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プロローグ

更新頻度は遅いですがよろしくお願いします。

 いじめ、というのはほんの些細なことから起こったりする。

 あいつの顔は気持ち悪い、あいつは空気が読めない、あいつは目立ちすぎ、など。

 これらはある空間における負の共通認識から起こるものだ。


「あいつまたボッチ飯だよ。」

「トイレで食べてるらしいぞ。」

「うわっ、きたねっ!」

「居場所がないんだよ、■■■だから!」

「■■■!」


 負の共通認識の中で俺はいじめを受けている。

 しかし、クラスメイトからはただ罵倒や暴言を吐かれるという稚拙なもので、あまり気にしてはいない。


 俺にとっていじめとは『彼女』が俺に対してやることだった。


 俺はシングルマザーで忙しいはずの母が作った弁当を持ち、いつものように旧校舎のトイレに行こうとクラスを出ようとしていた。

『彼女』から逃げるために。

 だが、今日は運がなかった。

 クラスから出ようとして体を出した瞬間だった。


 ードンッ!


「きゃっ!」

「あっ!」


 ーガシャン!


 クラスの中に入ろうとした女子と肩がぶつかってしまった。

 その拍子に女子は白餅をつき、俺は弁当を手放してしまいその女子の足元に弁当の中身がぶちまけられる。


「あ、ごめ…。」


 俺はそれ以上言葉を続けられなかった。

 ぶつかった女子の顔を見て、俺の頭は思考停止に陥ってしまったからだ。

 俺がぶつかってしまったのは彼女、『赤沢 レイナ』だった。


 黒髪ロングで清楚な雰囲気を漂わせてまるでお嬢様のようだが、それもそのはず、レイナは世界的に有名な赤沢財団の理事長の娘、正真正銘のお嬢様だ。

 クラスメイトはみんな羨望の眼差しで見ている。

 だが、俺にとっては恐怖の対象でしかない。


 そんな彼女は立ち上がり、まだ立てないでいた俺に近づいてくる。

 そして、


 ーガンッ!


 レイナは目が隠れるぐらいの髪がある俺の頭を踏みつけた。


「ボッチ野郎に触られたぁー! 汚い! 汚い! 汚い! 」


 ーガンッガンッガンッ


 俺の側頭部を踏みつける。踏みつける。踏みつける。


「あれ、これボッチ野郎の弁当?」


 俺を踏みつけていたレイナは母が作った弁当を見つけ、そして、


 踏みつけた。


「これで! ボッチ野郎の! 飯はなくなったね!」


 グチャーと、出し巻き卵がレイナの上履きにこびりついている。


「あぁ、汚くなっちゃった。でも、ここに雑巾がある!ラッキー!」


 そう言って俺の頭を踏みつけて、出し巻き卵だった物を擦り付ける。


 許せない。許せない。許せない。


 今までどんな仕打ちにも耐えてきた。だが母が朝早く起きて作ってくれる弁当が踏み潰されたのは許せない。別にマザコンってわけじゃない。シングルマザーで大変なはずの母が作ってくれた弁当なのだ。


 許せない。許せない。許せない。


 だけど、やり返せない。


『赤沢 レイナ』 には。


 レイナにはこれを俺にやってもいいだけの理由があるのだから。


「レイナ。 これはちょっとやりすぎじゃねぇか?」


 レイナの友人『牧野 アヤカ』が声をかけてくる。


 こちらはレイナとは違い、金髪ロングの白ギャル。

 だが、共通点がある。

 ここの親も牧野物産というよく知られた会社の令嬢、お金持ちである。


「でもこれだけじゃ死なないんだから良いじゃない!」

「お前まだあの時のこと…。お前もわかってるんだろ? あれはお前の兄貴が…。」

「うるさい! あの時、無理矢理にでも抑えれば治ったかもしれないじゃない! それをこの■■■は!」

「…はぁ。周りの注目もヤバいから行こうぜ。」

「うっ。……わかったわ。」


 2人の足跡が消えていく。


 去り際、すまんな、なんて言葉が聞こえたがその言葉に反応する気力も気概もない。


 重々しく体を上げる。

 クラスメイトは俺に冷ややかな目を向け、去っていったレイナに同情の目を向ける。

 俺と体が触れたことに対する同情だろう。


 俺は母の作った弁当を拾い旧校舎に走っていく。

 すれ違う人達に聞きたくない言葉を吐かれる。

 聞きたくないから聞こえないようにする。

 聞いたら認めてしまいそうだから。


 旧校舎に着き、トイレの個室の便座の蓋に腰をかける。

 もう、何年も使われていないせいか、床にはヒビがはいり便座の蓋にもヒビがはいっている。


 自分だけの空間、自分だけの世界。


「それがトイレなんてな。」


 ははは、と乾いた声をあげらながら目を完全に隠す前髪をかきあげる。


 俺の名前は『帯刀 ツカサ』。高校二年生。家族に母と妹がいる。小学、中学とイケメンともてはやされていたが赤沢家での事件によって今では皆から疎まれる存在。普段のキャラも目立たないように静かにしてる。


「弁当どうしようか。捨てるのはもったいないし母さんに申し訳ないけど、食べて変な病気になったら無駄に時間もお金もかかる…。」


 悩む。グチャグチャになってしまった弁当と床を交互に見て悩むが決断する。


「食べるのはやめよう。あいつが踏んづけたし。本当にあいつ許せない。母さん、ごめん。」


 ージャーー!


 トイレにひっくり返し、レバーを押して流す。


「昼ごはんなしで断食か…。」


 怒りがまたフツフツと湧き上がりそうになるが、ふぅ、と息を吐き心を落ち着かせる。

 落ち着いたところでまた事件が起こる。


「トイレぇーーー!」

「っ!」


 誰かが叫びながらトイレに入ってきた。

 声からして女子だろう。


「なんで…。ここ…、あっ、女子トイレだった。」


 俺がいるのは女子トイレだった。

 なぜ男子トイレではなく女子トイレにいるのか。

 人並みに変態ではあるが別に女子トイレに居座る趣味があるわけではない。

 隣の男子トイレが臭すぎるのだ。

 そして、ここよりボロボロ。

 どう考えても女子トイレが良い。


 しかし、2つ隣から聞こえる水音はマズい。


 ジョロ、ジョロロロ…


 おかしい。耳を塞いでるはずなのに音が聞こえてくる。おっと、指に隙間が。これはしょうがないな。うん。


「ふぅ。漏らすところだったぁ〜。」


 どうやら全部出したらしい。

 カランカランとトイレットペーパーを巻き取る音が聞こえる。


 マズい、そろそろ出ないと! バレたらとんでもないことに!


 急いで、弁当を片付け個室から出る。


「そういえば、誰もいなかったよね。結構な音でしちゃってたけど…。」


 女子が入ってた個室からそんな声が聞こえるが言い訳してもどうにもならないので、そのままガンダッシュして女子トイレから出て、旧校舎からも出る。


「ここまでくれば安心だ。さて、5コマ目も始まる時間だ。クラスに帰ろう。」


 前髪を下ろし目を隠し、雰囲気も変える。


 彼女がいるクラスへと一歩を踏み出す。



 ◆



 一方、ツカサに意図せず小水音を聞かせていた『ハウズ・柏木・リリナ』は彼がいた個室にいた。


『ハウズ・柏木・リリナ』はロシア系アメリカ人の父と日本人の母を持つ茶髪の美少女ハーフだ。

 そして、ここも外資系企業の幹部をしている父のためとてもお金持ち。

 レイナやアヤカと仲が良く、よく一緒に遊んだりしている。


「タテワキ ツカサ…。」


 リリナがトイレにここのトイレに来た理由は新校舎の女子トイレが壊れてしまったためだった。

 皆が体育館や校舎外のトイレを使う中、彼女だけここのトイレを使ったのだ。

 ツカサが使うように誰もここには来ないから穴場だと思って。


 そして、トイレが終わり、他の人がいたのではないかと心配して別の個室を確かめているうちに見つけてしまった。


 タテワキ ツカサ と刺繍が入ったハンカチを。


「あの、ボッチの人の…。まさか、聞かれてた!? でも、音とかしなかったし…。そういえば、彼はなんでボッチなんだろ。■■■ってみんなに言われてるけど…。」


 今度、レイナちゃんかアヤカちゃんに聞けばわかるかな、と彼女はハンカチを拾ってクラスに戻っていった。


 クラスに戻るとツカサは早退していた。



 ◆



 俺は早退して自室のベッドに寝転んでいた。

 金曜日の午後の授業が面倒、今帰れば明日から休みという理由もあるが、クラスに戻って気づいたからだ。


 名前刺繍入りのハンカチがなくなっていることに。


 記憶があるのは旧校舎の女子トイレまで。

 確かにあの時は持っていた。

 ポケットに手を突っ込んで歩いて行ったのだから。

 だが、そこからハンカチの行方はわからない。


「絶対拾われてるよな。騒ぎになってても土日挟めばほとぼりが冷めるかもしれないから早退したけど、今思えば余計怪しくなるだけだったかもな。」


 ため息をつきながら意識がなくなっていく。



 ◆



「とうっ!」

「ぐへっ!」


 腹部に強い衝撃が加わったことで目を覚ました。


「それ以上拳を押し込むな! 吐く吐く!」

「兄さん、ご飯だよ!」

「だから、吐く…おえええ。」

「うわっ! 本当に吐いた!」


 昼ご飯を断食したおかげか胃液しか出てこなかった。

 食べてたら、固形物をぶちまける所だった。


「はぁはぁ。床の上に吐いてよかった。おえ。というかお前が腹に一撃なんか加えるから…。」

「きたなっ! とにかくご飯できたから拭いてから降りてきて。」

「ちょい待て。おえ。はぁ。」


 自分の口から出たもの綺麗にふく。

 吐き出させた張本人はさっさと部屋から退出していった。

 おのれ。


 一階におりリビングに入ると腹部にダメージをくらわせた妹君がすでに夕飯を食べていた。


 俺の妹は『帯刀 シオリ』といい、黒いボブカットで体操服が似合う運動系美少女といったところだ。

 兄である俺が見ても美少女だ。


「俺をまったりはしないんだな。」

「なんで?するわけないじゃん。」

「……。いただきます。」


 今日の料理当番はシオリでメニューは回鍋肉だ。

 隔日で料理当番は交代し、シオリは調理が簡単な肉料理を俺は若干手間のかかる魚料理を担当している。


「うまいな、味○素。」

「私の料理が美味しいんです!」

「そうだな。ごめん。シオリの料理が美味しいよ。」


 素直に謝り、感情込めて美味しい旨を伝えると、キモッと返してきたが頬を赤らめてニヤニヤしている。

 それを見て俺もニヤニヤしていたら足を蹴ってきた。

 お返しに足を絡ませてやったら、ひゃん、っと艶っぽい声を出してきた。


「ひゃん、って…。」

「ばばば、バカ兄ぃぃいいい!!」


 ご馳走様っと言って律儀に食器を片付け二階の自分の部屋に猛ダッシュしていった。


 あんな声を兄に聞かれて恥ずかしかったんだろうな。

 妹に盾として使えるかもしれない。


 急いで脳内メモリに保存する。


「さて、俺も食べ終わったし風呂入って寝よう。」



 ◆



 ツカサが脱衣所で服を脱ぎ脱ぎしている間、妹のシオリは困惑していた。


「兄さんに足を絡ませられて、ひゃん、なんて…。」


 確かに兄さんは普段は長い前髪で隠してるけどかなりイケメン、妹がである私が見てもそう言える。

 でも、実の兄にあんな女を感じさせるような声を…。

 よし、これ以上考えるのはやめよう。

 絶対いけない事になる気がする。


「兄さん先に風呂入ったみたいだし、私は勉強でもしてよ。」


 学生カバンからワークを引っ張り出し兄のことを考えないようにする。



 ◆



 次の日。土曜日は学校が休みで俺は髪をオールバックにしてBOOK ○FFで立ち読みをしている。

 オールバックにする意味はクラスメイトに認識されないようにするためだ。

 普段、顔を髪で隠しているからこの顔を見て自分だと気づくものはいない。

 レイナとアヤカは俺の顔を知っているから意味はないが。


 N○W GAME! 東○喰種 終わりのセ○フ などジャンル問わず多種多様なマンガを読んでいたら夕方になっていた。

 時間の無駄遣いをした気がするが後悔はしていない。

 そろそろ外に出ようとしたが、立ち読みしただけじゃちょっと申し訳なくなったので、近くに置いてあった『一級建築士のなり方!』なんて表紙にフラグを持っている少女の絵が描いてある本を手に取り会計をする。

 500円だったので損得はそんなに気にならなかった。


「さぁ、家に帰ろう。今日は俺が料理当番だから買い物もしないと。」


 スーパーにむかって歩いて行くと前に黒、金、茶の女の子が歩いていることに気づく。


「げっ! レイナとアヤカとリリナさん!」


 なぜ、ここにと驚いていると自分がBOOK ○FFで建設したフラグがあったことに気づいた。

 そして、先ほど買った本を見る。


「俺もう立派な一級建築士だったわ。」


 フラグを片手に持つ少女に恨みがましい視線を送り前を向くと美少女3人にかなり接近していた。

 若干、パニックになるが3人は左に体をむけ、青になった横断歩道を渡ろうとしていた。


「あぶねぇー。他のやつもいないだろうな。」


 キョロキョロと首を動かしていると後ろの方から制限速度を少し超えたスピードで来るトラックが見えた。


「ん?なんか飛ばしすぎじゃない?まだ赤信号だぞ。それになんかヨロヨロもしている気が。はっ!居眠り運転だ!」


 運転手の顔を見た俺は横断歩道を渡っていく3人を慌てて追いかける。


 助けるのか? いつもひどい暴力を受けてるだろう? このまま死なせた方が良いんじゃねぇの?


 心の声が聞こえてくる。

 甦るのは母の弁当を踏み潰し、頭を踏み潰すレイナ。

 そして、声はかけてくれるが助けようとはしないアヤカ。

 それと、ただ見ているだけの傍観者のリリナ。


「それでも俺は助ける!あの時やったことを後悔はしたくない!」


 ■■■、■■■、■■■…。頭の中がその言葉でいっぱいになるがそれを振り払う。


 妹の顔も浮かんでくる。


 ひゃん、とシオリが言った時の顔を思い出し少し微笑ましく思ってしまう。


 母の顔も浮かんでくる。


 母さん、弁当食べれなくてごめん。


「早く逃げろぉぉおおお!!」

「えっ。ツカサ!?」

「ツカサ!?」

「えっ、タテワキさんなの!?」


 レイナとアヤカは俺の顔を幼少時代から知ってるからすぐ気付けたらしい。

 レイナが俺の名前を呼ぶのが懐かしい。

 そして、リリナさんはやはり俺の素顔を知らなかったようだ。


「きゃっ!」

「のわっ!」

「きゅっ!」


 3人を押しのける。


 そして、俺も横断歩道から退避しようとしたが3人を押したことでバランスを崩す。

 なんとか踏みとどまったがもうなにをしても意味はないだろう。


「なに、触ってるのよ、この


 その後の言葉は聞こえてはこなかった。


 ーホゴンッ! ズシャー! グチャ!


 俺はトラックと壁の間に挟まれた。


 だが、彼女が最後に言ようとした言葉はわかった。それは、毎日聞こないふりをしていた言葉。


 ーこの人殺し。

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