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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
980/994

16-5-17.博愛党の計画

今回は少し短いです。

 博愛党の計画について口を開くザン。

 その表情はいつになく真剣であり、相当重要な、そして深刻な内容である事が予想された。


「博愛党の計画…これについて、まず伝えなければならないのは、まだ全貌を確認できた訳ではない。という事です。その上でお聞きください。」


 敢えて不確かな情報だと伝えるあたり…気を引き締めて聞く必要がありあそうだった。


「皆さんもご存知だとは思うのですが、博愛党の政策の根幹は『白金と紅葉の都の文化を保全する』事です。それだけならまだ良い。しかし、その手法が急激に過激なものになっている可能性が出てきているのです。その原因は、ここ最近…別の圏で星が壊滅したり、壊滅の危機に瀕する事態が発生している事です。」

「…どういう事?星が壊滅って…戦争でもあったのかしら?」


 情報通のクルルが自分の知らない情報に眉をしかめながら問う。


「いえ、戦争…確かに戦争も勃発していますが、原因はそれではありません。星の危機を招く戦争を引き起こした存在がいるのです。というよりも、集団…とした方が正確でしょうか。」


 ミリアとブリティは全然知らない情報のオンパレードで静かに聞いているが、クルルは自身の持つ知識と情報をフル回転させていた。


「集団…聞いたことあるわね。各星に潜んで、様々な工作を行なっている集団があるって話を。」

「よくご存知ですね。」

「これでもミューチュエルの為に色々な情報を集めているのよ。勿論、表沙汰に出来ない情報も含めてね。その集団の名前は確か……天地だったかしら?」

「えぇ。その通りです。その天地の魔の手が白金と紅葉の都に伸びることを懸念した博愛党が…有事の際に備えて、とある計画を実行しているのです。」

「その話…憶測を元にして博愛党が計画を進めてるって事なのかしら?その天地って集団が白金と紅葉の都を狙うかなんて…そんな簡単に分からないわよ。それこそ徒労に終わる可能性だってあると思うけど…。」


 クルルの指摘は最もである。天地が本当に白金と紅葉の都を狙うのか。この真偽を見極める情報を得るのは…普通に考えて困難を極めるはずである。

 その点に於いてはザンも同意見らしく…。


「そうですね。私も、何を根拠にして計画の立案を始めたのかは分かりません。しかし、博愛党党首の徳川舞頼は先読みの技術と、それに付随した先手を打つ技量に長けた人物です。恐らくは彼女が抱える裏の情報機関が、少なくとも確定に近い情報を手に入れたのでしょう。まぁこの際、情報の出所は重要ではなく、博愛党が計画実行の準備をしている。という事実になります。」

「それで、その計画の内容は?」

「…博愛党は、白金と紅葉の都で育まれた文化を保全する為、星自体を外界と隔離する計画を立てているようなのです。」

「外界と隔離……鎖国って事かしら。」

「それが外界と隔離するという情報から先が掴めないのです。この情報ですら、革新党の調査員数人の命を犠牲にして、奇跡的に入手出来たレベルなので…。」

「表現が気になるわね…。鎖国であれば、交易を遮断するとか、もう少し分かりやすい表現になりそうだけど…。もしかしたら、物理的に他星の人が入れないように白金と紅葉の都に大規模な結界でも張るのかしら。」

「私共も同じような計画内容ではないかと推測しています。厳しい審査を通った者のみが中に入ることを許される、結界によって守られた星…こう考えれば、比較的納得がいくのでは…というレベルですが。」

「けれど、簡単に予想出来すぎて、信じ難い感じもあるわね。…他に博愛党に関する情報は無いのかしら?」

「そうですね…。過去に星の転送機器の改修を行うために、魔法使いの採用を行なっていたのですが、転送機器の改修が未だに行われていない。…という位でしょうか。徳川舞頼は情報統制を含めて圧倒的なカリスマ性を持っているので、基本的に不審な動きがほぼ無いのです。」

「…そうね。転送機器の改修といっても、一朝一夕でできるレベルの話ではないのは確かだわ。鋭意開発中と言われればそれまで。…この博愛党の計画って、本当に警戒するレベルの話なのかしら?」


 クルルの疑問。それを受けたザンは神妙に頷く。


「えぇ。その点に於いては重光さんも大分悩まれていました。杞憂に終わって欲しいというのが本音ですね。しかし、例え鎖国的な計画だったとして、それは革新党の掲げる政策と真逆である事に変わりはない。他星で天地による壊滅があったとしても、私達は…文化を、技術を進化させることで星を守る力を得るべきだと考えています。先人に学ぶ。その大切さを忘れてはいけないのです。」

「そう…。つまり、結局の所選挙の延長線上にある可能性が高い。という事になるわね。そうなると…あくまでも中立を保ちたい私達としては、命を懸ける価値があるか怪しくなってくるわ。」


 そう。そうなのだ。

 革新党が選挙に勝つためだけにミューチュエルに依頼をしたのだとしたら、それは看過できない事態なのだ。それは、「白金と紅葉の都に住む人々の笑顔を守る」というミューチュエルの理念に反するかも知れないから。


(私達が政党に関わる依頼をするのであれば、例えば今回のケースで言えば「公平な選挙を実現する為に不正を阻止する」という場合のみ。…今回の依頼はその点に於いて少し怪しいわね……。)


 ここに来て依頼の遂行に難色を示すクルル。

 ザンからすれば寝耳に水。だろう。つまりは依頼の途中放棄に過ぎないのだから。

 但し、話の展開がこうなる事を想定していなければ…の話である。


「そう…でしょうね。ですが、博愛党の計画の詳細がどうであれ、目的の為に取らんとする手段…。それだけは防がなければならないのです。」

「手段…?」

「えぇ。こちらも詳細はまだ掴み切れていないのですが、黒水と雪の都にて、博愛党の調査員が地質調査を行なっているとの話が。そして、秘密裏に黒水と雪の都全住民を白金と紅葉の都へ移住させる話を進めているらしいのです。」

「それって…。」

「はい。私達は博愛党の計画に黒水と雪の都という星そのものが利用されるのではないかと考えています。しかも、移住させる事が本当だとすると…最悪なケースで予測出来るのは、星そのものを外界と隔離する為の手段に組み込んでいる可能性があります。」


 衝撃的な内容。

 もしザンの話が真実だとすれば、博愛党は白金と紅葉の都を守る為に1つの星を犠牲にするかも知れないという事なのだ。

 それはつまり、ミューチュエルが人々の笑顔の為に活動するという目的に沿うものであり、例え革新党が選挙に勝つ為に今回の依頼を行なったのだとしても…ミューチュエルにはとても断る事が出来ない依頼という事になるのだ。


「…上手くやり込められたわね。最初からこの話をしないで、このタイミングで話したのも重光の策なのかしら?」

「いえ、このタイミングになったのはあくまでも成り行きです。本来であればこの星での依頼活動を終えた後に話す予定でした。何せ、先程のように依頼中断の危険性もあると考えていましたので。」

「ふぅ…。まぁいいわ。兎も角、話の詳細はある程度は理解したわ。今はまだ革新党に手を貸す事にしましょう。」

「ありがとうございます。」


 丁寧なお辞儀で感謝の意を示すザン。

 その様子を腕を組みながら見るクルルは、内心では「やられた」という気持ちが渦巻いていた。


(もし、最初から今の話を聞いていれば…私達は革新党とも博愛党とも手を結ばず、独自に動いていた可能性が高いわね。けれど、一度一緒に動いて、しかも古代遺跡を半分まで進んだこのタイミングで別行動をするとなると…ザンと敵対する事になるわ。下手をすればこのままここで戦闘に至る可能性もある。そうなるのであれば、手を組んで最上部を目指すのが合理的。…本当に重光の指示でなく、ザン自身の判断で話したのだとしたら、下手をしたら重光よりも警戒すべきかもしれないわね。彼が、もし……。いいえ。今は邪推をすべきでは無いわね。)


 胸の内に溜まっていた悶々とした想いを小さな息と共に吐き出すと、クルルは横に座るミリアとブリティへ顔を向けた。


「今の話、大体は理解できたかしら?」

「うん。大体はねっ。ちょっと難しいところもあったけど….大枠は分かってると思うよっ。」


 頼もしいミリアの返事。悪意の察知に敏感なミリアが口を挟んでこなかった事を鑑みても、ザンは「少なくとも悪意の元に話をしていない」という事になる。

 それは、第6感に頼るという一見危なっかしい判断材料だが、これまで多くの悪意を見破ってきたミリアの感覚は信ずるに値するものなのだ。


「アタイは良く分からなかったにゃ。つまり、博愛党は悪巧みをしてて、革新党が悪党成敗をするにゃ?」

「………。ブリティ……少しは真面目に聞きなさい。」


 大枠ではあっているが、ブリティの理解では正悪がはっきりし過ぎている。それは時に大きな不幸を呼び込む可能性が高く…故に、クルルはブリティを脇に抱えると首をギリギリと締めてお仕置きをする事にしたのだった。


「いっ…イタタタタにゃ!止めるにゃ!く、苦しいのにゃ…!はっ……これは……至福の柔らかさがアタイの顔に…!」


 …と、まぁ深刻といえば深刻な話をしたのにも関わらず、いつも通りのテンションを崩さないミューチュエルの面々なのだった。

 そんな様子を見ながら、ザンは微笑む。


(流石ですね。今の話は下手をすれば星を巻き込んだ戦争に発展をする可能性がある話。それを聞いても、信念を曲げず、躊躇う事なく前に進む選択が出来るとは…。彼女達なら…もしかすると。)


「今日はここで休憩をとりましょう。急ぎはするけれど、万全を期する必要があるわ。ザン、夕食当番を任せて良いかしらっ…!」


 ギリギリとブリティの首を締めながら言うクルル。語尾が強めに感じられるのは怒っているのではなく、力を入れているから。それだけである。

 ザンはゆっくりと首肯する。


「えぇ。お任せ下さい。しっかりと魔力が回復するように、秘伝の薬膳スープでも作りましょう。」


 こうして、古代遺跡攻略の1日目は幕を閉じる事となるのだった。

 この先に待ち受ける試練。

 その先に待つもの。

 そして、白金と紅葉の都で渦巻く思惑。

 それらに立ち向かうべく…


 とびっきりの薬膳スープをたらふく食べて寝る4人なのだった。

話に矛盾が出ていないと良いのですが。

確認しながら執筆してたので、更新が夜になってしまいました。

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