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日常の崩壊(3)

難産だった。

「久しぶりだなァ〜、ツカサァ〜?」

「シンジ…さん…。」


 どうして、こいつがここにいるんだ。

 俺はあの時…。


「いやァ〜、びっくりしたよォ〜。お前がまさかこの世界にいたなんてなァ〜。お前も誰かに殺されたかァ?」


 磔にされたリンダの前で気持ちの悪い笑みを浮かべながら俺を見ている。


「リンダを離せ!」


 俺が叫ぶとシンジは一瞬で目の前に移動してくる。


「まァまァ、俺の話をまず聞けよォ。」


 ードンッ!


「ガハッ!」


 俺の腹部にシンジの拳がめり込み、俺は思わずその場に倒れ込んでしまう。


「お前、柔らか過ぎだなァ。今の1割も出てねェぞ。ステータスちゃんと鍛えてるのかァ?」


 シンジは俺を見下ろし踏みつける。


「リンダを…。」

「だから、話を聞けって。久しぶりに同郷のやつに会えて聞いてほしいことがたくさんあるんだよォ。」

「何を…。」

「俺はお前に殺されてから勇者として転生したんだよ。」

「勇者…だと?」

「そうだぜェ。笑っちゃうよなァ。レイナを犯そうとした俺が勇者なんてなァ。」

「貴様…!」


 ーガンッ!


「ぐふっ!」

「落ち着けって。勇者として転生した俺は地球とは違って結構平和に暮らしてたんだよォ。そしたら、魔王が現れたとか言われてなァ、魔王を殺すことを命じられちゃったんだよォ。つい、20年前のことだけどよォ。」

「20年前…。」

「そう、俺、今40歳なんだぜェ。勇者って老いないんだよなァ。20歳のまんまだぜェ。」


 俺が中学2年生の頃、シンジは高校2年生だった。

 つまり17歳。

 その時よりは成長しているが、確かに見た目はあの時のままだ。


「まァ、そんなことはどうでもよくてよ。20年前に魔王討伐のためにレベル上げしてる時にうっかり人を殺しちまってなァ。殺ったのは盗賊、犯罪者だったんだけどよォ、それが楽しくて、楽しくて、楽しくて、仕方なくて!」

「狂ってやがる…。」

「アハハッ!魔王倒す時も楽しかったよォ。魔族の奴ら俺に敵うわけないのに無様にむかってきてなァ。」

「魔王討伐なんて昔のことだろ。なんで、お前がここにいるんだ…。」

「いやァ、本当、偶々来ただけなんだよォ。そしたら、日本みたいになっててびっくりしてたわけよォ。でなァ、こんなことできるのは日本人しかいないと思って、その辺の魔族拷問したらリンダって名前が出てきてなァ、今ここにいるわけよォ。」

「リンダに何をしたんだ…。」

「こいつ日本人だと思ったら思いっきり現地人だったから、どこに日本人がいるんだって拷問してたんだけどなァ、なかなか口を割らなくて、今度は子供を拷問しようとしたんだけどよォ、そしたらあっさり口を割ったんだぜェ!」


 拷問だとっ!?だけど、見た感じ傷はついたりしてない。精神に使ったのか…。


「ツカサ…くん。」


 リンダのかすかな声が十字架から聞こえてきた。

 

「オ、お目覚めらしいなァ。」

「リンダ!!」


 目がうつろなリンダが俺を見る。


「ごめんなさい…、ツカサ…くん。あなたを…守れなかった。」

「そんなことない!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…。」

「リンダ…。」

「キャハハハ!この女よほどお前のこと好きなんだなァ!なァ、離して欲しいか?」

「早く離せ!リンダを離せ!」


 どうしてこいつは俺の大切なものを奪っていくんだ。

 地球でもレイナとアヤカとの絆を奪われて、今度はリンダまでも奪っていくのか!?


「なら、魔法勝負でもしようかァ。」


 魔法勝負…、ダメだ、俺は魔法を使えない。


「俺は魔法を使えない。」

「はァ?魔族のくせに魔法が使えないのかァ?お前、柔らか過ぎのくせに遠距離型じゃねェの?じゃあ、剣勝負でもいいや。ほい。」


 シンジが何もない空間に手をかざすと刀身まで真っ黒な刀と真っ白い剣が出てくる。

 そのうちの真っ黒な刀を俺の方に投げてくる。


「それェ、魔王が使ってたやつだけどお前にやるよ。」

「どうすれば良いんだ。」

「殺し合いだよォ!俺を殺せばこの女を離してやるよォ!」

「殺し…。」


 人殺し人殺し人殺し…


「簡単だろォ!俺を殺してるんだからァ!」


 人殺し人殺し人殺し…


「ほら行くぞ!」


 シンジがまた一瞬で目の前に現れる。

 そして、剣を叩きつけてくる。

 俺は間一髪でそれを刀で防ぐが、叩きつけられた勢いそのまま壁に叩きつけられる。


「ガハッ!」

「俺の攻撃を防いだかァ。すげェな。けど、柔らか過ぎだよ、お前ェ。」

「はぁはぁ…。」

「そういえば俺の勝利条件言ってなかったなァ!何が良いかなァ!あァ〜、そうだ!お前が動けなくなったらでイイな!そうすれば、俺がお前を長くイビれるからなァ!」


 気持ち悪い笑顔をむけてくる。


「それとなァ、俺が勝てば、あの女殺すから。」

「なっ!?」

「だから、ちゃんと殺せよな!」


 俺が立ち上がった瞬間また目の前に移動してくる。


 ーキィィン


「おォ、また防ぐゥ!」

「うぉぉおおお!!」


 リンダを殺すだと!?

 あいつが、リンダを殺すだと!?

 ふざけるな!

 殺させるわけない!


「攻撃重くなったなァ!」

「はぁぁあああ!!」

「けどなァ、そんなんじゃ無理だよォ!」


 また剣を刀に叩きつけられる。

 また壁に叩きつけられる。


「ガハッ!」

「まだまだァ!」


 だが、今度はそれで終わらない。

 シンジはさらに追随してくる。

 左手の拳を俺に向けて放ってくる。


「アハハッ!」

「ぐはっ!」

「俺まだ1割も力出してないぞォ!」


 殴られる。

 何度も何度も殴られる。


「チッ。本当につまんねェな。」

「アガッ!」

「……ァ、そうだ。」


 俺に突き刺さり続けていた拳が止まる。


「お前さァ、俺の首はねてみてよ。」

「はぁ…、な、にを…。」

「チャンスだぞォ!俺を殺せばあの女を離してやれるんだぞォ! ほらァ、全力で当ててこいよ!」


 こいつを殺せばリンダは解放される。

 こいつさえ殺せればリンダを救える!


「うぉぉおおお!!」


 俺は足に力を入れて全力で駆け出す。


 また殺せば良いんだ!

 また殺せば良い!


 真っ黒な刀に力をいれて、シンジの首めがけて振り下ろす。


 だが。


「あァ?なんで止めてんだよ。」


 俺が振り下ろした刀はシンジの首一歩手前で止まってしまっていた。


「どうしてだ。」


 人殺し人殺し人殺し…


 頭の中を埋め尽くす、レイナとクラスメイトが俺に浴びせた罵倒。


 人殺し人殺し人殺し…


「どうして、殺せないんだ…。どうして手が震えるんだ…。」

「てめェ、ふざけてのかァ?いや、違うなァ〜。もしかして、俺を殺せないのかァ?」


 手が震える。


 なぜ、手が震えるんだ!?


 その答えをシンジが俺に突き刺す。


「お前まさか俺を殺したのがトラウマになってるのかァ?キャハハハ!マジかよ!あんなに何度も叩きつけてくれたのによォ!」

「違う。」

「違くないだろォ。」

「違う違う違う違う、違う!!」

「じゃあ、殺せよ。」


 その刀をひけばリンダは助けられるのに、俺はひくことができない。


「どうしてどうしてどうして…。」

「時間切れだよォ、ツカサ。」


 ードゴォン!


「ゴバッ!」


 壁に叩きつけられた瞬間、口から赤黒い液体が流れ出てくる。

 俺は動けなくなる。


「今ので1割だぜェ。」

「……。」

「もゥ、動けないんだなァ。残念だァ。じゃあ、サクッとあの女殺そうかァ!」

「待て!」


 シンジがリンダに近づいていく。


 リンダは未だに俺に謝罪の言葉を述べ続けている。


 シンジはリンダの首元に剣の刃を近づける。


「やめろやめろやめろぉぉおおお!!」

「ツカサァ。次は俺を殺せよ。」


 ーブシュ!


 彼女の首もとにあてがわれた刃が紅い鮮血を撒き散らし、彼女の体は地に落ちた。


「あぁ、ああああああああああああああああ!!」

次話はどうしようか…。

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