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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
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16-5-15.固有技 鳥人化【不死鳥】

 空間を埋め尽くした焔は渦のように巻き始め、1点に向けて収束していく。

 その中心にいるのはミリアだ。目を瞑り、両手を自然に広げた体勢のミリアは、安らか…という表現が近いリラックスした様子である。

 収束する焔はミリアの体に吸い込まれていき…全ての焔を吸収していくミリア。その金髪と赤い瞳は真紅に染まっていた。

 ここまでは以前の「力を使う」「本気を出す」と言っていた時と同じ変化。だが、鳥人化【不死鳥】という固有技を使ったミリアの変化はそれだけでは無い。

 決定的に異なるのは『紅稲妻』が体の周りに伴っている事だった。


「わぉ…にゃ。」

「ムム…強サガ増シタ。」


 ミリアの変化を認めた破廉恥ゴーレムは、その変貌に驚いて握り締めるブリティへの攻撃を中断し、握られるブリティも目を丸くしてミリアを見る。


「…いつものミリアの本気と違うわね。何があったのかしら…。」


 クルルも目を細め、真剣な様子でミリアを見ていた。


「これはこれは…。」


 それ以上の言葉は無かったが、何か思うことがあるのだろう。ザンは腕を組みながら右手を顎に当て、何かを思案していた。


「……凄いっ。」


 ミリア自身も自分の変化に驚いていた。

 いつもの髪と瞳の色が変わる「本気」と一線を画す変化だったのだ。

 内側から溢れる力が循環していて、無駄がない。そして、強さだけではない優しさを内包した力は…「護る」事が出来ると、ミリアの心に自信を与えてくれる。

 右手に持つ細劔「不死鳥の細劔」を見ると、自分の体の周りと同じように稲妻が周囲を走っている。つまり、不死鳥の細劔はミリアの有する力を操るに値するのだろう。

 新たな力を得たという実感が体の奥底から湧き上がってくる。

 それと同時に、今何をすべきかという現状分析も冷静に行う事が出来るようになっていた。

 先ずは…ブリティを助けなければならない。そう結論付けたミリアは自然な動作で破廉恥ゴーレムへ視線を向けた。


「…行くよっ?」

「来ルガ良イ。ソノ力、試シテヤロウ。」


 破廉恥ゴーレムはブリティを握る力を再度強めると、ミリアに対して格闘家のような構えをとった。

 ブリティの力が再び苦痛に歪み始める。

 その様子を見ながらも、ミリアは自分が得た新しい力の分析を行っていた。


(多分…だけど、私の力は速度と飛行魔法の力が特に強くなってる気がする。それなら…!)


 ミリアは軽く床を蹴って破廉恥ゴーレムに向けて「飛翔」する。低空の床スレスレを飛翔するその姿は、駆けるようにも見えた。


「速イ…。ダガ、届カセヌ。」


 破廉恥ゴーレムが迎撃に動く。

 股から粘着液を放ち、両手からは粘着質の糸を放つ。それらは複雑な動きをしながら翔けるミリアに迫る。


(大丈夫…いけるっ!)


 破廉恥ゴーレムの破廉恥迎撃攻撃が迫るが、ミリアは翔ける速度を落とす事は無かった。

 鳥人化【不死鳥】によって、知覚速度や反応速度が上昇していたのだ。

 全ての攻撃がこれまでよりも遅く見え、どう動けば避けられるのか、どう動けば攻撃の隙を突いて攻撃を叩き込めるのかが分かる。


「…ここ!」


 そう叫んだミリアはアクロバティックで変則的な動きをして、全ての攻撃を回避しつつ破廉恥ゴーレムの背後に到着する。

 そして…。


「とぉ!」


 と、相変わらずの気が抜けるような掛け声をしながら、体の側面後方に引き絞った不死鳥の細劔で渾身の突きを放った。

 その「突き」はこれまでミリアが使ってきたどんな攻撃とも異なるものだった。

 端的に言えば、威力が増大したという事。具体的には、これまでミリアが使っていた…焔を細劔に付与した付きは、あくまでも突きに焔属性を付与しただけのものであり、攻撃の主体は突きなのである。この突きに焔の副次的効果が上乗せされたと表現するのが正確だろう。

 だが、今回の突きは違う。焔属性そのものを突きとして放っているのだ。つまり、突き自体に焔属性効果があることになり、突きと焔が融合した攻撃という事になる。

 この変化。実は、属性衝撃波と波動(属性付衝撃波)と同じ原理に近い。

 属性衝撃波は、その属性魔法を衝撃波のようにして放つ攻撃で、あくまでも属性ダメージを与える事しか出来ない。要はその魔法の放出方法が衝撃波風という事だ。

 対する波動は無詠唱魔法による衝撃波が主体だ。衝撃ダメージを主体とし、その衝撃波に属性効果を融合させるもの。衝撃ダメージと属性ダメージを同時に与える事が出来る高等魔法の1つである。

 今回、ミリアが鳥人化【不死鳥】を使った事で放った突きは、この波動の概念を更に昇華させた技術が使われていた。

 それは、波動の放ち方によって初級、中級、上級と分かれる技術だ。


 初球は全方位に向けて放たれる(波動の操作技術が乏しいに等しい)。

 中級は指向性をもたせて放たれる(前方に放つ等)。

 上級は波動の形を変える事が出来る(武器の形にする等)。


 実際問題として波動の上級から先には、波動を武器として運用するなどの技術も全て含まれることになる。つまり、波動は上級に達してからがその真髄なのだ。

 とは言え…その域に達する魔法使いが数少ないのも事実である。

 話が少しずれてしまったが、ミリアの突きにはこの波動上級の技術が無意識に利用されていた。

 不死鳥の細劔に纏わせた焔を突きとして運用したのだ。それは、波動の概念に同じ。違うのは衝撃波なのか、突きなのか…という1点のみ。その点で衝撃波では無いので、若干劣るとも言えるが。

 更に突っ込むのであれば、波動としてのエネルギーを武器として運用するという事は、属性付衝撃波自体を固定化する事に同じという事で…、この点に於いてミリアは無意識に高等技術を使った。とも言える。

 ともかく…である。こういった、無意識による高等技術の行使によって、その威力を飛躍的に上昇させたミリアの突きはゴーレムの体を簡単に突き破り、巨大な胴体に大きな風穴を開けたのである。


「グガ…何…ダト。力ガ急激ニ上ガルトハ…。」


 バランスを崩した破廉恥ゴーレムの体が傾ぐ。

 衝撃に握りしめていた手が緩み、ブリティが落下する。


「うにゃ…ちょっと力が入らないにゃ。」


 破廉恥ゴーレムによる締め付けのダメージが大きかったのか、ブリティはダランと四肢を投げ出したまま床に向かう。

 その体が床にぶつかる寸前、ブリティの体をふわっと抱きしめる者が居た。


「あなたの相棒は…強くなったわよ。」


 クルルである。

 ブリティは緩慢な動きで首を動かし、ミリアへ視線を向ける。


「うにゃ…凄いにゃ。」


 ブリティの目には、揺らめく焔をその身に纏い、毅然とした様子で立つミリアが映っていた。いつものちょっと抜けた様子はあまり見られず、まるで別人のようである。


「いくよ!」


 片膝をついた破廉恥ゴーレムに飛びかかるミリア。

 その動きは洗練された武人のようで有り、動きには一切の無駄がなかった。


「ていやぁっ!とぉっ!」


 そう。まるで別人のようで…。


「えいっ!せいっ!やぁっ!」


 動きだけは…別人のようであり、掛け声だけはいつものミリアなのだった。

 ともかく、ミリアの連続攻撃に為すすべもない破廉恥ゴーレムはその体を破壊され、沈黙する。

 最後に残ったのは、物言わぬ只の岩の塊なのだった。


「ふぅっ。終わったよっ!」


 最後の1撃を叩き込んで床に降り立ったミリアは、纏う焔を解除すると、ニコッと笑う。


「な、なぜにゃ。ミリアの笑顔が神々しいにゃ…!」


 その笑顔をみて何故か悶えるブリティなのだった。


 こうして、ミリアが『力』を得た事で、古代遺跡3階のゴーレムを倒す事に成功したのである。

 因みに破廉恥ゴーレムによって負傷したブリティだが…。


「い、痛いにゃ。全身がギチギチだにゃ。アタイはもう終わりにゃ…。」


 と、演技風に痛がっていたのだが(尚、半分くらいは演技である事は全員が見抜いていた)、ミリアが両手に生み出した虹色の焔によって治癒を施され、


「復活にゃ!ミリアの焔は偉大にゃ!」


 と、呆気なく完全復活したのだった。


 その後、ミリアの使った力について話そうかという雰囲気になったのだが、上階から下りてきた螺旋階段を先に進み、そこで休憩をとりつつ話そう…という事になる。


 一行は進む。

 次なる階、古代遺跡の4階へと。

古代遺跡はダンジョン風にする予定だったんですが…。苦笑

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