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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
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16-5-26.古代遺跡7回の試練 結末

 数多の銃弾に体を貫かれる激痛が全身を駆け巡る。


「ぐあっ…。」


 目を瞑り、敗北を覚悟したザンは銃弾の衝撃に身を任せて地面に伏した。

 意識が薄れ、五感が機能を止めていく。命の灯火が揺れ………。


(………生きている……のですか?)


 気が付けば、ザンは激痛に耐えながら立ち上がっていた。

 男の影は、その余りにも酷い姿を見て肩を竦める。


「あのさ…さっき、諦めてるように見えたんだけど…。なんで立ち上がるの?」

「私は……生きている…………のですね。」


 全身から血を流しながら、ザンは両手を広げ、握り締め、感触を確認する。


「そりゃ、生きてるよね。」

「えぇ…しかし、私は死を覚悟して受け入れました。それなのに、生きています。」

「……?つまり、運が良いって事でしょ?」

「そうなのかもしれません。だが、私は生きている。つまり、私は人生において2度死を迎えた事になります。それなのに、生きているのです。」

「そっか。それなら、自分の悪運に感謝しなきゃじゃない?」

「悪運……。」


 男の影の言葉で、ザンは重光のある言葉を思い出す。

 それは、ザンが仕えるようになってから最初の選挙で政権奪還に失敗した時に、重光が…空を見上げながら言った言葉。


「所詮、この星の人々は上っ面で判断する。俺が本気で白金と紅葉の都の事を考え、訴えたとしても…博愛党の圧倒的なイメージ戦略には敵わないようだ。しかし……ザン、俺は悪運が強い。過去に何度も政治家の座を奪われそうになってきた。命を狙われた事もあった。だが、俺は今こうしてここに立っている。だからこそ、俺は思う。真の目的は白金と紅葉の都を更に繁栄させる事。その目的を達成する為の目標達成の為に、俺はもっと己自身に貪欲に動こう。その為なら何でも利用する。正当な手段で、堂々と。だから…ザン。お前も俺の事ばかりでなく、自分を大切にしろ。その上で、価値があると思うなら、俺に付いてくるが良い。」


 この言葉を聞いた時、ザンは理解が出来なかった。執事というのは主人のために全力で尽くすものなのだ。そこに自身の意思など関係が無い。

 そうであるはずなのに、重光はザンに自分の価値観で主人の価値を見極めろと言ったのだ。

 その時は、何も言えなかった。それでも重光に仕えるのみ。…と考えていた。


「私は…私も、悪運が強いのでしょうか。」

「…?そりゃ強いと思うよ。生きてるしね。」

「そうですか…。それなら、私は重光さんと同じ…………なのかもしれません。」

「まぁ、同じかも知れないけど、その重光はザンの知らないところで不正を繰り返しているけどね。」

「……。」


 不正。

 それはザンが重光に仕える中で最も恐れていた言葉である。

 そして、その言葉によって体の自由が効かなく…は、不思議とならなかった。

 出血によって力が入りにくくなった体がフラッと揺れる。このままでは、何もしなくてもザンが試練を続けるのは難しくなってしまうだろう。

 そうであるのにも関わらず、ザンは言葉を紡ぐ。ゆっくりと、噛みしめるように。


「私は…理想の中で生きていたのかも知れません。主人が清廉潔白で、それを支える執事という肩書きに無意識で憧れていたのでしょう。これまでの執事人生…それがやり甲斐であり、生き甲斐でした。全て自己満足の為の行動。ならば…仮に主人がそうでなかったとしたら、私は忠誠を誓わないのでしょうか。」


 独白のような独り言。

 深刻な負傷をした体をフラフラと頼りなく揺らし、今にも倒れそうなザン。

 だが、それでも、その目には力が宿り始めていた。


「私は…無意識的に自己満足の為に生きてきたのかも知れません。しかし、私は、主人の生き方に、思想に惚れ込んだのです。私は…重光様が……清廉潔白な戦いをする事を辞めた時……私は……重光様の元を離れるのでしょうか?」

「……なんか、1人で考え込み始めちゃったね。もう、潮時かな?」


 男の影はタンっと距離を取ると、ザンへ銃口を向ける。


「これで終わりだよ。」


 男の影から魔力が高まり、銃が淡い光を放ち始める。

 見るからに必殺の一撃を放ちそうな魔力の溜め。しかし、ザンはそれを気にすることなく考え込んでいた。

 男の影は、そんなザンの様子を鑑みる事なく告げる。


「……じゃあ、いくよ?」


 そうして放たれたのは極大の魔弾。直径1メートルはあろうかという大きさの魔弾は、立ち尽くすザンへ迫る。


「……そうです。私は…私は………重光様を支えると決めたのです。正々堂々とこの星を変えると言った重光様を。ならば……他者の愚言に惑わされる事ほど愚かな事はありません。私は…自身で確認し、自身の頭で考え、判断をすべき。」


 ザンの目線が上がる。

 迫る極大の魔弾を見据え、力強い言葉が紡がれた。


「私も貪欲に生きましょう。私が信じるものを信じる為に。霞を取り払い、真実を見ましょう。もし、不正があるのから、私が正しましょう。私が信じる人でいてもらう為にも。我儘で結構。私は、信じる道を貪欲に突き進みます。」


 そこに立つ男からは、迷いが消えていた。

 ザンの両手が揺らめく。


「はぁっ!」


 気合のひと声に合わせ、ザンの両手に装着された爪が魔力光を放った。


「私はこの…零爪にて、敵を葬り去りましょう。それが、主人を支える執事としての務め!」


 零爪が交差するように振り上げられ、魔弾と噛み合う。

 高密度の魔弾と、ザンの魔力がバチバチッ!と鬩ぎ合い、弾きあったエネルギーが雷撃のように辺りの床に突き刺さる。


「あれっ…?不正ってワードで揺さぶって倒すつもりだったんだけど、失敗かな。ははっ…まぁ元々俺ってそういうキャラじゃないし……。うん。後は実力次第ってトコかな。」


 頭をポリポリした男の影は、銃を構えて行動を開始する。

 それとほぼ同時にザンの零爪が魔弾を切り裂いて霧散させた。


「もう、私は迷いませんよ。」

「そっか。じゃあ、俺を倒してみて!」


 男の影はザンとの距離を保つ立ち回りをしながら、銃撃を放つ。直線、曲線など様々な弾道を描く銃弾は回避が困難なレベルで規則性のない攻撃。

 しかし、ザンが被弾する事は無かった。

 先程の被弾によって全身から出血をしている為、動きは確かに緩慢になっている。だがそれでも、動きのキレが段違いだった。

 無駄の無い、的確な行動によって銃弾を避け、弾いていく。


「……これはちょっとヤバいかな?」


 攻撃が一切通じず、しかも次第に立ち回りを先読みされ始めた男の影が焦りを含んだ声色で呟いた。

 そして、散弾のように放たれた銃弾の直撃を受けたかのように見えたザンが男の影の後方に回り込んだ事で、形勢が逆転した。


「私の…勝ちです。」


 閃く10本の爪。

 研ぎ澄まされた魔力を有した零爪が縦横無尽に男の影が存在する空間を駆け巡り、芸術の如く軌跡を煌めかせる。


「ぐあっ…。」


 そして、斬撃によって深いダメージを受けた男の影は吹き飛び、結界に激突して倒れたのだった。


「ザン…君の……勝ちだね。」


 倒れて動くことのできない男の影は、自身を見下ろすザンへ敗北を認める言葉を投げ掛けた。


「えぇ。私の勝ちです。貴方が卑怯な手を使わなければ、もう少し早く試練は終わっていたでしょう。」

「はは…俺だってあんなやり方を好んでするわけじゃないよ。」

「そうですか。ただ、私はあなたに感謝もしなければなりません。」

「感謝…?」

「えぇ。貴方が私の忠誠心を試そうとしなければ、私は私自身の心と向き合う事が出来ませんでした。」

「そういう事か…。まぁこれは試練だからね。」

「お陰様で、私は1つ強くなる事が出来たかも知れません。」


 ザンの感謝を受けた男の影は楽しそうに肩を揺らす。


「そっか。じゃあ…最後に1つだけ忠告をさせてもらうよ。ザン……。君は危うい性質をもってるよ。心が闇に沈まないように……ね。」

「それは……。」


 真意を尋ねようとしたザンだったが、男の影は薄れて消えてしまう。


「闇に沈まぬように…ですか。肝に命じておきましょう。」


 そう言うと…ザンはフラリと傾き、倒れたのだった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 フワリと頭の裏に感じる柔らかい感触に、ザンは薄っすらと眼を開ける。

 ボヤける視界を認識しながら、長い時間寝ていたかのような感覚を…じんわりと噛み締めていると、近くで大きな声が聞こえた。


「……!?起きたにゃ!クルルー!ミリア!起きたにゃー!」


 その特徴的な語尾からブリティだと分かる。ブリティが介抱していてくれたのか…と感謝の念を抱きつつ、ザンは自身の上に見える顔を眺めた。

 次第に焦点が合い、顔の輪郭がハッキリと見え始め…。


「………!???」


 そして、ザンはピクリと眉を反応させ、ブリティは立ち上がるとグンっと伸びをした。


「あぁー待ち疲れたにゃ。ザンにしては長く寝ていたのにゃ。」


 フリフリ揺れるブリティの尻尾を見ながら、ザンは頭の下にある柔らかい感触と、目の前にいる人物の顔がイマイチ一致しないでいた。


「…なんだい。アタシが膝枕をしてるんじゃあ不満なのかい?」


 顔を赤らめながら言ったのは…ザキシャだった。


「いえ…ありがとうございます。しかし、ザキシャさんがこのような事をしてくれるとは想像だにしていませんでしたので。」

「…!?ア、アタシだって誰が好んでこんな恥ずかしい事…!」


 一瞬で顔を真っ赤にしたザキシャは、ザンを放り投げると膝を叩いて立ち上がる。

 投げられたザンは床に落ち、その衝撃で全身から思っていた以上の痛覚の刺激を受け…顔を顰めるのだった。


(どうやら…当然ではありますが、先程の戦いの傷が全く癒えていないようですね。)


 銃弾に貫かれた傷からの出血は止まっているようだが、このままでは次の戦いは到底無理なレベルの負傷具合である。


「あ!!!ザキシャがザンを投げ捨てたにゃ!乙女の心が薄れたのにゃ!」


 床に落ちたザンの横でブリティがザキシャ非難を始める。

 真っ赤なザキシャはキッとブリティを睨むと、フンっと顔を背けてしまった。


「まぁまぁブリティさん。先程まで膝枕をしてくれていただけで感謝ですから。どうしてザキシャさんが膝枕をしてくれたのかは気になる所ですが、あの様子では聞けなさそうですね。」

「むっ?ザンは気になるのにゃ?それは簡単な話にゃ。」

「ちょ……!アンタ待ちな!!」


 何の抵抗もなく話そうとするブリティの方を、ギョッとした顔で見たザキシャは…更に顔を赤くし、ブリティの口を塞ぐべく駆け出した。

 しかし…。


「ザキシャはむかーし昔に看護師に憧れていたのにゃ。だから知識があったのと、お仲間さんからの激プッシュでザンの介抱担当になったのにゃ。そしたら…。」

「テメェ…!それ以上言うのは許さないよ!!」


 必死にブリティを捕まえようとするザキシャだが、スルリと逃げたブリティは人差し指を真上に上げ、反対の手を腰に当て、仁王立ち気味で高らかに叫ぶ。


「そしたらやる気を出して膝枕したのにゃ!!!」

「………ぬぁっ。ち、違う!別に憧れとかではなくて…!それが最善の……!……!」


 ブリティの言葉を丸呑みにするのなら、看護師に憧れるザキシャが積極的に膝枕をした事になるのだが…。

 これまで幾多の交渉事に携わり、裏の意図を汲む経験をしてきたザンは、何となくだが経緯を察し、何故ザキシャが膝枕をしてくれたのかを理解する。


「そう言う事ですね。ザキシャさん。私の体力を鑑みての行動だったかと推察致しました。ありがとうございます。」


 体を起こしたザンは、座りながら感謝の意を込めて頭を下げた。

 丁寧な感謝に眼をパチクリさせたザキシャは。


「だ、だから…べ、別に良いんだよ!仮にも試練を進めるのに、お前の戦闘力は利用価値があるんだからね!」


 何と言うデレツン。

 とは言え、ザンはそこに突っ込むほど野暮な性格はしていなかった。

 微笑みながら、無言で頭を下げるのみ。


「あ、ザキシャはデレツンツンデレなのにゃ。意外なのにゃ。」

「はぁっ…!?」


 残念ながら、空気を読まない人物がいた為に…ひと騒動あったのは言わずもがなだろう。


「アノ……ソロソロ次ノ階へ行カナイト…。」


 声をかけるタイミングを掴めないナビルンの、戸惑い気味な声はひと騒動の騒ぎ声に掻き消されるのだった。

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