物理の場合!
色々迷った結果こうなった。
達成感がすごい。
この魔国では電球やLEDというものは存在しない。
そもそも電気というものが雷魔法の攻撃手段としてしか理解されていない。
だから、夜になったら寝て、夜になっても活動したいならロウソクを使うしかない。
このように夜は活動することなんてほとんどない。
しかし、夜に活動できるようになると使える時間が増えて、教育、経済など様々なものが発展できるようになる。
夜を克服できれば魔国の可能性が格段に広がる。
そして、俺は今第一段階として大きな人力発電機を作ろうとしていた。
「さぁ、今日は待ちに待った点灯式だ!」
みんなが目を輝かせて孤児院の敷地に建てられた1本の街灯を見上げている。
「それじゃあ、カウントしますよ!」
リンダも普段より高い声のトーンで話し目も輝いている。
ーゴー! ヨン! サン! ニー! イチ! ゼロー!!
隣で台に固定されてる自転車のような物に乗った大勢の子供達の親が【身体強化】を使いながらペダルをこぐ。
パッと街灯が点灯する。
その瞬間周りから歓声があがり抱き合う者や泣き出す者、胴上げをする者など皆思い思いに喜びをわかちあっている。
「ツカサくん!」
「ツカサ!」
リンダとフィルアが涙を浮かべながらも笑って走ってくる。
ードンッ!
リンダとフィルアに押し倒され、抱きつかれる。
「やりましたね!私すごい感動してます!」
「ツカサ!やっとできてよかったね!」
「あぁ。やっと完成した…。これで、これで…、これで夜トイレに行ける!」
「「え?」」
「え?」
リンダとフィルアが驚いた顔で俺を見る。
「ツカサくんトイレってどういうこと?」
「え、この電気のおかげで夜にトイレに行けるようになるってことですけど。」
「……。」
「え、なに。」
「ツカサ。私、この電気を作る目的は夜に活動できるようにするためってきいたよ?」
「あぁ、それかー。」
「どういうことですか?」
「どういうこと?」
「いや、もちろん電気を開発したのは夜に活動できるようにするためっていうのも理由の一つなんだけど、本当の理由は夜にトイレに行けるようにするためだったんだよ。」
「「……。」」
リンダとフィルアが-273℃の絶対零度の眼差しを向けてくる。
「しょ、しょがないだろ。トイレに行けるようにするため、なんて言ったら誰も協力してくれないだろ?」
◆
そう、それは半年前のことだった。
いつものようにベッドの中で眠っていると突然の嫌な寒気で目を覚ました。
「しまった…。寝る前にトイレ行き忘れた…。」
俺は5歳児。
普通におねしょをする歳である。
だから、寝る前におしっこに行かなかった場合…。
「やばい。漏らしそう。」
5歳児の膀胱は全くもって期待はできない。
さっさとトイレに行かないと恥ずかしいことになる。
「早くトイレに行かないと…。」
そしてここで気づいた。
「何も見えない。」
普段なら、優しい月明かりが窓から孤児院の中を照らしノスタルジックな気分になるのだが、あいにくその日は月明かりもなく曇り空だった。
俺は光が一切入ってこないこの状況で廊下に出ようなどと思えなかった。
「魔法が使えたら良かったのに…。本当に早く神殿に行きたい。」
俺は未だに神殿には行けていなかった。
ーブルブル
「ヤバいな…、マジで漏れそうだ…。」
雲の切れ目から月明かりが入ってくるのを待つ。
しかし、いくら待っても雲が切れることはない。
「ヤバいヤバいヤバい。」
何も見えない状況の中俺はトイレに行く決心をする。
ーガチャ
「本当に何も見えない。」
ーブルブル
「は、早く行こう。」
壁に手をつきながら慎重に進んでいく。
だが、慎重に進むことで歩行速度は確実に落ち、彼のおしっこも尿道の方まで落ち込んでいるみたいだった。
「もぅ、無理、漏れる漏れる漏れる。」
限界が近いことを悟り慎重に進むのをやめて走り始める。
「いてっ!」
途中、腕や頭を壁にぶつけながらなんとかトイレの前に到着する。
そして、扉を開きズボンとパンツに手をかけ下ろす。
ーシャアアア
「……。やっちゃった。」
息子から放出されたおしっこは、50%は便器の中に、残りの50%は虚しく俺のパンツとズボンに吸収されていった。
「この歳になってお漏らしとか…。どうすんだよ。」
濡れたパンツとズボンを持ちながら途方にくれる。
「あー、そういえば昔、真横の個室でおしっこした女子がいたな。」
現実逃避をしたかったのか随分昔のことを思い出す。
だが、逃避をしたところで現実は変わらない。
「……頑張って洗いに行くか。」
「誰かいるのですか?」
「っ!」
ま、まずい!リンダの声だ!こんなところ見られたら幻滅される!死ぬ!隠れないと!
「あら、ツカサくんなにやっ…、どうして下半身裸なんですか。まさか、おねしょしたんですか?」
オワタオワタオワタ\(^o^)/
「ちょっとツカサくん!しっかりしてください!おねしょぐらい5歳児では普通ですよ!」
「…リンダは俺のこと嫌いにならないか?」
「だから、おねしょぐらい普通です。私としては初めておねしょしてくれて嬉しいんですよ。」
「えっ、リンダってそういう趣味?」
「違います!ツカサくんが子供らしくて嬉しいって言ってるんですよ!」
いや、こっちは全然嬉しくないから。何が悲しくて漏らしたことを喜ばれてるんだよ。
「それじゃあ、パンツとズボンを洗っちゃいましょうね。あら、ぐっしょり濡れてますね。布団の方は大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ、ここで間に合わなかっただけだから。」
「そうですか、そうですかぁ。」
やめて!ニヤニヤしながら俺のパンツとズボンを見るのはやめて!てか、そろそろ着替えたい!フルチンは寒いし恥ずかしい!
この後、リンダにパンツとズボンを着替えさせられ、リンダがぐっしょりパンツとズボンを洗っているところを見させられ、ニヤニヤしながら俺の頭を撫でるという拷問を受けさせられた。
くそっ!これもこの国が電気なんてものがないからいけないんだ!あらゆる人脈を使って電気を作ってやる!
そして電気の発明が始まる。
最初に作り始めたのは電球だ。
だが、電球の作り方なんてわからない。
そこで電球の代替品を探す必要があった。
「なぁリンダ。雷魔法を当てたら光る物ってないかなぁ。」
「それなら魔石とかどうですか?」
「え、魔石ってあるの?」
「もちろんありますよ。魔物の心臓に埋め込まれていますよ。」
「マジか…。さすが異世界。でもこれで電球問題は解決した!」
「今度は何をしようとしてるのですか?」
「それは物理の授業で教えるよ。」
ふふふ。これであとは発電機をつくるだけだ!
◆
「今までこの物理の授業では簡単に電気のことを教えてきたと思うけど、今度は実際に作ってみようと思う。」
「なんで作るの?」
「それは、トイ……、夜活動できるようにするためだ!夜が使えればこの魔国は発展するのだ!」
「おぉ、なんか壮大!」
「そして、君たちにはご両親の協力をしてもらいながら一緒に作っていこう!」
親がガラス工房をやってるポルシェくんには電球の作成を、親が金属加工をしているフェラーリくんと数人には銅線の作成を、雷魔法が使えるほとんどの子供達には磁石の作成を、その他の人達でコイルの作成を課題として出す。
俺はその他の細かい部品を色々な人に協力してもらいながら作成する。
ポルシェくんに黒板で形を説明すると割とすぐに作成して持ってきたので、磁石作成組の中に放り込むがそれも割と早いうちに作成してしまったので、コイル作成に組み込む。
そして、モーターが完成したのであとは自転車のような足で回す発電機を作るだけになった。
若干物理の授業から外れている気もしたが、リンダに受けた屈辱を胸に抱きみんなで作成していく。
結果、半年かかり完成して点灯式が催されることになったのだ。
◆
「ということがありました。」
「ツカサくん、フィルアちゃん。これはみんなに言ってはダメですからね。呆れられて孤児院に影響が出るかもしれませんよ。」
「「はい。」」
「でも、雷魔法以外で光があるのは素晴らしいことですよ。将来、ロウソクがいらなくなるかもしれませんよ。」
「はい。いずれそうするつもりですよ。ただ、今のままでは無理ですね。これからみんなにたくさん勉強してもらって技術力をつけてもらいますよ。」
「楽しみ!」
「楽しみですね!」
これで電気というものが魔法以外でも作成可能ということがみんなに認識されて将来は大規模な発電所がつくれるかもしれない。
このあと、密につくっていた手回し発電機をみんなに配ったらとても喜んでいた。
一番喜んでいたのは大人達であったが。
「ツカサくん、娘がほしくないか!?」
「孫も可愛いじゃろ!?」
こういうこともあったがリンダとフィルアによって阻止されことなきを得た。
「なんでフィルアが?」
「な、なんとなく!」
「?そうか。」