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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
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16-5-22.古代遺跡7階の試練

 古代遺跡6階の試練をクリアしてから10分後。

 興奮絶頂煮干を食べ損ねて激しく落ち込むブリティ以外の面々は…ナビルンを取り囲んでいた。


「ナ、ナ、何ナノデショウカ?早ク次ノ階ヘ進ムベキナノデス。」

「あら。誤魔化そうとしたって無理よ?あなた…何か隠しているでしょ?」

「…ハテ?」


 クルルの追求にカコンと斜めに傾いてはてなマークを浮かべるナビルン。


「だから…誤魔化せないわよ。ブリティが試練に挑戦している時にブツブツ言ってたじゃない。今回の試練は…とか、記憶の源…とか。」

「……ハ、ハテ?」


 カタカタと揺れながらも惚けようとする。ダラダラと汗をかいているように見えるのは…恐らく気のせいだろう。無機物なのだから。


「アタシもクルルと同じ事を聞きたいねぇ。この古代遺跡、最上階に何があるのさ?そもそも、何のための試練なんだい?」

「……ソレハ、言エマセン。」

「ほほぅ…つまり、ぶっ殺されたいって事だね?」


 ザキシャは胸の前で合わせた手のひらでボキボキポキポキと骨を鳴らす。所謂、というか明らかに脅しである。

 カタカタと揺れ続けるナビルンは救いを求めて周りを見回すが…、当然の如くナビルンを助けようとする人はいない。

 ちょっとカッコ良く言えば、孤立無援なのである。

 1番情に弱そうなミリアでさえ腕を組んでキッと睨んでいるのだ。逃げようがなかった。最も、クルルがミリアに「口を開かずに怖い顔をしていて」と事前に頼んでいたことはナビルンには知る由もない。

 そして、ナビルンは遂に観念する。


「……分カリマシタ。話セル範囲デノミ、オ話シシマス。」


 がっくりと項垂れたナビルンは、ボソボソと話し始める。


「コノ遺跡ハ主人ガ部下ヲ試ス施設ナノデス。」


 沈黙。


「………。」

「…………。」

「……………。」


 沈黙。

 それに耐えかねたザキシャが眉を釣り上げながら、低い声を出す。


「…で?」

「終ワリデス。」

「はぁっ?テメェ、1度ぶっ壊れてこい。」

「マ、マ、マ、待ッテ下サイ!ソ、ソウダ。思イ出シマシタ。試練ハ主人ガ決メマス。主ガ決メタ試練ヲ乗リ越エレバ、謁見ト忠誠ヲ誓ウ権利ヲ得ラレルノデス。」

「ははぁん。つまり、私達が試練を受けてるって事はだ、その主人って奴が…最上階の10階に居るって事で合ってんな?」

「……ハイ。」

「よしよし。でだ、その主人ってのは誰なんだ?」

「ソレハ言エマセン。」

「あぁん?おかしくないか?部下が主人に忠誠を誓う権利を得るためにこの試練があるんだよねぇ?それなら、主人が誰か知らずに試練に挑むってのは…変じゃぁないかい?」

「……先程ノ説明ハ、アクマデモベースデス。……コレ以上ハ話セマセン。」


 ナビルンはクルクル回りながらホールの天井付近へ上昇していき…降りてこなくなった。これ以上は情報を話さないという意思の表れなのだろう。


「ちっ…。食えねぇなアイツ。」


 不機嫌そうに舌打ちをして頭をガシガシと掻くザキシャを見て、クルルは表情を和らげた。


「ザキシャ…あなた、何だかんだ言って協力してくれてるのね。感謝するわ。」

「なっ…!?ア、アタシは別にそんなんじゃないんだよ!」


 ポッと顔を赤らめて横を向くザキシャ。


「こういうちょっと出る女らしさがヤベェよな。」

「照れるザキシャさん…惚れそうだゼィ!」


 こんな風に、後ろではドッグテイマーズの仲間達がザキシャの反応を見て喜んでいる。

 どうやら、ガサツなキャラではあるが、ある程度の信頼を仲間から得ているのだろう。それだけのカリスマ性を持ち合わせている…という事になる。


(…博愛党の手先となって裏仕事をこなしてきただけはあるのね。しかも、1人ではなく仲間達と…。本格的に敵に回ったら…。)


 クルルはザキシャとドッグテイマーズの反応を見ながら分析をする。

 今はこの古代遺跡における試練突破という共通の目的で動いているが、最上階に到達して目的の古代魔具を見つけた時…激突は避けられないだろう。


(あちらも同じ事を考えてはいそうだけど…彼女達が試練で戦う時に、しっかりと見極める必要があるわね。)


 自分を見つめるクルルに気付いたザキシャは、何を誤解したのか…。


「な、なんだい!?アタシは女相手の趣味はないからねぇ!?」

「ちょっ…!私にもそういう趣味は無いわよ!」


 いきなりのレズ疑惑浮上に慌てるクルル。

 ここから数分間、不毛な言い合いが続いたのは推して知るべし。

 また、ミリアとザンが会話に加わらずに黙っていたのは当然の如く。である。


 そして、レズ疑惑がある程度の落ち着きをとりもどしたところで、天井付近にて避難していたナビルンが恐る恐る降りてきた。


「ア、ア、アノ…ソロソロ次ノ階ニ進ム時間デス。」

「あぁん?」

「ヒィィィ…!?」


 睨みつけるように反応したザキシャに怯えるナビルン。

 試練を提供する側にも関わらず、立場は完全に逆転していた。


「まぁまぁ。ナビルンの言う事に間違いは無いわ。次の階に進む時間制限があるのは本当だし、進みましょう。但し…何か怪しい動きをするのなら、ルール無用で良いと思うわ。」


 レズ疑惑の激しい言い合いで乱れた髪を直しながら、クルルはザキシャを宥めつつ、ナビルンに牽制をかける。


「…そりゃぁいいねぇ。ボッコボコにしてやりたい衝動を押さえるのがそろそろ限界なんだよアタシはさぁ?」


 悪ノリするザキシャ。…効果は覿面だった。


「ワ、私ハ公正ナ判断ヲシテイマス…!イ、イエ…今後モ適正ナ公正ナ試練ノ実行ヲ致シマス……。」


 恐怖によってナビルンは「不正を行わない」事を誓ったのだった。

 しかし、この試練がどういう意味を持つのか。それを知る事は叶わず、先に進むという選択をするしかない事に変わりはないのだった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 古代遺跡の7階に進んだ一同は、これまた変わり映えをしない遺跡内部の様子を気にする事なく…次の試練が始まるのを待っていた。

 とはいえ、ただ待っている訳ではない。


「だぁーかーら!この階はアタシ達が戦うって言ってんだよ。」

「ふぅ…。何度同じ事を言えば気が済むのかしら。ドッグテイマーズはチームで戦うのが強いのよね?それなら、チームで戦える試練を選ぶべきでしょ?」


 口論を繰り広げているのは、ザキシャとクルルである。レズ疑惑の初々しい雰囲気はどこにいったのやら。やや険悪ムードである。


「ア、アノ…7階ノ挑戦者ハ1人……デスノデ…。」


 恐る恐るナビルンが場を収めようとするが…。


「だぁかぁーら!そうやって誤魔化して、気付いたらチームで戦うチャンスがありませんでしたぅて可能性があんだろって言ってんのさ!アタシにそーゆー騙しは通じないんだよ。」

「デスカラ…」

「もしだよ、そんな事が無いってんなら、その証拠を見せてみろってのさ。」

「ザキシャ…少し落ち着きなさい。」


 怒るザキシャ。怯えるナビルン。宥めるクルル。

 ある意味不毛とも取れる言い合いは暫く続き…。


「話ヲ聞イテ下サイ!!」


 遂に耐えかねたナビルンの叫びで全員の口が閉ざされる。…というよりも、ポカンと開けられた。

 当のナビルンはその他面々の反応に気付かずに、怒濤のように捲し立てた。


「先程カラ私ガ話ソウトスル度ニ話ヲ全ク聞カナイデ何ナノデスカ!?デスカラ、7階ハ1人デ受ケル試練ダト言ッテイルノデス!!6階デ、ブリティサンガ試練ヲ受ケテイル間ニ試練ノ再構築ヲシタノデス!ダカラ、ドッグテイマーズノ皆サンガ試練ヲ受ケルノハ8階ニシテ下サイ!」


 プルプル震えながら、全員が呆気に取られているのに気付かず…ナビルンは続ける。


「ソモソモ貴女達ハ何ナノデスカ!?試練ヲ受ケルニモソレナリノ礼節ガアッテ然ルベキダト思ウノデス!コノ試練ハ主人ヘノ忠誠ト、ソレニ値スル実力ガアルノカヲ見極メル場!ソモソモニ於イテ、挑ム者ガアレコレト注文ヲスルノハ…オ門違イナノデス!!」


 言い切って肩?で息をするナビルンを冷めた目で見ながら、ザキシャが肩を竦める。


「アンタねぇ、何か勘違いをしてないかい?アタシがチームで戦えるのかって脅しみたいに言ったけど、アンタは戦えるって言ったんだ。戦わせろとは言ってないつもりなんだけどねぇ?それに…そもそもに於いてアンタが何かを隠してるのは問題じゃないのかい?」

「ソ、ソレハ…。」

「さっきも言ったけど、大体この試練…アタシ達は誰に忠誠を誓うのさ?その主人も分からないのに、何を試されてるのさ。そこんとこの説明がないまま試練を受けさせられてるっておかしくないかい?」


 淡々と、だが突き刺すような物の言い方に…ナビルンは言葉に詰まってしまう。


「ソ、ソレハ…デスカラ…。」


 だが、ザキシャはそれ以上の追求をしなかった。


「まぁいいさね。アタシ達はこの塔に落ちたであろう流れ星の正体を掴みに来たんだ。きっとその正体とこの試練が関係してるんだろうねぇ。ナビルン、さっさと試練を始めな。この階は1人で挑む必要があるんだろう?それならザンがミリアが行くと良いさ。」


 手をヒラヒラと振りながら、ザキシャは壁際に移動してダルそうに座り込む。ドッグテイマーズの面々はそのまま従うつもりなのだろう。特に異論なく、ザキシャの周りに集まるのだった。


「えっと…ザン、どうしよっか?」

「そうですね。私が行ってもよろしいですか?順当に試練が進んだとして、10階でも戦いがあるとすると…それまでに体力の回復をしておきたいので。」

「分かった!よろしくねっ。」


 つまり、ミリアは自動的に9階の試練に挑む事になる。続けて10階でも試練に挑むとなると…連戦になる可能性があるのだが、実力的にザンの方が自分よりも強いと思っているミリアは特に迷いなく頷いたのだった。

 クルルはこの決定に特に不満は無いのか、静かに壁際へ移動すると寄り掛かり…腕を組んで観察の体勢にはいる。


「それでは…いきましょう。」


 ゆったりと、姿勢良く、風格ある執事としてザンはホールの中央へ歩む。

 そして、到着するとナビルンへ試練の開始を促した。


「ナビルンさん。試練を始めて頂けますか?」

「…ハッ。ア、ハ、ハイ。始メマス。」


 思考回路が壊れかけているのか、しどろもどろなナビルンは試練の開始を受諾する。

 そして、影が集まり…男の形を成す。

 普通の男の形だがどこか油断出来ない雰囲気を放つ男の影を見て、ザンは目を細めた。


「…これはこれは。」


 それに対し、男の影は自身の両手を見てグーパーを何度か繰り返すと、指を顎に当てて思案するポーズを取った。


「こういう事もあるんだね。不思議な感じだけど…しょうがないっか。俺はあなたと戦えば良いんですか?」

「…えぇ。試練で貴方に挑むザンと申します。」

「こちらこそ宜しくお願いします。」


 ザンの名乗りに反応して丁寧に頭を下げる男の影。


「えっと…じゃあ戦いますか。」


 そう言うと、男の影は一丁の銃を取り出し…ザンに向けて発砲した。


「おっと…!?」


 反応して身を傾けたザンの頬を掠めて弾丸が通り過ぎ、いつの間にか張られていた結界に衝突して消滅する。


「いきなり…ですね。」

「それはそうですよ…。……ってヤメヤメ!敬語使ってると話しにくいから普通に話すね。俺は見ての通り、遠距離タイプだよ。ザンは見たところ近距離から中距離で戦いそうだね。間合いを制した人が勝つ事になりそうだから、手加減はしないよ!」


 そう言うと、男の影は後方に飛びながら銃の連射を開始する。

 ザンは飛び交う弾丸を避けながら距離を詰めるべく駆ける。

 試練を行っているホールという場所の都合上、結界間際まで押し込めば戦闘距離は必然と狭まる事になる。

 男の影がすぐに結界の手前まで移動したのを見て、ザンは口元に微笑を浮かべた。


(これなら、こちらの間合いで一気に攻めれます。)


 有利な展開だと判断したザンは、一気に勝負を決めるべく両手に装着した5本の爪を振りかざす。

 そうして放たれたのは、数多なる斬撃だ。幾重にも折り重なる斬撃の嵐が男の影を…確かに切り裂いた。


「……なっ!?」


 だが、ザンは背中に強い衝撃を受けて前のめりに倒れてしまう。


「甘いよ。移動手段は移動だけじゃ無いんだよね。ザンはさ、詰めが甘いよね。だから…主人の不正に気付かないんだよ。」

「……何を言っているのですか。」


 地面に這い蹲ったザンは、顔を上げて男の影を睨み付ける。


「何をって…勝つ為に裏で行ってきた不正の数々についてだよ。」

「重光様は…不正など行っていません。」

「ホントに?絶対にって言い切れる?」

「えぇ。絶対に。」

「大した忠誠心だね。でもさ、ドッグテイマーズの存在はどう説明するのさ。」

「……っ!?」


 視線をドッグテイマーズに向けたザンは何かに気付いたのか、咄嗟に視線を逸らしてしまう。


「……いや、そんな訳が。しかし…。」


 揺れるザンに対し、男の影は肩を竦める。


「そんなに認めたく無いの?だったら俺が言ってあげるよ。」


 古代遺跡7階の試練。

 それは、仕える者の資格を見極める試練である。


 己が心と向き合う戦いが始まった。

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