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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
993/994

16-5-30.古代遺跡9階 試練終了

久々の更新です。

遅くなりまして申し訳ございません。

「ていやぁっ!」

「はっ!!」


 どこか気の抜ける気合いの声と、鋭い声が草原を震わせ、黒と赤の明滅が青空のキャンパスを彩っていく。

 ミリアと影の騎士による戦いは、其々の持つ剣技、体技、魔法を余す事なく駆使したものとなっていた。


「やるなミリア君!その身軽な動きと細劔に焔を合わせた剣技、女性が男性に劣る力という点を鑑みたとしても、十分に脅威となる!」

「やぁぁぁ!」


 楽しそうに笑いながら戦う影の騎士に対し、ミリアはそんな余裕はなかった。少しでも気を緩めた瞬間に、影の騎士の攻撃が直撃してしまうからだ。

 それ程までの実力。

 果敢に攻め続け、互角に見える戦いを繰り広げているが…。


(どうしようっ。影の騎士さんの方がまだまだ上手だ…!このままだと少しずつ押し負けちゃうよ。)


 そう。ミリアの推察通り、影の騎士には余裕があった。

 互角レベルの攻撃をぶつけ合っているように見えるが、全力を出してはいないのだ。

 それは試練を行う者としての…。


「少し…スピードを上げるぞ?」


 ミリアが連続で放った刺突を、同じく刺突で相殺させた影の騎士が宣告する。


「……えっ!?」


 一瞬の出来事だった。剣と剣が交錯して生み出した火花が広がったと思うと、影の騎士がミリアの視界から消えていたのだ。

 そして、本能的に横へ飛び退いたミリアを擦りながら、黒い斬撃が地を叩き割る。


「今のを避けるか。良いぞ。ならば…これはどうかな?」


 影の騎士の姿が…ブレる。

 そして、視認する事が出来ない速度で斬撃が3度ミリアの細劔へ叩きつけられた。


「うっ…!?」


 重い衝撃に吹き飛ばされる。だが、無傷。


(今の…細劔に当たってなかったら負けてた。それに、今までの攻撃がギリギリ見えたのは…私の実力に合わせてた…?)


 理解してしまう。影の騎士が全力なんか出していない事を。そして、あくまでもこの戦いが試練であるという事を。

 つまりそれは、決定的に実力差があるという事であり、真の意味でミリアが勝つ事は不可能…と言えるのだ。


(でも…それなら、勝つんじゃなくて…試練に合格する事を考えれば良いんだよね。)


 ミリアの考え方は正しかった。もし、影の騎士が倒さなければならない敵として現れていたら…ミリアの今の実力では倒す事は叶わなかっただろう。

 だが、これは試練。試練が始まる前に「君が、自身の言葉を実現するだけの力を持っているか。そして、それを成し遂げる意志を有しているのかだ。それらを包括的に強さとして見極めさせてもらう。」と影の騎士が言っていた通り、影の騎士がミリアの実力を認めれば試練は合格となるはず。


(あれ…?)


 試練に合格すれば良いのだから、倒すよりもハードルは低い筈なのだが…。


(でも、どれ位戦えれば合格になるのかとか…分からないや。えーっと、つまり…。)


 気付いてしまう。


「全力で倒しに行かないと駄目…だっ!」


 細劔に纏わり付く焔の熱量が上がる。

 出し惜しみをする場合ではなかった。全力。それこそが今、求められる事なのだ。

 そして、流星の如き無数の焔刺突が影の騎士へ襲い掛かった。


「漸く気付いたか。そうだ!全力で私を倒しに来るが良い!全てを投げ打つ覚悟で!駆け引きの無い、純粋な力比べの果てに、君の力を見極めよう!」


 影の騎士から黒い光が噴出する。


「さぁ、私の技を受けてみるが良い。」


 黒い光が疾る。そして、影の騎士の姿が搔き消えた。

 次に起きた現象にミリアは眼を見張る。

 空間を駆け巡る数多の黒い剣閃が焔の刺突を尽く打ち消したのだ。

 残像を残しながらミリアの前方に現れた影の騎士は、剣の切っ先をミリアへ向ける。


「実力は良し。だが、相手を見極めた攻撃が甘いと言わざるを得ない。私のようなタイプ相手に威力の質をばらけさせた攻撃で…本当に通用すると思っているのかな?相手の戦闘タイプを見極め、最適な攻撃を選択する。それこそが戦闘に於ける強者。例えば、このように。」


 影の騎士が持つ剣が閃く。

 反射的に回避行動を取るミリア。…だが、すぐに足を止めてしまう。否、止めざるを得なかった。


「そんな…!」


 影の騎士が放った黒閃はミリアの上下前後左右…全6方位から襲い掛かってきていた。

 質を高め、動きを、逃げ場を封じる最低本数による攻撃だ。


「君のように機動力に優れる相手には、退路を塞ぎ、尚且つ高い威力の攻撃が有効打となる。」


 影の騎士によるミリアの長所を殺す攻撃。

 魔法壁などで防ぎきれるとは到底思えない圧力が、ミリアに警鐘を鳴らす。

 故に…ミリアは焔を全方位に向けて放つ事を選択する。迎撃による攻撃の相殺を狙った行動。


「駄目…!」


 だが、生半可な対応で放った焔は全て黒閃に切り裂かれてしまい…強烈な衝撃がミリアの全身を殴打した。


「うぁっ…!?」


 視界が明滅する。

 衝撃に体は宙に浮き、無防備な姿を晒してしまう。すぐに体勢を整えなければならない。…が、体が動かなかった。

 これまで受けたダメージの蓄積に加え、今の攻撃が重過ぎたのだ。四肢に力が入らず、浮いた体が落下を始める。


(体を動かさないと……!)


 痛む体を必死に動かそうとする。

 視界の端では影の騎士が剣を上段に構えていた。追撃が来るのは必至。このまま受ければ…負けは確実である。


(負けられないっ。負けちゃ駄目だっ。………私は、私は、勝たなきゃいけない……!)


 意志が身体中を駆け巡る。其れは自ずと内なる力と呼応し、あの声が再びミリアの脳内に響いた。


《ミリア。貴女は私の力を行使しています。しかし…無意識で其れを制限している。躊躇いが招くは敗北です。力を使いなさい。貴女の有する意志なら力に呑まれる事は無いでしょう。今のままならば…。さぁ、戦うのです。持てる力を余す事なく引き出して…!》


 フェニックスの声である。

 ミリアを鼓舞する言葉。其れは…ミリアに「あの力」を使う事を示唆していた。

 これまで、本当に危ない場面で、他の誰からも見えない時にしか使ってこなかった力。

 もし、その力を今使えば影の騎士に見られるだろう。極めて異質とも言えるその力を知られる事は…躊躇いがあった。


(使うしか…ない!)


 それは、起死回生と成り得る一手。


《貴女ならば、その力の使い方を間違う事も無いでしょう。必要なのは…未来では無く、今。今この瞬間の積み重ねが未来を作るのです。》


 フェニックスの言葉に…勇気付けられる。


「うんっ…!」


 ミリアの体から焔が噴き出る。

 その焔を見た影の騎士は、上段に構えた剣を振り下ろすのを忘れ、硬直する。


「これは…!?」


 ミリアを包む焔。それは赤では無く、青でもなく…7色の焔。虹色の焔だった。

 そして、普通では考えられない現象が起きる。

 ミリアがこれまで受けた傷が治癒されていったのだ。それだけでは無い。影の騎士の攻撃を受けて破けた服すらも元に戻っていく。まるで時間を巻き戻すかのような光景は、ある意味神秘的な雰囲気をも感じさせるものだった。


「なんだこの力は…治癒…?それにしては現象の説明が…。」


 戦闘中という事が頭から抜けたかのように、分析をする影の騎士。

 その目の前に元気一杯のミリアが肉迫した。


「よしっ!影の騎士さん!もう…さっきみたいには負けないんだからねっ!」

「むぅっ…!?」


 超速的な回復。そこからの急襲に影の騎士はコンマ数秒で反応が遅れてしまう。


「やぁぁああ!」


 ミリアの纏う焔が虹から朱に変わる。

 そして、不死鳥の細劔による刺突の連撃が影の騎士を穿った。

 それは、数で攻める刺突ではなく、全ての突きに最大火力を込めた全力の攻撃。

 故に、回避のタイミングが間に合わない影の騎士が苦肉の策で講じた剣による防御を難なく突破し、草原に膝をつくに至らせた。


「これ程までとは…予想を大きく超えられてしまったな。」


 ミリアの攻撃で大きなダメージを受け、激痛が全身を襲っているはずなのに…影の騎士は楽しそうな雰囲気を出していた。


「あ、あの…大丈夫??」


 そして、鳥人化【不死鳥】を解除したミリアは影の騎士の様子を見て不安そうな表情をしていた。つい先ほどの元気一杯は何処に行ったのやら…である。


「む。相手の心配をするとは。」

「えっと、あ、あのね…私が思っていたより威力が出ちゃったみたいで。」

「……。くくくっ。ははははっ!」


 気まずそうに視線を逸らすミリアを見て影の騎士は肩を揺らす。


「くくくくく…。ミリア君、君は面白いな。打ち負かした相手の事を心配し、それが力の制御不足だと言うとは。だが、認識したまえ。先ほどの攻撃、少しでも威力が低ければ…私の反撃が君を叩き斬っていただろう。」

「えっ…。」


 ここでミリアは気づく。影の騎士が纏っていた覇気が消えている事に。そこに居るのは騎士の姿をした紳士…のようだった。


「つまり、戦いとはそういう事なのだ。僅かな力の差が勝敗を変える。この僅な差を読みきる事は、生涯を戦闘に捧げた者であったとしても難しいだろう。だからこそ、慢心無き戦いが必要なのだ。それは、戦う相手に対する敬意でもある。」

「……うん。」


 影の騎士の言葉はミリアにとって耳が痛いものだった。

 これまでのミリアは、自分の持つ力を極力見せないようにしてきた。それは、特異な能力を持っている事が周囲に知れ渡れば、ミューチュエルの仲間を巻き込んでしまうかもしれない。…という懸念からである。

 だが、それは、守りたいものを守りきるという信念を貫くという観点においては…間違った選択だったのだ。

 思い返してみれば、ミリアが鳥人化【不死鳥】の前身である力を使っていれば、治癒の焔を使っていれば…もっと簡単に終わらせられた依頼もあった。

 その時はなんとか乗り越えていたが、ひとつ間違っていれば誰かしらが命を落としていたのかもしれないのだ。


「私は…そんな考えが出来てなかった…。」


 自身の不甲斐なさを痛感する。

 そもそも、これまでミューチュエルで扱ってきた依頼が、そこまで命に関わるものが無かったという事実もある。しかし、それは言い訳に過ぎない。

 命に関わる場面に遭遇した時に、どんな決断をするのか。どんな覚悟を持って望むのか。其れ等を意識しているのか、意識していないのかは…導き出す結論が大きく異なってしまう。


「でも…。」


 影の騎士との戦いで得た気付きは…無駄にしてはいけない。だからこそ。


「でも、私は影の騎士さんに教えてもらった。だから、私はここから、今から、頑張るよっ。全力で!」

「あぁ。それで良い。」


 笑顔で言ったミリアを見て、影の騎士は満足そうに頷いた。


「君は私との戦いで大きく成長しただろう。学んだ事を、識った事を胸に、心に刻むのだ。ミリア君の中に核として存在する想い。それがあれば、君は大切なものを守れるだろう。」

「はいっ。」


 何故か師匠と弟子のような雰囲気になっているのが、試練とは微妙にニュアンスがズレている気もするが…。


「これにて私の試練は終了だ。この先に待つのは…絶望より生み出されし存在。その力は強大。忘れるな。この場で君が得たものを。」

「絶望より…?」


 影の騎士が言った内容がイマイチピンとこないミリア。

 しかし、影の騎士はそれ以上の説明をするつもりは無いらしく、剣を収めた。


「さぁ、進むが良い。10階へ。」


 パチンっと指が鳴らされ、一面草原の世界が崩れる。

 空が歪み、地面が下に下にと吸い込まれ、ミリアも巻き込まれていった。


「えっ!?えぇぇぇ!?」


 売れない芸人のような声を出しながら吸い込まれていくミリアを見ながら、影の騎士は腕を組んで頷く。


「彼女なら…或いは。」


 期待を込めて、影の騎士は目を閉じる。

 この先に待つもの。それに思いを馳せて。

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