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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
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16-4-15.護衛達

 目線は行動を開始したタイミングのミリアへ移る。


(おぉっ!やっぱりブリティの無詠唱魔法の使い方は上手いねっ!)


 無詠唱魔法で壁を忍者のように駆け上がるブリティを見て、うんうん…と頷きながら、ミリアも後方の展示品を運んでいるトラックに向けてピョンピョンとトラック間を跳躍しながらの移動を開始した。

 因みに…ブリティもミリアもくノ一のコスプレをしているので、忍者のように…というか忍者そのものなのだが、ミリアは何故かその点には気づいていなかったりもする。


(ブリティが上手くあの人達を倒してくれたらいいんだけど…私も一応魔法を使う準備をしておいた方が良いかなぁ。)


 ブリティが戦っている筈のところから、魔力が集中する気配が発せられる。

 すぐに警戒したミリアが振り返って確認すると、水の槍が建物の屋上から飛んでいくのが見える。


「おぉっ…結構な量だけど…ブリティ大丈夫かな?」


 ちょっとだけ心配するミリア。とは言ってもちょっとだけである。ブリティの強さは十分に知っているので、今の程度の水槍で彼女がやられるとは到底思えないのだった。

 それよりも、この後に起きた現象の対処が面倒だったのだ。

 空に放たれた水やりが…何故か向きを変えて地上に落下し始めたのだ。


「なんでっ?下には沢山の人がいるのにっ!」


 無差別攻撃による大量虐殺。そんな言葉が頭に浮かぶが…。


「…あ、違うっ!」


 展示品を乗せたトラックに向けて疾走しながら水槍群の動きを観察するミリアは気付く。水槍群は無作為に地上目掛けて落ちているように見せかけて、その8割の目標がミリアと同じであることに。


「そうは…させないんだからっ!」


 ミリアは内に眠る魔力を引き出し、疾走速度を加速。更に腰に下げた細劔を手に取った。

 そして、1つ手前のトラックから前方宙返りをしながら展示品を乗せたトラックへ飛び乗ると、細劔の切っ先を水槍群に向けて体の横に引き…魔力を解放する。

 これに反応して細劔から焔が溢れ始める。刀身に巻きつくようにうねる焔は急速に密度を増していき…。


「やぁっ!」


 ミリアの渾身の気合と共に細劔が突き出されるのに合わせ、一瞬で巨大化する。

 そして…空中で水槍群と巨大な焔の突きが激突する。

 水と火。通常で考えればどちらが有利なのかは明白。

 しかし、今の激突は属性【水】と属性【焔】だ。【火】、【炎】、【焔】という属性変化の系譜にある属性【焔】は、火としての質を高めた属性。従って不利属性である水に対してもほぼほぼ対等に渡り合う事が出来る。

 結果、2つの属性魔法のぶつかり合いは…純粋な力の勝負となった。

 そしてこの勝負…互角だった。水槍は合同魔法による上級魔法。これに対して1人で互角に渡り合うミリアは流石…と評価する事が出来よう。しかし…今は互角では意味がないのも事実である。

 ミリアの焔の突きの攻撃範囲から漏れた水やりがトラックに突き刺さり始めてしまう。


(…どうしようっ。このままだと展示品が壊されちゃう…!)


 水槍群と互角である以上、手を抜いた瞬間にミリアの立っている場所とその周辺は水槍群によって瞬く間に蜂の巣にされてしまう。

 しかし、このまま互角の勝負を続けていたら周りの被害を食い止めることが出来ない。

 ブリティは距離的に遠すぎる。パレードが前進をしてブリティのいる場所に近づいているとはいえ、速度が遅すぎた。

 幸いなのはパレードの観客達が現状を『余興』だと勘違いしている為に、パニックが起きていない事。しかし、それですら時間の問題と言えた。


「このままだと…!」


 焦りが生まれ始める。もっと出来る筈なのに出来ないというこの状況は…ミリアにとってかなりもどかしいものだった。


(こうなったら…アレを使うしか…。)


 このパレードは白金と紅葉の都にもライブ中継されているはず。下手をすれば…ミリアについて全てが暴かれてしまうかも知れない。しかし…しかしだ。自分の保身の為に大勢の人を、展示品を見捨てるなど出来るはずもなかった。

 再び覚悟が、必要な場面だった。ここ最近の依頼は何かと覚悟が必要な状況に巻き込まれることが多い。


(でも、そうも言ってられないよね。こうなったら一気に…。……ん?)


 横から魔力を感じたミリアが視線を動かすと、そこには展示品の護衛人達が魔法発動の準備を整えていた。


「あっ。」


 彼らの存在をてっきり忘れていたミリアは、ちょっと間抜けな声を出してしまう。

 護衛人の1人がニヒルな笑みを浮かべて親指を立てた。


「よっ!ミューチュエルのミリアさん。俺たちも加勢するぜ!」

「いやいや、加勢ってかこれこそ俺たちの本業だろ。」


 横にいる男が最もなツッコミを入れる。

 だが、ミリアはそれどころでは無かった。


「え、なんで私がミリアって知ってるの!?」

「お?いやいや、ここにいる俺たちは皆知ってるぜ?一般人は知らないかも知れないけどな。まぁ、玉緒が護衛人をコスプレショーに参加させるのは毎年の恒例行事だからな。」

「そ…そんなぁっ。」

「ははっ!まぁ似合ってるからいいんじゃないか?」


 水槍群を必死に抑えながら落ち込むミリア。

 周りにはグサグサと水槍が突き刺さり始めているのだが、なんともシュールというか、気の抜ける雰囲気が展示品を乗せたトラック上に漂っていた。

 と、1つの水槍が展示品に向けて落下してくる。


「ほいよっと!」


 気楽な掛け声で水槍を弾いたのは、護衛人の1人。昨年玉緒の護衛依頼を受けた男だった。男は着地すると、周りの護衛人達に声を掛ける。


「お喋りはこれくらいにしないか?ミリアちゃんにこれ以上負担はかけられないだろ?」

「あぁ。」

「そうだな。」

「俺たちの力を甘く見たあいつらを懲らしめてやるか!」


 そこからはイージーモードだった。

 護衛人達が協力して全ての水槍を撃墜。

 その後急いで西軍リーダー陣がいた建物の上に全員で向かった所、水槍を地上に向けて落下させた事に怒ったブリティによってリーダー陣全員が可哀想な姿で転がっていたのだった。

 どんな姿か?…両足を首に掛けるというヨガでよく見るポーズである。しかもご丁寧に頭の上で両足首を縛るというおまけ付き。

 ミリア達の到着を見たブリティは親指をグッと立てると、自慢気に言ったのだった。


「これで体が柔らかくなれば、考え方も柔らかくなるにゃ!アタイは寛大にゃ!」


 ブリティの言っている意味を理解できたのは…恐らくミリアだけだろう。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 コスプレイベント3日目のパレードは、それ以降は特に問題が起きることも無く終了を迎えた。

 念の為記すとすれば、ミリアとブリティ、そして護衛人達の人気が鰻登りになった事くらいか。

 魔法の応酬は一般人からすると、パレードを盛り上げるための魔法ショーとして認知されていたらしく、大きな注目を集めていた

 マスコミが『くノ一2人組の正体は!?』という特集を組み始めるくらいなので、世間の注目度は相当高いと言える。

 因みに…その後くノ一2人組の正体が世間に晒されることは無かった。彼女達の正体を知る人達が誰も口を割らなかったのだ。

 それは、ミリアとブリティが全力で展示品を守った事に対する恩返しでもあるし、そもそも護衛人達の中で玉緒の犠牲になってコスプレをした護衛人を守るという不文律があるという事実もあった。


 そんなこんなで、3日目のパレードを終え、ミリアとブリティは玉緒と共に展示品を輸送して白金と紅葉の都に帰ってきたのだった。

 黒水と雪の都を離れる時にブリティが「これで寒い所とオサラバにゃ。アタイは暖かい所でぬくぬくする方が良いにゃ。」と言っていたのを聞いたミリアが、(むしろいつもよりイキイキしていた気がする…。)と感じ、来年のコスプレイベントに参加することになりそうな気がしてブルリと体を震わせたのは小さな秘密である。


 さて、都会議事堂の転送装置から出たミリア、ブリティ、玉緒を待っていたのは意外な人物だった。

 その人物を見た玉緒がピシッとした姿勢になる。普段の玉緒からは考えられない態度だ。


「これぇはこれぇは、まぁさかこんな所ぉでお会いぃ出来るぅとは思ってぇいませぇんでぇした。」

「そうか。だが、展示品を無事守りきった者達に礼をするのは、俺は大事だと考えている。」


 やや堅苦しい雰囲気で話すその男。

 初めて会うはずなのに、ミリアは何故か会ったことがある気がしていた。


(あれ?なんでこの人の事を知ってるんだろ?)


 玉緒と会話をする男を注意深く観察する。

 短めのオールバック。黒髪。左の頬、顎、首筋の縦にホクロが並んでいる。身長は高めで…なんというかタバコを咥えながらビリヤードをしていたら似合いそうな風貌だ。


(ん…?…………ビリヤード?……あ!!)


 遂に思い出す。

 そう。テレビを見ながらクルルと話していたのだ。ビリヤードやったら似合いそうだよね…と。


「えっ。なんでここにいるんですか??」


 予想以上の大物という現実に戸惑い気味のミリアは、思わず不躾な質問をしてしまう。

 だが、そんなミリアの態度に男は気を悪くした様子を見せない。


「ほぅ。やっと俺が誰だか分かったか。」

「だって、テレビでよく見ますもんっ。」

「はは。確かに最近はテレビに出る機会が増えたな。そうだ。俺がお…」

「あー!!分かったにゃ!!!革新党の1番お偉いさんの織田重光にゃ!ニヒルなイケメンここにありにゃ!!」


 見事に織田重光…革新党党首という有名人の自己紹介をぶった切るブリティなのだった。


 この瞬間、場が凍りついたのは言うまでもない。

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