ツカサの誕生日!
この世界は地球と同じように1年が365日で1日が24時間である。
偶然にも地球と同じ進み方なので俺としてはとても違和感なく過ごせている。
さて、今日は俺にとってとても重要な日である。
今日は俺の6度目の誕生日なのだ。
去年はみんなから歌のプレゼントと普段より少し豪華な料理だったのを覚えている。
だか、今年は学校がうまくいっていて近所からも多くの子供達が通っていることで寄付金も大分多くなっている。
すごく期待できるものになる気がする。
「今から宿題に出していた計算問題を見ていくぞ。」
うん。みんなよくできている。本当にスポンジみたいにドンドン吸収していくなぁ。魔族は魔法の才だけでなく頭もいいのか。チート種族だな。俺は全くその恩恵を受けてないけど。
いつも通りみんなのことをほめながら今日の授業が終わる。
「じゃあな。気を付けて帰れよー。」
……。あれ、本当に終わった。俺の誕生日、今日なんだけど。あぁ、あれか。最後寝る前にみんなからサプライズされるパターンだな。じゃあ、楽しみにしておくか。…ん?あれはフィルアだ。
「フィルア、今暇か?」
「ごめん、ツカサ。今忙しんだ。」
「おぅ、そうか。邪魔して悪かったな。」
これはあれだな。コソコソ隠れて準備をしてるんだな。楽しみにしてるぞ。…おっと、あれはリンダだ。
「おーい、リンダ今暇かー?」
「ごめんなさい、ツカサくん。今、ちょっと忙しいです。」
「おー、そうか。悪いな、邪魔して。」
こっちもコソコソ隠れて何かやってるんだな。楽しみだ。
他の子供達にも声をかけてみたが誰もかれもが忙しいとの返答をしてきた。
若干な寂しさがこみあげてくるが、それに比例して今日の夜への楽しみが大きくなっていく。
段々落ち着かなくなってきたので外に出て少し歩くことにする。
「相変わらずさびれてるなぁ。」
土埃が舞う茶色い街並みの中を歩く。
特に何も起こらず夕方になる。
「ここは綺麗だな。」
フィルアと一緒に見た丘の上からの景色に改めて感動する。
「さて、帰るか。そろそろ準備も終わったころだと思うし。」
完全に日が沈む前に丘を立ち去り孤児院に帰る。
「よし。この扉を開けたら俺の誕生日会だ。緊張してきたぞ。ふぅふぅ。」
「あら、ツカサくん?」
「ツカサ?」
「ん?リンダとフィルア?」
あれ、どういうことだ。なんで外にいるんだ?ここは中で待機してるものじゃないの?去年は中で待機してたよね。
「2人ともどこに行ってたんだ?」
「買い物に行ってたんですよ。」
「買い物だよ、ツカサ!」
なんか普段通りなんだけど。全然特別感がないんだけど。
「今からちゃちゃっとご飯作りますから待っててくださいね。」
「フィルアも手伝う!」
「本当?じゃあ、手伝ってください。」
リンダとフィルアが中に入っていく。
あれ、今日俺の誕生日じゃなかったのか?いやいや間違いなく俺の誕生日だったはずだ。えっ、なに。てことは本当に忘れられてるってこと?マジか…。けっこうショックだぞ、これ。
「はぁ。」
ため息をつきながら孤児院に入る。
「「「「「お誕生日おめでとう!」」」」」
「へっ?」
下を向いていた顔を上げると孤児院の子供達と授業を受けていた孤児ではない子供達がいた。
「な、なんで…。」
「何でって、今日はツカサくんのお誕生日でしょ?」
「え、でも、みんな忘れてたんじゃ…。」
「忘れるわけないじゃないですか。ちょっとサプライズみたいにしたかったんですよ。」
リンダはいたずらが成功した時のような意地悪な笑顔を浮かべている。
子供達も同じ様な顔をしてる。
「本当に忘れられてると思ったんだからな。」
「じゃあ、サプライズ大成功ですね。」
くそ、本当にいい笑顔だな。
「さてさて、そろそろ席につきましょうか。」
移動して席に着くと今までで一番豪華な料理が並んでいる。
「すごいな…。」
「みんなで頑張って作ったんですよ。」
「すごい嬉しいよ。みんなありがとう!」
みんなにむかってお礼を言うと照れ笑いした幼い顔が喜色に染まり可愛らしい。
「いただきます!」
食べ始める俺をみんなが期待して見る。
「……おいしい。すごくおいしいよ!本当にありがとう!」
みんなさっきより一層笑顔になり喜んでいる。
リンダは泣き始めている。
俺が食べたことでみんなも食べ始め、おいしい、おいしい、と口々に感想を述べている。
初めて料理を作った子もいるみたいで本人達もとても感動してる。
食事も一段落したところでみんなからプレゼントをもらった。
女の子達からは好き好きアピールがすごい手紙。
男の子達からは金属加工のフェラーリくんと協力して作ったガン〇ム的な金属フィギュア。
男の子の方を評価すると、すごい完成度高い…。俺、人型兵器の概念なんて教えてないよ?なんで大砲的な物ついてるの?
女の子の方はフィルアが誰よりもすごいことを書いていた。ツノ触っていいなんて言ったら本当に触っちゃうよ?
みんな気持ちがこもってて、とても嬉しい。
「みんなありがとう!」
今日何度目のありがとうだろうか。
感謝を伝える度にみんなへの愛しさが一層増していく。
「ツカサくん、お誕生日おめでとう。私からはこれですよ。」
リンダが一冊の本を渡してくる。
その本はこの世界では明らかにずれていて、表紙がとてもカラフルで昔によく見た言葉が並べられている。
『一級建築士のなり方!』
懐かしい日本語で書かれていた。
そう、5年前に日本で買ったあの本だった。
「なんで、なんでこれがここにあるんだ!?」
思わず立ち上がってリンダに掴みかかってしまう。
それに応じて周りの子供達もギョッとこちらをむく。
「ツカサくん、驚くのはわかりますけど痛いです。」
「あっ、ごめん。」
リンダを離して席に着く。
「ツカサ、それ本なの?見たことない模様だね。」
そうか、この世界は言語は共通語しかないから日本語を見ても言語だと思わないのか。
「みんな、この模様に見えてるのは日本語っていう言葉なんだよ。」
「共通語以外に言葉なんてあるの!?」
そういう質問になるよな。さてなんて言おうか。前みたいに夢で見たって言っても無理があるよな。
「みんな、ツカサくんは転生者なんですよ。」
「そうなんだ、俺は転生者なんだ…ってリンダーーー!?」
「あれ、言っちゃダメでしたか?」
普通はこういうの隠しておくものでしょ!?なにサクッと話してるの!?
「ツカサって転生者なんだ!だからいっぱい知ってるんだね!」
もうバレたものは仕方ないな。素直に認めるか。
「そうだよ、俺は転生者だからいっぱい知ってるんだよ。」
「でも、すごい魔法使えないね。」
「ぐはっ!」
マジで早く神殿行こう。
「それで、俺のことはここまでにしておいて。なんでこの本がここにあるんだ?」
「ツカサくんが孤児院の前にいたときに一緒に置いてあったんですよ。」
「本も一緒に転生してきたのか。…なんで今まで隠してたんですか?」
「……忘れてました。この間本棚を整理したときに見つけました。」
「忘れてたのかよ。」
「ねぇ、ツカサ!その本には何が書いてあるの?」
「私も気になります。」
みんなも興味津々な顔をしてる。
「これには、俺が前にいた世界の国の建築の理論が載ってるんだよ。」
「それって、夢で話していた200mの建物も載ってるの?」
「そうだよ。」
「じゃあ、その建物を建てられるかもしれないんだね!」
「建てられるかもしれないな。」
異世界に200mの高層ビルか。魔法を使えば1000mもいけそうだな。ちょっと頑張って読み込んでみるか。
「さあさあ、まだ料理も残ってるから食べてしまいましょう。本についてはまた明日にしましょう。」
残ってる料理、主にチキンだが、それをみんなで食べていく。
どうしてチキンっていつも残るのだろう。
食べ終わったらみんなに再び祝われてお誕生日会が終わった。
料理も手伝ったらしいから疲れていたのだろう。片づけをして湯浴みをしたらみんなすぐに寝てしまった。
俺も眠ろうと思ったが懐かしい日本語に触れたくてリンダの部屋で『一級建築士のなり方!』を読んでいた。
「うわ、やばい。ところどころ漢字が読めないぞ。」
「私は最初から最後まで読めませんよ。」
「そりゃそうだ。」
「ツカサくん教えてくださいよ。」
「うーん、日本語を教えるのはさすがにキツイから頑張って共通語に訳してみるか。これがみんな読めれば魔国は発展すると思うし。いや、会社でも作ろうか。無政府状態だし魔国の王、魔王になれたりして。」
「今度は何をやろうとしてるんですか?」
「決まったら言うよ。ふふふ。」
「気味の悪い笑顔ですね。」
しょうがないだろ、自分の会社なんて夢が広がるじゃないか。気味の悪い笑顔だって出ちゃうぜ。
「そんなことよりツカサくん。」
「ん、なんだ?」
「私からのお誕生日プレゼントです。」
リンダから渡されたのは紙に包まれた小さいものだった。
「あれ、もうこの本もらったんだけど。」
「それは返しただけですよ。本当のプレゼントはこっちですよ。」
紙をあけてみるとそこには女の子がつけるような可愛らしい真紅のピン。
「俺、男だよ?」
「ツカサくんがつけてみたら可愛いと思いまして。ちょっとつけてみてください。」
リンダに言われた通り前髪につけてみる。
「可愛い!!」
「やめい!俺は男だ!」
「でも、女の子みたいで可愛いですよ。」
「可愛くてもつけないよ!」
「それじゃあ、私の前でだけつけてくださいよ。」
「……。」
「お願いしますよ。」
「……はぁ。わかったよ。」
「本当ですか!ありがとうございます!」
リンダが抱きついてくる。
「リンダ俺もう眠いから寝るぞ。」
「もうちょっとお話しましょうよ。」
「おやすみ。」
「えぇ!?」
リンダの腕の中で目を閉じる。
「リンダ、プレゼントありがとう。」
「どういたしまして。」
こんなに、日常会を長くするつもりなかったのに、どうしてこうなった。