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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
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16-5-12.遺跡の試練

 …目が、醒める。

 見えるのは白い天井。白いというのが辛うじて分かる程度の明るさである。覚醒仕切らない意識の中で、ミリアはボンヤリと…思い出す。


(…私…………そうだ…!)


 そう。ミリアは、突きつけられた現実に耐えられず、意識を手放してしまったのだ。

 あの瞬間、精神が壊れたと自分で自覚できる程に、自分の中のミリアという人格が崩れていくのを感じた。もう、2度と元には戻れないと思える程に。

 だが、現実はそうではなかった。今、こうして確かにミリアは自分を認識していた。

 今、どんな環境に置かれているのか。黒いミリアはどこに行ったのか。砂漠の外で倒れたはずなのに、今いる場所は屋内である。となると、ここはどこなのか…。

 次から次へと疑問が湧いてくる。

 そして、その疑問はミリアの体を雁字搦めにし、身動きを取ることも出来なかった。

 そうやって10分程だろうか。白い天井を見つめながら、静かに呼吸をしていたミリアは…ふと気付く。


(あれ…?ここって古代遺跡の1階…じゃないかな?)


 そう。そうなのだ。今見ている天井は、光景は…ミリアが眠る前に見ていたのと同じだった。

 この認識をすると同時に別の疑問が出てくる。

 先程までの、仲間が殺されたのは…現実なのか?それとも…夢?

 それとも…。


(ブリティ…ブリティは…?)


 覚悟を決めたミリアは…視線を横にズラした。

 そこには…。


「むにゃ…。」


 と、寝言を呟いてゴロンと寝返りをうつブリティが居た。

 生きている。生きている。

 この事実がミリアの心を鼓動させる。四肢に力を蘇らせる。

 静かに…起き上がる。今見ているものは幻かもしれない。そんな不安と、現実であってほしいという期待が入り混じる。


(大丈夫…だよね。)


 小さく息を吐くと、ミリアはそっとブリティの首元へ手を伸ばした。

 優しく、起こさないように触れる。


(大丈夫…大丈夫だっ。)


 指先から伝わるのは命の温もり、そして、生命の鼓動。

 つまり、あれは夢だったのだ。

 ただの悪夢。


(でも…なんであんな夢を見たんだろう。私、そんなに不安だったのかな…。)


 慣れない環境にいる為、自分でも気づかない内に精神的に不安定になっていたのだろう。それが、悪夢を引き起こしたのだ。

 ミリアは…無意識に、半ば強制的にそう結論付けた。


「良かった…。」


 小さく安堵の声を漏らしたミリアは、立ち上がると、足音を立てないように注意しながら古代遺跡の外に向かう。

 特にこれといった目的があった訳ではない。とにかく、気分を変えたかった。悪夢を忘れたかったのだ。

 外の砂漠は…冷え込んでいて、澄んだ空気が流れていた。

 ミリア自身はクルルが用意した魔道具のおかげで、特に寒さは感じないのだが。


「ふぅ…。」


 ゆっくりと息を吸い、ゆっくりと吐く。繰り返す。

 その度に、自分の中に巣食っていた黒いものが無くなっていく気がした。


「大丈夫…大丈夫だよね。」


 この古代遺跡にはきっと何かがある。

 そんな予感を抱いていた。夢の中で出会った黒いミリアが言っていた事…それは理解をするのが難しかったが、古代遺跡の上階で待つものに無関係だとは、何故か思えなかった。

 だが、関係があるとも言えない。全てはミリア自身の直感である。

 願わくば…それが不幸とならん事を…。


「私は…。」


 願いを込めたミリアの言葉は砂漠の中に吸い込まれていった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 朝。


「朝にゃ!古代遺跡の謎を解くにゃ!アタイはやったるにゃぁ!」


 と、やる気満々のブリティの声で起きたミリア、クルル、ザンの3人。


「ブリティ…朝から元気を出しすぎよ。」

「なぁにを言ってるにゃ。クルルも元気を出すにゃっ!やるにゃよ?いっちにーのさんのっしの〜!」


 クルルの苦言にめげる事なく、元気に準備体操をし始めるブリティ。

 朝から騒がしい事この上ないのだが、ミリアにはそれが嬉しかった。

 勿論…悪夢について皆に話す予定は無い。無駄な心配を掛けるよりも、今は古代遺跡を攻略することに集中すべきだと自分の中で結論付けたのだ。


 その後、クルルが用意した簡単な朝ごはんを皆で食べたりと、古代遺跡の中にいるとは思えないリラックスした時間を過ごした一行は、再び古代遺跡1階ホールの調査を手分けして行う事にしたのだった。


 今日のミリアの担当は『柱』である。昨日調べた箇所で先に進む手掛かりが何も見つからない以上、ホールの中で違和感を感じる部分に何かしらのヒントがあるのでは…。そんなクルルの仮説から、ミリアが柱、ザンが遺跡の外壁、ブリティが入り口の扉、クルルがホール全体像からの調査を行なっている。

 これで今日の調査が少しでも前進すれば…。と、思っていたのだが。


「み、見つからない…。」


 結論から言って、ミリアは何も見つけることができずに柱の1つに立っていた。

 腕を組んで、眉根を寄せるという…さながらヘッポコヒーロー風の格好である。

 そこに、外壁の調査を終わらせたのか、ザンが近寄ってきた。


「ミリアさん、どうですか?」

「あ、ザン。それが…何も見つからないのっ。」


 柱から飛び降りたミリアは、可愛い困り顔を披露する。


「そうですか…私の方も全く手掛かり無しですね…。」


 すこ離れた場所でホールの図面を書いて見ているクルルの表情も渋いものだし、ブリティに至っては扉の模様を指でなぞるっている始末だった。


「どうやったら上に行けるんだろう…っとっとっと。」


 本当に困ってしまったので、大袈裟に首を傾げてみたクルルは思わずバランスを崩してしまう。まぁ、すぐに柱に手をついて体勢は立て直したのだが。


「てへっ。」


 何となくバランスを崩したのが恥ずかしくなったミリアは可愛く舌を出す。


「ミリアさん…私の前なら大丈夫ですが、あまり殿方の前でそういう行動は取らない方が良いと思いますよ。」


 カチッ


「えっ?どうして?」

「ふぅ…ミリアさんは男心をもう少し学んだ方が良いかも知れませんね。」


 ゴゴゴゴゴ


 突然、地響きのような音が聞こえ始める。


「あれ?今、私…何か押したかも…。」

「この音は……ミリアさん!柱から離れて下さい!」


 ミリアとザンは同時にクルルとブリティが居る方向へ飛び退る。

 柱が…沈み始めていた。1メートル程度の高さまで沈むと動きを止める。そして同時に、別の場所から石版が迫り出していた。

 明らかにミリアが押した謎のスイッチみたいなものが引き金となったようである。


「これは…。」


 警戒しながら石版を確認したザンは、不可解な表情を浮かべる。


「どうしたの?」


 クルルが近寄り石版を見る。そして…不可解な表情を浮かべる。


「どうしたのにゃ?」


 ブリティも近寄り、首を傾げる。

 そして、3人は顔を見合わせ、頷き、ミリアへ視線を向けた。


「えっ…な、なに?」


 何故か嫌な予感がミリアの背中を駆け巡る。

 3人は無言でクイクイっと手招きをしてミリアを呼び寄せた。


「なんか…すごーく嫌な予感がするよっ?」


 とは言え、行かないわけにもいかない。

 訝しげな表情をしながらミリアが石板の所に到着すると、他の3人は後ろに下がる。…明らかに怪しい。

 その行動が何を意図しているのかが分からないミリアは、石版に目を向けた。


「これって…どういう事っ?」


 戸惑いつつも、頬を赤らめるミリア。


「どうもこうも…そのままの意味だと思うわ。」

「そうですね。少なくとも、男の私には似付かわしくない内容です。」

「アタイもそーゆーキャラじゃないにゃ。」

「え…ちょっと待って。もしかして、私?」


 自然と自分へ流れが向いていることにミリアは開いた口が塞がらない。この3人はいつの間に結託したのか。


「まぁここのメンバーではミリアが………最適だと思うわ。」


 クルルの台詞の間にあった沈黙に「自分は絶対に言いたくない」という意思が見え隠れしていて、ミリアは思わず反論する。


「ちょっと待って!私だって…!」


 だが…。


「ミリアさん。貴女の気持は分かります。しかし、これは誰かがやらねばならぬ事。何よりも、これを出現させたのは貴女なのです。であるのなら、最後まで責任を持った方が…良いかと思います。」


 至極真面目な顔で言っているザンだが、時折口元がピクピクと笑いそうになっているのは誤魔化せなかった。


「ミリア…アタイはミリアが言うのが良いと思うにゃ。とてもじゃないけどアタイには重荷過ぎるにゃ。」


 必死に目を逸らしながら言ってのけるブリティ。

 なんというか、見事な連携プレーである。しかし、しかしだ。


「ちょっと考えてみてっ。私…こんな事を言う風に見えるっ?」


 必死に食い下がるミリア。これは、ある意味で彼女のアイデンティティに関わる問題なのだ。


「まぁ…言わないと思うわ。でも、言う事で自分の新しい一面が見えるんじゃないかしら。」

「そうですね。人にはそれぞれ潜在的な欲望があるといいます。」

「因みに、アタイには顕在的にも潜在的にも無いから安心して欲しいにゃ。」

「う…。絶対に私?」


 3人の首が迷いなく、同じタイミングで縦に振られる。

 もう逃れようがなさそうであった。

 確かに、これが先に進むために必要な事であるのなら、誰かが言わなければならない。だが、こんな風に押し付けなくても…。と思ってしまうのだ。


「……うぅ。分かった…言うっ、言う!」


 ミリアは心の奥底から止めどなく溢れてくる羞恥心を必死に抑え込み、石版に掘られた文字を見る。

 静かに見守る3人。ザンは何故か涙目になっている。余程面白いのだろう。


「うぅ…恥ずかしいよぉ。」


 石版に書かれていたのは、『全身全霊で叫ぶが良い。』という文言。その叫ぶ内容は…。


「わ、わ、わ、私の心は貴方達のものよ!!私を滅茶苦茶にして!!うぅ〜〜〜…!!!」


 なんというか、痴女が言いそうな言葉である。これを大声で叫んだミリアは、真っ赤になった顔を両手で隠してしゃがみこんでしまう。

 そして、訪れる静寂。


「…何も起きないわね。もしかしたら、ミリアの叫び損かしら?」


 ミリアの羞恥心など知らない的にスルーしたクルルが冷静に分析する。

 しかし、幸運な事にミリアの行動は実を結ぶこととなった。


 ゴゴゴッゴゴゴッ!


 地響きのような音を響かせながら、ホールに設置されている柱が再び沈み始め、高さ1メートル位の所で止まり…淡い光を放ったのだ。


「むむっ。何か嫌な予感がするにゃ。」


 しゃがみこむミリアの顔を覗き込んでいたブリティが立ち上がる。その目は光る柱へ向けられ、警戒の色を浮かべていた。

 そして、その予感通り、淡い光の中から石で出来た人型のゴーレムが出現したのだった。

 その数10体。

 ゴーレムはドスンドスンという鈍い足音を立て、ミリア達へ向かって歩き出した。


「コレカラ、遺跡ノ試練ヲ始メマス。アナタヲ滅茶苦茶二シテ、快感ノ世界二導キマス。」


 18禁の世界が繰り広げられそうな台詞を言いながら…ゴーレムが迫る。

 果たして、彼女達の貞操は守られるのか。


 次回、「ど、どんどん大きくなるにゃ!?」

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