5-2-7.対人戦トーナメント準々決勝
応急処置が終わったバルクが運ばれていった所で、龍人、火乃花、遼は控室に戻る。中に入ると、入り口から少し離れた所にスイは座っていた。
残り4人となった控室内は重い雰囲気に包まれていた。スイは顔を少し俯かせ、目を閉じている。瞑想でもしているのだろうか。
龍人は控室の雰囲気に耐えられず、スイに話しかけてみる事にした。
「なぁスイ。さっきバルクの首を狙ったのは本気だったのか。」
スイはゆっくりと顔を上げる。相変わらず無表情のまま視線を龍人へ向ける。
「…それがどうした。試合で手を抜くわけにはいかん。」
「いや、だからって殺そうとするか?」
「ふん。戦場は常に死ぬか生きるかだ。」
「あんたねぇ、戦場って戦国時代じゃあるまいし。何言ってるのよ。」
スイは目線を動かして火乃花を見ると、顔を下へと向けて再び目を瞑った。
「ちょっと…シカト?」
「……。」
スイはそのまま下を向き続けている。
控室に再び沈黙が訪れた所で、外からラルフの声が響いてきた。
「さぁ!準決勝を行うぞ!で、対戦カードはだなぁ…ちょっと待て、今阿弥陀籤やってるから。」
ペンで線を引くようなキュッキュといった音がマイク越しに聞こえてくる。先にやっておけ…とはもはや誰も突っ込まない。
「よし!決まったぞ。まずは…と、高嶺龍人。っもう1人が霧崎火乃花だ!おぉ、こりゃぁ楽しみなカードになったなぁ。じゃ!二人ともよろしくな!」
龍人と火乃花は顔を見合わせると、互いに笑みを浮かべた。2人とも全力でぶつかった事がない為、本人達にとっても楽しみな対戦カードなのだ。龍人と火乃花はリングへと向かう。
控え室に残るのは遼とスイ。龍人は念の為に遼へ声をかける。
「おい、遼。俺たちが戦ってる間に、控室でスイとバトんなよ。」
「そんな事しないってば。2人とも頑張ってね。」
「おうよ。」
共闘者の様にリングに進んだ龍人と火乃花は、リング中央で対峙する。
「じゃ!スタート!」
特別な前置きも無く、シンプルに試合開始を告げるラルフの声が響き、2人は動き出した。




