エルシアとスニーカー巡り(1)
今日はここまでしか書けなかったです。
今日は体の痛みで目が覚めた。
どうして、と疑問が生じたがベッドはエルシアに譲り自分がソファーで寝たことを思い出した。
「今後ソファーで寝るのはやめよう。」
ソファーから体を起こした俺はいつも通り身支度をしようとして床に足をつけようとした。
「何やってんだ?」
「申し訳ありませんでした。」
足をつけようとした床にエルシアが土下座をしていた。
「いや、何やってんだよ。」
「申し訳ありませんでした。」
「ベッドで寝たのを気にしてるのか?」
「申し訳ありませんでした。」
何を質問しても、申し訳ありませんでした、と謝罪し続けるエルシア。
それがあの日虚ろな目で俺に謝り続けたリンダを思い出させる。
「…やめろ。」
「申し訳ありませんでした。」
「謝るのをやめろ!!」
その姿に激しくなる動悸が俺の感情をいとも簡単に荒れ狂う波の中に溺れさせる。
「リンダっ!」
俺は机に置いてあった赤いヘアピンを急いで前髪につける。
《おはようございます。ツカサくん大丈夫ですか?》
リンダが見える。
リンダが話しかけてくる。
リンダが話を聞いてくれる。
「はぁ、はぁ、…大丈夫だよ、リンダ。」
激しかった動悸は鳴りを潜め、溺れた感情は落ち着いて息をし始める。
「エルシア…。」
エルシアは、謝ることをやめろ、と命令したせいか謝罪の言葉を口にはしていなかった。
だが、土下座の姿勢はそのままだった。
「顔をあげろ。」
「わかりました。」
顔を上げたエルシアはやはり虚ろな目をしていた。
俺はタオルを取り出しエルシアに目隠しをさせる。
「まず、何を謝っていたんだ?」
「ご主人様を差し置いて先に寝てしまい、あまつさえ一つしかないベッドを使ってしまったことです。」
エルシアと始めてちゃんとした会話が成立したことに少々の感動を覚えながら話を続ける。
「それは気にするな。俺が寝ないことを命令するまでは自由に寝ればいい。」
「ですが、私は奴隷です。」
「そうだ。エルシアは俺の奴隷だ。」
「…はい。」
「なら、俺のルールに従え。わかったな?」
「…わかりました。」
エルシアのいつも通りの声に俺は息を吐く。
これで心のケアをするなど無理な話に思える。
「もう、やめたい。」
《ツカサくん、責任を持ちましょう!》
「……。」
だから俺はママじゃない。
俺はリンダの言葉から逃げるように話を進めて本来の目的を達成しようとする。
「宝玉のことを聞きたい。」
《そうでしたね。昨日は寝てしまって聞けませんでしたからね。》
そもそもどうして話を聞くだけでこんなに長くなっているのか。
早くリンダを生き還したいのに…。
「エルシア、宝玉のことについて全て教えろ。」
「わかりました。」
この世界には6つの宝玉がある。
それぞれ、炎、水、風、雷、光、闇の宝玉であり、それらを全て集めると神がどんな願いでも叶えてくれる。
そのせいで、何度も多くの戦争が引き起こされているという。
現在は多少の小競り合い程度である。
6つの宝玉の所在地は既に判明している。
炎の宝玉は獣人の国
水の宝玉は魔法学園の国
風の宝玉はエルフの国
雷の宝玉はドワーフの国
光の宝玉は人の国
闇の宝玉は迷宮
それぞれの国で厳重に守護されているらしい。
「エルフの国はエルシアの故郷か?」
「そうです。」
なら、エルフの国に行くべきか。
エルシアがエルフの国に行くと言ったら、あの目も少しはマシになるだろうし住民を扇動してエルシアを宝玉との交換条件にできるかもしれない。
まぁ、最悪、殺して奪ってやるが。
《殺しはダメです!》
「最後の手段だよ。極力は使わないようにする。あっ、でもあいつに会ったら俺は殺すからな。」
《それが復讐相手なら私は何も言いません。》
道徳の日が懐かしいよ。
「じゃあ、さっそくこの都市から出ようか。」
《その前にツカサくん!露店巡りをしましょうよ!》
「はっ?」
《露店巡りをしたらエルシアちゃんも元気になるかもしれませんよ。》
「それかもしれないが。」
俺は考える。
露店巡りじゃなくてもこれから旅に必要になる物は揃えたい。
主にエルシアに必要な物だが。
「今日はこの都市で必要な物を揃えよう。」
《露店巡りはしないのですか?》
「……するよ。」
《ツカサくん!》
喜ぶリンダを眺めながら出かける準備を開始する。
フードをとって顔を洗ったりするのでエルシアの目隠しはそのままにソファーの上で待機させる。
終わったらフードを被り、エルシアの目隠しを外し準備をさせる。
「ご主人様これはなんですか?」
昨日のように虚ろな中に少し光の戻った目でエルシアは俺が渡した歯ブラシを右手に持ち聞いてくる。
この世界の歯ブラシはそれ専用の木と草を使いできた、物凄い固いか、物凄い柔らかいかの歯ブラシしかない。
「これは歯ブラシだよ。」
だが、俺の渡した歯ブラシは魔国で作った現代日本で使ってたものだ。
実は日用品に関しては日本に似せようと努力をしたのだ。
現在、マジックポーチには大量に歯ブラシと石鹸、タオルなどが入ってる。
「これが歯ブラシですか…。」
「歯磨き粉も渡すから磨いてこいよ。」
「歯磨き粉ですか?」
歯磨き粉ではないが似たような物はこの世界にもちゃんとある。
泡はたたないらしいが。
「飲むなよ。」
「わかりました。」
ほんの少し抑揚のついた声で返事をして歯を磨きにいった。
《世話好きですね。》
「さすがに歯を磨かない人とは一緒にいたくない。」
リンダの茶々をかわしながら話しているとエルシアが歯を磨き終えたらしくて俺に声をかける。
「じゃあ、出かけるか。」
「わかりました。」
俺と同じフードをつけたエルシアが隣をついてくる。
また目立つといけないからだ。
宿を出る前におばちゃんに一泊と一部屋追加をする。
宿を出ると相変わらず人がたくさんいて賑わっている。
「まず何か食べるか。エルシア、何か食べたいものあるか?」
「私ですか?」
「うん。そうだけど。」
「なぜ、奴隷の私に聞くんですか?」
「いや、何が食べたいか聞いただけなんだけど。」
奴隷云々はここで関係はあるのか。
「で、何が食べたい?」
「……魚が。」
「魚な。」
露店の中に魚料理を売っている店を見つける。
その店構えはおでん屋さんを彷彿させる。
「最初に言っておくけど椅子に座れよ。」
「奴隷ですよ?」
「俺の奴隷だろ?」
「…わかりました。」
虚ろな目は変わらないが機械的な動きはなくなり戸惑うように座る。
「エルシア、何にしようか。」
「なんでもいいです。」
それが一番困る。
1番美味しそうな名前の物にするか。
1番高いけど。
「このデリシャスフィッシュ、2つで。」
「ご、ご主人様?」
「えっ、なに。なんかまずった?」
「いえ、なんでもありません。」
エルシアが感情を露わにしたがすぐに元の表情に戻る。
今の反応はなんだったのか。
実はすごい不味いものなのか?
魚料理が俺たちの前に出される。
黄金に輝く魚一匹、薄い衣で揚げられた料理だった。
「うわ、なんかすごい高級そうだ。まぁ、1番高いから高級なんだけど。さて、お味の方は。」
口に運ぶ前に、いただきます、を忘れず、魚料理を堪能する。
「…すごいな、これ。」
食レポの才能はないが、感想を述べれば魚のくせにとてもジューシーで流れ出てくる油が自分を幸福感で包む。
「美味しい…。」
俺の隣から感情のこもった綺麗な声が聞こえてくる。
エルシアは一口一口噛み締めながら食べている。
目にも光が戻っている気がする。
俺はエルシアより早く食べ終わってしまったのでエルシアを観察する。
すると、目が合う。
「申し訳ありません。急いで食べます。」
エルシアは早く食べろと催促されたと勘違いしたようだ。
俺は慌てなくていい、と彼女に伝える。
しかし彼女は、ありがとうございます、と言ったが食べるペースを落とそうとはしなかった。
俺はそれを釈然としないまま見続ける。
光が戻ったように見えた目も再び虚ろになっていた。
感情の動きって難しい…。




