16-5-27.試練…?緊縛?
更新が1日遅れてしまいました。
申し訳ありません…!
古代遺跡8階。
そこで行われる試練は他の階と同じように、10階へ進む資格があるのか、実力があるのかを確かめる試練。
…と、なる筈だった。
だが。
この試練を見たナビルンは頭を抱えて(手は無いが)呟いた。
「オカシイノデス。試練…試練ヲシテ欲シイノデス…。」
8階ホールの中央には…脱力して横たわるザキシャ。
その横には楽しそうに笑うデブ男の影。
そして、結界の外で見ていたミリアは…顔を真っ赤にして両手で頬を押さえていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
7階の試練をクリアした一行は、怪我で満足に動けないザンの運搬をザキシャの手下の1人に頼んで8階へ進んでいた。何故かお姫様抱っこだったのだが、誰も突っ込まない。
螺旋階段を登った先に待っていたのは、相も変わらず無機質なホールである。
ただ一つ、これまでと違っている部分があった。
それは…ホールの中央にデブ男の影が腕を組んでたっていたのだ。
これまでの流れでいけば、試練に立ち向かう者がホールの中央に到着したところで影が集まって人の形を成し、試練が始まるのだが…。
「あら。今回は少し趣が違うのかしら?」
どこかつまらなさそうに立つデブ男の影を観察し、ナビルンへ視線を移しながらクルルが呟く。
試練の案内役であるナビルンから説明があるものと考えての行動だったのだが…。
「…何故、モウ出テイルノデスカ!?試練ノ規則ヲ守ッテ欲シイノデス!」
と、憤るナビルンを見て眼をパチクリとさせてしまう。
「ナビルン。独り芝居はいいから、次は誰が挑めるのか教えて欲しいんだけどねぇ??」
ナビルンのおかしい様子をガン無視したザキシャが両手を頭の後ろで組んで、ダルそうに言う。
「……ク、私ノ味方ハ誰モ居ナイヨウデス。」
と、中二病気味の台詞を黄昏気味に吐き捨てるナビルン。
そして、訪れる沈黙。
「……。」
「………。」
「……分カリマシタ。コノ階ハドッグテイマーズノ皆サンニ挑ンデ頂キマス。」
ダルそうにしていたザキシャの目がギラリと鈍く輝く。
「やっとアタシ達の出番だね!さぁて…暴れてやるよっ!」
「姉御!やってやりましょう!」
「腕が鳴りますなっ!」
意気揚々とドッグテイマーズの面々はホールの中央へと歩んでいく。
「ア…チョット…試練開始ノ前ニ影へ確認ヲ…。」
慌てた様子でナビルンがドッグテイマーズを追いかけようとするが…。
「ブベッ…!?」
と、情けない声を出して結界に弾かれてしまうのだった。
そんなナビルンの少しおかしい様子に気付くことなく、デブ男の影の前に並び立つザキシャとドッグテイマーズの部下10名。
ザキシャは凶悪な笑みを浮かべながら、デブ男の影を睨め付ける。
「アンタ…アタシ達の実力を知ってるのかい?他の階みたいに下らない問答なんてアタシには通用しないよ。」
明らかな挑発。解釈の仕方によっては試練を冒涜するかのような言葉に、デブ男の影が反応する。
「ははっ!そりゃぁ愉快だな。だが、宣言するぜ。お前達は俺には勝てない。なんたって俺は魔……。俺は強いからな!圧倒的だ。」
「なぁに鼻の穴を膨らましながら言ってるんだい。しかも、台詞を噛んでるし。そういう奴に限ってただの見栄っ張りってパターンなんだよねぇ?」
「いや、さっきのは噛んだのでは……。いや、いいか。まぁ身体で分からせてやるよ。強さってのは戦闘能力だけに左右されないんだよ。」
「…?何を言ってるのかサッパリだねぇ。まぁいいさ。こっちこそ、その肉付きの良い体に叩き込んでやるよ。」
ザキシャが構えるのに合わせてドッグテイマーズの面々も戦闘態勢に移行する。
そして…悲劇が起きる。
「いくよ!」
「「おう!」」
ザキシャの掛け声でドッグテイマーズが動き出す。統率の取れた動きで牽制の攻撃を放ちながら、デブ男の影を包囲していく。
「おっ!こりゃあ想定以上だな。ここまでの練度って事は、相当修練を積んでんな。さっきの自信ありそうな態度も納得だ。だが…。」
デブ男の影は牽制の攻撃を全ていなし、反撃に移るべく動き出す。
…と、丁度そのタイミングで…。
「今だ!!」
「「「イエッサ!!!!風檻斬!!!!」」」
ドッグテイマーズ達を基点として風の線が伸びて張り巡らされる。
それは面となり、面が組み合わさり立体となってデブ男の影を閉じ込める風の檻を形成する。
「うぉぅ。見事な合同魔法だな。」
ピンチとも取れる状況にデブ男の影は…楽しそうだった。まるで危機感を感じさせない態度にイラついたザキシャが叫ぶ。
「その余裕、今すぐぶっ潰してやるよ!」
風の檻が淡く光り、無数の風刃が風檻の中を埋め尽くした。
「うわぁ…サリーちゃんの依頼で私が受けた時よりも規模が全然違う…!」
驚きの目で見るミリア。確かに風檻斬は以前見たそれと比較にならない規模と威力を誇っていた。
「中々の威力ね。風檻の展開速度を考えても、初見で防ぐのは相当難しいと思うわ。」
腕を組んで観察するクルルも高評価を出しながら思う。
(ドッグテイマーズが共闘を言わなかったら…相当苦戦していたかも知れないわね。)
…と。
しかし、ミリアとクルルのそんな評価を覆すかのような事態が起きる。
風檻斬の影響で砂埃がホール内に舞って視界がやや悪くなった時である。勝利を確信したザキシャがニンマリと笑みを浮かべ…。
突然、それは起きた。
「ぐあぁっ…!?」
「ぐほっ…。」
「ゔっ…」
「ウギャァ!」
「ブベッ!」
「ヌゥゥン…。」
「が…っ。」
「ブフッ………。」
「オェェエ…!?」
「む、無念…!」
と、立て続けに断末魔のような叫び声がホール内に響き渡ったのだ。それも…丁度10人分。
「なっ!?お前達大丈夫かい!?」
「………。」
慌てふためいたザキシャの呼び掛けに答えたのは、無言。
「ったく、あれ程の合同魔法が使えんなら、もう少し工夫しろっての。分かりやすい上に真っ直ぐ過ぎて、簡単に対策できちまうぞ?」
そのセリフは、囁くようにザキシャの耳元から発せられた。
「ひいっ!?」
耳から全身を駆け巡るゾクゾクっとした感覚に身を強張らせてしまう。
「ほぉん。中々…弄り甲斐がありそうな反応だな?」
シュルシュルシュルシュル
ビチンバチンビチンバチン
キュッギュッピーン
と、謎の音が響き渡る。
「な、なんだいこれは!?」
ホール内に舞っていた砂埃が落ち着き、見えてきたのは…両手両足をロープのようなもので縛られ、大の字の形で空中に固定された…あられもない姿を晒すザキシャだった。
デブ男の影がのんびりと拘束されたザキシャへ近付いていく。
「おーおー、良い眺めだなぁ。それに、案外良いスタイルしてんじゃねぇか。さぁてと…俺の絶技を味あわせてやるぜ。」
「テ、テメェ…何をするつもりだい!?」
「ん?何ってよ…こうするんだ。」
ムギュッ
「なっ…!?キャアアアア!!!」
「お、可愛らしい声も出すんだな。」
ムニュムニュムニュムニュムニュムニュ。
「やっ、ばっ、やっ…やめろ!この変態!」
「いやいや、止めろって言われて止めたら男が廃るだろ。」
ムニュムニュムニュムニュムニュムニュムニュムニュムニュムニュムニュムニュムニュムニュムニュムニュムニュムニュムニュムニュムニュムニュムニュムニュムニュムニュ。
コリッ。
「…あんっ!」
「くくく…。さぁて、ここからが本番だ!俺の絶技で悶絶するんだな!」
自主規制。
結果…。
半裸で火照った体を脱力させて横たわるザキシャが完成したのである。平時であれば勝気な瞳も、どこか蕩けた色っぽさを感じさせる。
それはまるで発情した…。
「クルル…私、凄いの見ちゃった気がする。」
真っ赤な顔を両手で押さえるミリア。
「そうね…。あのザキシャがここまで陥落するなんて…女を…知り尽くしてるわ。」
冷静に分析している風のクルルだが、彼女の頬もやや赤らんでいた。
それも無理はない。それ程までに激しい攻撃だったのだ。ザキシャが何度も肢体を跳ねさせる様は、目を背けたくなる一方で、惹きつける淫靡さもあった。故に、男に女が屈服するまでを余すことなく見てしまったのだ。
「でもでも、どうするのにゃ?ザキシャが発情するのは良いけど、これって試練失敗にゃ?また1階から挑戦するのにゃ
?」
何故かザキシャとデブ男の影が繰り広げたひと場面を見ても、平然としているブリティが首を傾げながらナビルンへ問いかける。
「エ……エェト、ザキシャサンガ動ケナイノナラ、試練ハ不合格デス。心苦シイノデスガ、1階へ強制転送サセテ頂キマス。」
まさかの試練失敗である。
しかし、先程の光景を見ていた身としては、納得出来る部分もあった。クルルもミリアも、自分がデブ男の影に立ち向かい、勝てるビジョンが見えなかったのだ。というより、ザキシャみたいになりたくない…という本心の方が強いのだが。
ともかく、試練失敗を受け入れる覚悟をするのだった。
因みに、ザンはホールの壁に寄りかかって座り、やや前傾姿勢になり、何も言わずに仏像のように硬直していた。
何故前傾姿勢なのか?それは、推して知るべし。
「デハ、転送シマス。」
ナビルンから魔法陣が展開され、転移光が…。
「おい待て。」
「ナ、何ヲスルノデスカ!?」
いつの間にか、デブ男の影がナビルンの後ろに立ち、ガシッとナビルンの頭を鷲掴みにしていた。
「まだ試練が終わったなんて言ってないぞ?」
「ドウ見テモ終ワッテマス!ソレニ、ドウヤッテ結界ヲ抜ケタノデスカ!?」
「それは秘密だな。てか、試練をしてたのは俺だろ。何でナビルンが勝手に判断してるんだ?そーゆーのって越権行為って言うんだぜ。」
「ウ…。」
デブ男の影はナビルンをポイっと後方に放り投げると、結界に弾かれて騒ぎ立てるナビルンを無視しながら言った。
「あの女は良い女だ。肉体的にも、精神的にもな。まぁ俺の推測もあるんだが、お前達が手を組んでこの試練に挑んだのにはきっと意味があるんだろ。だから…あの女の身体に免じて試練は合格にしてやる。」
結局は身体かい!…というツッコミが全員の脳内に過るが、ザキシャと同じ目に会いたくない為に全員が言葉を飲み込んだのだった。
「おいナビルン!試練は合格だから、さっさと次の階へ行けよー?」
デブ男の影は、グンっと伸びをするとニヤリと笑う。
「強さってのはよ、貪欲に求めなきゃ得られない。それが俺とお前達の違いだ。いいか。俺はお前達全員を相手にしても負けない。」
ここまで言うと、デブ男の影は肩を竦める。
「ま、そーゆー俺も惨敗したんだけどよ。…じゃ、残りの試練も頑張れよ。」
と言って、薄れて消えていったのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
数分後。意識を取り戻したザキシャが土下座をする勢いで試練の敗北を謝り、勘違いだったと気付き、ナビルンに八つ当たりをすると言う一幕があったのはさて置き…上の階へ進む準備をする一行から少し離れた所でクルルとザンは意見交換を行っていた。
「えぇ、私もそう思います。この試練、主人への忠誠を誓うものなのは間違いないでしょう。そして、出てきた影は…その主人に何かしらの関わりがある人物を再現しているのではないでしょうか。」
「そうよね。ただ…これまでの試練で見た3人の影は相当強いわよ。全員が手を抜いていた感じもあるわ。私は、あんな強い人物を知らないわ。」
「私もそこが気になっていました。革新党にはこれまでの影のように戦う人物はいませんし、私の知る限り博愛党にもいません。そうなると、これまで得られた情報だけを繋げる事で導き出される仮説は…。」
「…少なくとも白金と紅葉の都という星に住んでいる人物では無い者が、今回の試練の主人になっている。という事になるわね。」
「えぇ。ただ、古代魔具と推測している流れ星も含め、遺跡10階には恐らく何かがあります。いえ…もしくは……。」
「それ以上は…やめておきましょう。10階に着けば、自ずと分かるはずよ。先ずは、10階に辿り着くことが先決よ。」
「分かりました。…それにしても、次の階はミリアさんですよね。彼女は今回のメンバーで一番優しそうですが…試練を乗り越えられるでしょうか。」
まだダメージの抜け切らない体に眉を顰めて歩き始めながら、ザンはミリアを心配する。
隣を歩くクルルは、フッと優しい笑みを浮かべた。
「心配ないわ。ミリアは1番優しくて、1番芯のある子だから。」
そう話す2人の視線の先では、少し緊張した面持ちで9階へ続く階段をみるミリアの姿があった。
クルルのミリアに対する信頼。
それは、少し過信だったと言わざるを得ない。
この後、ミリアは1つの覚悟を問われる事となるのだ。




