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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
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16-5-8.大岩合戦

 クルルの提案した作戦は単純だった。

 大岩の調査を一番の博識であるクルルが行い、ザンが護衛を担当する。

 大岩前に布陣するリザードマンの群れは、地の利があるブリティが戦う。

 そして…ミリアは大岩の上にいるバジリスクを何とかする。

 というものである。

 問題は…バジリスクの能力などについて詳細情報が全くない事。それを丸投げされて「何で私が1番危ない役なのっ?」と落ち込むミリアなのであった。

 とは言っても適材適所を考慮した配置なので、異論を唱えられない事も理解しているのだが。


「じゃあ行くわよ?」


 やる気満々といった様子のクルルが皆の顔を見回す。

 全員が頷くのを見たクルルは短く一言。


「散開!」


 これが合図だった。


「行きましょう。先ずはここの反対側から岩を調べつつ登りますよ。」

「えぇ。護衛は頼んだわよ。」


 と、研究者みたいな話をしながらクルルとザンが駆けていく。


「にゃっはー!リザードマンの群れはアタイに任せるにゃ!サンドクローが吼えるのにゃ!」


 と、ブリティが獲物に襲いかかる猛獣の如く駆け出す。


「ううっ…、ちょっと怖いなぁ。。けど、やるしかない…よねっ!」


 と、ミリアも遅れて行動を開始した。

 ミリアの役割はバジリスクを倒す、若しくはその場に留める事である。

 相手の能力がイマイチ分からない以上、慎重さと大胆さを兼ね合わせたら行動が求められる難しい役回りである。

 ブリティとリザードマンの群れが激突を始めた戦闘地点を迂回するようにしながら、クルル達と場所が被らないように気を付けながら大岩を登り始めた。


(あのバジリスク…ちょっと不思議だよねっ。なんで岩の上から動かないんだろう?)


 ミリアの疑問通り、何故かバジリスクは動く事が無かった。ブリティがリザードマンと戦い始めたら、参戦してくることも予想はしていたのだが。

 岩肌は無機質で、太陽光によって熱されていた。下手に手を付くと火傷してしまいそうである。因みにミリアは炎を操る事が出来るので、両手に熱耐性の魔力を生み出して火傷の防止を図っている。

 500メートルはある大岩の中間地点まで登ったミリアは、もう一つ上の段差に飛び乗ろうとして…咄嗟に身を隠した。


(あれ?バジリスクってもう少し上にいた気が…。)


 岩を登る前にも位置を確認したが、約8割程度の高さ…つまり、400メートル地点辺りから下を眺めていたはずだ。

 それが、気付けば中間地点まで降りてきているというのは…


(もしかしてバジリスクって隠密行動みたいなのが得意なのかなっ?)


 ミリアは岩の凹凸の陰からバジリスクの動きを観察する。何かしらの動きが見えれば話は違うのだが、置物のように行儀良く座ったバジリスクからは動く気配が一切見えない。


(えっと…どうしよう。このままスルーして…。……って、私の役目ってバジリスクをどうにかする…だっけ?でも、何もしないで動かないなら、私も静かに待ってれば…。あ、でもこの岩を調査してるクルル達の所に行っちゃったらマズイよね。)


 どうにも不気味な外見をしたバジリスクと戦いたいという気が起きないミリアは、戦わないで済む方法がないかを必死に考えていた。

 バジリスクは緑と黄緑が混じった鱗が全身を覆い、頭頂部から尾まで生えている背びれはスカイブルーという…一言で言えば気持ち悪い配色をしていた。大きく裂けた口からは紫色の長い舌がチロチロと出ていて…なんというか嫌悪感を覚えるのだ。


(うぅ…戦いたくないけど、戦わないとクルルに凄い怒られそう…。)


 ミリアの脳内でバジリスクと戦うという錘と、クルルに激オコされるという錘が天秤に乗せられる。

 そして、ガシャン!と、クルルの錘側が躊躇いもなく下がった。


「……クルルの方がやっぱ怖いよね。」


 ボソッと呟いたミリアは覚悟を決める。ある意味、ミューチュエル内での恐怖政治が横行しているという事実の証明に…いや、これ以上の追求はやめておこう。

 ともあれ、戦う事を決めたミリアの行動は早かった。


(バジリスクは私に気付いてないのかな?それか気付いているけど、反応するつもりがない…?ん〜、よしっ!兎に角先手必勝だねっ。)


 静かに細劔を抜き放ち、ミリアは飛び上がる。普通のジャンプではない。文字通り飛んだのだ。

 これまでの戦いで既に分かっているかとは思うが、ミリアは焔を操る。そして、それと同時に飛翔魔法も得意なのだ。普段から空を飛んでいたら目立ちすぎるので、使用は控えているのだが、この砂漠で自重する必要はない。

 故に、ミリアは躊躇いなく飛翔魔法を使用してバジリスクへ迫る。足音もなく、そして高速の接近。ある意味、暗殺者の様な行動である。

 そして、動かないバジリスクにミリアは容赦なく細劔の一閃を放った。鋭い剣先が迫るのはバジリスクの長い首元だ。


「シュウウゥゥゥウシャアッ!」


 だが、そう簡単にはいかなかった。

 鋭い声を吐き出したバジリスクがグルンと身体を捻らせてミリアの剣閃を避けたのだ。そして、赤い双眸がギョロリとミリアを睨みつける。


「シュウウゥゥゥ!」


 バジリスクから息が漏れる。


「……!?」


 ただ息を漏らしただけ。その行為に危険を感じたミリアは、即座に飛翔魔法を駆使してバジリスクから距離を取った。


「うわ…。これは強敵かもだねっ…。」


 ミリアの目に余裕は無い。あるのは強敵と戦う事への緊張感だ。

 それもその筈。ミリアがいた所の岩が黒く変色し…瓦解していた。


「シャァァ……シュウ。」


 4本の足で立ったバジリスクは、威嚇する様にミリアを睨みつけた。ユラユラと揺れる尻尾はスカイブルーの尾びれが陽光をうけて輝いている。

 バジリスクの息に何かしらの効果があるのだろう。岩が瓦解するのだから、人がその息を受けたらタダでは済まない事は一目瞭然だった。

 戦闘の空気が一瞬停滞する。と言っても、戦意がなくなったのではなく、相手の様子を伺う為の僅かな空白だ。


(あの息を受けたら危ないねっ。よしっ。少し距離を取りつつ戦おうっ。)


 安全圏内の距離から攻撃を叩き込むべく、ミリアは細劔に焔を纏わせる。


「はっ!」


 そして、気合いの声と共に突きを繰り出した。彼我の距離は10メートル。通常では届かない突きは、纏う焔が伸び、バジリスクへと突き刺さる。

 この攻撃を予測出来なかったのか、バジリスクは焔の突きを連続でその身に受ける事となった。悶絶の声をあげて転がるバジリスクの体からは体液が流れ…辺りの岩に飛び散っていく。


「グルルシュゥ…グシャァ…。」


 致命傷となり得たのか…バジリスクの動きが緩慢になっていく。


「倒した…のかなっ?」


 それは油断だった。

 動かなくなった…と、ミリアが認識する。

 その意識の緩みが表層に現れたタイミングで、バジリスクがピクリと口の端を動かした。


「シャアッ!」


 鋭い声。それを聞いた瞬間にミリアは再度警戒をしつつ細劔を構える。…が、遅かった。

 内側から膨張したバジリスクは、風船の様に膨れ上がり…爆発したのだ。破裂すると同時に体が霧状になって周囲へと広がる。


「…自爆!?」


 想定外の行動にミリアは慌てて距離を取った。

 元々中距離での攻撃を叩き込んでいたので、バジリスクの自爆攻撃をモロに受けなかったのは幸いだった。


「…え?」


 だが、バジリスクの攻撃は更にミリアの想定を超えてきたのだった。

 辺りに飛び散った血液。それがバジリスクの自爆と同タイミングで霧状になって周囲へ広がった。

 バジリスクの自分自身を犠牲にした自爆と地雷攻撃の融合技。

 ミリアは一瞬の隙を突かれて周囲をバジリスクの霧に包まれてしまう。


(どうしよう…!このままだと…。)


 ミリアの脳裏に瓦解した岩が思い出される。いや、既に目の前で同じ光景が広がっていた。このままでは、あと数秒でミリアも霧に触れて同じ運命を辿ってしまう。


(惺炎【静】なら…?でも魔法を沈静化する魔法だし…この霧が魔法とは限らないよねっ。それなら……。)


 ほぼほぼ絶体絶命に近い状況で、ミリアは直感に従って魔法を発動する。


「えいっ!」


 緊迫した状況だが、ミリアが出した声はちょっと気の抜ける掛け声だった。

 だが、そんな声とは裏腹にミリアの細劔から猛々しく炎が噴き出る。

 そして、ミリアの周囲30センチ程に円状に広がった炎は…もの凄い勢いで上空へ向かって立ち昇った。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 大岩の下でリザードマンの群れを蹂躙するブリティは、必殺猫パンチを連続で叩き込んで1体のリザードマンを沈黙させると空を仰ぐ。


「おぉ。ミリアが久々に魔法を使って戦っているのにゃ。バジリスクは強敵にゃ?でも、アタイと戦った時の方がミリアは本気だったにゃ。…アタイもバジリスクと戦いたいにゃ。」


 ブリティの目が怪しく光る。

 そして、これまで以上にやる気を出した猫娘の猛撃によってリザードマンは確実に屠られていくのだった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 魔獣と出会わない様に大岩を登るクルルとザンは、自分達と反対側の地点から炎が空に向けて放出されたのを見て顔を見合わせる。


「思ったよりバジリスクは強敵みたいね。」

「そのようですね。それにしても…あの位置は、私達が大岩の下から見たバジリスクがいた位置と異なるようですが…。もしかしたら、私達が動き出したのを確認したバジリスクが大岩上を巡回していたのかもしれません。」

「その可能性は十分にあるわね。リザードマンの別部隊が岩の上に潜んでいる可能性もあるわ。十分に注意して進みましょう。」

「そうですね。」


 これまでよりも警戒を強めた2人は静かに、そして迅速に大岩登りを再開する。目指すのは大岩の頂点。大岩の側面や最下部には特に魔法的な仕掛けは見つからなかったのだ。しかし、大岩自体からは魔法的な反応を確認する事が出来ていた。

 つまり、何かがあるとしたら大岩の頂上なのだ。


(ミリアとブリティにちょっと無茶振りしているのは分かっているわ。…だから、早くこの岩の調査を終わらせないと。)


 大岩を登りながら、クルルはそう決心するのだった。

 余談ではあるが、大岩の下でブリティがリザードマンを蹂躙し、死屍累々といった光景を作り上げつつある事には…クルルもザンも確認はしているが、特に何も触れなかった。


 純粋であるが故の惨事。…とでも表現しておこう。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 上空へと巻き上がる炎が落ち着くと、辺りには何も残っていなかった。変わった点を挙げるなら、周囲の岩が所々焦げていた…という程度だろる。


「危なかったぁっ。」


 額の汗を拭うミリア。

 バジリスクが最後に自爆するのは完全に予想外で、あの炎による対抗策もギリギリで思い付いたものだった。下手をすれば…霧に包まれて死んでいたかもしれない。


「でも、これでバジリスクは倒したし…あとはブリティがリザードマンを倒すのと、クルルとザンが岩の調査を終えれば…。」


 危ない場面だったのは間違いない。しかし、ミリアが言った通りに残るのは他の人が請け負った役割を果たせば万事解決となるはずである。


「シュゥゥゥ。」


 ふと、聴覚が空気の漏れる音を捉える。


「んっ?今の音って何だろ?」


 岩に隙間でもあり、そこを風でも通り抜けているのだろうか。そんな風に予想したミリアは辺りを眺める。


 そして、発見してしまう。


「…えぇっ?」


 そこにあったのは8つの赤い光。

 大岩にある凹凸の陰から現れたそれは…4体のバジリスクだった。

 ミリアがバジリスクを倒した事を恨んでいるのか、荒い息を吐きながら次々と姿を現したバジリスクは、ミリアの周囲を取り囲む。

 そして、1人の少女を巡る惨劇が始まるのだった。

おいおい。

どこが合戦だ?


自分で思わず突っ込んでしまいました。

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