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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
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16-5-19.ザキシャとミリア

仕事の都合で更新が1日遅れました。

 白黒のボーダーシャツを以前と変わらず着こなしたザキシャを見たミリアは、サリーちゃんの依頼時に何度もやり合った時の事を思い出していた。

 基本的に彼女達の戦法は「真正面から戦う」では無く、「目的の為には手段を選ばない」といった感じが強い。

 卑怯。と言えばそれまでだが、彼女達が1つの組織として活動している以上、依頼主の目的を達成する為に手段を選ばないのは、最善手と言っても差支えがない為…避難する事はお門違いなのである。

 そういった事情を考慮した上で…とはなるのだが、ミリアがザキシャに対して嫌悪感を抱く事は無かった。ある意味で欲望に忠実に、正直に生きるような生き様をカッコ良いとも思うからだ。

 そのザキシャは下の階から登場するなり、問答無用でミリアに襲い掛かってきた。…名前を間違ってしまったのが要因の1つかもしれないので、ミリアに非がないとは言い切れないのではあるが。


「くたばりやがれ!」


 映画だったらすぐに退場となる三下悪役が吐きそうな言葉を叫びながら、ザキシャの両腕に装着されたクローが斜め下から交差するように振り上げられる。


(えっ…。いきなり攻撃っ?)


 ミリアとしては意味が分からない展開だった。

 確かにサリーちゃんを巡る依頼でやり合ったが、それ以上の怨恨など無いはずだった。


 ガギィン!


 ザキシャのクローとミリアが抜き放った不死鳥の細劔が交錯する。


「ちょっと待って…!何でいきなり攻撃されるのっ?」

「はぁぁぁっ?それはアンタがアタシの依頼主の天敵から依頼を受けて行動してっからに決まってるでしょぉが!」

「えっ…!?」


 ギラリと鈍い光を放つクローの向こう側でザキシャの見開いた目が爛々と怒りの炎に燃える。


「はんっ!アタシ達は目的の為にはどんな犠牲も厭わない。守るのは仲間の命と依頼主との約束のみ。つまらない仲間意識や、感情に左右されて動くアンタらに負ける道理がないのさっ!」


 ミリアの細劔を弾いたザキシャは回し蹴りを起点とした連続攻撃を容赦無く叩き込んでくる。


「速い……!?」


 ギリギリ紙一重のレベルで防ぎきったミリアは反撃の刺突を放つが、必要最低限の動きのみで避けてみせたザキシャは足払いでミリアの体勢を崩し、浮いた体に下から蹴りを抉りこませた。


「うっ…!」


 苦悶の声を漏らしながら吹き飛ぶミリアは、壁に叩きつけられると地面へ落下する。


「いたたっ…。天敵って事は…博愛党の依頼で動いてるって事?」

「はんっ。今の攻撃を受けても普通に話すってのは…本当に底が知れないねぇ。そうさ。アタシ達は博愛党の依頼を受けてここにいる。アンタ達の目的を阻止する為にね!」

「話に割って入らせてもらいますよ。ザキシャさん。貴女は…私達の目的をご存知なのですか?」


 眼鏡の位置を直しながらミリアとザキシャの間に割って入ってきたのはザンだ。

 そのザンを忌々しそうに睨みつけると、ザキシャは肩を竦めた。


「はん!詳細は知らないよ。ただ、重光も絡んでるんだろう?となれば、今回の選挙に関わる何か。それか…重光お得意の古代文献関連じゃないのかい?私達はその女…ミリアのせいで立場が危ういのさ。だから、革新党の思惑を潰して面目躍如をする必要があるんだよ。」

「成る程…ミリアさんの所為と言うのはサリーちゃんの件でしょうか?あれは単純に実力で負けただけだと私は記憶していますが…それで恨むと言うのはお門違いだと思いますよ?」


 ザンの挑発じみた指摘にザキシャからは怒気が漏れる。


「はぁぁっ!?ふざけないで欲しいもんだねぇ…アタシ達には何もないんだ。この巫山戯た社会の中で、実力だけで這い上がって来たんだよ。血反吐を吐きながら、仲間を失いながら…博愛党の汚れ仕事を請け負うまでになったんだ。ところがアンタ達は…笑顔を守る為?…そんなチンケな理由でアタシ達の邪魔をしやがって…!許せないねぇ。もうアタシ達に後は無いんだよ。ここでぶっ潰し、返り咲く。ドッグテイマーズは決して負けないのさ…!」


 ブンっ!とザキシャの腕が振られ、巨大な風刃がザンに向けて乱れ飛んだ。


「……どうやら、勘違いをしているようですね。」


 迫り来る風刃群を眺めながら、冷静に肩を竦める仕種をするザンは左手を前に翳し、魔法壁を展開する。

 非物理の魔法に属する魔法攻撃を防ぐ球状の結界がザンの前方に現れ、風刃を全て防いで見せた。


「な…っ!魔法障壁ならまだしも、よりによって魔法壁で防ぐのかいっ!」


 ギリギリと歯軋りをするザキシャを眺めながら、ザンは眼鏡の位置をクイッと調整する。


「私達革新党の目的は選挙にあらず。いえ、選挙に勝つ為にあらず。というのが正確でしょうか。あくまでも平等に、公正に政権奪還を目指しています。」

「はんっ!そんなのいくらでも言いようはあるだろう!?ほんっと喰えない男だねぇ。こうなりゃ…私達の実力を味あわせてやるよ!」


 ザキシャとその仲間10人から魔力の波動が迸り始める。


「…ザン、気を付けて!ザキシャ達は同じ固有技を使うっ!」

「…!?それは…油断なりませんね。」


 ザンが警戒を強め、ザキシャ含むドッグテイマーズが疾走を開始する。

 ところが…。


「オ待チ下サイ!オ待チ下サイ!」


 と、ザンとドッグテイマーズの間にナビルンが割って入ってきた。


「なんだい?この奇妙なロボットは。」


 思わぬ部外者に顰めっ面を見せながらも、一旦は動きを止めるザキシャ。


「ロボット…失礼デス!私ハナビルン。高潔ナ存在デス。」

「そんな事を聞いてるんじゃないんだよ。なんの権利があってお前さんにアタシの戦いを止められなきゃならないんだい?」

「ソレハ…私ガ案内ヲスル事ヲ生業トシテイルカラデス。」

「はぁ…?意味が分からないね。部外者は引っ込んでな。」

「アナタハ馬鹿デスカ?」


 突然の馬鹿呼ばわりにザキシャの額に血管が浮き出る。


「テメェ…ぶっ壊すよ?」

「ソレハ得策デハナイト進言シマス。」


 クルンクルンと縦回転を始めたナビルンは、怒るザキシャに怯えることなく…話し始める。


「良イデスカ?コノ古代遺跡ノ6階カラ9階ニハ守護者が鎮座シテイマス。彼ラヲ倒サナイ限リ上ノ階ニハ進メマセン。更ニ、守護者ヲ倒シテ30分以内ニ次ノ階へ進マナケレバ、1階ヘ強制転送サレマス。ツマリ…。」

「戦力が多い方がこの塔を攻略するのに有利だから、手を組めって事だね。」

「アァ…!?ドウシテ結論ヲ言ワセテクレナイノデスカ!?アンマリ…アンマリナノデスヨ!」


 ギュルギュルと喚くナビルンを無視しながら、ザキシャはザン越しにミリアの顔を眺め…ニンマリと笑う。


「いいねぇ。ここでアンタ達を倒しても、最上階に到達出来なければ何も得られないわけだ。それなら…利用し合おうじゃないかい。勝負は最上階に到着した時までのお預けだよ。精々手の内を晒してくれないとねぇ?」


 口の裂けたような狂気的な笑みを浮かべたザキシャは、闘気を消し去ると、クルリと背を向けて後方に控える仲間の所へと戻っていった。

 手のひらを返したかなような急激な態度の変化にミリアは目を丸くする。


「え…本当に手を組むのかな?」

「そうみたいね…。油断ならない奴らが同行することになったわ。」


 少しばかし信じられない表情のミリアとクルル。

 ザンはというと…肩を竦める仕種をしながら笑っていた。


「これはこれは面白い展開ですね。まさか、一時的とは言え、博愛党と革新党に其々所属する者が手を組む事になるとは…夢にも思いませんでした。」


 どうやら今の状況を楽しんでいるようである。

 だか、いつ裏切られるのか分からないのでは…と、疑問に思うミリア。


「ザン…大丈夫なのかな?もしかしたら守護者っていうのと戦ってる後ろから攻撃されるかも知れないし…。」

「あぁ…その心配は無いと思います。彼女達ドッグテイマーズは、裏組織…という観点で見ると、その拘りといいますかプライドの高さは有名です。先程ザキシャさんが『勝負は最上階までお預け』と言っていましたので、基本的にそれまでに卑怯な攻撃をしてくる事は無いと思います。あくまでも…裏切る事は無いだろう。と言う事ではありますが。」

「そっか…。」


 政界の事情に1番詳しいであろうザンがこう断言するのだ。そうであるのなら、警戒はしつつも信じて良いのでは無いか。そう思ったミリアがクルルへ視線を送ると…。


「えぇ。取り敢えずは手を組む方向で良いかも知れないわ。この先に待つ試練っていうのを想定した時に、戦力が多い方が良いのは間違い無いと思うし。」


 と、賛同の意を示したのだった。


「私ニ感謝スルノデス!最適ナ案内。ソレガ私ノ存在意義ナノデス!」


 クルクルと回りながら威張り散らすナビルン。


「サァソレデハ6階ニ進ミマショウ!試練ガ待ッテイルノデス。」


 フワフワと浮きながら螺旋階段へ進むナビルン。

 なんというか…上手くナビルンの思惑通りに事が運んでいる気がしてならないミリアは、ポリポリと頭を掻くしかない。

 とは言え…だ、この古代遺跡を先に進まなければならないのは事実。

 ザキシャ達ドッグテイマーズは先程の対立を忘れたかのように…あっけらかんとした様子でナビルンを追い掛けて移動を開始していた。


「なぁにのんびりしてるんだい。さっさと10階まで行くよ。そこからがアタシ達の本当の勝負さ。」


 振り向きつつ言うザキシャはどこか楽しそうに口元を吊り上げ、隣を歩くドッグテイマーズの男の肩に腕を乗せると、螺旋階段を登っていく。


(なんだろう…。あの笑顔…何かを隠してる気がする。)


 具体的に何と言うと、いまいちピンとこないのだが、ザキシャの言動に違和感を感じるミリア。眉間に皺を寄せて考え込むミリアは、ポンっと肩に置かれた手に反応してクルルの方を向いた。


「ともかく、先ずは10階を目指しましょう。全てはそこからよ。」


 小声で囁いたクルルは表情を変える事なくナビルンとドッグテイマーズを追い掛ける。ブリティは何も感じていないのか…「何故か仲間が増えるのにゃ?」と

首を傾げながら歩き出していた。


「むぅ…あの表情、厄介かも知れません。ドッグテイマーズの行動に気を払いつつ上を目指すしかありませんね。最悪、彼女達が手を組むと言う約束を違えるようなら…私が率先して止めましょう。」


 肩を竦める仕種を大袈裟に行いつつ、ザンもクルルもブリティを追いかける。


(なんだろう…嫌な予感がするっていうより、変な事が起きそうな予感がするよっ…。)


 不安に苛まされつつも、ミリアも皆を追いかけて小走りで螺旋階段へ向かう。


 こうして、革新党サイド4名、博愛党サイド10名、謎のロボット?(ナビルン)の合計15名(14名と1体?)という奇妙な組み合わせメンバーが力を合わせて古代遺跡の残り半分に挑むことになったのだった。

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