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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
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16-4-12.怪盗現る!

 ミリアの放った惺炎【静】が暴発した光魔法を収束させると、ボロボロになった展示室が姿を現した。

 複数人による合同の呪文魔法による最上級魔法が放たれたのだ。建物が崩れなかっただけ御の字というものである。


「みんな…無事みたいだね。」


 周りを見回したミリアはホッと息をつく。

 各展示品を守るように護衛の人達が魔法障壁を張っていて、その中に入っている人々は皆無事のようだった。

 魔法を暴発させた西軍幹部達はというと、部屋の外に逃れたようで、魔法の余波を受けて多少の怪我はしているが、重傷者はいないようである。

 まさかの事態だったが、大事に至らなかったのは不幸中の幸と言えるだろう。

 しかし…喜んでばかりもいられない。


「ミリア。一先ずは大丈夫だったにゃけど、あの魔法の方向を変えた原因が気になるにゃ。あと、東軍の攻めも終わって無さそうにゃ。」


 周りの人々の間にほっとした雰囲気が流れ始める中、ブリティだけは真剣な表情で周囲を伺っていた。

 この意見にはミリアも賛成である。


「うん。誰かが潜んでるかもだねっ。それか東軍が干渉したのかも。もしかしたら全然違う人が潜んでるって事もあるかも…。」

「それはぁ有り得ぇまぁすね。」


 台座にしがみついていた玉緒が会話に混ざってくる。


「この展示室に西軍を押し込めて、魔法を使おうとしたところに干渉して展示品を破壊する…。如何にも彼らが考えそうぅな事ぉなのでぇす。」

「彼らって…?」


 何かを知っていそうな玉緒の台詞にミリアが反応する。この疑問系の台詞を受けた玉緒は…首を傾げた。


「おっとぉ?言ってぇいませぇんでぇした?有名だぁから…と言うよりも、常識的に知ってぇいるかと思ったのでぇすが。展示品の意味についてぇでぇす。」

「…?ブリティ知ってる?」

「うんにゃ。知らないにゃ。」


 首をフルフルするブリティを見て玉緒はペシンと額を叩いて天井を仰ぐ。


「これは…私の配慮不足でぇす。それでぇは襲撃の可能性についぃて、対策の幅ぁが狭ぁくなってぇしまぁうのでぇす。」


 激しい戦闘音が再開し始めたドンカーレ宮殿入り口付近ロビーの方を伺いながら、玉緒はピンっと人差し指を立てる。


「このコスプレイベントの展示品にぃはでぇすね、この後にぃ控えぇる選挙戦の前哨戦という意味合いがぁあるのでぇす。」

「えっ?この展示品に?」


 玉緒に言われて、部屋の中にある展示品を見回すが…革新党や博愛党といった政党の名前を見て取る事は出来ない。


「つまぁりでぇすね、この展示品はぁ各政党の実力者がぁ匿名でぇ出品しているのでぇす。その展示品に対してイベント期間中に一般の方々ぁが投票して、順位を決めるぅのでぇす。そしぃて、その順位が高い展示品を出品しぃた政治家は、今の世の中の動向や流行、世間の意見を把握してアウトプット出来ぃる力を持っているぅと判断され出るのでぇす。」

「それって…じゃあさっきの魔法の暴発は…。」


 玉緒の説明を聞いて1つの仮説に辿り着いたミリアは顔を曇らせる。

 深く頷く玉緒。


「そうなのでぇす。政敵による展示品の破壊工作である可能性がぁあるのぉでぇす。」

「でも…そうだとして、さっきの魔法は全部壊そうとしてましたよね?」

「そうなのでぇす。それがまた不思議ぃなのでぇす。」


 確かに状況から推察するには不可解な事態だった。

 例えば、革新党だったら博愛党の展示品だけを破壊しようとするはず。破壊されてしまった展示品は投票の対象外となるので、それだけ有利になるはずなのだ。

 だが、そうではなくて全部を破壊しようとしたとなると、目的が違ってくる可能性もある。

 全てを破壊する事で得られる何かしらの利益。それが存在するという事になるのだ。


「もしかしたらまた攻撃が放たれる可能性もあるよねっ。ブリティ。もう一回結界を張って警戒しよっ。」

「分かったにゃ!」


 相手が誰なのかが分からないという、なんとも不安な状況だが…すべき事はすべきである。

 ミリアとブリティは黄金の甲冑の周りに結界を張るべく動き始める。

 周囲の護衛人達も同様の考えのようで、全員が再びの攻撃に備えた動きを取り始めていた。

 そして、ドンカーレ宮殿ロビーでの戦闘は更に混乱を極めている。映像を見る限りでは両軍が入り乱れる大混戦だ。東軍の幹部はドンカーレ宮殿内に入っていないので、その点だけを見ればまだ東軍有利の状況は変わらなさそうだ。


「…ん?魔力?」


 ふと、展示室の中から魔力を感じたミリアはピタリと動きを止める。

 周りを見れば、他の護衛人達が結界を張っているので魔力を感じる事自体に変な点は無い。しかし…ミリアが感じている魔力は、そういった普通の魔力とは少し違う感じのものだった。

 警戒して周りを見るが…何も異変は無い。だが、それが逆に気味が悪かった。


「ブリティ…。」

「何にゃ?」

「もしかしたら誰かがこの部屋に…きゃっ!」


 異変が起きる。突如地面に多数の光点が現れて展示室内を覆うように結界を形作ったのだ。しかも、その光点は…先程少年が部屋中にばら撒いたビー玉だった。

 これは誰かがこの部屋を守る為にしようした結界なのだろうか。…と、一瞬そんな安直な思考が過ぎるが、それは間違いだった。

 結界が張られたと思ったら、次の瞬間には展示室内に張られていた全ての結界が破壊されたのだ。

 パリィン。そんな音が重なるようにして響き渡り…全ての展示品が無防備な状態に晒される。


「ブリティ!」

「にゃ!」


 ミリアとブリティはすぐに反応して警戒をするが、他の護衛人達は一歩出遅れてしまう。これが致命的だった。

 トン。

 …という小さな足音がミリア達の斜め後ろから聞こえる。バッと振り向けば、派手な装飾を施した弓矢の展示品の横に、紺色の燕尾服を着こなし、黒のフルフェイス仮面を被った人物が立っていた。


(誰…?……女の人っ?)


 明らかに怪しい出で立ちの人物だが、燕尾服の中に着込んだピンク色のワイシャツの胸元がはち切れんばかりに膨らんでいる。女装趣味の男…とかでなければ、恐らく女性なのだろう。

 だが、そんな事よりも登場するまでミリアに全く気配を感じさせなかったその実力が驚異的だった。…油断を許されない緊迫感が展示室の中を支配していく。

 一瞬の沈黙の後、それを破ったのは燕尾服姿の人物だった。


「この弓矢は頂きますわ。」


 まるで「散歩に行ってくる」と同じ位に当たり前で軽い感じの口調で言った燕尾服の女は、台座に立てかけられていた弓矢をスッと持つ。


「お、お前!それを返せ!」

「無理ですわね。」


 弓矢の護衛人が慌てて叫ぶが、全く意に介さない。

 トンっと飛び上がった燕尾服の女は入り口の近くに立つと、肩を竦めて見せた。


「呆気ないですわ。もう少し骨がある事を期待したのですが…。そうですわね…。」


 なにかを考え込むように人差し指を仮面の口元に当てると、指をピンっと立てる。


「自己紹介をしましょう。私は怪盗アルスーヌ。狙った獲物は逃さない…世紀の大怪盗ですわ。次に会うときは…もう少し楽しませて欲しいですわ。」


 そう言った怪盗アルスーヌがパチン。と指を鳴らすと…部屋の中を閃光が埋め尽くした。


「ぐわっ!くっそぉ!!!追いかけるぞ!」


 ドタバタという足音が遠ざかっていく。閃光が止むと、そこに怪盗アルスーヌの姿はなかった。


「…今の人なんだったんだろう?」

「分からないにゃ。でも、強いにゃ。生半可じゃ無いにゃ。」

「うん。私もそう思う。」

「……。」


 ミリアとブリティはまだ怪盗アルスーヌが潜んでいる事を警戒しながら会話を続けていただが、隣に立つ玉緒は静まり返っていた。

 普段の玉緒からは考えられない沈黙を気味悪く思ったミリアが恐る恐る声をかける。


「えっと…玉緒?大丈夫?」

「……。」


 だが、玉緒は両手をぎゅっと握りしめるとフルフルと震え始めた。


「もしかして…あの怪盗アルスーヌに心当たりがあるの?」


 ミリアが問いかけるも、玉緒の震えはどんどん大きくなっていく。

 そして…。


「最高っ!なぁのぉでぇぇぇええええす!」


 両手を上に突き上げて絶叫する玉緒にビクッと飛び跳ねるミリアとブリティなのだった。

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