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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
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16-5-16.革新党の目的、そして…

 古代遺跡の4階。

 そこに待つのは如何なる強敵か。

 3階の時点で既にミリアとブリティが2人掛かりで苦戦を強いられたのだ。ここから先、油断ならぬ強敵が現れるのは必然といえよう。

 ミリア達一行は油断なく螺旋階段を進み、遂に4階へと到着する。

 そこは、3階と同じ作りのホール。少しだけ面積が小さくなっただけで、その他は全く同じ空間である。


「うぅ…またあの石版があるんだよね…。」


 次はどんな破廉恥ワードを叫ばされるのか。それを想像しただけで顔を赤らめるミリア。

 そして、破廉恥ワードをミリアに押し付けるつもり満々の他3名なのである。

 そうなる予定だったのだが…。


「あれ…?無いね。」


 ホールを見回したミリアは首を傾げる。人差し指を口に当てる様は、可愛らしい女の子そのものである。

 自然と男心をくすぐる動作を取れるあたり、アイドルの才能を秘めているのかも知れない。…という余談。


「無いわね…。しかも、螺旋階段がもう出てるわ。」

「ホントだっ。」

「罠の雰囲気がプンプンしますね。」


 何かを考えるような格好でザンが罠の存在を仄めかす。

 普通であれば、慎重に調査をすべき状況。

 しかし、1人だけその普通が通用しない人物がいた。


「うにゃ?ってことは、4階はスルーポイントにゃ?だったら階段で上に行くにゃっ!」


 …と、ノリノリで叫んだブリティが1人で螺旋階段に向かって走って行ってしまったのだ。

 それは罠が仕掛けられていた場合に自殺行為と等しく…螺旋階段を登り始めたブリティに不幸が……訪れなかった。


「5階に行けるにゃ!皆も早く来るにゃ!」


 螺旋階段の途中で手をブンブン振るブリティが子供のように叫ぶ。

 幸運ここに極まれり。


「ブリティ!戻って来なさい!5階に行く前に休憩を取るわ。」


 そして、先に進もうとするブリティを引き止めたのは、やはりクルルだった。


「にゃ?何で休むのにゃ?」


 ブリティは首を傾げる。何故先に進まないのかが不思議なのだろう。


「ミリアの体力が全快していないのと、ザンに…聞かなきゃいけないことがあるからよ。」

「……にゃ?……分かったにゃ。戻るにゃよ!」


 スタタタターンっと戻ってきたブリティは、ビシッと敬礼をしてみせる。


「戻ったにゃ!」

「ご苦労様。一旦…座りましょうか。」

「えぇ。」


 いきなり話の矛先を向けられたのにも関わらず、いつもと変わらず落ち着いた様子のザンが同意した事で、4人は近くにある凹凸部分に座って向き合った。


「して、私に聞きたい事とはどういう内容でしょうか?」


 座ってひと息付いた後に切り出したのはザンである。

 ザンが自分から話を切り出した事に何かを感じたのか、クルルは笑みを浮かべながら口を開く。


「まず、最初に聞きたいのが、革新党が…いえ、織田重光がこの古代遺跡で求めるものが本当に古代魔具なのか。という事ね。」

「なるほど…。それは出発する前に説明した通りなのですが、何故そのような疑問をお持ちになったのですか?」

「確かに古代魔具には強大な力を持つ物があると聞くわ。でも、選挙で事を有利に進める為の効果を持つ古代魔具に出会う確率なんて天文学的だわ。大事な選挙期間中に、敢えて執事を派遣する価値があるのかが疑問なのよ。」

「中々に鋭いですね。むぅ…。その疑問を持ちながらも依頼を受けたというのも……。」


 眼鏡の位置を直しながら黙考するザン。その双眸はクルル達を値踏みするかのように細められ、ひとつの意味でザンが彼女達を信用するか否かの岐路だっだ。

 この重要な場面に於いて、クルルはそれ以上の言葉を紡がない事を選択する。

 そして。


「……分かりました。話しましょう。とは言え、依頼の受諾時にお伝えした内容から大幅に変わる事はありません。」


 ミューチュエルの面々に視線送りながら、ザンが続ける。


「先に話した通り、今回の目的は黄土と砂塵の都に落ちたと思われる流れ星の正体を掴む事にあります。革新党の観測チームによって古代遺跡に落ちた事は確認済み。そして、古代魔具である可能性が高いのではないかという推論です。この古代魔具が人心を操るものだった場合、博愛党の手に渡れば選挙戦において不利になる。だからこそ、先手を打って確保に努めている訳ですね。」

「えぇ。そこまでは聞いた話と同じね。」


 クルルの相槌にザンも頷く。


「そして、古代魔具を革新党が悪用しないか…については、一応は納得頂けたと認識をしております。信じろのひと言で納得いただけたのには驚きましたが。……さて、ここから先は、話すか否かは私に一任されている内容になります。隠し立てする必要も無いと判断しましたので、全てを伝えましょう。古代遺跡に来たもうひとつの目的…それは古代文献の入手です。」

「古代文献…?」


 ピクリとクルルが反応する。

 古代文献を調べる者として、見逃せないワードなのである。


「えぇ。重光さんは古代文献を集めています。その目的は、この世界に隠された歴史を紐解く為。重光さんが収集した古代文献には歴史を紐解く鍵は散りばめられているのですが、核心に迫る物が無いのです。しかし、未踏の地である古代遺跡になら…と、考えた訳です。」

「隠された歴史……?どういう事かしら?」

「その反応は…クルルさんも古代文献を見た事がある。という認識でよろしいですか?」

「……。」


 ほんの少しだけ迷う素振りを見せたクルルだが、すぐに首肯する。


「えぇ。私もここまできて隠す必要は無いわ。ザンの言う通り、私も古代文献を研究しているの。ただ、私が集めた文献には隠された歴史を示唆する表現は…無かった気がするわ。私が知っているのは、世界を変える力が存在する…という事ね。」

「それについては…私の方がが初耳ですね。重光さんの持つ古代文献にあるのは、世界の歴史はそれが全てでないという事です。」

「それが全てでない…。」


 人差し指を折り曲げて下唇に当て、クルルは思考を巡らす。


「念の為に伺いますが…クルルさんの持つ古代文献の著者は誰ですか?」

「著者?そんなの書いてないわよ。それが分かったらどんなに研究が進むか分からないじゃない。」

「成る程…。念の為に伝えておきますが、著者名が分かっても研究が進む確率は低いかと。」

「どういう事?」

「つまりですね、重光さんは所有する古代文献の著者名を知っているのです。そして、この世の中に存在する古代文献の全ては1人の人物によって記述がなされている…と推測しています。」

「全ての古代文献を書いたのが同じ人物だっていうの…?」

「はい。根拠は無く、勘だそうですが…。不思議と重光さんのそういう勘って良く当たるので、私はそれが真実なのだろうと考えています。」

「…その著者の名前は教えてもらえるのかしら?」

「えぇ、見せてもらった事は無いのですが、重光さんはこう言っていました。神楽舎人…と。」

「神楽舎人…聞いた事がない名前ね。」

「そうでしょう。私も重光さん以外からそのような名前を聞いたことはありません。」

「ただ…調べてみる価値はありそうね。」

「何か分かりましたら、是非ご一報下さい。さて、話が少し逸れましたが、この古代文献を見つけられるかもしれない…というのは重光さんの個人的な願望です。あくまでも主目的ではないので、そこはお忘れなきようにお願いします。あくまでも真の目的は、古代魔具を博愛党の手に渡さない事。全ては選挙で勝利を収める為です。」

「えぇ、一先ずは納得ね。」

「では、説明はこの程度で…。」

「ちょっと待って。」


 話を終えようとするザンに、クルルが間髪入れずに食い下がった。


「…何か説明が足りませんでしたか?」

「いえ、十分よ。」

「では、ここで休憩をしっかり取って、上に進む準備をした方が良いかと思うのですが…。」

「そうね。その前にもう一つだけ聞く必要があるのよ。」

「……して、その内容は何でしょうか?」

「博愛党の計画。それについてあなた達が掴んでいる内容よ。…惚けさせないわよ?」

「……流石ですね。これについては本音を言うのであれば話すのを躊躇われるのですが。」

「それについては、あなたも気付いてるわよね?この古代遺跡がここから上の階では命を落とす危険性がある事を。」

「……。」


 クルルの指摘にザンは口を閉ざしてしまう。


「え、それってどう言う事?」


 命を落とすという物騒な内容に、ミリアは思わず反応してしまう。夢で見た惨劇が脳裏を過ぎったのだ。


「簡単な事よ。3階までは、この遺跡への挑戦者を試す場所で、そこから上の階は挑戦者を排除する場所である可能性が高いのよ。」


 クルルの推察に異を唱えるのは…意外にもブリティだった。


「そうかにゃ?さっきチラリと5階を見たけど、変な装置が置いたあるだけだったにゃ。3階をクリアしたから、後はお宝を見つけるだけかも知れないにゃ。」

「残念ながらそれは無いわ。」

「……何故そう言い切れるのですか?」


 頑とした態度のクルルに疑問を持ったのか、ザンが問いかける。


「……。私の持っている古代文献にこの古代遺跡が載ってるのよ。3階までが試練の場で、6階からは命を懸けて己を顧みる場…って記述があったの。」

「成る程…。……伺いたいのですが、クルルさん、ブリティさん、ミリアさん…貴方達はその命を懸けるかも知れない古代遺跡に、これ以上挑むつもりはあるのですか?」


 核心を突く質問だった。

 ザンが問いたいのは、博愛党の計画を聞く代わりに命を懸ける選択を出来るのかという事。

 だが、それは無茶な質問でもある。クルル達からすれば、命を懸ける価値のある情報なのかが判断出来ないのだ。

 もし簡単に頷けば、下手をすればチンケな情報に対して命を懸けることになってしまうかも知れない。

 クルルは悩む。ここから先、古代遺跡を上に進むのであれば…彼女達に大きな危険が及ぶことは間違いがないと考えていた。だからこそ、それに見合うだけの理由が欲しいのだ。

 少し考える時間が欲しい。…と、クルルは言おうとしたのだが、思いもよらない形で話が進む事になる。

 静かに話を聞いていたミリアが口を開いたのだ。


「私はね、命をかけてもいいと思うんだっ。ただし、それが白金と紅葉の都に住む皆の笑顔を守る事に繋がるならだけどねっ!」


 ミリアらしい言葉だった。


(目先の損得で考えていた自分が恥ずかしいわね…。)


 ミリアの判断基準は、他人の笑顔だった。自分の命を懸ける価値があるかという、自分を基準にした判断を下そうとしていたクルルは、静かに自戒する。

 そうなのだ。彼女達がミューチュエルとして活動する原点は『笑顔』なのだ。皆の笑顔を守る。その為に共に歩む事を決めたのである。

 ならば、その原点を大切にすべき。


「そうね。私もミリアと同じ意見よ。」

「アタイもにゃ!皆が笑顔が1番にゃ!笑顔にしたら煮干しがもらえるにゃ!そして、美味しく煮干しを食べるアタイを見て、皆が笑顔になるのにゃ。笑顔のスパイラルなのにゃっ。」


 若干ブリティの動機が煮干しから始まっているようで不純な気もするが…、ともかく3人は同じ意見でまとまり、ザンに力強い眼差しを向けたのだった。

 そして、その様子を見ていたザンは…ミューチュエルの絆を感じたのだろう。口元を軽く緩め、頷いた。


「分かりました。博愛党の目的について話ましょう。」


 そして、博愛党の恐るべき計画について話し始めたのだった。

仕事が忙しく、最終確認が遅くなってしまいました。


次回は白金と紅葉の都に於ける核心にちょこっと触れる予定です。

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