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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
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16-5-7.空の旅は唐突に

 黄土と砂塵の都に広がる砂漠。そこを進みながらミリアやクルル、そしてザンが感じた違和感は水面に浮かぶ埃1つを見つけるような…ごく僅かなものだった。

 本当に些細な、見過ごしてしまいそうな違和感。

 だが、1人だけが感じていたのではなく、3人が感じていたという事実が、核心には至らずとも、核心に近い推論として確立させる。

 それは、ミリアが感じた「魔力を感じる」と言った言葉が違和感を1番的確に表現しており、クルルとザンも考察していた問題点と結びつける事で納得の意を得ていた。

 リザードマンの群れを倒した場所へ他の魔獣が寄ってくる事を避けるために、30分程南へ移動した彼女達は、大きな岩陰で休憩を取りながら違和感についての考察を始めていた。


「ミリア、具体的にどの方角から魔力を感じるのか分かるかしか?」


 クルルに問われたミリアは「うーん」と唸って目を瞑る。感じる違和感…微かな魔力の意図を手繰る様に感覚を研ぎ澄ませる。


「…駄目っ。なんか、方向が分からないっていうか、誤魔化されているっていうか…色んなところから感じるっていうか…。むむぅっ。」


 上手く感知する事が出来ないミリアは頬っぺたを膨らませる。むくれる美少女の可愛さに罪は無い。


「難しいのね。じゃあ私が感じる違和感を説明するわ。私は今日この黄土と砂塵の都に来てから、ここに至るまでの距離を大凡で計算していたんだけど…転送魔法陣があった北端の教会から、砂漠の中心点にある古代遺跡へまっすぐ南下しているのなら、そろそろ遠くに見えても良いはずなのよ。けれど、何も見えないわ。いえ、寧ろ…何も変わらない光景が続いているわね。」


 クルルの意見を聞いてミリアは考える。例えば、古代遺跡が地下にあるという可能性。それならば遺跡が遠くに見えない事も説明がつく。

 だが、そんな考えはザンの言葉で否定されてしまう。


「なるほど。では、私が感じていた事も話しましょうか。1つはクルルさんと同じく遺跡が見えない事です。地上10階はあると記されている遺跡が見えないのは、明らかに不自然です。2つ目は砂漠を進むにつれて、魔獣との増えている事です。たしかに遺跡に近づく程に魔獣が増えるというのは、何となしに納得は出来ます。しかし、先程のリザードマンの群れといい…狙って襲ってきている様に感じます。」

「それって…誰かが魔獣を操ってるかも知れないって事っ?」


 黄土と砂塵の都は人が住んでいない。というのが通説。もし、誰かが魔獣を操っているのだとすると…何故、こんな場所に住んでいるのか。


「魔獣を操っている…ね。」


 人差し指と親指を顎に当てて再び考える人ポーズを、出来る女風に決めたクルルは、10秒ほど黙りこくった後に纏めた考えを口にする。


「現状で考えられる可能性は幾つもあるわ。その中で可能性が高いのは、古代遺跡へ私達が到着する事を妨害している者がいる。何かしらの魔法的な力によって魔獣が私達を狙うようになっている。この2つが軸になりそうね。その他の問題点は付随的な問題の可能性が高いわ。」

「良い考察だとは思いますが…解決へ繋げるのが難しいですね。それに、妨害しているものが魔獣を差し向けている可能性も否定は出来ません。」


 確かにザンの言う通りだった。今彼女達が有している情報では、各ピース同士の確固たる結び付きが不明確な為、様々な仮定が成り立ってしまう。

 もう少し、確固たる情報を得る必要がある。…という事になる。


「むむぅ…小難しい話は分からないんにゃけど、古代遺跡に到着出来れば良いのにゃ?」


 ブリティが首を傾げながら問うと、クルルが首肯する。


「そうね。それで間違い無いわ。」

「だとすると…ドッカーンって遺跡に向かって飛ぶにゃ?」

「ブリティさん?何を…?」


 謎の比喩表現を使い始めたブリティに戸惑いを隠せないザンが眉根を寄せた。一方、ブリティは頭の中で答えが出ているらしく、目をキラキラと輝かせている。


「つまりにゃ、古代遺跡が見えないのが問題なのにゃ。だからドッカーンをして探すにゃ!ついでに一気にドッカーンでズビューンと進むにゃ!そうすればさっきの話は全部解決にゃ?」

「……?」


 可愛らしく首を傾げるブリティを見ながら、ザンの首も同調する様に傾げられる。


「ブリティ…もうちょっとちゃんと言わないとザンには伝わらないよっ?」


 謎の雰囲気が生まれつつあるザンとブリティを見兼ねたミリアが助け舟を出すが…。


「むむっ?アタイはかなり分かりやすく言ったにゃよ?」


 どうやら今の表現がブリティの限界だったらしい。

 仕方なくミリアは翻訳をする事にした。


「えっと…つまりブリティが言った事なんだけど…」

「ここで説明するのも面倒ね。ブリティ、やっちゃって良いわよ。」

「えっ?」

「了解にゃ!」

「ふむ…楽しみですね。」


 ブリティに実行を命じたクルルは変わらず平静。

 ブリティが何をしようとしているのかを理解しているミリアは「ホントにやるの?」とばかりに目を見開く。

 ブリティが何をしようとしているのかイマイチ分かっていないザンは、何故か楽しそうに微笑んでいた。

 そして、ブリティは目を爛々と輝かせてやる気満々である。


「皆はブリティに近寄るにゃ。」


 と、他の3人を周りに寄せ集め、


「行くにゃ!」


 と、魔力をサンドクローへ流し、魔法を発動し…ようとして、


「そう言えば、南ってどっちにゃ?」


 と、聞いてクルルに方角を教えてもらい、


「ありがとうにゃ!行くにゃ!唸るサンドクロー!弾ける情熱!砂漠の太陽まで届け!ドッカーンにゃ!!」


 と、叫ぶ。


「きゃっ!」

「あら…!」

「これはこれは。」


 3者3様の反応にブリティは「にゃははにゃ!」と笑う。そして、爆発する様に飛び出した足元の砂塊に本人含める4人を固定し…空高くぶっ飛んでいったのだった。カタパルト発射的なイメージである。


「ひゃっほーぅいにゃ!お天道さんが眩しいのにゃっ!」


 波乗りサーフィン風のポーズで砂漠の空を飛ぶブリティ。

 他の3人は足元の砂に手をついて、何とか体勢を保っている。


「私の想像を見事に超えていますが…成る程、これは理にかなっていますね。」

「えぇ。ブリティは基本破茶滅茶だけれど…こういう時は核心を突く行動を取るのよね。本当に不思議。」


 感心した様子のザンとクルルの会話を横耳で聞きながら、ミリアは眼下へ視線を送っていた。


「……クルル。やっぱり変っ!古代遺跡みたいなのは見えないし、今…何か魔力の膜みたいなのを通り過ぎたよ!」

「魔力の膜?私には分からなかったわね…ザンはどうかしら?」

「えぇ、私も感じましたね。本当に僅かだけ魔力に触れた…という感じです。」

「アタイも感じたにゃ!スポンって抜けたにゃ!」


 高速で飛び続ける砂の塊上から、ミリア達は改めて眼下に広がる砂漠を確認する。

 だが…魔力らしいものは見えないし、古代遺跡も見えない。

 それに…だ。


「おかしいわ。魔獣の姿が全く見えないわ。」

「あ…ホントだっ。」


 そう。クルルの言う通り、魔獣の姿が一切見えなかった。ブリティのドッカーンで空を飛ぶ前は頻繁に魔獣と遭遇していたのだから、上空から見れば魔獣が散見されるはずなのだ。


「ふぅむ。これは、誰かが古代遺跡に至るのを妨害している線が濃くなりますね。」


 考え込むようなザンの言葉に皆が頷く。

 魔獣の姿が見えないという事は、考えられる可能性は2つである。

 誰かしらが狙って魔獣を出現させているのか、それとも魔獣が普段は砂の中に棲息しているのか。

 パワソリンについては砂の中に棲息していると考えて差し支えない。しかし、リザードマンはそういった魔獣では無い筈だった。となると…だ、少なくともリザードマンの群れが狙ったかのように現れたという事実が、何かしらの意図的な妨害を感じさせるのだった。

 一定の推測が成り立った所で、ミリアは1つの疑問に辿り着く。いや、辿り着いてしまった。


「あれ…この砂の塊って魔法で浮いてるんだよね?」


 ある意味、そうあって欲しいという願いを込めて。


「にゃ?そんな訳無いにゃ。砂の塊を固定はしてるけど、飛んでるのは勢いにゃ。だからドッカーンにゃ。浮いてるならフワーにゃ。」

「ちょっとブリティ…。」


 まさかの事実にクルルの目付きが獲物を狙う鷹よりも鋭くなる。


「この砂塊の勢いが落ちたら…どうなるのかしら?」

「ふぇ?頭のいいクルルなら分かっていると思っていたにゃ。このまま落ちるだけにゃよ?」

「あのね…って、きゃっ!」


 グンっと落下感が襲う。


「あ、もう落ちるにゃ。総員衝撃に備えるにゃ!」

「ちょっと…!」


 クルルが非難の声をあげるが時すでに遅し。4人を乗せた砂の塊はどんどん落下していき…。

 ドーン!…と、見事に砂漠に落ちたのだった。


 空の旅終了。


 その後、砂の上に正座させられたブリティが、腕を組んで仁王立ちする砂まみれのクルルに激オコされたのは言わずもがな。


 さて、肝心の砂漠に対する違和感という問題点については…。


「先程上空から落下している時に、大岩が何箇所かにあるのを見ましてね、その大岩が砂漠の中心を囲むように等間隔に並んでいるように見えました。恐らくではありますが、それらが古代遺跡に近寄るのを阻む何かの役割をしているのではないでしょうか?」


 というザンの意見を重要視し、岩を探して砂漠の旅を再開する事になったのである。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 砂の塊が落下した地点から歩き始めて…2日。

 ミリア達一行はやっとの思いで大岩を発見する事に成功していた。

 何故ここまで時間が掛かってしまったのかというと、相変わらず何かしらの妨害があった…かも知れないから。としか言うことが出来なかった。

 南に進んでいるつもりなのに、気づけば別の方角に進んでいたり、大岩を発見して近づいてみれば蜃気楼のように消えてしまったり。砂漠という広大な迷路に迷い込んだかのように、ひたすらに翻弄され尽くしたのだ。

 そして、諦める事なく進み続けた結果、目の前には今度こそ蜃気楼のように消えることのない大岩がででん!と鎮座していた。その大きさたるや高さ500メートルはあるだろう。


「近寄ってみると大きいですね。」


 感慨深げに見上げながらいうのはザン。


「うにゃ。この岩の中に煮干しが詰まってたら…アタイは幸せの絶頂に行けるのにゃ。」


 暑さのせいで頭がおかしくなったのか、2日間の間にストックの煮干しを切らして禁断症状を発症中のブリティが涎を垂らしながら今にも飛びかかりそうな体勢をとっている。


「2人とも呑気ね…。」


 頭を抱えるようにして言うクルルは、大岩の前に立つ其奴らを見て眉根を寄せている。


「え、ちょっと待って。上にも何かいるよっ?」


 大岩の上を見て指差すミリアの視線先では、気味の悪い生物が彼女達を見下ろしていた。


「あれは…バジリスクでしょうか。」


 事も無さげに言うザン。


「バジリスク…厄介ね。」


 他人事の様に言うクルル。


「うにゃ。アタイ、あのバジリスクって魔獣は見た目が気持ち悪いから戦いたく無いにゃ。」


 と、戦闘放棄を明言するブリティ。


「えっ。あの…岩の前にいるリザードマンの群れも居るし、みんなで協力しないと。」


 と、至極最もな意見を言うミリア。

 しかし、クルルは首を縦に振らなかった。


「ミリアの気持ちも分かるんだけど、今重要なのは、砂漠で迷ったりするのにこの大岩が関係しているのかを調べる事よ。多分、それを調べるのは私が適任だと思うわ。だから、問題解決を最優先にしてここは攻めるわ。」

「私もクルルさんの意見に賛成です。ここで魔物と戦うだけ…では何にもなりません。私たちの第1目的は古代遺跡へ辿り着く事。その為なら…多少の冒険は必要でしょう。」

「えっと、つまり…?」


 ちょっとだけ嫌な予感がするミリアが恐る恐る尋ねる。


 そして、1分後。

 地面に膝をついてがっくしと項垂れるミリアと、両手を腰に当てて高笑いするブリティ。そして、やる気に満ちたクルルとザンがキリッとした顔を大岩に向けているのだった。


 大岩合戦。

 ここに開幕である。

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