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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
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16-5-5.砂漠の魔獣

更新が数日遅れてしまいました。

 ミリア達一行の前に現れた巨大な蠍は、砂色の甲殻を太陽光で鈍く光らせながら、その両腕に備え付けられた巨大な鋏をユラユラと揺らしていた。


「これは…砂漠の魔獣パワソリンですね。」

「変な名前にゃ…。」


 ブリティのシュールなツッコミを意に介せず、ザンはパワソリンの様子を伺いながら情報を開示していく。


「パワソリンは途轍も無い力を持っているのは勿論のこと、尾節先端の黒い部分が要注意と言われています。あの棘からは強酸が分泌されるらしく…刺されれば溶けて絶命してしまうかと。」

「ええっ!?怖いねっ。」

「…ミリアさん。怖がってませんよね?」

「えっ?そんな事…無いような?」


 不思議な事に、ミリアは魔獣を前にして怖気付くどころか、高揚感に見舞われていた。

 倒してやる!という戦意が何故か体の奥底から湧き上がってくるのだ。初めての地に来て、無意識に興奮しているのだろうか。


「そろそろ来そうね。ミリア、ブリティ…頼んだわよ。」


 パワソリンの動きに微妙な変化が出たのを察知したクルルが注意喚起を行う。


「まっかせるにゃ!この砂漠は…アタイの独壇場にゃっ!」

「確かに。これだけ砂があれば、ブリティさんのサンドクローが力を発揮しやすいですね。」

「ふにゃ!?何故アタイの属性について知ってるにゃ!?」

「ん…?言ってませんでしたっけ?あの幽霊屋敷を仕掛けたのは重光さんで、私がその監視を行っていたんですよ。」

「えぇっ!?」

「…このタイミングで暴露することはないでしょう。」

「ビックリ仰天にゃ!……危ないにゃ!」


 衝撃の暴露があったが…このタイミングでパワソリンの巨大な鋏が振り下ろされた。

 ドォン!という音と共に砂が巻き上がる。


「凄い力にゃ…!」

「気をつけなきゃだねっ。ブリティ、先ずはパワソリンを倒そうっ!」

「オッケーにゃ!」


 幽霊屋敷の話は気になるが、今は目の前の魔獣を倒す方が先決だった。

 ブリティはサンドクローを両手に装着し、ミリアは腰の細劔を抜き放ち、パワソリンに向けて駆け出した。

 2人の獲物へ向けてパワソリンの鋏が連続で叩きつけられる。その度に爆発のような音が響き渡り、垂直に砂が巻き上がっていく。…だが、攻撃は当たらない。

 全ての攻撃をギリギリで避けるブリティは、あっという間にパワソリンの懐へ潜り込み、サンドクローを媒体にした魔法を発動させる。


「ぶっ飛ぶにゃ!」


 ブリティの足下の砂が蠢き、巨大な拳を形作る。そしてその砂拳がブリティの腕の動きに合わせて振り上げられた。

 ガンっという鈍い音が響き、パワソリンの体が持ち上がる。…だが、それもほんの少しだけ。


「かったいのにゃ!おっもいのにゃ!」


 想像以上の重さと硬さにブリティが叫ぶその後ろから、ミリアが飛び出る。


「いくよっ!」


 右手に携える細劔に焔が纏わりつき、連続突きをパワソリンの胴体に向けて放つ。

 ガギィンギィンギイン!!

 しかし、その攻撃も硬い甲殻によって悉く弾かれてしまう。


「…ブリティ、普通に攻撃するだけじゃ効かないみたいだよっ!」

「そうみたいにゃ!斯くなる上は…王道の関節攻撃にゃ!」

「キュイィィィイイン!」


 やられているばかりでは無い。と、かん高い鳴き声を迸らせたパワソリンの尾節がブリティとミリアを狙って突き出される。


「きゃっ!」


 その攻撃を可愛らしい叫び声と共に間一髪で避けたミリアは、尾節先端の黒棘が刺さった砂部分を見て顔を蒼褪めさせる。


「砂が溶けてる…。」


  蠍の棘が突き刺さった部分は黒く変色し、ジュウジュウという音を立てて溶けていた。もし、体に刺さっていたら…重症は免れないだろう。


「キュイィィィイイン!!」


 そこからはパワソリンのターンが始まった。

 2つの巨大鋏による乱打と、黒棘による連続突き。巨大に見合わない高速の連続攻撃に、ミリアとブリティは中々攻撃の機を見出すことができない。


「これは…想像以上の強敵ね。」

「えぇ。しかも、この砂漠には同様の魔物が多数いる筈です。ここで二の足を踏んでいるようでは、この先が思いやられますね。」

「あら、そういう貴方は倒せるのかしら?」

「それは…。」


 クルルの挑発的な質問にザンが答えようとした時である。

 ドォン。という音が後方から聞こえ、振り向けば…もう1体のパワソリンが現れていた。

 所謂、挟み撃ちというやつだ。


「あら…これはちょっとピンチかしら。」

「そういうクルルさんはあまり焦っていないようにも見えますが…。まぁ良いでしょう。ここは私が一肌脱ぎましょう。」


 パワソリンの前に1人出たザンは、丸眼鏡の奥の瞳を細め、口元を薄く歪めた。


「私の相手に相応しいか試してあげます。」


 両手に5本の爪が其々装着される。

 そして、パワソリンから振り下ろされる鋏に向けて気負いをしない一撃が放たれた。

 ザンがパワソリンとの交戦を開始したその横では、ブリティとミリアが変わらずパワソリンに対して攻めあぐねていた。


「ブリティ!このままだと防戦一方じゃないっ?」

「その通りにゃ。そろそろ攻めたいにゃ!」


 薙ぎ払われる巨大鋏をサンドクローの爪でギリギリのラインで受け流したブリティは、クルルへ視線を送る。尾節の串刺し攻撃を細劔に纏った焔でパリィしたミリアも同様にクルルへ視線を送るのだった。

 2人の視線を受けたクルルは…自身の両サイドで魔獣との激しい攻防が行われている割には落ち着いた雰囲気(腕を組んで、片手を顎に当てる考察ポーズ)で、其々の戦う様子を観察していた。


(ブリティとミリアの気持ちは分かるわね。後はザンだけど…さっきの幽霊屋敷の話が本当だとしたら…どこまでが彼の…いえ、織田重光の策謀範囲で、どこからが想定外だったのかが重要になるわ。とは言え、この状況を脱しない事には話を進められないのも事実。それに、パワソリン以上の魔獣が出てくる可能性も否めない以上、毎回その時にどうするかを判断するのは…流石に危険よね。そうであるのなら、私達の命を最優先事項に挙げて隠すのは止めるのが得策かしらね。)


 この考察まで約1秒。

 高速で思考をまとめたクルルはミリアとブリティに向けて小さく頷いた。

 それを見たブリティの目が光る。


「クルルがオッケーしたにゃ!!やるにゃっ!」

「えっ?ブリティ…最初から一気に行くの?」

「もっちろんにゃ!ズバッとバビッと決めるにゃ!」


 パワソリンの鋏による叩きつけを危なげなく回避したブリティは、着地と同時に右脚を引いて格闘家のような構えを取った。


「ミリア、万が一に備えて一歩後ろで頼むにゃ。」

「うんっ。分かったよ!」


 ギラリ…とブリティの瞳が輝く。


「アタイの本気、味わうにゃ!」


 ドンっ…とブリティの足下が爆ぜ、砂が舞い、パワソリンへ突進していく。

 お馴染みの高速近接戦闘。…だけではない。宙に舞った砂がブリティに付き従っていた。それはまるで見える風のようにブリティを追いかける。


「キュイイイン!」


 これまでと違うブリティの迫力に警戒したパワソリンが雄叫びを上げ、鋏と尾節をもって迎え撃つ。

 3方から襲い掛かる怒涛の叩きつけと串刺しを舞妓のようにクルクルと躱しながら、ブリティの攻撃が始まった。


「切り裂くにゃ!」


 砂が風のように踊り、刃の鋭さをもってパワソリンの関節間へ潜り込んで切り裂いていく。


「ギャャャウウウイン!」


 苦悶の声を漏らし、パワソリンは更に攻撃速度を上げていく。

 両サイドからの殴り付けが、タイミング悪くブリティが着地する所へ放たれる。

 …通常であれば、パワソリン目線で言えばタイミング良く。しかし、これは結果的にタイミング悪くと言わざるを得なかった。…自らの死期を早める一手になったのだから。

 回避不可のタイミングで放たれた殴り付けを視界に捉えながらも、ブリティの目線はパンソリンからブレない。


「弾くにゃ!」


 怒涛の勢いで噴き上がる砂の壁が現れ、パワソリンの両鋏を防ぎ、弾き上げた。

 思わぬ方向へ鋏を弾かれた事で、両腕を上げ、前脚を浮かせるという無防備な姿を晒してしまうパワソリンは、危機を察知して逃亡の一手を打つ。

 たが、時既に遅し。猫娘は逃亡を許す程優しくはなかった。


「噛み砕くにゃ!」


 付き従う風のような砂が蠢く。

 両腕を後ろに引き絞ったブリティは、単語を口にした。


「砂風撃【熊乱牙】!!にゃ!」


 ブリティの上下左右に牙が現れる。それは、獰猛な熊のように鋭く、太く、太陽光の光を受けてギラリと輝いていた。

 そして、両腕の動きに合わせて上下左右からパワソリンへ襲い掛かったのだった。

 逃亡を図ろうとしていたパワソリンは強力な攻撃を察知するなり、再び戦闘継続へ動きを切り替え、襲い来る牙へ向けて口から霧を吹き出した。

 砂牙と霧が触れ、砂牙が変色しながら溶け始めた。


「あの霧…強酸っ?」


 離れて様子を見守っていたミリアが叫ぶ。あの近距離で霧状に放たれた酸を全て防ぐ事は難しい。例え砂の牙がパワソリンへ届いたとしても、同時にブリティも負傷する可能性が高かった。


「まぁ…大丈夫よ。あの程度なら。」


 焦るミリアに対してクルルは心配事など無い。とばかりに余裕だった。

 ブリティの力量を知っているからこそ。そして、その力が規格外なものである事を知っているからこそ。


「押し返すにゃ!」


 ブリティは砂の牙が全て強酸に触れる前に追加の一手を繰り出していた。

 砂の壁が現れ、強酸霧を包むようにしてパワソリンへ押し返す。変色した砂が異臭を漂わせながらパワソリンの体へ降り注いだ。勿論、強酸を自身で放つパワソリンは耐性が強く、何らダメージを与える事も出来ない。

 だが、それだけで十分だった。間髪入れずブリティの砂風撃【熊乱牙】が突き刺さったのだ。

 パワソリンの分厚い甲殻が次々と食い破られ、体液が迸る。


「ギュイィン……!」


 苦悶に満ちた断末魔を上げたパワソリンは、力なく鋏をゆらゆらと動かし、パタンと動きを止めた。


「アタイの勝利にゃ!」


 クルクルクルと宙を舞い、戦隊物のヒーローのように着地したブリティは、Vサインで勝利を告げたのだった。


「中々の手際ですね。」


 優雅なウォーキングで歩み寄ったザンがブリティを褒め称える言葉を投げかけた。


「ありがとうにゃ!」


 嬉しそうにブリティの尻尾がユラユラと揺れる。


「ブリティお疲れ様!」


 ミリアも駆け寄ると労いの言葉をかける。

 そして、ザンが戦っていたパワソリンを見て、驚きの声を出すのだった。


「ザンも…強いんだね。」

「いえいえ。私など、一介の執事に過ぎません。」

「よく言うわよ。あれだけ簡単に倒しておいて。」


 呆れたように言うクルルはチラリと視線を送る。

 その先には…五体バラバラとなったパワソリンが、オブジェのように転がっていた。不思議な事に体液は殆ど散乱しておらず、綺麗なものだった。一体どのような芸当を披露したのか。


「ザンも強いにゃ!」

「ありがとうございます。」


 こうして、黄土と砂塵の都に於ける初の魔獣戦は勝利に終わったのだった。


 周囲に魔物が潜んでいないか、探知型魔法で確認をしながら一行は歩き出す。

 そして、歩き始めて少ししたタイミングで、クルルが突然切り出した。


「ザン…あの屋敷に霊寄石を仕掛けたのが織田重光って話、それについて話して貰うわよ?」

「えぇ勿論です。今更隠し立てする程のものでもありませんので。」


 丸眼鏡の奥で笑顔を見せながら、ザンは気前よく頷いてみるのだった。

久々に戦闘シーン一色となりました。

相変わらずブリティが目立っていて、ミリアの影が薄いような…。笑

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