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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
992/994

16-5-29.ミリアの覚悟

色々ありまして3週間ぶりの更新です。

大変お待たせいたしました。

 ミリアは正面に立ちながら…語る。

 己の過去を。


「私…昔の記憶が無いんだ。気付いたら白金と紅葉の都に立ってた。お父さんもお母さんも覚えてない。どこから来たのかも分からない。その時分かっていたのは…私がミリア=フェニーだっていう事だけ。あの時、白金の都近くの紅葉林に1人で立ってる時…とても不思議な感覚でだったの覚えてる。未知の世界に放り出されたような感覚。ちょっとドキドキしてて、これから何が始まるんだろうっていう期待感もあった。」

「…。」


 影の騎士は口を閉ざし、静かにミリアを見ていた。


「それでね、私は近くに見える白金の都に向けて歩き始めたの。そして…驚いたんだっ。白金の都の綺麗さに。でも、でもね、同時に笑って歩く人達を見てたら……私は1人なんだなって思ったんだ。何も持ってないんだって。…そしたら、急に寂しくなって……逃げ出したくなった。」

「ほぅ…逃げ出したのか?」

「ううん。逃げ出そうとしたよ?でもね、通り過ぎたおばあちゃんが『どうしたんじゃ?悲しそうな顔をしとるの。』って声を掛けてくれたの。でね、そこからはおばあちゃんが周りの人に声を掛けてくれて、迷子って事で警察に連れてかれて、その警察も優しくて…とにかく皆が優しかった。どこの誰かも分からない私に。そして…皆が笑顔だったんだ。私はその笑顔に救われたっ。だからね、私は皆の笑顔を守りたいっ。私を救ってくれた笑顔で他の人達にも元気を出して欲しいのっ!」

「そうか…。だが、その笑顔になる事を…白金の都に住む者達が求めてなかったとしたら?笑顔など所詮は表情の1つ。そんなものに拘る価値が有ると、本当に信じているのかな?」

「違うよ。」

「…なに?」

「笑顔は求めるんじゃないんだよっ。心の奥が暖かくなったり、ウキウキした時に自然と笑顔になるの。私が守りたいのはそういう笑顔。笑顔ってね、求めるものじゃないんだよ。心が幸せになって、結果的に笑顔になるの。」


 影の騎士の言葉に動じなくなったミリアは笑う。大切なものを改めて認識した事で、自然と浮かんだ笑顔は…綺麗だった。


「…どうやら、最初の試練は合格のようだ。」


 影の騎士はそう言うと…静かに剣を収める。


「あっ、これで試練は終わりっ?」


 案外すんなりと試練の合格をもらえた事に意外感を感じながら…。だが。


「言っただろう。『最初』の試練…と。」


 影の騎士は淡々と告げる。


「剣技は見させてもらった。次は、魔法だ。」


 そう告げる影の騎士の掌に黒い光が球体となって現れる。

 そして、その黒い光が…伸びた。先端は鋭く、視認するのがギリギリ可能な速度で。


「きゃっ!?」


 間一髪で避けたミリアの後方で、黒い光が突き刺さった地面が爆ぜる。


「良い反応だ。さぁ、この黒い光をミリア君の魔法で打ち破ってみるがいい。」


 影の騎士は黒い光をミリアに向けて連射する。

 次々と突き刺さる黒い光が草原の地面を抉り、土を、草を飛び散らせる。凶悪無比な連撃はミリアを射抜かんと、猛威を振るった。


「きゃっ!?」


 と、可愛らしい声を出しながらも、ミリアは其れ等の攻撃を尽く避けてみせる。

 無詠唱魔法による身体能力系の強化による恩恵だ。


(攻撃が一直線だから…これなら大丈夫!)


 バク宙をして黒い光の猛追を振り切ったミリアは、両手から生み出した焔矢を影の騎士に向けて連続射出した。

 高密度に凝縮された焔の魔力が細い尾を引き、影の騎士へ着弾。…しない。

 焔矢が全て影の騎士の体をすり抜けてしまったのだ。


「えっ!?」


 想定外の現象に、追撃を放とうとしていたミリアの動きに僅かな間が生じる。


「戦いとは、常に想定外の連続だ。最善を尽くし、即座の対応をするのが、強者の資格。」


 その声は…ミリアの後方からだった。

 慌てて振り向くと、両手に黒い光を携えた影の騎士が悠然と立っていた。もちろんそれだけでは無い。発せられる覇気がミリアに警鐘を鳴らす。


「さぁ、耐えられるかな?」


 そうして放たれたのは縦横無尽に駆け巡る数多の黒い光線。その動きに法則性は見られず、回避する事は困難。

 唯一分かる法則。それは、全ての光線の行き着く先がミリアであるという事。

 この攻撃に対する手段は全方位型の魔法障壁の多重展開による防御。を普通なら選ぶだろう。

 しかし、ミリアの直感がそれでは耐えられないと告げていた。

 このままでは負ける…と。

 だが。


「負けられない…!」


 故に、ミリアは再び力を使う事を選択した。


《良いでしょう。力に呑まれない限り、私はミリア…貴女と共に在ります。》


 内なる声がミリアの「力を使う」という意思に反応する。

 迷いはない。この戦いは決して引いてはいけないのだ。

 影の騎士はミリアを試している。ミリアの実力を、覚悟を。故に引けないのだ。


「鳥人化【不死鳥】っ!」


 そして、破廉恥ゴーレムての戦いで得た固有技を口にした。

 体の内側から膨大なエネルギーの奔流が湧きあがり、体の外側へ放出されて焔となる。

 その焔は広がり、そしてミリアへと吸い込まれ、髪と瞳を紅に変化させた。


「ほぅ…これは、まさかここで出逢うとは…。」


 黒い光を放ちながら、意味深な呟きをする影の騎士。

 その視線の先で体に紅稲妻を纏ったミリアが降り立った。


「よしっ!」


 気合いの掛け声に合わせてミリアの持つ細劔…不死鳥の

細劔から焔が迸る。


「えいっ!やぁぁああっ!とぉーーっ!」


 ありきたりな、ともすれば気の抜ける掛け声に合わせて不死鳥の細劔が鋭く空を裂き、迸る焔が黒い光を搔き消す。


「うむ。中々の威力。だが、まだ足りぬ。」


 ミリアの放った焔を黒い光を円形状に広げた盾で防ぎきった影の騎士は、右手に極太の黒い光球を出現させてミリアに向かって言い放つ。


「ミリア君!君は、その信念の元に護ると誓った人々に裏切られた時、何をする!?」


 これまでと同様に、信念を揺さぶる目的での問い掛け。

 しかし、今回は違った反応がミリアから返ってくる事となった。

 細劔を構えるミリアは毅然と言い放つ。


「裏切られるって事は、信じてもらえなかったって事だよね。でも、それなら、信じてもらえるまで…私は護る!私は絶対に裏切らないんだっ!」


 ミリアの右手に幾つもの焔球が生成された。1つ1つの熱量が非常に高く、周囲の光景が熱の影響で歪み始める。

 迷いなき、澱みなきセリフに影の騎士は肩を縦に揺らす。


「はっはっはっ!裏切られても信じると。その意気、快し。ならば、君の魔法力…それを測るのみ!信念を貫く力を示せ!」


 影の騎士が右手を突き出し、極太の黒い光球が放たれる。光なのに黒いという矛盾をはらんだこの魔法は、周囲を黒く照らしながらミリアへと突き進んだ。


「いくよっ!私は、負けられないんだっ!」


 ミリアも右手を突き出し焔球を撃ち出す。明るく周囲を照らし、その熱量で光を歪める焔の塊が尾を引きながら黒い光に激突した。

 明滅する赤き光と黒い光が互いを食い合い、衝突が生み出すエネルギーの余波が周囲の草原を穿ち、青き空へ吸い込まれていく。

 そして、2つのエネルギーは混じり合い、膨らみ、収縮し、小規模でありながら高密度な爆発を経て消え去った。


「……うむ。当初の見込みより筋が良い。ならば、次の試練に進もうではないか。」


 影の騎士は淡々と、しかしどこか愉しんでいる雰囲気を匂わせながら、再び剣を抜き放つ。


「次なる問いは単純。ミリア君は守る為に何を犠牲にするのかな?」

「犠牲…?」


 ミリアは戸惑う。自分が白金と紅葉の都に住む人々の笑顔を守る為に何かを犠牲にしている感覚が無かったのだ。


「分からないか?何かを守る時、何かを犠牲にしているのだ。それは守る者の時間、他に守るべきもの、時には仲間を、共を、信念をも犠牲にしなければならない。しかしだ、守る者が自身の持つもので何を犠牲にするのかが明確である時、容赦のない現実が、選ばねばならぬ2つの犠牲が現れた時、迷い無く行動が出来る。この覚悟…犠牲を厭わない覚悟がなければ、真に覚悟を問われる場面で君は多くの大切なものを失う。」


 正論。ミリア自身が持つ大切なものの中で、切り捨てるべき優先度についての問い掛け。

 そう簡単に答えが出る筈がない。何を犠牲にしようともそれが大切なものである以上、身を切り裂く痛みを伴うからだ。

 再び答えを見つけるまで、自身の中で渦巻く葛藤との戦いが始まってしまう。


 …と、影の騎士は予想していた。

 迷う事が大切なのだと。だからこそ、迷いの中で戦う事で、迷いなき信念を得られるのだと。だが…。


「影の騎士さん。何かを守る為に何かを犠牲にしなければならないのかも知れない。でもね、それが本当に犠牲になるのかは…考え方次第だと思うっ。奉仕も犠牲も同じ。だからね、私は…何も犠牲にしない覚悟をするんだよっ!」

「ほほぅ…。益々面白い。ここまで迷わずに言い切れるとは…私は君を甘くみていたようだ。」


 影の騎士は静かな動きで剣を構える。


「これが最後の問いだ。最早問う必要もないかも知れないが、敢えて聞こう。ミリア君は、仲間を失ったとしても、白金と紅葉の都に住む人々の笑顔を守る事が出来るかな?」

「うんっ。」


 即答。迷いなき声に影の騎士は小さく笑う。


「ははっ。小気味好い。ならば聞こう。何故そう言い切れる?」

「私は、私達は…笑顔を守る為に一緒に頑張ってるの。だからね、仲間を失ったから守れないっていうのは、仲間の想いを大切に出来てないって事なんだよ。仲間を失ったからこそ、守りきらなきゃいけないんだと思うっ!」


 揺るがないミリア。そして、覇気を強める影の騎士。


「良い答えだ。後は…君の全力を見せてもらおう。剣技、魔法、体技。それら全てをどこまで1つとして戦えるか。そこには観察力、判断力も重要なファクターとなる。…いくぞ。」

「うんっ!」


 影の騎士が動く。残像を残し、剣を閃かせ、黒い光を生み出しながら。

 そして、黒と赤が交錯する。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 古代遺跡の10階。

 そこは静かだった。静寂にて神聖な雰囲気を感じさせる空間は、遥か昔からそうであるかのように、静かに佇んでいた。

 流れ星が落ちた…筈なのに、天井に破損などは一切無い。

 そして、そんな空間の中心に…黒い球体が浮かんでいた。

 光沢などはない深い黒。全てを飲み込みそうな色合いでありながら、どこか穏やかさ…優しさを感じさせる黒だった。


 その空間には、別の物も置かれていた。

 壁際に並ぶのは、本棚と書籍の数々。


 その空間は待ち続ける。訪れるのを。

 主人に相応しい者が現れるのを。

 待つ者は時として変わる。

 しかし、それは重要では無い。

 重要なのは、今、ここで待つ者がいるという事。

 邂逅の時を待ちわび、その空間は静かに佇み続けている。


 間も無く、来るべき者が来る事を感じ取り、さざ波のような興奮を抑えながら。

次週は予定通り更新します!

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