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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
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16-5-10.古代遺跡1階

 結界を抜けたミリア達は、再び砂漠に立っていた。

 また砂漠。と思うかもしれないが、今回はこれまでとは大きく違う点があった。


「おぉー。おっきいにゃ。」


 ホケーっと上を眺めるブリティ。尻尾がユラユラ忙しなく動いているので、テンションは高そうである。


「なんか…こうやっていきなり目の前に出てくると、ちょっと不思議というか…違和感っ?」

「そうね。それでも、ここまで来れたのは大きいわ。」

「えぇ。ここに流れ星が落ちた可能性が非常に高いのです。一体中で何が待っているのか…。」


 ミリア、クルル、ザンは目線を交わすと頷き合う。


 彼らの前には、1つの巨大な塔が聳え立っていた。


 その塔…つまり古代遺跡は、その単語が連想させる通りの外観をしていた。岩を基調に組み上げられた外壁は、経年劣化によって所々が欠けたりしている。

 形は円筒型。上に行くにつれて少しずつ円筒の直径が小さくなっていた。

 しかし、崩れそうという感じは全く無い。寧ろ、悠然と聳え立つその姿からは、決して倒れる事の無いという意思すら感じさせるような存在感を放っていた。


「それにしても…結界を抜けた先が古代遺跡の目の前というのは驚きですね。」

「でも、お陰で探す手間は省けたわ。」

「ごもっともです。では…行きましょうか。」


 こうして、4人は古代遺跡の入口へ向けて歩き出した。


「グフフ…古代の煮干しをゲットするにゃ。」


 と、ブリティが呟く。

 長年放置されていた煮干しを食べたらお腹を壊すのでは…?という疑問は当然。そして、誰も突っ込む事が無いのもお約束である。

 その意味ではザンもしっかりとミリア達に溶け込んでいるといえよう。


 そして、ミリア達は古代遺跡の巨大な正面扉を押し開けて中に突入していった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 黄土と砂塵の都は、前述した通り…基本的に立ち入りが禁止の星である。

 その星にミリア達という他星の住人がいる事は、当然の如く異例。

 だが、異例は1つだけとは限らないのだ。

 ミリア達がこの星に到着したのから遅れる事2時間。もう1組の異例もこの砂漠を旅していた。


「全く…なんて場所だい!」


 黒のロングヘアにこびり付いた砂を叩きながら、白黒のボーダーを着たグラマラスな女性はうんざりした表情を浮かべていた。


「どうするですかい?」


 同じく白黒ボーダーを着た男が尋ねる。


「どうするもこうするも…このザキシャ=ヨムリムニから逃げられる訳が無いんだよ。けれど…これだけ魔獣に襲われるってのは…頂けないねぇ。」


 ザキシャは辟易した様子で辺りを眺める。

 周囲には…リザードマンの死体が転がっていた。その数、50体は下らないだろう。


「この砂漠…なんなんすかね。次から次へと魔獣が湧いてきやがります。」

「きっと誰かがアタシ達を妨害してるのさ。ったく、ここは無人の星じゃあなかったのかい。…革新党の奴らも見失っちまったし、困ったねぇ。」


 魔獣の襲撃への対処によって革新党の面々…つまり、ミリア一行を見失ったザキシャ達は頻繁に現れる魔獣に翻弄されていた。

 とは言っても、強くて倒せないのではなく、単に倒しては現れての連続で砂漠を思うように進めていないというだけなのだが。


「兎に角、さっさと先に進んで奴らを見つけるよ。」

「了解。」


 ザキシャ含むボーダー服の10人は砂漠の行軍を再開する。

 その前方には黒い棘が密集している地帯が待ち構えていた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 豪華な部屋。和をあしらったその部屋は、謙虚な趣を主としながらも、部屋の主人を美しくする為に計画された内装を施していた。

 部屋の主人は自身のデスクに座り、頬に掌を当てる。絶世の美貌を湛えた口元から柔らかい息が吐き出される。


「それで、計画は滞りなく進んでいるのかぇ?」

「フッフッフッ…勿論です。この私が計画を失敗するわけがありません。」

「ならば良い。妾はこの計画の為に準備をしてきたんだからのう。」

「お任せ下さい。抜かりはありません。所で、例のアレについて準備はいかがでしょう?」

「アレ…あぁ魔核素の事かぇ?今は順々に生成しておる最中じゃ。思った以上に安定させるのに手間取っているようじゃな。」

「間に合いますか?期日は迫っています。まぁ…天下の徳川舞頼クンに言うのも失礼かも知れませんがね。」


 部屋の主…徳川舞頼を見ながら笑う男は、中分けされた髪を掻き上げると肩を竦めてみせる。

 その動作がやけにナルシストっぽく、見る人が見れば嫌悪感を示しそうなものだったが、舞頼は薄っすらと微笑むのみ。例えどんな感情を抱いていたとしても、それを表さない。長年の政治家生活で身に付けた能力である。


「妾を誰だと思っておるのかえ?仮にも博愛党の党首。妾を慕う魔法使いは多いのじゃ。そして、妾も生粋の魔法使い。いざという時は妾が魔核素の完成に尽力しようではないか。」

「これはこれは…失礼いたしました。」


 大仰な最敬礼を披露する男。


「そうやって相手の反応を見て楽しむのは…妾は好まんぞ…ラクリよ?」

「フッフッフッ。そうして微笑みながらも怒りを内包する表情も素敵ですね。」

「戯け。」


 心底嫌そうな顔をする舞頼を見てその男…ラクリは笑う事を止めようとはしない。

 そして、ふと笑いを止める。


「そう言えば…貴女の犬達が黄土と砂塵の都へ行ったのですよね?革新党の者達へ邪魔をする事が目的ですか?」

「妾がその様なちんけな目的で犬共を動かすと思うのかぇ?最も…犬は下らぬプライドを守る為に動いているようじゃがのぅ。」

「ほぅ…それは、黄土と砂塵の都に貴女の求める物があるという確信でも?」

「そうじゃ。あそこには恐らく古代文明の遺物があるのじゃ。もし、犬がそれを手に入れれば…計画を進める一助となるやもしれぬ。まぁ期待はしておらぬがの。元より犬共がくたばろうが、手柄を持って帰って来ようが、妾の計画に変わりはない。結論へ至る過程が変わるか変わらないかの違いでしかない。」

「クク…博愛党の党首様はかなり腹黒ですねぇ。まぁ、それでこそ私も手を組んで良かったと思えるというもの。」

「ふん。お主も妾と手を組むのだから…それなりの結果を出さなければ未来は無いぞ?陰導破国などという大仰な名前の集団を率いておるのだ。名前に見合った動きはしてもらうぞぇ?」

「勿論ですとも。貴方の計画が成功するよう、最高の助力を惜しみません。計画成功の暁には…約束通り、私の実験にお付き合い頂きますよ。」

「ふん。好きにするが良い。」


 愛想の無い舞頼の返事にラクリは肩を竦めながら背を向け、ドアに向けて歩き出した。


「その約束、違わぬよう心に留めておいて下さいね。」


 背を向け、声だけを無頼に投げ掛ける。

 その口元は薄く、細長く、狂気的な笑みを浮かべているのだった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 黄土と砂塵の都中心地点に在する古代遺跡。

 その中へ突入したミリア達は、内部の様子に目を奪われていた。


「凄いねっ…。」

「えぇ…。あの外観からこれは想像出来ないわ。」


 彼女達が驚くのは無理もなかった。

 古ぼけた岩で作られた外観の古代遺跡は、中に入った途端…その外観とはとても似つかない雰囲気だったのだ。

 遺跡の中は白一色。古ぼけた感じなど一切なく、それこそ新築マンションのようであった。しかも、その材質は岩…なのだろうが、触ると温かいような柔らかいような感触という不思議素材で作られているのだ。

 因みに、ブリティが正拳突きを叩き込んでいたが、軽く凹ませるだけに留まっていた。しかも、時間が経つにつれてその凹みも自動で修復されるという素敵仕様である。

 まさしく、内観をフルリノベーションした築100年越え物件といったところだろうか。

 そして、不思議な点がもうひとつあった。


「この遺跡の中…魔獣の気配が一切しませんね。」

「ほんとにゃ。魔獣がいなかったらアタイが活躍出来ないのにゃ。」


 そもそも魔獣がいない方が遺跡の中を調べるのに好都合なはずなのだが、どうやらブリティの中では魔獣と戦う方が重要度を増しているようだった。

 しかし、ザンの指摘した通り、魔獣の気配が一切しないのは紛れも無い事実。それこそ…砂漠には数多くの魔獣がいたという事実から鑑みても…やや不自然に感じるのだ。

 不自然といえばもう1点。党の内部は円形の大きなホールのような形状になっている。外観から想像するに、上階に行くほどにホールの大きさが少しずつ小さくなっていくのだろうが…上階へ進むための階段が存在していなかった。

 強いて言うのなら、高さ2メートル程度の石柱のようなものが複数本地面から生えるように設置されているくらいである。

 そんな党の内部を、クルルは腕を組んで観察する。


「不思議な作りね。何かをすると上へ進む階段とか魔法陣が現れるのかしら。どちらにせよ、少し調べてみないと分からないわね。」

「そうですね。ここは手分けをして上へ進む手がかりを探しましょう。こういう遺跡は、最深部や最上階に1番重要なものが安置されているのがお約束ですから、最上階の10階を目指して然るべきでしょう。いかがですか?」


 ザンの提案に全員が頷く。

 そして、4人が別々に古代遺跡1階の大ホールを調べることになったのだった。


 調査開始から30分。

 壁際に何か無いかと調べながら歩いていたミリアは首を捻ってしまう。

 なぜ首を捻ったのか。それは、おかしな部分が全く見つからないからだ。他のメンバーを見ても、クルルは床を調べて歩いているが成果無し、ザンは天井付近を調べているが成果無し、ブリティはクルクル踊りながら石柱の上を飛び跳ねていた。


(絶対ブリティ…調べる気ないよね…。)


 思わず溜息を吐きそうになってしまうが、こういう細かい調査をブリティに期待するのは最初から間違っているのだ。ミリア自身もその事については良く分かっているので、ブリティを責めるつもりはない。

 だが、少しは手伝ってくれても良いのにと思ってしまうのは…致し方のない事だろう。

 次にどこを調べるか…と、ミリアが悩んでいるとクルルが近付いてくる。


「困ったわね…。全く何も見つからないわ。」

「私も駄目っ。」


 途方にくれる2人の所にザンも合流する。


「不甲斐ないのですが、私も全く手がかりを見つける事が出来ませんね…。」


 珍しく落ち込み気味のザンである。


「アタイも駄目にゃ。柱がへっこまないかなと思って叩いたりしたのにゃ。でも、なぁにも駄目にゃ。」


 まさしく収穫ゼロ。手詰まりである。

 よもや1階から先に進めなくなるとは予想外。

 流石は今まで誰も辿り着けなかった古代遺跡。…なのだろうか。

 ともかく、何かしらを見つけない限り、先へ進むことは難しそうだった。

 その後、見落とし防止を兼ねて其々の調査していた場所を交換したのだが、ここでも収穫ゼロ。

 「もう眠いのにゃ。」というブリティの言葉をキッカケに、朝まで休息を取ることにしたのだった。

 砂漠の横断に結界の突破、そして古代遺跡の調査と立て続けに動き続けていた為、疲労が溜まっているのも無理は無かった。

 一行は遺跡の入り口近くに防御結界(物理結界と魔法結界)と、探知結界を張って睡眠を取ることにする。


「むむぅ…これは眠りにくいのにゃ。」

「えっ?砂漠だとあんなに気持ち良さそうに寝てたのに?」

「チッチッチッ。ミリアはまだまだにゃ。砂漠は砂を自分の体に合わせて凹凸を付けることで、体重を支えるポイントを分散する事が出来たのにゃ。だから、柔らかくは無かったけど疲れは残りにくかったにゃ。でもこの遺跡の床はそこまで凹まないにゃ。これは、明日の朝起きたら体がカッチーン間違い無しなのにや。」

「なるほど…っ!プリティってそういう所は博識?だよね。」

「ふっふっふっ。アタイの持つ天性の嗅覚を侮るなかれにゃ!」

「あ、でも…ブリティのいう凹凸で疲れないのが本当なら、砂漠で寝る時に使ってた毛布を…。」


 話している内容はサバイバーだが、テンションは女子高生の卒業旅行気味の2人。

 一方、クルルとザンは大人の雰囲気を醸し出していた。先に断っておくが、エロスは無い。


「ザン…この遺跡、何か変じゃない?」

「変とは?具体的にこれというものはありますか?」

「そうね…監視…かしら。何もいないのだけれど、常に見れている気がするのよ。」

「監視…ですか。天井付近や壁を調べていた時には気付きませんでしたね…。今はどうですか?」

「今は……。感じないわ。逆にそれも気味が悪いわね。」

「.……いえ、そうでも無いかも知れませんよ。私が調べていない床付近。そこに何かしらのヒントがあるかもしれません。」

「それはありそうね…。そうすると、明日はザンに床を調べてもらうのが良いわね。」

「えぇ、お任せ下さい。」

「それじゃあ、休みましょうか。探知結界も張ってるし…あとはブリティに壁でも作ってもらえれば全員で休めそうね。」


 クルルの要請に応じてブリティが砂の壁で小部屋を作成し、その中で休む事にしたのだった。

 砂上での野宿か何日か続いた後だったので、小部屋での休憩というのは、床は少し硬いかもしれないが…精神的には少し安らぎを得られるものだった。

 古代遺跡の1階は変わらず静寂を保っていて、何かが起きる気配は一切ない。

 そして、4人は静かに眠りへと落ちていった。


 夜中。

 全てが寝静まり、静かな時間がゆったりと流れる頃。

 ムクリ…と音を立てずに1人の人物が起き上がった。

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