エルシアの心(1)
いつか書くと言っていたので。
なかなかツカサからの視点とのすり合わせに苦労しました。
お父さんと喧嘩をした。
私をどこかの国の王族に政略結婚させると言うのだ。
それで私は家を出て旅をすることにした。
いろんな国に行き、いろんな人を見て、いろんな冒険をした。
途中、気味の悪い風が吹いた時は怖かったけど特に影響もなかった。
レベルも上がりステータス画面では『60』を示すようになった。
この時、私は一人でなんでもできるって浮かれていた。
「【ジェットストリーム】!」
私を追っている男達を引き離すために自分に追風をかけ加速した。
「ははは!嬢ちゃん!そんなじゃ俺たちは離れられないぜ!」
その男の言う通り離れるどころか逆にどんどん近づいてきた。
私を追っている男達は闇奴隷専門の人攫いだ。
私はスニーカーという都市を目指して歩いている途中に遭遇してしまったのだ。
いや、もう前にいたところから既に目をつけられていたのだろう。
「イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ…。」
闇奴隷にされた人の話を聞いたことがあった。
でっぷりとした男に買われて毎日毎日流し込まれた話。
治癒魔法を使える男に買われて破れた膜を再生させられ毎日毎日破られた話。
聞くだけで吐き気がしてくるものばかりだった。
「逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ…。」
「逃げられねぇよ!」
すぐ隣に男の声が聞こえた。
もうとっくに追いつかれていたのだ。
背中に手が触れた。
「痺れろ。【エレキショック】」
「アガっ…。」
ーズシャー
私の体に電気が流れ体が動かなくなり地面を滑り倒れこんだ。
「や…め、…て…。」
ーガチャ
痺れながら訴えるその言葉もむなしく私の首に奴隷の首輪がつけられた。
「これで俺たちの小遣いも稼げたな。」
「組織の方から渡される金いつも少ないよな!」
「こいつどこで売る?」
「ここから近いスニーカーに確か奴隷処があっただろ。」
「おぉ、そこで売るか。組織の名前だせば買い取ってくれるだろうしな!」
私はただ呆然とその言葉を聞いていた。
理解できたのはこの男達の性欲のはけ口ではなく小遣い稼ぎで私は売られること。
男達は私を担いでスニーカーに歩いていた。
その間、闇奴隷になった女の話を永遠聞かせてきた。
毎日、昼夜問わず男に犯され続ける話を。
そんな話を聞かされ続けたせいか、闇奴隷にされたせいか、私の心はもう何も感じなくっていた。
「スニーカーについたな。」
「なんか門番多くないか?」
「なんでも魔王が復活したって話だぜ。」
「だから多いのか。どうやって入るんだ?」
「組織の人間がいるから大丈夫だ。」
そうして、あっさりスニーカーの中に入り私は奴隷処に売られた。
売られた私は綺麗な服を着せられ、綺麗な部屋にいれられ買い手がつくまでそこにいなくてはならない。
部屋にいる間何も感じなかった。
しかし、二日後何も感じなかったはずの心は恐怖に染まった。
私の前に現れた人はフードを被った男だった。
私はこの人に買われて犯されるんだ。
怖い怖い怖い怖い怖い…。
「エルフよこっちに来い。」
私は彫りの深い男に呼ばれて私はフードの男の前に跪くと、私の首輪に血が染み込んだ。
「アガ…。」
首を絞めつけられる苦しみが私を襲った。
その後私は私を買ったフードの男の後ろをついていった。
宿をとっているようで部屋に私は入れられた。
「そのタオルを目に巻け。」
私はその命令に従いタオルを巻いた。
男が誰かと話しているのが聞こえるがわからなかった。
私の世界は黒く閉ざされた。
「名前はなんだ?」
黒く何も見えない世界で恐怖の声が鼓膜を震わした。
私はおとなしく答えるしかなかった。
「エルシアです。」
自分の名前を呟いて思った。
私の人生はしょせん政略結婚の道具になるか、奴隷になるかだけの運命だったんだ。
そう思うと私の心はまた何も感じなくなった。
「エルシア、おとなしく待ってろよ。」
「わかりました。」
…………。
五分後、私を買った男が帰ってきた。
「エルシアもこっち来い。」
「わかりました。」
私は言われた通り声のする方に歩いた。
「目隠しを外してこっちに来て、飯を食え。」
「わかりました。」
目隠しを外して見当違いの方を向いていた体を男に向かせ近づく。
男はフォークと小さな箱を渡した。
箱の中には肉料理が入っていた。
「ありがとうございます。」
受け取った私は床に座り食べようとした。
「エルシア、椅子に座ってテーブルで食べろ。」
………え。
何も感じなくなった心に驚きというものが戻った。
奴隷は椅子に座ってテーブルでご飯を食べたりしない。
それゆえにこの男から出てきた言葉が理解できなかった。
「エルシア?」
私はしばらくの間思考停止に陥り動くことができなくなった。
そして、思わず聞き返してしまう。
「よろしいのでしょうか?」
「椅子に座って食べろ。」
やはり聞き間違えじゃなかった。
だが、こんな非常識なことを命令され、食べ終わった後の恐ろしいことを想像してしまう。
私は再び考えることをやめた。
「…わかりました。」
そしてご飯を食べた。
ご飯を食べ終わると、私は意識を失った。
◆
目を開けた。
ちょうど日が昇っているところだった。
私の目には見たことない場所が映っていた。
そして、自分の状況を理解した。
「そうだ。私は奴隷で…、男に買われて…、ご飯を食べて…、気を失って…、っ!」
ゾワッと体が恐怖に染まった。
どうして今、自分はベッドにいるのか!?
気を失った後に何かされたのではないか!?
急いで自分の体を確認した。
しかし、気を失う前となんら変わりはなかった。
そこで恐怖に染まった体は一旦の落ち着きを取り戻した。
だがさらに疑問が湧いた。
自分がベッドの上で眠っていた時、私を買った男はどこにいったのだろうか。
部屋を見回した。
この部屋にはベッドは一つしかない。
寝るところと言えばソファーしかないと思い、そこを見ると男がフードを被ったままソファーで眠っていた。
「どうして…。」
奴隷は普通床で寝るものだ。
ベッドの上で寝ることなんて絶対ない。
昨日も奴隷の扱いとしておかしなものだった。
一体どうしてなんだろう、と考えた。
始めはこの人は優しい人なんだと思った。
だが、考えれば考えるほど自分の思考は負の考えに侵されていった。
そして辿り着いた結論は、優しくした後に無茶苦茶にされる、という上げて突き落とすようなことをするためだと思った。
自分で出した結論に納得した途端に、諦めなのか、恐怖によるものなのか、また何も感じなくなった。
そして、自分は奴隷だと再認識して、私は奴隷としてソファーで寝てる男に地に頭を伏せた。
起きるまで、伏せ続けた。
「今後ソファーで寝るのはやめよう。」
声が聞こえて男が起きたのがわかった。
「何やってんだ?」
「申し訳ありませんでした。」
「いや、何やってんだよ。」
「申し訳ありませんでした。」
「ベッドで寝たのを気にしてるのか?」
「申し訳ありませんでした。」
私は謝り続けた。
奴隷として悪かったことをただ謝った。
だが、それが男に変化を与えた。
「…やめろ。」
「申し訳ありませんでした。」
「謝るのをやめろ!!」
途中から男の声色が変わった。
私は怒鳴られ命じられたことに従い口を閉じた。
「リンダっ!」
そして、男は誰か女性の名前を叫んだ。
「はぁ、はぁ、…大丈夫だよ、リンダ。」
顔を伏せた私には何が起きてるかは目に見えなかった。
ただ、落ち着いたことがわかった。
「エルシア…。顔をあげろ。」
「わかりました。」
顔を上げた私はすぐに目隠しをされた。
黒く閉ざされた世界。
「まず、何を謝っていたんだ?」
「ご主人様を差し置いて先に寝てしまい、あまつさえ一つしかないベッドを使ってしまったことです。」
奴隷としてあり得ないことをしたのを謝った。
それなのに、次の言葉で私の心は再燃した。
「それは気にするな。俺が寝ないことを命令するまでは自由に寝ればいい。」
……またわからない。
どうして奴隷に自由なんて言葉を使うのか。
「ですが、私は奴隷です。」
それに続く言葉に『自由』が欲しかった。
「そうだ。エルシアは俺の奴隷だ。」
だが、やはり奴隷だと突きつけられた。
「…はい。」
「なら、俺のルールに従え。わかったな?」
「…わかりました。」
心はまた何も語らなくなった。
「宝玉のことを聞きたい。エルシア、宝玉のことについて全て教えろ。」
「わかりました。」
言われた通りに宝玉のことを説明した。
「エルフの国はエルシアの故郷か?」
「そうです。」
その後、男が何かを喋っていた。
しかし、私には何もわからなかった。
男にソファーにしばらく座らされた後、私は目隠しを外し準備をした。
その途中で男に何かを渡された。
「ご主人様これはなんですか?」
奴隷の私は男をご主人様と呼び、渡されたものについて質問した。
「これは歯ブラシだよ。」
「これが歯ブラシですか…。」
一般的な歯ブラシとは全く違っていた。
こんな物は見たことがなかった。
「歯磨き粉も渡すから磨いてこいよ。」
「歯磨き粉ですか?」
男からの説明を聞き、用途について理解した。
「飲むなよ。」
「わかりました。」
私は初めて見た物を恐る恐る口に含んだ。
全く初めての感覚だった。
口の中全てを洗われ、冷たい空気が口の中を刺激した。
ずっと磨いていたい衝動に駆られるが早めに終わらせ男に声をかけた。
「じゃあ、出かけるか。」
「わかりました。」
私は男が着ている同じフード付きのマントを渡されそれを被った。
男は宿の人と何かを話した後、外に出て私に質問をしてきた。
「まず何か食べるか。エルシア、何か食べたいものあるか?」
…またわからない。
「私ですか?」
「うん。そうだけど。」
当然というような声色で言ってきた。
「なぜ、奴隷の私に聞くんですか?」
「いや、何が食べたいか聞いただけなんだけど。」
普通は奴隷に意見を求めることなどしない。
だが、この男は至って普通に聞いてきた。
意味がわからなかった。
「で、何が食べたい?」
質問された私はしばらく食べていなかった物を答えた。
「……魚が。」
「魚な。」
私の意見はあっさり承諾され露店の中に入った。
「最初に言っておくけど椅子に座れよ。」
また椅子に座れと言ってきた。
「奴隷ですよ?」
「俺の奴隷だろ?」
この男の言っていることが本当にわからなかった。
そもそも昨日と同様、どうして同じ席に着いてご飯を食べていいのか。
「…わかりました。」
私は反抗できることはできず戸惑いながら座った。
「エルシア、何にしようか。」
「なんでもいいです。」
本当に魚が食べられればなんでもよかった。
「このデリシャスフィッシュ、2つで。」
…え。
どうして、同じ料理を、それにどうして超高級魚を頼むのか。
私は奴隷だ。
もっと安くてもっと粗末なものを食べるのが奴隷なのに。
「ご、ご主人様?」
本当にいいのか思わず声をかけてしまう。
「えっ、なに。なんかまずった?」
しかし、男の方は何がいけないのか本当にわかっていないようだ。
私はなんだが怖くなって考えるのをやめた。
「いえ、なんでもありません。」
魚料理が私たちの前に出された。
超高級魚と言われるだけあって衣で包まれていても金色に輝いていた。
隣にいる男が何かを言っていたが、私は目の前にある魚にしか意識が向かなかった。
口の中に入れた。
「美味しい…。」
思わず声を出してしまう。
私は一口一口大切に食べていった。
捕まってからはもちろん、冒険している間でもこんなものは食べてこなかったのだ。
噛み締めて食べていった。
そんな中、ふと、視線を感じた。
隣にいた男が私の事を見ていた。
何を浮かれているのだろう。
そこで私が奴隷だった事を思い出した。
「申し訳ありません。急いで食べます。」
私は早く食べろと催促された気がした。
男は、慌てなくていい、と私に言ったが、ありがとうございます、と返し食べるペースを落とすことはしなかった。
奴隷だから。
「ごちそうさまでした。」
男がそう言ってデリシャスフィッシュ10000×2ガロを店主に渡して露店を出た。
「あの人1と7と0をしっかりかけよ。7000だと思ったのに。まぁ、美味しかったから良いけど。」
「申し訳ありません。」
奴隷なのに、あの魚を食べたことは異常なのだ。
断るべきだった。
「今度はなに?」
「そのような高級な物を食べてしまって。」
「お金のこと?気にしないで良いって。だいたい今日はエルシアにお金を使うんだから。」
……え?
奴隷のためにお金を使うのか。
今日で何回目の驚きだろうか。
「私にお金を使うのですか?」
「そうだけど。着替えとかいらないの?」
「……。」
もちろん、欲しいに決まっていた。
しかし、さっきのデリシャスフィッシュでもう10000ガロも使っていた。
それに、服ってどういう服を買うのか。
私は男に伴われて入ったのは普通の服飾店だった。
「いらっしゃいま…せ…。」
女性の店員さんが迎えたが、私と男のフード姿にいぶかしむ表情になっていた。
「こんな姿だが気にしないでくれ。こっちで服は選ぶから。」
私は男に連れていく。
「エルシアは銀髪だから…、これとこれだな。あとチョーカーも。ちょっと試着してきてよ。試着したら呼べよ。」
私は男が選んだチョーカーと洋服2着受け取り試着室に入った。
受け取った洋服はピンクのズボンとシャツ、いわゆる寝巻き、それに白いワンピースだった。
この服を着させ何をするのだろう。
また思考が負に染まりながら、私はピンクのズボンとシャツに着替えた。
「ご主人様、試着しました。」
シャッと試着室を開けた。
フード被った男がいた。
そして、私をそのフードの中から観察してきた。
「あぁ。似合ってるな。」
何も考えない。
「エルシア着てどうだ?」
「ご主人様の御眼鏡にかなってなによりです。」
「いや、これは嫌いとか色が違うのがいいとかの感想が欲しいんだけど。」
「不満などありません。」
私は淡々と答えた。
奴隷は不満など言わない。
服を着れるだけマシだ。
「そうか。じゃあ、次着て。」
「わかりました。」
シャッと試着室を閉じ、今度は白いワンピースに着替えた。
先ほどの寝巻きといい、白いワンピースといいかなり良い値段だ。
どうして、こんな物を着させるのか。
「ご主人様、試着しました。」
再びシャッと開けた。
「おぉ、本当によく似合ってる。」
先よりも見せている肌の面積が大きかった。
さらによく見られている気がした。
また、何も考えない。
「これはどうだ?」
「ご主人様にほめていただき大変喜ばしいです。」
「それそのまま着てていいから。俺はお金払ってくる。」
その言葉でやはり気になってしまう。
なぜ、こんな良いものを私に買うのか。
「あの、ご主人様…。」
私は男を呼び止めてしまう。
「なんだ?」
なぜか聞いてみたい。
だが、やはりこの服を着てやることを想像してしまう。
酷いことを想像してしまう。
「……。」
私は自分が着ている服と男を交互に見て、怖くなり思考を打ち切った。
「エルシア?」
「いえ、なんでもありません。」
そう答えるしかなかった。
男は20000ガロを店員に払い私と共に店を出た。
今までフードを被り晒されなかった私の顔が通行人に晒された。
奴隷の首輪はチョーカーで隠されて周りの人からは見られることはないが私が奴隷として見られていると思わないように私は何も考えない。
すろと、一人の男が近づいてきた。
「ねぇ、君。今からちょっと遊びに行かない?」
私に声をかけてきたのは、知らない男だった。
ナンパだとわかった。
私を買ったフードの男はこちらを見ているが何も言わない。
「ねぇ、君。きいてる?」
「……。」
「ねぇ?」
声をかけてくる男はあからさまな下心を含む目をしていた。
怖い怖い怖い怖い怖い…。
助けて欲しい助けて欲しい助けて欲しい。
私の肩に男の手が乗るが私を買った男は無言を貫いていた。
手が震えてきた。
全身が冷たくなっていくのをわかった。
「わかってる。【覇気】」
私をずっと無言で見ていた男が一言呟いた。
「ひっ!」
すると私に触れていた男から悲鳴が上がった。
私は男の突然の悲鳴に驚いた。
そして、さらに驚いたのは私を助けた男の声だった。
「お前さァ、俺の連れに手ェださないでくれるかなァ?」
酷く恐ろしい声で周りに黒いオーラが見え隠れしていた。
ーポタポタ
振り向けばナンパした男の股下に滴が落ちていた。
「わかったァ?」
「はいぃぃ!」
男は地面にしみを作り悲鳴をあげながら走って逃げて行った。
それを周りで見ていた人も異常に感づいて一歩引いて私たちを見ていた。
「エルシア大丈夫か?」
恐ろしい声ではなく私に優しく声をかけてきた。
「ご主人様、申し訳ありません。」
これを招いたのは私だ。
しかし、男はそれを否定した。
「いや、こっちこそごめん。すぐ助けに入ればよかった。」
……なんで。
今度は奴隷に謝ってきた。
この男はわからない。
「ほら、フード被れ。」
「ありがとうございます。」
ポーチからマントをだし私にかぶせた。
被せるために私の頭に触れた手を私は暖かいと感じてしまった。
そして、下心を直接感じてしまったことにより、私を買ったこの男からは一回も下心を向けられることはなかったと気がついてしまった。
「じゃ、買い物の続きをするか。」
ご主人様は歩みを進める。
何も感じないと思っていた心は下心にあっさり恐怖を感じてしまい、私はその恐怖を誤魔化すためにご主人様の近くを歩いた。
ご主人様についていくと武器/防具屋に着いた。
何を買うのだろうか。
「エルシアって何が得意?」
「弓が得意です。」
「じゃあ、弓を買うか。」
ご主人様は私に冒険者にでもさせるのだろうか。
実は私は冒険者だったが、奴隷にされた際に荷物は全て持って行かれてしまったので冒険者ではなくなっていた。
ご主人様は店員に聞いて装備を一式買った。
どうしてだろう。
「結構時間がかかっているので無理。」
今まで気にしてはいなかったが、ご主人様はよく何もない空間に向かって話しかけていた。
その相手はリンダというのがわかった。
誰なのか。
本当にそこにいるのか。
「はいよ。じゃあ、エルシア他に欲しいものある?」
さらに欲しいものがないかと聞いてきた。
あるわけがなかった。
「ありません。」
「じゃあ、時間も時間だし。夜ご飯でも食べますか。で、エルシア何が食べたい?」
…まただ。
「また、私に聞くのですか?」
「何が食べたい?」
あくまで私に答えさせるつもりだ。
「……野菜が。」
「野菜な。」
やはりあっさり承諾されてしまった。
そして、私はご主人様に連れられ野菜専門料理の店に来た。
ご主人様はメニューの一番上にあった今日の野菜というものを二つ頼んだ。
どうして、同じものを頼むのか。
そして、出てきたのは生野菜と温野菜が混在したお皿だった。
それを食べた。
「おいしい…。」
また思わず口から出てしまう。
新鮮な味と食感が口の中を蹂躙した。
「ごちそうさまでした。」
隣のご主人様の言葉と同時に私も食べ終わりフォークを置いた。
お金は先に払っていたようでそのまま店を出後にして宿に帰り同じ部屋に入った。
昨日は寝てしまったため、今日が実質初めての夜だ。
「エルシア、歯ブラシとタオルを持って。」
「わかりました。」
私は言われた通りに行動した。
次の命令を待つためにそのまま立った。
「いや、隣の部屋に行って。」
…隣?
「…ご主人様、どういうことですか?」
「朝聞いてなかった?もう一部屋、エルシアの寝る場所をとったんだよ。」
ーバサ
今日一番の驚きのあまり私は持っていた歯ブラシとタオルを床に落としてしまった。
そして、もう、聞かずにはいられなかった。
「ご主人様…。」
「今度はなに?」
「私は奴隷ですよ?」
「知ってる。」
「なら、なぜもう一部屋とるのですか。」
「俺がベッドで寝たいから。」
「なら、私を床で寝かせば良いのではないですか。それに椅子に座らせるのもどういうことなんですか。物を与えるのも。一番高い料理を食べさせるのも!」
ご主人様に対して叫んでしまう。
奴隷に対する態度としてあまりにもおかしなものばかりだった。
なぜ、どうして…。
「その目をやめてもらうためだよ。」
ご主人様は言葉を紡ぐ。
「目…。」
「そうだよ。なぜそんな虚ろな目をしているんだ。」
「それは…、私が愛玩奴隷になると思っているからです。」
結局、いくら下心が当てられていないとわかっていても私の中からその恐怖は消えなかったのだ。
しかし、そんな恐怖をこのご主人様はあっさりと消し去った。
「あ、そんな予定はないから。」
本当にさも当たり前のように言った。
「な、ないのですか?」
聞き返してしまう。
「ないよ。俺はただ宝玉のことを聞いて、その場所に案内してもらおうとしただけだよ。ちなみに最初はエルフの国に行くから。」
「私の故郷に!」
家族に会えるかもしれない。
「だから、今の目でいろ。また、あの目になるのはやめろ。」
今の目…。
さっきまでは恐怖が支配していたせいで私の心は何も感じないように自ら心を殺していた。
それをやめろというのか。
「わかりました。ご主人様、ありがとうございます。」
私は深く頭を下げた。
昨日と今日受けたこと、そしてこれからに対して。
するとご主人様に質問をされた。
「エルシア、奴隷をやめたいか?」
やめたいかと聞かれて奴隷はやめたいとは言えない。
だから、私は否定をした。
「いえ、そんなこと。」
「本音を言え。」
ご主人様から命令がされた。
本音を言うならやめたいに決まってる。
「…やめたいです。」
「なら、エルフの国で900万ガロ払え。」
900万…。
私の私自身の買取値段だろう。
できることなら今すぐにでも払いたかった。
誰かに借りてでも払いたかった。
しかし。
「……わかりました。」
私には誰も貸さないだろう。
エルフの国に行けると喜んでいたが勝手に国を出たせいで、家族にも会えないかもしれない。
「もう荷物持ってむこうで寝ろ。」
ご主人様が朝にとっていた部屋で寝ろと命令してきた。
私はそれに従った。
「はい。ご主人様、今日はありがとうございました。おやすみなさい。」
私はご主人様の扉をしめて、隣の部屋に移りベッドに横になった。
そして、改めて今日のことについて考えた。
私の目を普通に戻すためとはいえ、ご主人様はどうして奴隷によくするのか。
ご主人様はなぜフードを被ったままなのか。
ご主人様はどうして一人で話しているのか。
ご主人様は宝玉を集めて何をするのか。
疑問は浮かび続けた。
しかし考えても答えなど見つからない。
私は隣の部屋を見た。
私を助けてくれた時の恐ろしい声と暖かい手を思い出していた。
「今日は本当にありがとうございました。ご主人様。」
今日よくしてくれたことを思い出しながら、私は目をつむった。




