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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
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16-5-2.極秘依頼

仕事で夜勤に入っていた関係で更新が遅れてしまいました。

 クルルに連れられて依頼人が待っているという場所に到着したミリアは…思わず目を疑い、立ち止まっていた。


「え、ここ?」

「そうよ。」


 難しい顔で目の前にある建物を見上げるクルルにつられ、ミリアも見慣れた建物を見上げてしまう。


(こうやって改めて見上げると…すごい建物だよね。)


 その建物は全100階を誇り、白金と紅葉の都で1番高く、中心的な存在として君臨していた。

 3人が無言で建物を眺めていると、1人の老紳士がゆっくりと入り口から歩み寄ってくる。高級そうながらも、年季が入っていて手入れをされたスーツを着こなす姿は、物腰柔らかそうな雰囲気の中に鋭い剣を隠していそうな気配を漂わせるものだった。


「皆様、ようこそおいで下さいました。こちらにご案内させて頂きます。」

「これはご丁寧にお出迎えをありがとうございます。」


 丁寧な言葉遣いで応対をするクルルは、ミリアとブリティに目線で付いてくるように合図をすると、ゆっくりと歩く老紳士の後について歩き出した。


(まさか…まさかね。)


 ミリアは湧き上がってくる嫌な予感を必死に否定しながら入口へと入っていく…都会議事堂の中へと。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 部屋の中で男はグンっと伸びをすると後ろに控える人物へ声を掛けた。


「ザン、例の客がそろそろ来る時間だと思うが?」

「はい。今先程到着したとの連絡が入っています。あと5分もしないうちにこちらへいらっしゃるかと。」

「そうか。念の為に確認するが、本当に任せて大丈夫なのだろうな?」

「はい。実力は折り紙付きです。言動にやや難はありますが、それも範疇内かと。」

「なら良い。」

「今回は私が同行しますので、万に一つの失敗もございません。」

「頼もしい言葉だ。」


 ザンと呼ばれた男性は、恭しく頭を下げる。丸眼鏡を掛け、オールバックにした姿は…まるで執事の鏡のようである。いや、執事なのだが。


「それにしても、今回の選挙は…おっと、来たか。」


 男がそう言うと、部屋のドアがコンコンとノックされた。

 見ればドアの前にはザンが既に待機している。


「中へお通ししても?」

「勿論だ。」

「それでは。」


 ザンがドアを開けると、先ず見えたのは老紳士。執事の1人だ。

 そして、ミリア、クルル、ブリティが後ろに立っていた。


「よく来たな。」


 男は口元に小さな笑みを浮かべながら声を掛けた。


「あっ!!!織田重光にゃ!なんでここにいるにゃ!?」

「あっ、あの時の燕尾服の人っ?なんでここにいるの!?」


 同時に叫ぶミリアとブリティ。重光の「よく来たな。」に反応しているとも取れるが、実質的にふるシカトしていた。その事実に気付いて冷や汗を垂らしているのは老紳士くらいなもので、いつもだったら怒りそうなクルルはミリアの言葉を聞いて目を細めていた。


「ミリア…どう言う事?ザンの事を知っているの?」

「え?…あれ?言ってなかったっけ?サリーちゃんの依頼の時に、サリーちゃん…愛子様のワンちゃんね…を預けて欲しいって言ってきたんだよ。その後にドッグテイマーズが現れたらどこかに行っちゃったんだ。」

「ミリア…そういう大事な事はちゃんと報告しない…。」


 何故かクルルは額に手を当てて頭痛に堪えるポーズを取ってしまう。


「えっ?どういう事??」


 事態を飲み込めないミリアを見ながら、重光は愉快そうに肩を上下し、ザンは穏やかな笑みを浮かべて黙っている。

 これはつまり、彼らは自分から何かを話すつもりは無いという事。そして、ザンがサリーちゃんを預かろうとした真意を当てることが出来るのか…を試されているのだとクルルは気付く。


(なんでこう面倒な状況になるのかしらね…。)


 とは言え、試されているのであれば、及第点の回答をしなければ…この後にするであろう依頼の話が無かったことになってしまう可能性もある。

 渋々…といった表情でクルルはミリアに説明を始めることにした。


「あのね、あの燕尾服を着た丸眼鏡の優しそうな雰囲気を醸し出しているザンは、革新党党首の織田重光の右腕と呼ばれる執事なのよ。その彼がサリーちゃんの保護をしようとしたっていう事は、あの犬が今回の選挙に何かしらの理由で関わっているって事になるわ。」

「選挙に?」

「そうね。博愛党の裏情報とか、革新党側についてくれそうな人達の名簿とか、もしくは…今回の依頼に関わる何かの情報…かしら。」

「えっ。今回の依頼って織田重光なのっ?」


 思わぬ事実に驚くミリアだが、クルルは自分の回答がどう評価されたのかが気になり、ミリアの言葉に反応せずに静かに重光とザンを見ていた。

 少しの間を空け、重光が手を叩き始めた。


 パンパンパンパン


 それは…拍手だった。


「良い推察だ。流石は何でも屋ミューチュエルの経営を担うだけの事はある。ザン、サリーちゃんの真相を…いや、それは後々分かるか。今回の依頼についてお教えしろ。」

「かしこまりました。」

(合格…ってことかしらね。)


 一先ず依頼の話が前に進んだ事に、胸の奥で安堵するクルル。

 だが、前々の依頼と今回の依頼が関わっていたとなると、中々に複雑な依頼を言われる可能性もあった。油断することは出来ない。

 ザンはカツカツと部屋の中を横切るように歩きながら、依頼の内容について話を始める。


「今回、私達が依頼したいのはとある遺跡の調査です。」

「遺跡?そんなもの白金と紅葉の都にあったかしら?」

「いいえ。ありませんよ。その遺跡は黄土と砂塵の都にあります。」

「…。」


 黄土と砂塵の都。その単語を聞くと、クルルは口を閉ざす。どうやら先の話を聞いてから色々と確認をするつもりなのだろう。そして、クルルの様子を見たザンも同じように理解をしたらしく…長々と話し始めた。


「今回、私達が黄土と砂塵の都にある遺跡の調査をするのは、大きな目的があります。それは、今行われている選挙戦に勝つ為です。博愛党は白金と紅葉の都の文化を守るためと言いながら、自分達の政権を守るための様々な大義名分を並べ立てています。しかし、私達が掴んだ情報では、文化を守る為に…とある計画を進行させているようなのです。その計画の内容が…今は話せませんが非常にマズイ。だからこそ、今回は何が何でも政権を奪還する必要があるわけです。」


 部屋の反対側に到着したザンが指を鳴らすと、上からモニターが降りてくる。そこには…何かの移動の痕跡のようなものが表示されていた。


「ここに表示されているのは、数日前に観測された流れ星の軌跡です。突如現れた流れ星は黄土と砂塵の都へ落ちた事が確認されています。この流れ星…古代文明に関わる何かしらの物が引き寄せられたのでは…と推測しております。」


 古代文明という単語にクルルの眉がピクリと反応するが、それ以上はポーカーフェイスを貫き、静かにザンへ視線を送る。


「さて、なぜ我々が古代文明に関わるものと予想したのかというと、それは簡単。黄土と砂塵の都には古代遺跡があり、そこには古代文明に関わる何かしらの遺物があると推測されているのです。そして、私達は古代遺跡に関する情報をサリーちゃんの首輪に隠されていたチップから得ています。遺跡内部の情報は分かりませんでしたが、黄土と砂塵の都のどの辺りに遺跡が位置するのかは掴んでいます。」


 特に疑問点の浮かばない丁寧な説明。

 ミリアとプリティは「ほへ〜」と言った顔で話に聞き入っているが、流石のクルルは違った。


「1つ分からないわね。流れ星の正体についての推測は良いわ。ただ、何故、貴方達革新党はそれを求めるのかしら?」

「それこそが本題です。この古代文明の遺物。もし、博愛党が私達と同じ推測をして見つけたとしましょう。…最悪の場合、一気に選挙戦の流れが博愛党に傾いてしまう危険性があるのです。」

「む〜?なんでにゃ?遺物があるからって選挙がなんで有利になるにゃ?」


 ギリギリ話についてきているブリティが、尤もな質問をする。

 この質問に答えたのはクルルだった。どうやら彼女は大方の内容をもう理解したらしい。


「それは簡単よ。古代文明遺跡にある遺物…つまり、古代魔具ね。別称ではアーティファクトとも言われているわ。現在の技術では再現不可能な能力を持った物よ。それこそ、極端に言えば都民の心を洗脳する能力を持っている可能性すらあるわ。」

「洗脳はヤバイにゃ…!」


 深刻そうな顔で両手で頭を抱えたブリティが絶句する。「ガーン」という効果音がピッタリなポーズだ。ただ、ガーンだと場面にそぐわない反応な為、やはりブリティのリアクションはちょっとズレていた。


「流石はクルルさん。つまり、そういう事なのです。私たちは不当な手段で選挙を負ける訳には行かないのです。正々堂々と真正面から小細工抜きで戦う。それこそが私達が望む選挙戦なのです。」

「その不当な手段を博愛党が使わないように、流れ星の正体を探って、確保するってことね。ただ…まだ疑問が残るわ。」

「…どのような疑問でしょうか。」


 目付きを変えたクルルを見て、ザンも低い声で応答する。ザンの全身から…薄い闘気が漏れ始める。だが、クルルは怯まない。


「簡単な疑問よ。仮に私達が古代魔具を手に入れたとして、それを織田重光…あなたが悪用しない保証が無いわ。」


 クルルの鋭い視線がザンを突き抜け、奥に立つ重光へ突き刺さる。


「クク…。」


 重光はクルルの言葉を受けて楽しそうに肩を震わせる。

 だが、主人への不躾な言葉に、ザンの目付きが鋭くなっていた。爆発…とまではいかないが、明らかに怒りの感情が浮かんでいた。


「クルルさん。それは失礼な発言だとご認識をされていますか?」

「良い。俺にここまでストレートに不信感をぶつけてくる度胸に免じて、1つ言おうか。」


 重光は静かに居住まいを正すと、クルル、ミリア、ブリティの3人を順番に見る。

 そして…。


「俺を信じろ。」


 と、ひと言だけ言い放ったのだった。

 ザンは「これですよ…。」とばかりに額に手を当てている。無駄に自信満々で、言い訳なども言わず、ただ相手に求める本題のみだけを理由も言わずに告げる豪胆さ。政治家としては素晴らしい素質を持っているのかもしれないが、ともすれば危うい諸刃の剣と言う事も考えられる。

 まぁ、素質があるから革新党の党首になっているのだろうが。

 数秒の沈黙の後、クルルは首を軽く横に振ったのだった。


「ふぅ…仕方がないですね。」


 このままクルルが納得せず、依頼交渉は終了か…と誰もが思ったのだが、この反応を見る限りそうではなさそうだった。

 寧ろ、口元に笑みを浮かべているのだから好反応と言って差し支えが無さそうである。


「重光…あなたのその実直というか、豪胆さには敬意を表するべきね。いいわ。依頼を受けましょう。」

「ほぅ。俺のひと言で決断が出来るとは。中々の為政者となる素質を持った女だ。」

「但し、条件があるわ。」

「面白い。言ってみろ。」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 依頼を受けたクルル達が去った後の部屋で、重光は楽しそうに窓の外を眺めていた。眼下に広がる白金の都、そしてその向こう側に広がる紅葉林はいつ見ても素晴らしいものだった。


「重光さん。先程の条件…承諾して良かったのでしょうか。」


 少し離れた場所で急須を使って緑茶を淹れるザンが言った。


「あぁ。依頼中にザンが見る彼女達の能力について口外しない事…しかも俺にも言わないってのが面白い。余程の秘密を抱えているのか。それとも何かの時のために防衛線を張っているのか。…だが、彼女達を選んだ事で退屈はしなさそうだな。」

「それはそうですが…。私が重光さんに秘密を持つ可能性があるというのは、些か気持ちが悪いものです。」

「はははっ!素晴らしい心がけだ。だが、覚えておくがいい。身内の信頼を大切にし、周囲の信頼を蔑ろにすれば…いずれ身内にも捨てられるぞ。」

「…はっ。失礼致しました。」


 恭しく頭を下げるザンを見て満足そうに頷いた重光は、自分の机へと向かう。

 そして、鍵を開けて中に仕舞われた古ぼけた本を取り出した。


「…あわよくば、求める物が在る事を祈るのみだな。」


 何かに祈るように本の表面を重光の指がなぞる。

 そこには掠れた文字で、「神楽舎人」という文字が記されていた。

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