16-5-18.新たなる同行者。闖入者。
更新が遅くなってすいません。
ミーティングの時間が変わった関係で、確認作業の時間が取れませんでした。
翌日。
何の障害もなくたっぷり休息を取った後に古代遺跡5階に進んだミリア達は、謎の装置前で首を捻っていた。
ホールの中央に置かれているその装置は、それ単体をポンとその場所に置いたかのような違和感があった。どこからか誰かが持ってきて、何かしらの意図で置いたような違和感。故に、コードに繋がっているという事も無い。
装置は台座部分がホールの床と似た素材で出来ていて、何かを置けるような窪みがある。そして、前面には「押してください」と言わんばかりの丸いボタンが1つ。
怪しすぎた。
如何にも起動してくださいと言わんばかりの状況。
「クルル、どうするっ?」
「そうね…螺旋階段が出てない事を考えても、この部屋で何かをしなければいけないとは思うのだけれど。」
「そうですね。ただ、この装置を起動させて良いものか…。分かり易い罠の可能性も否定できません。」
ザンもクルルに同意見のようだった。ミリアも意見に変わりはなく、再び首を捻ってしまう。
だが、ブリティが異を唱えた。
「何を迷ってるのにゃ?さっきホールを探したけど、何もなかったにゃ。つまりこの装置を動かずしか無いのにゃ。コレを置くのが良いと思うのにゃ。」
そう言って彼女が持ち上げたのは、ブリティと同じサイズ感を誇る巨大なクリスタルだ。
実はこのクリスタル…装置のすぐ横に「設置して下さい」と言わんばかりに分かりやすく置かれていたのだ。
「ブリティ…私もそうは思うんだけど、流石に分かりやす過ぎないかなっ?」
ブリティが突っ走りそうな予感がしたミリアが諭しに掛かる。この古代遺跡は今のところ極悪な罠を仕掛けてはいないが、それを警戒するに値する危険度を秘めているのだ。
しかし、ブリティはちょっとばかし違った観点を持っているようで…
「どうしてにゃ?親切じゃないのにゃ?こんなに分かりやすく置いてくれる事に感謝した方が良いのにゃ。」
理解できない。とばかりに眉をひそめて首を捻るブリティ。
「ブリティ…良いかしら。」
ミリアでは止められないと判断したクルルがブリティの引き止めに参戦する。
「この古代遺跡は、明らかに進もうとする人の行動を見て楽しもうとしているわ。1階から3階でミリアが言わされた言葉を覚えてるでしょ?そうやって疑心暗鬼にさせつつ、正常な判断が出来ないようにしてるのよ。だからこそ、ここで素直に善意だと受け止めて装置を起動するのは危険なのよ。そういう思考誘導を掛けられている可能性が否めないわ。きっと、この階のどこかに上に進むためのヒントがあるはずよ。焦って装置を起動させて、爆発でもしたら取り返しがつかないわ。慎重に物事を進めるべきなのよ。」
クルルの唱える慎重論。それは古代遺跡にたいする考察から生まれたものであり、ある種の正解である事に間違いはない。
だが、それは、相手が通常の思考を持っていれば。と言及しておこう。
実際にブリティは通常とはズレた考え方をする事が多く、残念な事にクルルの意見に納得が行かないようだった。
因みに、自分が叫んだ言葉を思い出してミリアが顔を赤らめているが、誰も突っ込むつもりはないようである。
「むむっ?にゃ。疑心暗鬼にさせようとして、優しさを疑わないか試してるって事だと思うのにゃ。つまり、この装置はポンっと動かして大正解だと思うにゃ。」
つまりのところ…平行線である。
状況としてはブリティがクリスタルを持ち上げている時点でクルルが不利と言っても良い。ポンっとクリスタルを装置に置いてボタンを押せば、恐らく装置が起動するのだから。
無理にブリティを止めようとして、クリスタルが破損したとなれば、それはそれで困ってしまう。だからこそ強くブリティを止めにかかれないという現状もあるのだった。
このままでは無警戒に装置を起動してしまうと危機感を覚えたザン…最後の防波堤が動き出した。
「ブリティさん。もし、もしですよ。そのクリスタルを装置に置くことが罠だとしたら…。」
深刻そうな表情で話し始めるザンの雰囲気に飲まれたのか、ブリティはゴクリと唾を飲んで次の言葉を待つ。宛ら探偵小説で真犯人が暴露される前のような緊張感である。
「最悪、煮干しが食べれなくなるかもしれません。ブリティさんが死んでしまうかもしれませんし、煮干しが嫌いになる魔法が発動するかもしれませんし…もしかしたら煮干しアレルギーになってしまう可能性だってあります。」
クルルとミリアはザンの選んだ説得文句に目を見開いて天を仰ぎ、ブリティは…フリーズしていた。大好きな煮干し。それが食べれなくなるということは、ブリティにとっては人生が終わったも同然なのだから。
煮干しとお別れになるかもしれない。その内容にブリティは俯いてしまう。
そして…。
「…………それなら。」
小声。側にいても聞き取りにくい程の声量。
「……問題ナッシングにゃっ!」
大声。心配事が晴れたかのような、晴れ晴れとした元気な声で言ってのけた。
「ほっ?」
ブリティの予想外過ぎる反応にザンは謎の声を漏らして固まってしまう。
「アタイの煮干し愛は本物にゃ。だから死なないし、アレルギーになっても克服するのにゃ。むしろアレルギーを克服した後に食べる煮干しの味は人生で最高の感動に包まれるはずにゃ。つまり、問題ナッシングなのにゃ。煮干し愛を試されてるのにゃ!」
これが意味するところ。
それは、ブリティを止めるというミッションが失敗したという事。
最後の防波堤の筈だったザンのミスにより、ブリティは装置起動への意欲を倍増させたのだ。
「みんな、覚悟をするのにゃ。」
人生を賭けた大いなるミッションに挑む、果敢なる勇者のようなテンション。
「ザン…なんで煮干しを使ったのよ…。」
「…申し訳ありません。大好きな煮干しの話をすれば止まるかと思ったのですが…。」
ザンの選択は間違っていなかったと言える。ただ、ブリティの煮干し愛の深さを見誤ったのだ。
「ブ、ブリティちょっと待って!もう少しだけ別の方法がないか探そっ?私達が探している間に…この煮干しを食べていいよっ!」
そう言ってミリアが取り出したのは…小袋に入った高級煮干しだった。
「はっ…その煮干しは……!……分かったにゃ。煮干しさんを堪能したいから、装置を動かすのは待つにゃ。」
すんなりと了承するブリティ。煮干しによって起きかけた被害は、煮干しによって救われたのである。
目をキラキラと輝かせたブリティは持ち上げていたクリスタルを置き…置こうとして…。
「うにゃっ…とっとっ…。」
バランスを崩した。
「えっ…!?」
「あら…。」
「なっ…!?」
そして。
クリスタルを抱えたブリティは後ろに倒れ込み、プロレス技のバックドロップの要領でクリスタルを装置に突き刺したのだった。
「うにゃ……やってしまったのにゃ。」
打ちつけた後頭部をさすりながら立ち上がろうとするブリティ。その手は…。
「ブリティ待って!!」
「にゃ?どうしたにゃ?」
ポチっとな。
「………やってしまったパート2なのにゃ。」
ゲームオーバー風の効果音が頭の中を流れていく。
キュィィィン
そして、静かな駆動音が装置から発生し、発光し始める。その光は少しずつ、そして急激に強くなり…その場にいた全員の視界を埋め尽くした。
訪れたのは…静寂。
と、新たな……存在。
「皆様コンニチハ。私ノ名前はナビルンデス。コノ5階ニ人ガ訪レルノモ、素直ニ装置ヲ起動シタノモ、久々デス。」
それは丸くて、機械風の羽が左右2つずつの合計4つが付いていた。
装置起動で現れた謎の機械。というか、装置が変形した姿。
全員が驚きによって動く事が出来ないでいた。最も、人によって驚きの質が違うのは想像に難くないだろう。
そんな一同の反応に興味が無いのか、自称ナビルンは話し続ける。
「ソレデハ、ココカラ先ハ、待ツ者ニヨル試練デス。抽出開始………試練存在ノ選択開始……適合存在ノ確認終了………適合存在ノ再現ヲ開始……再現終了……感情ノ複製完了……試練目的ト達成条件ヲ付与……オールクリア。オ待タセシマシタ。6階カラ先ノ試練ヲ設定完了シマシタ。心置キナク挑ンデ下サイ。」
何やら試練とやらの準備が整ったのだろう。
だが、状況を飲み込めないというのも事実。
ここで口を開いたのは…やはりミューチュエルを守る存在であるクルルだった。
「…聞いても良いかしら。」
警戒しながらの問い掛けに対し、
「ドウゾトウゾ。気兼ネ無ク何デモ聞イテ下サイ。答エラレル事ニハ答エマス。」
気楽な反応を返すナビルン。
「…そうね…先ず、あなたは何が目的なのかしら?」
「先程モ言イマシタガ、私ハ試練ノナビヲシマス。モシ、貴女達ガ装置ヲ起動サセナイデ先ニ進ンデイタラ、1階ニワープサセラレテイマシタ。ソノ点ニ於イテ素晴ラシイ判断ダッタト言エルデショウ。正直者、素直者は救ワレルノデス。」
「そうだったのね…。」
「これは…ブリティさんに救われた。という事になりますね。」
発覚した事実により、何とも言えない気分に襲われるクルル、ザン、ミリア。
結局の所、疑ってかかるという姿勢が自然と身に付いていたという事なのだろう。良くも悪くも…ではあるが。
「むむぅ。アタイがバランスを崩さなかったら1階からやり直しだったとは…恐るべき強運なのにゃ…!」
そして、ブリティ自身は「煮干しにつられて装置の起動を先送りにした」つもりだったので、偶然バランスを崩してラッキーという…如何にも謙遜が過ぎる反応をするのだった。
一同の様々な反応を観察しつつも、ナビルンはペースを崩す事なく話を続ける。
「ソレデハ先ニ進ミマショウ。試練ガ待ッテイマス。」
クルクル回りながら楽しそうに空中で跳ねるナビルンは、ミリア達に先へ進むように促す。
それ自体に問題はない。…のだが。
「先に進むのは良いわ。但し、あなたの事を信じられるなら…だけど。」
クルルに疑いの言葉を向けられたナビルンが興奮したように横回転を始める。
「何トッ!何トッ!何トッ!?親切丁寧且ツ優シサデ…私ガアドバイスヲシテイルノニモ関ワラズアナタ達ハ私ヲ信ラレナイト言ウノデスカ!?ソンナソンナソンナ!!!アンマリデスヨ!?コノキュートボディノ何処ニ怪シサガアルノカヲ教エテ頂キタイ!」
これまで拒絶された事が無いのだろうか。と思ってしまう程の強烈な反応にミリアは唖然としてしまう。もう少し落ち着いているのかと思っていたのだが…。
それはどうやらクルルも同じ意見らしく…。
「あのね…この悪趣味な古代遺跡でいきなり現れて、道案内をしますって言われて疑わない方がおかしいわよ。」
「ソンナ……私ノ存在意義ガ……。」
回転速度を減速させつつ、ナビルンはうな垂れるように機械風の羽をダランと下げる。
が、それも数秒。
「……ダガシカシデス。コレヨリ上ノ階ハ真ナル戦イガ待ツ領域。私ハソノ戦イヲ見届ケル義務ガ有ルノデス。故ニ、例エ怪シイト思ワレテモ付イテ行クノデス。」
「そう…と言うことは、基本無害みたいね。」
「そうですね。イマイチ納得感が薄いのですが、よく分からないオマケが付いてくる程度の認識で良いのかも知れませんね。」
「何トイウ暴言!?」
登場してから、存在否定され続けるナビルンが再び高速回転を始める。騒がしく、忙しいものである。
「じゃあ…行きましょうか。」
「そうですね。」
「うん。」
「行くのにゃー。新しい仲間?が増えたのにゃー。」
「私ハ仲間デハ無イノデス!!」
こうして、図らずとも奇妙な同行者を加える事になった一行は6階への階段(装置起動のタイミングで出現していた)へ向かって歩き出した。
と、その時である。
「っしゃぁぁぁああ!追いついたよ!」
激しい怒鳴り声を上げながら4階からの階段を突き破る勢いで飛び出してきた人物が5階の床に降り立つ。
そして、続け様に10人の男達も飛び出してくる。
突然の闖入者に動きを止めるミリア達。
「アワワワワ。試練ニ挑ム者ガ立テ続ケニ現レルノハ何年ブリデショウ!?」
と、ナビルンが騒ぎ立てるが、気にするものは誰もいない。
「あ…!」
と、闖入者達を見て声を出したのはミリア。
「ミューチュエルのミリアとその仲間達!アンタ達に遺跡のアーティファクトは渡さないよ!ここがアンタ達の墓場になるのさね!……ってザン!お前も!!ここでぶっ潰してやる!」
ドスの効いた声で叫ぶ女。
「……ミリア、あの野蛮な女と知り合いなのかしら?」
「う、うん。前にサリーちゃんの依頼で邪魔してきたドッグテイマーズって人達だよ。あの時よりも人数が増えてるけど…確かあの女の人がリーダーで…名前はザキシュだったかな?」
「ちっがぁぁぁああう!私はザキシャだ!ザキシャ=ヨムリムニ!しっかり覚えとけ!」
唾を飛ばしながら吠えるザキシャは両手にクローを出現させると、猛獣のような構えを取り…ミリア目掛けて飛びかかってきた。
「お前への恨みは忘れてないんだよ!ここでぶっ潰す!」
高速で迫るザキシャから放たれる斬撃がミリアに襲い掛かった。




