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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
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16-4-14.パレードと闖入者

 『武士魂は永遠に』の3日目に開催されたパレードは、それはそれは盛大だった。

 水上都市ヴェンツィアの大通りを武士の仮装をした人々が練り歩くのだ。更に、特注のトラックもパレードの重要ポジションをゆっくりと走る。勿論、ただのトラックではない。戦国風にデコられた…所謂デコトラだ。

 通りに集まった人々からは、今回のコスプレイベントで活躍をした者達へ黄色い声や野太い声がかけられている。

 特に人気なのは決戦イベントで西軍を勝利に導いたリーダー陣達だ。

 圧倒的に不利な状況から、東軍の「勝てる」という心理的油断を突いた逆転劇は、観ていた人々の心を鷲掴みにしたらしい。

 大スター登場みたいにもりあがっている。

 この人気はコスプレショーに出た者達も同様で…。


「うぅ…穴に隠れたい。」

「どうしたにゃ!?皆が手を振ってくれてるにゃよ?」


 パレードのトラック上でピンクくノ一姿で通りを埋め尽くした人々にブンブンと手を振るブリティは、横で項垂れるミリアを見て首を傾げた。


「だって私…コスプレなんてしたくないんだもん。」


 目に涙を浮かべるミリアだが、観客からは声援が止まらない。


「最高の一騎打ちだったぜ!」

「きゃー!!近くで見るとやっぱり可愛い!!」


 それはもう人気スターの仲間入りをしたという事実を突きつけるもので。

 ミリアとしては全然嬉しくない現実なのだが…唯一の救いは隣にコスプレショー優勝者の忍者4人衆がいる事か。

 同じ忍者の格好なので、優勝者の彼らへ目線が集中しているのは、ミリアにとっては救いだった。


「…あ。」


 仕方なしに手を振りながら街道の観客を見ていたミリアは、群衆の中にふと見知った人を見つけた。

 緑のモヒカンをしたオカマ…ドレッサーだ。

 ドンカーレ宮殿でコスプレイヤーに絡んでいたオカマだ。緑色のモヒカンが特徴的だったし、男にクネクネと迫る姿も衝撃的だったので覚えていたのだ。


(でも…なんかこの前見た時よりも楽しくなさそうな気がする。)


 そのオカマは群衆と共に楽しそうにはしているが、どこか集中していないようにも見えた。

 そして…オカマがミリアを見る。

 バッチリメイクのされたオカマの目線がミリアの瞳を射抜き…。


(えっ…?)


 ニヤリとオカマは口の端を歪めると、裏路地に向けて歩き去っていった。


(今のなんだろう…。なんか、全部を見透かされたみたいだった…。)


 気づけばミリアの両腕には鳥肌が立っていた。

 それにしてもあのオカマは何をしに来ていたのだろうか。この前の様子からだったら、手当たり次第にコスプレイヤーに絡みまくっていてもおかしくないのだが。

 それに、オカマが歩き去った裏路地にチラリと人影が見えたような…。

 オカマが歩き去った裏路地を見ながらミリアが思案していると…ムギュッ!!っと突然、胸を鷲掴みにされた。


「うひゃっ!?へっ!?」


 思わず変な声を出してしまうミリア。

 ミリアの胸を鷲掴んだ手は、そのままムニムニと揉みしだいてくる。


「ちょっ!?やめてっ!」


 バシッと手を振りほどいたミリアが後ろを見ると、そこにはコスプレショーの1番手で会場を盛り上げていたエロエロコスプレイヤーが立っていた。


「ふふっ。人気の忍者コスプレイヤーの中身が気になったのだけれど…思った以上にウブ子ちゃんみたいね。」

「ウブ子ちゃんじゃないもんっ!」

「あら?そんなに顔を赤くしてるのに?」

「えっ!?」


 ミリアは慌てて顔を押さえるが、そもそも忍者の衣装を着ているので顔の色が見えるはずもない。


「ふふっ。やっぱり照れてるじゃない。」

「うっ…。」

「それに、私程豊かではなかったけど、柔らかさは良い感じだったわよ。殿方の心を鷲掴みには出来そうね。」


 エロエロコスプレイヤーは前かがみになりながら両腕を寄せて胸を強調する。そして、獲物を狙う猛獣のようにペロリと舌なめずりをした。


「う…。」


 あまり耐性の無い話題にミリアがタジタジしていると、横から忍者4人衆の1人が話しかけてきた。


「君たち!今はコスプレイヤー同士で話している時間では無いのでござるよ!通りに集まってくれた観客に応える義務があるのでござる!」


 口調までござるの忍者コスプレイヤー。

 だが、エロエロコスプレイヤーは「ふふっ」と妖艶に笑うと、前屈みの姿勢を直すと両手を腰に当てる。


「そんなの勿論知ってるわよ?だからこのくノ一ちゃんと私でエロス乱れる踊りでも披露しようかと話してたのよ。あなた達も見たいでしょ?私の色々なところが見えたり…見えなかったりする様子を。もしかしたら私のお胸ちゃんにタッチ出来るチャンスもあるかも知れないわ。」

「そ…それは…魅力的でござる。」


 忍者弱し。お色気に速殺された忍者は、エロエロコスプレイヤーとミリアを交互に眺め、何かに納得したのか「うん」と頷くと…何も言うでもなく仲間のところに戻っていった。


「え…嘘。」

「ふふっ。男って本当に色気に弱いわね。」

「ちょ、ちょっと待って!私はお色気ダンスなんて出来ないよっ?」

「大丈夫よ。本当にするつもりはないわ。それに…まだ諦めてない連中が来たわよ。」


 エロエロコスプレイヤーが指差した先を見ると、通りの先にある高い建物の屋上に十数人が立っているのが見えた。


「あの人達は?」

「彼らは決戦イベントで西軍のリーダーをしていた人達ね。展示室で暴発した魔法…私の予想だとあれは全部彼らの自作自演よ。」

「えっ?なんで分かるの?」

「だって…。」


 そこまで言うとエロエロコスプレイヤーはミリアの耳もとに唇を寄せる。


「博愛党の幹部と話しているのを見ちゃったのよ。イベントの混乱に乗じて革新党の展示品を壊すって言ってたわ。」


 ぞわわわわっ…と、ミリアの全身を悪寒が駆け巡る。耳元で話しながらさり気なく息を吹きかけるのは反則だろう。例えくノ一衣装の布ごしだとしても、くすぐったいものはくすぐったいのだ。


「きゃっ。…もうっ!」

「ふふっ。やっぱり可愛いわね。」


 ぷんぷんするミリアはしかし、今の話が本当かが気になっていた。


「今のって本当…?」

「えぇ。だからあなた達に忠告しにきたのよ。だって、展示品が壊されるって事は、その所有者は自分の所有品を守るだけの力もコネもないって見なされるのよ。投票が締め切ったといっても、その後に行われる実際の選挙で不利になるのは間違いないわね。」

「じゃぁ…。」

「そうね。あなた達があの黄金の甲冑の護衛をしている以上、守るべきだと思うわ。」

「そっか。…あれ?なんで私たちが護衛している事を知ってるの?」

「私の情報網は広いのよ。ふふっ。健闘を祈ってるわね。」


 そう言うとエロエロコスプレイヤーは手をひらひらと振りながら、通りを埋め尽くす人々に向かって悩殺ポーズの披露を始めたのだった。

 そのエロ過ぎる後姿を少し羨ましそうに眺めた後に、ミリアは意識を切り替えて視線を西軍リーダー陣へ向ける。


(あの場所からどうやって展示品を壊そうとするんだろう?ここまで観客がいたら、規模の大きい魔法を使ったら怪我人が出ちゃうよね。博愛党の差し金でそうなったってバレたら良くないから、違う手を使って来ると思うんだけど…。)


 相手がどんな手段を取ってくるかを考えながら、ミリアは展示品と自分の位置を再度確認する。

 今ミリア達がいるトラックはパレードの前列に位置している。そして、展示品を乗せたトラックが走行しているのはパレードの中間地点だ。

 位置関係的には悪くない。リーダー陣がいるのは前方の為、先にミリアがいるトラックが差し掛かるのだ。

 後は相手が行動に移す前に先手を打てば、攻撃パターンを限定する事が出来る。


「ブリティ。攻めと守りで分かれよっ。」

「ラジャーにゃ!そしたら、アタイが攻めるにゃ。」

「うんっ。私は展示品のトラックに移動するねっ。」

「オッケーにゃ。一気に攻めるにゃ。」


 柔軟体操を手際良く行ったブリティは、両腕をグルグルと回すと「ニンニンにゃ!」と忍者っぽい掛け声でトラックから飛び出した。

 ビルの壁に足を掛けたブリティは忍者よろしく壁を駆け上がっていく。

 物理法則に反しているように見えるが、無詠唱魔法で自分の足裏を壁に固定させているに過ぎない。

 魔法使いからしたら簡単そうかもしれないが、ブリティのように地面を走るのと相違なく走るのは相当な熟練が必要だったりもする。


「行くにゃよ!」


 トーン!と壁を蹴って西軍リーダー陣が潜むビルの壁に飛び移ったブリティは、再び壁を駆け上がっていく。

 このブリティの行動を見たパレードの観客達は、何かの余興だと勘違いして歓声を上げている。

 そして、リーダー陣達もそれを聞いてブリティの行動に気づき、撃退行動を取り始めていた。


「ほーら敵が来たよ!観客に被害を当てないように、壁を登りきった所で打ち飛ばすよ!」

「任せとけ!合同魔法の詠唱は終わってるぜ!」


 ひとつ留意しておかなければならないのは、彼らがテロリストではないという事。あくまでも展示品を壊す事が任務である彼らは、下手に一般人を傷つけて依頼主の評判を下げる事が出来ないのだ。

 だが、この制限が彼らにとっては良くなかった。


「到着にゃ!」

「今だ!」


 壁からポーンと姿を現したブリティを目掛けて合同魔法が発動される。

 リーダー陣達の前に水の槍が次々と生成され、ブリティへと襲いかかった。


「にゃに!?待ち伏せとは中々やるにゃ!」


 数多の水槍に襲われながらも、素早く軽やかな身のこなしで避けてみせたブリティはリーダー陣へ肉迫する。


「くらえ!にゃ!」


 そして、懐に飛び込んだブリティの脚撃が次々とリーダー陣の者達を吹き飛ばしていった。


「がはっ…。つ、強い…。」

「あったりまえにゃ!」


 えっへんと薄い胸を張るブリティ。

 圧倒的実力差により、目的の遂行が不可能となったリーダー陣の1人である女は…しかし口元に笑みを浮かべるのだった。


「ふふ…。私達がそんな簡単に任務を失敗すると思うのかしら…。ある程度の準備はしてるのよ…!」

「うにゃ?」


 首をかしげるブリティ。その後方で、リーダー陣達によって放たれた水槍が…展示品を乗せたトラック目掛けて急降下を始めていたのだった。

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