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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
963/994

16-4-16.護衛依頼完了!!

 ミューチェエルの1階で正座をするミリアとブリティ。

 その眼前にヒールを履いた足が突き刺さる。


 ガスッ!!


 強く足を踏み降ろしただけの行為。

 それなのにも関わらず、ミリアとブリティは正座のまま飛び上がり、


「ふぎゃにゃ!!」


 …と、ブリティは恐怖のあまり悶絶の声を上げるのだった。両目に溜まった涙は今にも零れ落ちそうだった。

 彼女達の前に立つのは、1番怒らせてはいけない人物。

 …そう。


 笑顔を浮かべながら激怒するクルルだった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 織田重光の自己紹介をぶった切りつつ奪い取ったブリティは、尻尾をゆらゆらさせながら自慢気に仁王立ちしていた。

 織田重光の側近と思われる人物達は、いつ織田重光が怒りを露わにするか…と恐れ慄き額に脂汗を滲ませている。

 そして、自己紹介の機会を奪われた織田重光本人はというと…無表情にブリティを見ていた。いや、無表情というには視線がやや鋭いか。

 ともかく怒らせてはいけない人物を怒らせてしまった事は間違いなかった。


「く…。」


 織田重光の口から声が漏れる。怒りのあまり言葉にならないのだろうか。握り締めた拳は小刻みに震え、固く結ばれた口端はピクピクと動いている。

 織田重光がキレる。誰しもが同じ危機感を抱き、如何にして重光の怒りを鎮めるのかを模索し始めていた。


「くくっ。ははははっ!愉快な奴だ。この俺の言葉を躊躇う無く遮る奴は博愛党の奴くらいなものだ。」


 ふっと場の雰囲気が緩む。

 怒りではなく笑いを堪えていたのであれば、それに勝るものはなかった。

 重光はブリティに近寄ると、ポンっと手をブリティの頭に乗せる。


「その豪胆さは忘れるな。この世界に於いてそういった精神力は必要不可欠だ。反論はあるかもしれないが、少なくとも俺はそう思っている。…さて、玉緒。」

「なぁんでぇすか?」


 ビシッと姿勢を正していても話し方は正されない玉緒。


「今回の護衛…良くやってくれた。聞く話によれば今年は例年にない大掛かりな破壊工作があったみたいではないか。」

「そうでぇすね。ただ、今回は護衛が例年と比べて優秀でぇしたので。」

「そうか。して、その護衛はどこに行った?」

「んー?ここでぇすよ?」


 玉緒がミリアとブリティを指し示したのを見て、重光は僅かに驚きを表情へ表した。


「そうか。護衛が男だと思い込んでいた為に失礼した。君達、名前は?」

「あ、ミリア=フェニーです。」

「ブリティ=アーショにゃ!」

「ミリアとブリティか。この度は私の展示品を守り抜いて頂き、感謝申し上げる。」


 そう言うと重光は2人に向かって深々と頭を下げたのだった。


「あ、えっと…依頼なのでとんでもないです。」

「ふっふっふっ…ブリティとミリアの実力があったからこそ朝飯前だったのにゃ。」


 恐縮するミリアと、堂々と胸を張って威張るブリティ。対照的な2人の様子を見た重光はクツクツと笑いを漏らす。


「ははっ。君達は本当に面白い。玉緒、彼女達はなんという名前で活動している?」

「はぁい。ミューチュエルでぇす。」

「ほぅ…。成る程。それはそれは。何でも屋と名高いミューチュエルか。」

「あぁら知ってぇいるのぉでぇすね。」

「政治家という仕事は、見聞が広くなければ務まらないからな。さて、ミリアにブリティ。」

「はい。」

「うにゃ?」

「また君達と会うこともあるだろう。その時はよろしく頼む。」

「分かりましたっ。」

「お任せするにゃ!」


 笑みを浮かべた重光は片手を上げると、近くに停められていた黒塗りの高級車に乗り込んで去っていった。

 見送りを終えた玉緒は、車の姿が見えなくなるとホッと肩の力を抜く。そして、僅かに滲んでいた額の汗を拭うと、ブリティを見て肩を竦めるのだった。


「本当にぃブリティさんが重光さんを何とも思わぁなぁい行動を取るので、肝っ玉を冷や冷やさせらぁれまぁした。」


 周りにいる人々も玉緒の言葉に「うんうん」と頷いている。

 しかし、ブリティは首を傾げていた。


「何でにゃ?政治家って言ったって、アタイ達と同じ生き物にゃ。政治の仕事をしているからって崇めるようにするのは変だにゃ。」

「それぇはそうでぇすが、相手はあの革新党の党首なぁのでぇす。」

「うにゃ?」


 どうやら革新党の党首という言葉で伝わるはずのニュアンスが伝わらないのか、ブリティの頭には沢山のはてなマークが浮かんでいた。


「むむぅでぇすね。まぁ、詳しいことはクルルさんにぃでも聞いてぇみぃてくだぁさい。」


 ブリティに色々と説くのを潔く諦めた玉緒は、周りの人々に簡単に指示を出すと、ミリア達の方を向き直す。


「今回の護衛依頼はぁ、本当にぃあなたたぁちにお願いしてよかったぁでぇす。報酬についてぇは、わたしぃの秘書を通して支払いまぁす。クルルさんにぃもよろしくお伝えくだぁさいねぇ。」

「分かりました。」

「玉緒も元気でにゃ!またいつでもアタイ達を頼ると良いにゃ!」

「はっっはぁぁはっっは!頼もぉしい事でぇす。それぇでは、アデュオスぅ!」


 ビビっとかっこよく人差し指と中指を揃えて振った玉緒は、のっしのっしと歩き去る。


「ミリア。今回のアタイ達は大活躍だったにゃ。きっとクルルからご褒美があるにゃ!」

「うんっ。コスプレとか、色々あったけど黄金の甲冑は守りきったもんね!」


 こうして、意気揚々とミューチュエルの事務所に戻る2人だった。


 …だが。機嫌良く2人を出迎えたクルルは、重光との話を聞いた瞬間に態度が激変したのだった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 場面は冒頭のシーンへと戻る。


 腕を組み、ヒールの踵を床に突き刺し、笑顔を浮かべながら怒りを露わにするクルルは、正座をさせたミリアとブリティを見下ろしていた。

 正座をした2人は、何故クルルが怒っているのか分からないのだろう。追い詰められた子猫のようにウルウルビクビクしながらクルルを見上げていた。


「貴女達…革新党党首の織田重光相手に、そんな不遜な態度をよく取れたわね。いえ、貴女達というよりもブリティ!あなたよ。あと、ミリアもなんで止めなかったのかしら?分かりやすく納得出来るような説明をお願いしたいわね。」


 怒り全開のクルルに怯えるブリティは、それでも首を傾げるのだった。


「…う、うにゃ?なんで相手が織田重光だと気をつけなきゃいけないのにゃ?特別なのにゃ…ひぃっにゃっ!」


 全く事態を理解していないブリティの膝と膝の間にクルルのヒールが振り下ろされて突き刺さった。

 まるでSMプレイ寸前の光景だ。


「何も分かってないのね。ミリアは?」

「あ…えっと…ごめんなさい。」


 イマイチ革新党がどうのこうのという内容が分からないミリアは、素直に謝るのだった。

 それを見たクルルは…ガックシと肩を落とした。


「まさかこんな基本的…というか、暗黙の了解みたいな事を説明する事になるとは思わなかったわ。」


 ガッとヒールを床から抜いたクルルは、溜息を吐くと…怒気を収める。


「これから説明するから、全部覚えなさい。」

「おぉ、クルル先生にゃ。」

「ブリティ…遊びじゃないから。真面目に話を聞かないと、脳天を撃ち抜くわよ?」


 部屋の奥からホワイトボードを持ってきたクルルは、黒のマーカーを投げるジェスチャーをしてブリティを黙らせる。

 そして、学校の先生ばりに書きながらの説明を始めた。


「いいかしら。この白金と紅葉の都は博愛党と革新党っていう2つの政党が政権を争いながら政治を行なっているの。これは知っているわね?」


 首を縦に降るブリティとミリア。


「じゃぁ、博愛党と革新党がどんな理念で活動しているかは知っているかしら?」

「サッパリにゃ。」


 即答のブリティに黒のマーカーが命中した!

 怯えるミリアが手を挙げる。


「はい、ミリア。」

「えっと…博愛党はこの星の文化とかを守るみたいな感じで、革新党はもっと色々なものを取り入れていきたい。…って感じだった気がする。」

「まぁ…当たらずとも遠からずね。」


 黒のマーカーを回収したクルルはホワイトボードにスラスラと書き込んでいく。


「貴女達が黒水と雪の都に出発する前には発表されているんだけど、今度開催される選挙の政策を知らないのはマズイわよ?」

「はい。」

「うぅ…政治には興味がないのにゃ…。」


 素直に頷くミリアとブリティだが、クルルは取り合うこともなく話を続けていく。


「今政権を握っている博愛党の政策は『安心して暮らせる星づくり。伝統と文化を守り、昇華させる伝統文化プロジェクト』ね。対する革新党の政策は『外文化を取り入れることで、より快適な生活の実現。開かれた星として、他圏に於いて地位を確立する。』という内容よ。」

「1つ目は分かるけど、2つ目が難しいにゃ。」

「そうね。博愛党は今の文化を守ろうっていう姿勢で一貫しているわ。まぁ…それがどこまで保守的な運用になるのかで大きく変わるのが気になるところではあるわ。革新党の政策は、ともすればこの星のあり方が大きく変わる可能性も秘めているわ。」

「それってどういう事?」


 ミリアの質問に対してクルルは少し考え込む。


「…極端な例だけど、紅葉林を伐採して新たな都市を建設する。とかかしら。」

「それは…この星の名前が白金と紅葉の都だからダメな気がするよ?」

「皆そう思うでしょうね。でも、外文化を取り入れて、他圏での地位を確立するのなら、そういった近代化が必要になる可能性も否定できないのよ。」

「どっちの政党が人気なのにゃ?」

「微妙ね。博愛党は現段階で政権運営を行っているから支持層は厚いわ。ただ、博愛党が政権運営をしてからこの星の文化が大きく進歩したっていう実績はないの。昔からある文化や伝統は廃れずに継承されているけどね。その弱みを今回の革新党の政策は上手く突いているわ。もっと便利に、もっと豊かな生活を…って考える人は一定数以上いるのよ。」

「人間とはなんて欲深い生き物なのにゃ…!」


 演劇風に天井を崇め、両手を胸の前に組むブリティに再び黒のマーカーが突き刺さる。


「ふぎゃにゃ!」

「今の話で分かったと思うけど、博愛党と革新党は真逆の政策を謳っているわ。だからね、どちらを支持するのかは…個人ならまだしも企業や団体にとっては重要な問題なのよ。下手したら対抗政党の支持層に襲われるかもしれないのよ。そ、れ、な、の、に!」


 クルルの言いたい事を理解したミリアとブリティが縮み上がる。


「ひぃぃ…ごめんなさいにゃ…!織田重光と話してごめんなさいにゃ!」

「違うわ。」

「ふにゃ?」

「問題なのは不遜な態度を取って、嫌われるにしても気に入られるにしても、その結果でどちらの政党寄りなのかを周りに判断される事なのよ。ミューチュエルはあくまでも中立の立場で仕事をする便利屋よ。こういう政治的な問題が絡むと非常に面倒くさいのよ。最悪廃業に追い込まれる事だってあるわ。」

「うにゃ…。」


 事の重大さを理解したのだろう。

 両耳をペタンと垂らしてブリティが落ち込む。隣に座るミリアも同様であった。

 そんな2人の反省した様子を見ながらクルルが溜息をつく。


「それにね、次の依頼はこの選挙に関わるのよ。」

「…え?」

「ふにゃっ?」


 衝撃の追い打ちに驚愕の表情を浮かべるミリアとブリティ。そんな彼女達を見て…クルルは苦笑いを浮かべるしかなかったのだった。

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