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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
964/994

16-5-1.白金と紅葉の都…選挙戦

明けましておめでとうございます。

2019年初の更新です。

今回の話の構成で少し悩みまして、久々の更新となりました。

本年は毎週水曜更新は守りつつ、余裕があれば臨時での更新もしていきたいと考えています。


それでは、【白金と紅葉の都 選挙編】をお楽しみください。

 白金と紅葉の都に於ける政治は2つの政党から成り立っている。

 与党の博愛党と野党の革新党。

 博愛党は白金と紅葉の都が培ってきた文化を大事にする事を第一に掲げ、革新党は積極的に新しい技術を取り入れて更に便利な生活を実現する事を第一に掲げ…選挙戦で激突する。

 平和な民主主義ではよくある光景。

 …そうなる筈だった。


「其方の好きにさせるものか!白金と紅葉の都は妾が守るのじゃ!」


 白と水色を織り成した可憐で清楚なイメージを与えていたであろうボロボロの着物を着た女性が叫ぶ。

 その目線の先に立つのは黒髪の青年。感情の無い眼差しを女性に向けた青年は、小さく言葉を紡いだ。


「お前の本当の望みは…そんな程度か?」


 次の瞬間、パァンという音が響き渡り、女性が弾け飛んでいく。

 彼等2人の周りは…地獄絵図だった。

 溢れかえる魔力が建物を呑み込み、崩していく。

 魔素が濃く漂い、生あるものの命を奪っていく。


 吹き飛ばされて地面に転がった女は、着物が乱れて肌が露出している事を厭わずに立ち上がった。


「妾は…負けぬ!悪の子よ。お主にこの星を壊させぬぞ!」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 ミリアとブリティが鎧塚玉緒の依頼で黒水と紅葉の都へ出かけている頃、空を見上げている男女がいた。

 1人は革新党本部の屋上で。1人は博愛党本部の屋上で。

 別の場所でこの2人が同じように空を見上げていたのは、単なる偶然だろう。

 しかし、この偶然は必然であり、この偶然によって動き出す意志が白金と紅葉の都の在り方を大きく変えるきっかけとなったのだった。


「む。」


 男が声を漏らす。

 同じように、別の場所でも女が両手を口に当てて声を出していた。


「珍しい事もあるものじゃ。」


 異なる場所で2人が見ていたのは…空に尾を引いて駆ける流れ星だった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 白金と紅葉の都を歩くミリア、クルル、ブリティ。

 彼女達は依頼人に会うためにとある場所へ向かっていた。

 これだけならいつも通りなのだが、今回ばかしは周囲の環境がいつもと違っていた。


「出勤中の皆様お疲れ様です!我々博愛党は皆様の生活を守る事を徹底して政策を行ってまいります!近年、経費削減を理由にリストラを行い、業績不振を理由にボーナスの前年比カットを行う企業が増えております!しかし、本当にそれが理由なのでしょうか!?皆様の給料が減っている中、会社役員の報酬が統計では増えているのです!これこそ格差社会の象徴ではないでしょうか!?そして、革新党はその事実を放置して新しいものを取り入れようとしている!そんな横暴は許されない!まずは我々の生活を守り、豊かにし、その上で新しいものを少しずつ取り入れていけば良いのです!」


 マイクを持った男が熱のこもった声で街頭演説を続けていた。

 その少し離れた場所では…


「さて、皆さん。博愛党の文化を大事にするとか、生活を守るっていうのは大事だと思う。けどさ、それじゃぁ何も変わらないんだよ。分かるか?あいつらの主張には具体性が無い。守る守る守るって言うけど、どうやって守るのさ。どうやって生活を守るんだ?文化は?なぁんにも無いよな。いいか。雇用ってのは既存業態だけでは増えないんだよ。新規業態を取り入れる事で、全く新しい雇用を創出できんだ。しかも、新しい物は文化を壊したりはしない。既存文化に馴染み、適応したものになるんだ。その結果として、白金と紅葉の都が大切にしてきた文化が新しいものを取り入れてより素晴らしい文化として昇華していく訳だな。これこそが、本当の国策ってもんだ。今のまま博愛党が政権を続けてたら、代わり映えのしない、つまらない人生しか待ってないぞ。」


 と、政治家っぽく無い口調で、しかもそこまでやる気を感じさせないテンションで街頭演説をする男もいた。

 彼等の演説を聞きながら歩くクルルは溜息をつく。


「あれ?どうしたの?」


 いつもなら選挙時には「あの政治家の考え方は良いわね。」とか、「あの人…暗殺依頼こないかしら」なんて言いながら静かにヒートアップしているクルルなのだが、今回に限ってはやけにテンションが低かった。

 顔を覗き込むミリアを見てクルルは小さい笑みを見せる。


「ごめんね。せっかくの選挙戦が始まったのに、これから行く依頼が嫌な予感しかしないのよ。」

「えっ…クルルが溜息する位って結構ヤバイ感じなのっ?」

「そうね…一見すると普通なんだけど、どうも裏があるような気しかしないのよ。」

「むむぅ。政治家さん達の話は難しいにゃ。もっと簡単に話すべきにゃ。」


 小難しい顔で街頭演説をする人達を眺めていたブリティがボヤく。基本的に政治などの難しい話に全く興味が無い彼女からしたら、街頭演説など苦痛のBGMでしかないのだろう。


「そこの女性3人組の方々!どう思いますか!?」


 そんな話をしながら歩いていると…運の悪いことに、街頭演説をする化粧の濃いマダム風政治家に声をかけられてしまう。


(あ…クルル機嫌良くないから…。)


 ミリアは嫌な予感がして止めようとするが…時既に遅し。

 イライラした様子のクルルが返事を返してしまっていた。


「何かしら?」

「あぁりがとうございます!私は待機児童問題の解決をする為に政治活動を行なっています!保育園に入るために手続きを行い、入れない子供が沢山いるんです!こんな状況では女性の社会進出を妨げているとしか言えません!女性だってもっと社会で、企業で活躍するべきだとは思いませんか!?」


 そもそも何故話しかけてきた…。そんな疑問が湧き上がる問いかけだが、「ふぅん…」というクルルの小さい声を聞いたミリアは思わず天を仰ぐ。


(クルルのスイッチが入っちゃったよっ!)


 そして、ミリアの予想通りクルルが低めの声で女政治家に問いかけてしまう。


「あなたはどうやって待機児童問題を解決しようとしているのかしら?」

「良い質問をぉありがとうございます!先ずは、保育園の増設が何よりも優先課題ですよ!母数が足りていないのだから母数を増やす!政治家として当然の務めなのです!」

「そうね。その増やした保育園で働く保育士は?」

「現在の保育園から人を回したり、新人教育を早急に進める必要がありますわ!」

「保育園に新人保育士が一気に増えて、子供の安全は確保されるのかしら?」

「それは万全な新人教育を…。」

「今の現状でも保育園に於ける過失事案で子供が怪我をしたり、最悪命を落とすなんて事も起きてるわよね?保育園を一気に増やす事で、子供の命が危険に晒されたら本末転倒なのは分かっているわよね?」

「勿論です!だからこそ教育を…」

「その前に聞きたいのだけれど、待機児童の内、本当に働かなければならないお母さんはどれくらいいるのかしら?申し込みをしたけれど、入れないならそれでも良いって考えている人もいると思うわよ。その実態把握は出来てるの?」

「そ、そこまでは…。」

「あなたは女性の社会進出を掲げているけれど、子育てをしながら働く事がどれだけ大変なな事なのか分かってるのかしらね。保育園に預けるとしても結局はフルタイムで働くのは難しいわ。時短勤務をする人が殆どでしょうね。子供を保育園に預けて、仕事をして、周りに謝りながら早く帰って子供をお迎えして、家に帰ってご飯を作って食べさせてお風呂に入れて寝させる。これって、普通に働いている時よりも、子育てだけをしているよりも大変なことだと思わない?」

「それはそうですが…女性の社会進出はこの星の重要課題であって…。」

「だから否定はしてないわよ。ただ、保育園を増やして子育て世代の女性で仕事をする人が増えるとて事は、これまで以上に大きな負担の中で働く人が増えるって事なのよ。そうなると、お母さんの心のケアだとか、企業の育児社員に対する制度が充実していなければ、不幸になる人が増える可能性もあるわよね。この点についてはどんな具体的政策を考えているのかしら?」

「そ、それは…カウンセラーの育成や、企業との制度見直しを…。」

「それはいつ完了する予定なの?」

「そこまではまだ…。」

「…ふぅ。だったら、あなたの言っている事は机上の空論ね。民衆に待機児童の解消なんていう分かりやすい餌を撒いて、食いついたら放置する最低な手段よ。」

「…なんであなたみたいな一般人にそんな事を言われなければならないんですか!?」


 クルルの猛攻に反論出来なくなってきた女政治家が怒り出す。だが、イライラ気味のクルルは至って冷静だ。


「その一般人のために働くのがあなた達政治家よね?…その程度の覚悟なら政治家は向いてないわね。」

「……うぅ…うぅぅううううっ!!」


 トドメの一撃でよろめいた女政治家は涙を流して崩れ落ちた。


「さ、いきましょ。」

「う、うん。」

「政治家さん、気にしないにゃ。クルルは普通の政治家さんより政治家さんなのにゃ。」


 慰めにならない慰めをしたブリティが先を歩き始めたクルルとミリアを追いかける。

 その3人を見送る女政治家と、周囲で問答を聞いていた人々は…何も言わずに後ろ姿を見送ることしか出来なかった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 ポコポコ…コポコポ…。

 液体の中を泡が上る音が微かに聞こえる部屋があった。

 その中心に置かれているのは、筒型のガラスだ。上部と下部からは沢山のケーブルが伸びていて天井と床に繋がっている。

 真っ白な部屋の中で唯一の色が付いた存在である筒型のガラスは、異様な存在感を放っていた。


 ゴポゴポ…


 一際大きな泡が上がった。

 筒型のガラス…その中に居るのは…。


 ドサッ


「ぐはっ…!クソっ!出せ!出しやがれ!!」


 静かな部屋に突如落ちてきたのは、一目でゴロツキと分かる男だった。

 サイドに剃り込みの入った髪型に、ガラの悪いグラサン。タンクトップにダメージジーンズという、ちょっとセンスの悪い服の組み合わせもガラの悪さを強調している。


「くそっ!何なんだよここは!!」


 ゴロツキは喚く。


「こんな部屋…ぶち壊して出てやんよ!」


 怒りに表情を歪めるゴロツキは両手に風玉を生み出すと、バズーカのように撃ち放った。

 2つの風玉は螺旋回転をしながら部屋の壁に突き刺さる。ドォォォン…と轟音が響き渡り、部屋の中に粉塵が舞う。


「くそっ…!」


 だが、ゴロツキは悔し紛れの感情を吐き捨てる事しか出来なかった。

 比較的強めの魔法を使ったのに、部屋の壁はほぼ無傷だったのだ。

 つまり、全力で魔法を使ったとしても壊せるかは微妙という事。それに…魔力をこれ以上消費することを躊躇わせるものがゴロツキの前に在ったのだ。


 ゴポゴポ…ゴポゴポ…。

 

 筒型のガラス内に在る其者の口腔から空気が漏れ、管がゆっくり抜けていく。


 ゴポゴポ…。


 ゴォォォォ…。


 そして、筒型のガラス内を満たしていた液体が上下に伸びるケーブルを通って排水され始めた。

 そして、其者の身体が外気に晒される。ドアのように観音開きとなったガラスの筒から其者は足を踏み出した。

 ビチャ…。

 湿った素肌が真っ白な床を踏み締める。


「此処は…。俺は…。」


 其者は呟くと辺りを見回した。

 そして、部屋の片隅に呆然とした顔で立ち尽くすグラサンをかけたゴロツキに目をとめた。


「お前は……誰だ。」


 異様な存在だが、極々普通の問いかけをする其者の台詞にゴロツキはハッと思考を再稼働させる。


「お、俺は…って違ぇ!テメェこそ誰だ!粋がってんじゃねぇぞ!」

「俺は……。」

「彼に名前は無い。」


 第3者が現れる。


「てめぇは…誰だこんちくしょう!」


 次々と変わる事態に思考回路がまともに追いつけないゴロツキは、ガラ悪く叫ぶ事しか出来ない。

 その叫びを聞いた白衣を着た第3者の男はニンマリと口元を歪めた。


「ふむ。君のような低知能に分類される人間は、本当に語彙のセンスに欠ける。こんちくしょうだなんて言葉…古過ぎて笑う気にもならないな。」

「な…て、てめぇ…!」


 見下した言葉にゴロツキが絶句するのを見ながら、白衣の男は歪んだ笑みを更に濃くする。


「僕が誰かと聞いたな。答えてやろう。僕の名はサタナス=フェアズーフ。世界の理を崩す者だ。」

「はぁ…?何を言って……。」


 世界の理という単語を理解しきれないゴロツキが表情を顰めるのを…サタナスは無視する。所詮理解などされないと分かっていて、それでも敢えて言っているのだ。


「そして!君の前にいる今先程生まれた彼。彼の名は……そうだな。カタプ=マダラとでも名付けよう。」

「俺は…カタプ=マダラ……。」

「今生まれただぁ?寝ぼけた事言ってんじゃねぇぞ。」

「ふむ。やはり君の知能は低い。まぁ…故に、試運転には適切か。カタプ…殺れ。」

「……了解した。」


 サタナスの命を受けてカタプが動き出す。

 カタプの顔に表情はなく、茶髪に右眼が隠れ、黒の左目が胡乱な瞳でゴロツキを射抜く。

 そして…静かな殺気がゴロツキに纏わり付いた。


「ヒィッ…。くっそ…!こっちがやってやんよ!!!」


 必死に己を奮い立たせたゴロツキは4つの風玉を出現させた。


「これで……木っ端微塵に吹き飛びやがれ!」


 4つの風玉が踊り狂い、カタプへ襲いかかった。


 …………………1分後。


 白い裸体を赤い部屋の中で際立たせるカタプは、足元に転がる有機物を見下ろしていた。


「ははっ!ハハハハハ!素晴らしい!素晴らしいぞ。僕の実験はまたひとつ成功した事になる。さぁ、カタプ。これから君の力を試そうじゃないか。君がどれだけの存在価値を示すのかは、全ては君次第だ。君が君としてこの世界に在り続ける為には存在価値を示す必要がある。全ては僕の目的の為に。さぁ、一次的なものだとしても共に歩もうじゃぁないか!」


 興奮して歩み寄るサタナス。足を上げる度に跳ねる液体によって、白衣に赤い水玉模様が生まれる事を気にすることなく、サタナスはカタプへ語りかけていた。


(俺は…何をする為に此処に居る?)


 カタプはただ静かに、心の中で問い掛けを続けていた。

 側に寄るサタナスはどうでも良かった。自身の存在意義。それを識る事。それだけを考えていた。


 こうして、無垢で凶悪で真っ直ぐで存在が定まらない命が誕生した。

1話の中で場面を多く切り替える文章を久々に書きました。

今後の展開をお楽しみに。

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