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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
987/994

16-5-24.屋敷に訪れた悲劇

執筆の時間が少し取れるようになってきました。

2019年7月は不定期更新のままですが、8月には…定期更新に戻せるように頑張ります。

 翌日。

 警察署で一晩中取り調べを受けたザンは、昼前に警察署から解放された。

 麻薬取引の事について何も知らなかったザンは、全てを正直に話した。そして、主人である貴族がザンの関与を否定した事が決定だとなって無罪放免になったのである。

 若干の疑いは残っているようだったが、警察としてもこれ以上の取り調べは無意味だと判断したのだろう。


「…ふぅ。まさかこの様な事になるとは…。一先ず屋敷に戻って他の皆に事情の説明をしなければなりませんね。」


 ほぼ寝ていない為に体がフラフラするが、それでも筆頭執事としての仕事を全うすべく屋敷へ向けて歩き出した。

 …そんなザンの後ろ姿を眺めながら顎に手を当てる男が、警察署の陰に自然体で立っていた。


「…想定通りに事が進んでますね。これならば…。」


 そう呟いた男は薄っすらと氷のような微笑みを浮かべて人混みに消えていった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 屋敷についたザンは、努めて明るめのテンションで正門から中に入っていく。筆頭執事たる者、他の者達にこれ以上の不安を与える言動をすべきでは無いのだ。


「只今戻りました。」


 門を入り、内側に設置された守衛小屋に顔を出す。いつも明るいテンションで豪快に笑う守衛と少し話せば、自分の気持ちも少しは持ち直せるのでは…そんな小さな期待を込めて。しかし…。


「おかしいですね…誰もいません。」


 いつもなら最低でも1人は残って警備に当たるのが決まりなのだが…守衛小屋には誰もいなかった。

 しかし、ラジオが点いていたりと…少し前までは誰かが居た痕跡がある。


(もしかしたら、私とご主人様が警察に連れていかれた事で、緊急の会議でも行なっているのかも知れませんね。)


 屋敷の者が全員集まっているのなら、その場で現状の説明をすべきである。そう心を決めたザンは、会議を行うのに適任である一室を目掛けて歩き始めた。


「………。」


 その後ろ姿を無言で眺める1人の人物が物陰にいる事に気付かずに。


「…どうにか皆さんに落ち着いてもらわなければなりませんね。」


 貴族が屋敷に戻ってきた時に、最低限の状態を保つ必要があるのだ。その為にも、共に働く仲間達の理解が必要。そして、その理解を得る為には自分が動くしかないとザンは理解していた。

 そして、皆が集まっているであろう従業員ミーティングルームへ入っていく。


「ザン様…!」

「ご無事だったのですね!」

「ご主人様は……!?」


 ザンの姿を認めた屋敷仕えの者達がホッとしたような表情を浮かべながら駆け寄ってくる。

 貴族が逮捕されてから1日経っただけだが、全員の顔に疲労が見て取れた。よっぽど心配な夜を過ごしたのどろう。


「皆様、ご心配をおかけしました。現状の報告と、今後の動きについて話したいと思います。まずは落ち着いて、各自の席に座って下さい。」


 優しいザンの声色に落ち着きを取り戻した者達が席に着くのを待ち、ザンは警察関連で起きた内容を余す事なく説明していく。

 下手な隠し事はのちの禍根に繋がる。そう判断した上で…全てを。


「…という事になります。」


 ザンの説明を聞き終えると、メイドの1人が挙手した。


「どうしましたか?」


 そのメイドは、視線を彷徨わせて逡巡した後に、意を決して表情を引き締め…立ち上がった。


「あの…ザン様にこんな事を言うのは……きっと違うとは思うんですけど…。ご主人様は本当に無実なのでしょうか。そして、ザン様も本当に何も知らなかったのでしょうか。だって…だって……。」

「……?だってとは?」


 メイドの意図するところが理解出来ないザンは眉を顰める。この反応はザンの知らない何かを知っているという事なのだろうか。

 であるのなら、彼女は何を知っているのだろうか。

 周りにいる者達も、そのメイドが何を言いたいのかが分からないようで、顔を見合わせるばかりだ。

 …その疑問は、すぐに解決する事になる。メイド自身の言葉によって。


「だって…麻薬漬けにされた女の子達が居たのは………ザン様の部屋からしか行けない隠し部屋なんですよ…!?どうして、どうしてあの部屋に女の子達は監禁されていたんですか!?私には何が真実なのか分かりません…!!もう、もう…何を信じれば良いのでしょうか…。」


 メイドの瞳から雫が流れ落ちる。

 そして、その言葉を聞いていた者達の目線が、ザンを慕うものから…ザンを疑うそれに変わっていた。


「な…それは本当ですか!?私の隠し部屋に…。そんな馬鹿な事が……!?」


 信じることの出来ない現実だった。

 ザンは自分の隠し部屋を支える貴族の繁栄計画室として使っていた。数多の極秘資料を保管する部屋に、麻薬漬けの女の子を監禁するわけがなかった。

 驚愕に思考が止まりかけるザンへ、悲しみの視線を向けながら、 メイド長が口を開く。


「ザン様…恐れ入りますが、全て事実でございます。」

「そんな…しかし、あの部屋の存在はこの屋敷に勤める者しか知らないはず…。」


 衝撃の内容に思わず口走った言葉。それが失敗だった。


「そんな…ザン様は私達の誰かを疑うのですか!?」


 メイドの1人が涙目になりながら叫んだのだ。


「…!?いえ、そんなつもりは…。」

「私達はご主人様に仕えることを誇りに思い、ザン様という大きな目標の背中を追いかけて邁進してきました。それなのに…それなのに!!ザン様は私達の事を信じてくれないのですね…!」


 迂闊だったとしか言いようが無かった。

 しかし、時すでに遅し。

 メイドの言葉を皮切りに…疑心暗鬼が渦巻き、屋敷の者達同士の言い合い。そしてザンへの不信感が高まり…話し合いの継続が不可能となってしまったのだ。


「なんて事ですか…。一体これは……。」


 周りの人々が言い合いをする中、ザンは頭を抱えてしまう。

 そのザンを見ながら…1人のメイドが陰湿な笑みを浮かべた事に気付かぬまま。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 その日の深夜。

 自室のベッドに身を横たえていたザンはふと目を覚ました。

 執事服はザンの心を表すかのように乱れてしまっている。


「………。はぁ……。これから先…どうなってしまうのでしょうか。」


 屋敷の者達で行われていた会議は、ザンによる説明によって手をつけられぬほどに混乱をきたし、流れのまま解散となってしまった。

 かつて共に笑い、貴族を支えてきた仲間が…疑い合う姿は見るに耐えないものだった。


「……いえ、1番疑われているのは私ですね。」


 自嘲気味に笑い、がっくしと頭を垂れる。

 従業員ミーティングルームから出て行くメイドや執事達がちらりとザンへ向けた視線…それは、疑いというよりも憎しみの感情が込められたものだった。

 隠し部屋に監禁されていた女の子達という事実、主人である貴族を守りきれなかったという事実、様々な事実が重なり…ザンは信頼を失ってしまったのかも知れない。


「………私の、隠し部屋。」


 ふと疑問が浮かぶ。

 先程は混乱して思考がうまく働かなかったが…そもそも、いつから女の子達は監禁されていたのか。


「おかしいですね…。昨日の朝、ご主人様に取引の事実を確認するための資料を取りに行った時は…何もありませんでした。」


 そもそも、ザンは女の子達が監禁されていたという現場を見ていない。一体、大量の書類が所狭しと綺麗に整頓されたあの部屋で…どう監禁されていたのだろうか。

 ふらふら…と、ザンは動き出した。自室の本棚を横にスライドさせ、現れた隠し部屋へのドアを開ける。

 その先にあったのは……。


「……どういう、どういう事ですか…!?」


 あり得なかった。信じたくなかった。こんな事があって良い筈がない。目に映し出される光景が真実だとするのなら、事実が真実ではなく、真実は虚実に上塗りされている可能性がある。


「…あの人は。」


 自室の机にしまってある従業員名簿を取り出し、ザンは震える手で捲っていく。


「3ヶ月前……。ならば、取引は……。」


 今度は隠し部屋へ向かう。

 書類が綺麗に整理整頓された「いつも通り」の隠し部屋から麻薬取引に関連すると思われる書類をまとめたファイルを取り出す。


「最初の記録は…。あった。これも…3ヶ月前……。」


 導き出される1つの推論。

 ザンは目を瞑り、心を落ち着ける。覚悟を決める。


「……確認しなければなりません。」


 そう呟いた声には力強い意思が宿っていた。

 もし、ザンの推論が正しのならば…最早これは白金の都全体に関わる問題なのだから。

 そして、服の乱れを直し…「完璧な執事」の装いを取り戻したザンは自室のドアを開けて廊下へ出る。

 そして、眉を顰めて動きを止めてしまう。


「静か過ぎる…?それに暗い…?」


 まるで廃屋となったかの様な雰囲気。

 色々あったから、屋敷の者達も仕事を休んで自室で眠っているのだろうか。

 しかし、こんな時だからこそ、深夜の警備は確りと行う必要があるのも事実なのだ。

 明かりが全く点いていないのも良くないので、ザンはやや手探り気味で廊下の明かりを点けるスイッチのところまで移動する。


 カチッ


「……点きませんね。」


 カチッ。カチッ。


 何度か試すが、反応がなかった。ブレーカーが落ちてしまったのだろうか。

 念の為電気室を確認しようと思い、歩き始めた時…。


「ギャァァァアァぁァァァぁ!!!」


 耳をつんざく叫び声が廊下に響き渡った。


「何が…!?」


 ザンはすぐに行動を開始した。

 何が起きたのか。すぐに確認し、対処する必要があった。


(何故こうも立て続けに…!)


 声のした方へ走る。走る。

 幾つかの扉を開け、部屋の中を覗き、誰もいないことを確認して…を繰り返す。

 そして、リビングのドアを開けて中を見たザンは…動きを止める。


「こ…れは……。」


 そこに居たのは…ザンが問いただそうとしていた人物だった。

 但し、四肢欠損という痛ましい姿で横たわっていたのである。

ザンの過去は1話で収めるつもりだったのですが…。次話までお付き合いください。

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