突破・経験値取得倍加・全属性魔法・全属性耐性・魔力自動回復・複合魔法・対勇者・痛分・覇気・刀術・身体強化・虚偽察知


「人探しするためのスキルはないな。」

 《そうですね。……ダメでしょうか。》

「どうしたんだ、リンダ?」

 《い、いえ。スキルが使えないとなると魔法ですね。》

「だな。」


 俺は人探しをする時に何を使うか連想ゲームのような要領で考えていく。

 ビラ配り、目撃者、警察、監視カメラ、警察犬、……警察犬?


「犬になればいいのか。」

 《犬ですか?あっ、鼻を使うんですね!でも、どうやって…。》

「【身体強化】」


 俺は森に来てから1度も使ってなかった【身体強化】を使う。

 特に嗅覚については重点的に魔力を流し込んで一時的に発達させる。


 《すごいです!【身体強化】をそんな風に使うなんて!》

「俺を褒めるのは後だ。エルシアの匂いがする。」

 《早く行きましょう!》


 俺はエルシアの匂いのする方に走っていく。

 もちろん、鼻だけではなく全身にも【身体強化】を使っているので移動速度はかなり速い。

 魔物を見つけてもスルーしていく。


 《なんか、すごい急いでますね。》

「…血の匂いがした。」

 《血!?》


 嫌な予感がした俺はリンダの驚きにも返事をすることなく走っていく。

 そして、たどり着いたのは頭から汁を流してる豚ヅラ、おそらくオークとエルシアのために買った弓が落ちてる現場だった。


 《これ…。》

「……。」


 オークは子孫繁栄のために様々な種族の女を襲うと、説明していたエルシアが思い起こされる。

 それと同時に昔の記憶が蘇ってくる。


「急ぐぞ。」

 《はい。》


 足と鼻の【身体強化】にさらに重点的に魔力をつぎ込む。


「匂いがかなり近い。それと多分オークの匂いもする。」

 《何かを引きずった後がありますよ。》

「…多分、エルシアだ。」


 引きずった跡に従って走っていく。

 段々血のようなものも混じってきてる。


「あの奴隷エルフ。あんなに世話焼いたのにまた目が死んだらどうしてくれようか。」


 まして、オークに穢されたとかなったら取り返しがつかない。


 くそっ! イライラする!


 《ツカサくん、なんだかんだでエルシアちゃんのこと大切なんですね。》

「リンダ、そういうのじゃないから。そのニヤニヤした笑顔で見てくるのはやめろ。」

 《だって、すごい怒った顔してますよ?》

「それはせっかく買った奴隷が使い物にならなくなったら困るからだ。」

 《そうですかそうですか。》

「……。とにかく急ぐぞ!」


 走り続ける。


 そして、開けた場所に出た。


「……。」


 十体のオークが中心に集まっていた。

 そしてその内の一体が中心に置かれた台に登っていく。


 その台の上には裸で手足を縛られたエルシアがいた。


 重なるいつかの記憶。


「…ご主人様。私に優しくしてくれてありがとうございました。」


 俺の【身体強化】された耳にエルシアの声が聞こえた。

 弱々しく、儚い、けれども綺麗な声が。


 ーブチィ


 何かが千切れた音がした。


 それは俺の血管か、それともこのクソ野郎にぶら下がっていたものか。

 あるいはどちらも。


「俺の奴隷になにしてくれてんだァ?」


 刀で千切れた豚の棒切れは地面に落ち、俺は豚を蹴り飛ばした。

 吹っ飛ぶ豚は遠くの木にぶち当たり折れた木の下敷きになった。

 他の豚はそれをただ呆然と見ている。


「ご主人様…。」


 俺はその隙にエルシアを縛っていたものを刀で切る。


「エルシア、この豚共に何かされたか?」

「いえ、大丈夫です。」

「……そう。」


 エルシアは台の上から裸のまま涙を流しながら俺を見ている。

 俺は自分が羽織ってたマントをエルシアにかける。


「っ!ご主人様は!」


 エルシアが驚きの声を上げる。

 何に驚いているのかは大体わかる。

 けど、それは後でたっぷり口止めする。


 そして、今はやるべきことをやる。

 俺はエルシアに左手を突き出す。


「握れ。」

「しかし、私は奴隷…。」


 奴隷だから触っちゃいけないとか思っているのだろう。


「早く!」

「っ!失礼します。」


 エルシアの柔らかい手が恐る恐る俺に触れて、握られる。


「【痛分】」


 繋がれた手を通して俺の体力と魔力がエルシアの方に流れていく。

 一方、俺の方にはエルシアの傷と痛みが流れ込んでくる。


【痛分】は相手が受けた傷や痛みを肩代わりし失った体力と魔力を分け与えるスキルだ。

 相手に接触すれば発動する。


「ご、ご主人様!傷がなくなっていきます!」

「はいはい。そういうスキルだからな。ぐっ!」

「ご主人様!?」


 今日はよく喋るな。

 たく、心配そうな目で見るなよ。

 エルシアの背中の傷が予想以上に痛かっただけだ。


 全部は肩代わりせず途中でスキルを打ち切る。


「エルシア、ここで待ってろ。」

「ど、どこに行かれるのですか?」


 すがりつくように寂しそうな目でエルシアは俺を見てくる。


 お前、そんなキャラじゃないだろ。

 無表情キャラだったろ?


「豚共を殺しに行くだけだ。すぐに戻ってくるから待ってろ。」

「……はい。」


 ……。なるべく早く終わらそう。


「【覇気】」


 エルシアには当てないように黒いオーラを全身から噴き出させる。

 これで、数体の豚は動けなくなった。


「さァて、俺の奴隷に手をださそうとした落とし前つけようかァ?」


 刀を右手に持ち周りにいる豚共を見る。


「グルォォオオオ!」


 動ける豚共は俺を敵とみなし俺に威嚇の咆哮をあげた。


「ひっ!」


 後ろのエルシアが悲鳴をあげた。


 エルシアはもしかして…。


 俺は走り出す。


「【身体強化:足】」


 ードン!


 一瞬で最高速に加速し、豚の懐に入る。


「首ィ一つ目ェ!」


 ーブシュ!


「続いて二つ目ェ!」


 ーブシャ!


 動ける豚から首を切り落としていく。

 六体の首を落としたところでエルシアを呼ぶ。


「エルシア!こっちに来い!」

「はい!」


 威嚇で怯えて涙を浮かべていたエルシアが嬉しそうに近づいてきた。


 本当にそんなキャラじゃないだろ。


 近づいてきたエルシアは地面に枝を使って、ご主人様お見事です、と書いた。


「なんで口で言わない?」

「禁止されてますから。」


 あぁ、そんなことも言ったな。


 このまま筆読も禁止しようとしたが、あらゆる手を使って褒めてきそうな気がした。


「禁止したことを解除する。」

「ご主人様、お見事です!」

「…。ありがとう。」

「はい!」


 嬉しそうに耳をピクピクしてる。

 それを見ながら俺は本題を進めるため【覇気】で金縛りのように動けない豚共を指差す。


「エルシア、そいつらを殺せ。」

「え…。」


 言われた途端に手が震え始めた。

 明らかに怯えている。


「怖いか?」

「…いえ、そんなこと。」


 誤魔化すためかエルシアは無表情になった。


 やっぱり、この豚共がトラウマになってるな。


「エルシア、この刀を握れ。」

「…わかりました。」


 刀をエルシアが握り、豚の首に刃を向けさせる。


「切れ。」

「…はい。」


 首に刃を近づけていく。

 だが、途中でぴったり止まってしまう。


「何に怯えてるんだ?」

「…途中で襲ってくるのではないかと。こ、このオークを倒しても他のやつが来て、ま、また、襲われるのではないかと。」


 エルシアの声は震えている。

 それほどまでに恐怖を味わったのだろう。


 …しょうがないな。


「エルシア、大丈夫だ。」


 俺は刀を握ったエルシアの手を包む。

 すると、震えは収まってくる。


「エルシア、切れるから大丈夫だ。刀を動かしていくぞ。」

「はい。」


 俺はゆっくりと刃を豚の首に当てさせる。

 ツーっと、豚から血が流れ出てくる。


「グォ。」

「ひっ!」

「大丈夫だ、エルシア。」


 豚が呻き声をあげるが、【覇気】の圧を上げて絶対動けないようにする。


「ご主人様…。」


 強くエルシアの手を握る。


「っ、ご主人様!」

「エルシア、切るぞ。」

「…はい。」


 刀が豚の首に入っていく。


「グォォ。」

「っ!」


 呻き声が上がるが今度はエルシアは悲鳴をあげない。


 ーボトン


 豚の首が地面に落ちる。


「エルシア、今も怖いか?」

「大丈夫です。オークを倒せます。」

「じゃあ、他の残り二体の首を落とせるか?」

「出来ます。」

「じゃあ、やれ。」

「はい。」


 エルシアは刀を持ち他の豚に近づき、ふぅ、と一息つく。

 そして、


 ーボトン

 ーボトン


 二つの首が地面に転がった。


「ご主人様!やりました!」

「あぁ、よくやったな。」

「ありがとうございます、ご主人様!」


 エルシアがすり寄ってきて、ご主人様ご主人様、と嬉しそうに俺を呼ぶ。

 だが、まだ終わりじゃない。


「エルシア、次は動ける豚を倒せ。」

「動けるのをですか?」

「そうだ。できるか?」

「……できます。」

「なら、やってこい。」


 俺は最初に蹴り飛ばした豚がぶち当たった木を指差す。


「グルォォオオオ!!」


 下敷きになっていた豚が出てくる。

 その豚は脇目も振らずこっちに走ってくる。


「行きます。」


 エルシアも豚に走り出す。


「【ジェットストリーム】!」


 エルシアが風の中を加速していく。

 豚はけたたましい咆哮を上げている。


「【属性付与:風】!」


 エルシアが持った刀からも風が吹く。


「あぁぁあああ!!」

「グルォォオオオ!」


 ーズドン!


 エルシアがさらに加速して地面が抉れる。

 豚は拳を降り下げた。


「グルァ?」


 降り下げた拳が空をきったことに豚は不思議そうな声をあげ、そして見た。

 降り下げた拳が自分に迫ってきていることに。


 ーピシャン!


 豚はエルシアが斬った自分の首を自らの拳で飛散させた。


 ーズドン!


 豚の体は倒れた。


「ご主人様…、やり、まし…た…。」

「エルシア、よくやった。」


 俺は倒れかかったエルシアの体を抱きとめる。


「エルシア?」

「すぅ…すぅ…。」

「魔力切れか。」


 まったく、奴隷のくせに手を焼かせる。


 《エルシアちゃん無事で良かったですね。》

「あぁ、本当に良かったよ。これでエルフの国に行けるよ。」

 《素直じゃないですね。》

「……素直だよ。」


 俺はエルシアをお姫様だっこする。


「さぁ。テントのところまで帰るか。」

 《帰りましょう。》


 途中でポーチと腕時計を拾う。


「…ご主人様…。すぅすぅ。」


 だから、キャラ変わりすぎだって。


 俺はエルシアの銀色の髪を一撫でした。

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