また始まる世界。どこかで聞いた声。
思い出して……前に起きた記憶を……
降りしきる雨の中。俺は傘を差して学校から帰っていた。
路地に目をやると、一人の女の子が傘も差さず体操座りでうずくまっていた。
俺は女の子に傘を差し出してこう言った。
「風邪引くぞ?」
最初は人助けの様な感じで差し出したつもりだったんだが。
「お兄ちゃん? 今日も学校?」
あの日から毎日付き纏われるようになった。
二千十四年九月十九日。この毎日通る道が嫌になるくらいだった。
こいつに会ってからは、気が変わった。
毎日がイラつく。
毎日、学校で疲れていてすぐにでも家に帰って寝たいのに、毎日しつこく付き纏う女の子。
まるで傷口に塩を擦り付けているかの様だ。
ちなみに自分の名前が分からないと言ったので、俺が名前を付けた。
雪だ。
最初は肌が白かったから、という理由で付けた名前だったが……
雪に「なぜ付き纏うんだ?」と、聞くと。
「お兄ちゃんが大好きだから!」何てことを笑顔で返してくる。
今は、一歩進むだけで水混じりの雪に足が埋まるしつこさが名前の由来になっている。
ああ。お兄ちゃんが大好きなら少しは察してくれ。
と、声に出さず心の中に押し留めていた。
雪にとって、俺と居ることが生き甲斐なのだろうと思うと少し微笑ましいところはあるが。
俺にとっては迷惑でしかない。
そう。この小豆 如月は雪の声をシャットアウトして、毎日同じ道をまるでロボットのように通っているのだ。
「あ、あのお姉さんスカートの中が見えそう!」
「なんだとっ!」
シャットアウトしても聞こえてしまう様だ。
「じゃあ、学校終わるまでここで待ってるね!」
校舎内に入る俺の背中に向かって手を振る雪。
案の定、校舎内には入って来ないようなので、ここだけが俺のオアシスだ。
そもそも、終わるまで待たないでほしい。
校舎内に入り外靴から上靴へと履き替え、教室目指して廊下を歩く。
つい、笑いが出てしまうほどいつも通りの単純作業。
学年が変わっても教室が変わらず、クラス替えがないので、おはようと言われるのは決められた人間。廊下で話している不良な方々。全てがまったく変わらない。
と、思った。
すれ違う人ごみの中に一人だけ、不自然にこちらを見る少女が目の前に佇んでいたのだ。
腰まである長い黒髪に、燃えるような赤い瞳の少女。
「ごめん……なさい……」
少女が呟いた瞬間、周りの人間が一瞬にして消えて行った。
無心から恐怖心に変わった俺の心が、いても立ってもいられなかったのか、逃げるように指令を出し、足を動かした。
「何だよ、今の!」
恐怖ゆえにそんな怯えきった声を出しながら廊下を走る。
しかし、どこに行っても、どんなに走っても、人の姿が見えず、少女だけが俺の前に立ち塞がる。
「何でだよ……」
目の前の現状が理解出来ず、声が震えて出た。
「無駄……だよ……」
恐怖に耐え切れなかった俺は、手を顔の前で交差させ、体を小さくしながらガラスに向かって突っ込む。
「今、確かに窓から……」
ガラスを割って外に出たはずなのに、何故か割ったガラスから入ってきたような、不可思議な現象が起きたのだ。
「だから言ったとおりだよ。無駄だって……」
少女の声が一層強くなる。
「お前は……何者なんだ……」
声を震わせながら少女に尋ねた。
「ごめん……なさい……今ここでは言えないから……」
少女の言葉を聞いた瞬間。頭の中におかしな映像が浮かび上がり、思わず頭を抑える。
場所は違うが、同じ場面で少女が同じ様に前に立っている映像。
まるで過去の記憶が映像として蘇ったかの様だった。
この後確か……この少女に……
その瞬間、腹部にハンマーで殴られるような痛みが走った。
腹部を殴られて気絶するんだよな……
「ごめんなさい……一緒に来て……」
その言葉を最後に意識がなくなった。
「おに……おに…ち……お兄ちゃん!」
誰かに体を揺さぶられながら耳元で叫ばれた瞬間、俺は驚いて飛び起きた。
「お兄ちゃん! やっと起きた!」
隣を見るとベッドに座る雪の姿があった。
雪が俺を気遣い、心配してくれたらしい。
「ここは?」
俺は、部屋の中を見渡した。
その瞬間、ノイズが走った映像が頭の中で再生される。
『ここは、どこなんだ?』
涙を流しながら俺は辺りを見渡した。
全方向の壁が石壁で、窓には外に出られないように鉄格子が張らされていた。
出入り口も鉄扉で簡単に開きそうにない。
まるで監禁部屋の様な場所だった。
頭を抱えながら現実へと戻る。
「何だったんだ……今の……」
周りを見渡すと映像と同じ部屋だった。
「何だろう……ここ、すごく怖い……」
雪が珍しく弱り果てた声を出した。
その瞬間、頭痛がしだした。
『思い……出してよ……』
何処かで聞いたことのある少女の声が頭に響く。
「誰……なんだ……?」
痛みに耐えながら、声を絞り出す。
『君の作り変えた世界……記憶、だけは……戻って……』
少女の声にノイズが走り、うまく聞き取れない。
「教えてほしい……君は……?」
『アエ……リア……アエリアっ!』
少女の声は絶え絶えながらも、絞り出して必死で叫ぶ。
「アエリア……」
少女の名前に何故か涙が絶え間無く溢れ出て来た。
「お兄ちゃん? 大丈夫?」
雪の声に俺は自我を取り戻した。
頭の痛みも消え、何事もなかったかの様に痛みを感じなかった。
「ああ。ごめん……ちょっと頭痛がしただけだ……」
涙を拭い、寝ていたベッドから立ち上がって、鉄扉の前まで足を運ぶ。
「どうしたの?」
雪は俺を不思議そうな目で見つめていた。
「この扉……」
俺は掌で扉を触り、力強く押した。
「鍵付きじゃないんだよ」
ごつい扉は見た目と裏腹に、あっさりと開いた。
「どうしてそんな事知ってるの?」
「何故だろう……昔、ここに来たことがあるんだ……」
それは、失った世界の物語の続きだった。
こんにちは! あるまです!
タイトル変えてますが、アニメで言う二期の様なものなので登場人物などは変わりませんのでご安心ください!
前回の完結までの展開を早くして申し訳ありませんでした。
この作品から続きますのでよろしくお願いします!
今話を見てくれてありがとうございました!