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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
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16-4-11.決戦イベント 舞台は移る

 東軍に押されてドンカーレ宮殿の中に入らざるを得なくなった西軍は、入口内のホールでリーダー陣が対策について話し合っていた。


「なんなんだよ東軍の奴ら!」

「知るか!そもそも魔法を使うのは違反だろ!?」

「大会運営はなんで東軍の奴らを違反行為で失格にしないんだよ!」

「おい!文句を言ってる暇があったら対策を考えるべきだろ!ドンカーレ宮殿に押し込められた時点で袋の鼠だ!」

「そうよ!先ずは私達が押し返してドンカーレ宮殿の外に出ないと厳しいわ!」

「けどよ!そんな事が出来るのか!?」

「東軍が魔法を使って失格にならないのなら、私達も魔法を使って押し返すのよ!」

「なるほど…!」

「いや、待て!それなら…良い案があるぞ!」


 リーダー陣は頭を寄せ合って何かを話し合うと、強く頷きあって行動を開始した。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 一方、展示室に入ってくるなり自分の額をペシンと叩いた玉緒はのっしのっしとミリアとブリティの近くに歩み寄って来た。


「これはぁ私も驚いたぁのでぇす。」

「何かあったんですか?」

「実はでぇすね、決戦イベント規約に魔法の使用を認めるぅ一文が追加されてたぁのでぇす。しかも、これまでの決戦イベントでぇは魔法の使用が禁止されてぇいたのぉで、魔法の使用は行わない方が望ましい。…と小さく書かれてぇいまぁした。先に使ったもの勝ち感がかなり強いぃのでぇす。」

「玉緒が知らないってことは…誰かが勝手に追加したって事ですよね?」

「そうなぁのでぇす。まぁぁぁ私のいる組織ぃも一枚岩でぇはなぁいので、こういう事ぉもあってぇも不思議ぃでぇはないのでぇす。」


 ミリアと玉緒の話を聞きながら首を傾げていたブリティがピンっと耳を立てる。


「分かったにゃ!つまり、反則にならないから東軍が有利なのにゃ!」

「そうなりまぁすねぇ。まぁ、ここから西軍がどういった対抗策を練るぅのか楽しみぃでぇすけど。」


 そう言った玉緒が映像に視線を向けたのにつられて、同じく映像を見たミリアとブリティは…首を傾げる。


「あれっ?映像がおかしくなった?」

「なんでアタイ達が映ってるにゃ?」

「本当でぇすねぇ。」


 その答えは…目の前に現れた。


「おい…!ここって展示室だろ!こんな所に来ちまって良いのかよ!?」

「しょうがないじゃない!あの入り口のホールを有効活用するにはこの部屋が一番場所的に都合が良いのよ!」


 そんな風に怒鳴りあいながら展示室に入ってきたのは…西軍のリーダー陣達だった。


「これぇはぁ面白い展開でぇすねぇ。」


 肩を揺らして笑う玉緒だが、状況はかなり悪いと言って差し支えなかった。

 護衛しなければならない展示品を置いている展示室が戦場になるかもしれないのだ。そうなったら…護るとかそういう話ではなくなってしまう。


「ミリア…どうするにゃ?」

「うん…ちょっと様子をみよう。いざとなったら…戦うよ?」

「分かったにゃ。」


 冗談で済まない状況に、のんびりモードから戦闘モードにスイッチを切り替えた2人を見た玉緒が大仰に頷く。…何故か他人事みたいな態度だが、敢えて追求する必要はないだろう。そういう人物だと思って割り切るのが得策である。今は玉緒に注意を払っている場面ではなかった。

 展示室にいる他の護衛をする者達もいざという事態に備えて行動を開始していた。

 魔法発動の準備をする者。護衛対象の近くにさり気無く移動する者など、行動は様々だ。

 展示室の中でそんな動きが生まれる中、西軍のリーダー陣は前方…ドンカーレ宮殿の入り口ホールの様子を伺っていた。

 入り口ギリギリの所で西軍の前線が踏ん張っているが、少しずつ押され始めている。東軍がドンカーレ宮殿内に雪崩れ込んでくるのも時間の問題だろう。


「よし。準備するわよ!」


 リーダー陣の1人である女性が周りに声を掛けると、全員が頷いて呪文の詠唱を始めた。

 数多ある魔法の種類の中でも、あまり使われる事の無い呪文魔法だ。魔具を使って発動する魔具魔法と比べて消費魔力は変わらないが、魔法密度に関しては呪文魔法の方が高くなる。勿論、魔法発動までに時間がかかるというデメリットは存在するが。

 そして、呪文魔法の大きな特徴は…合同魔法として発動が出来る事にある。初級魔法、中級魔法、上級魔法と魔法のランクがある中で、合同呪文魔法を使う事で更に上の最上級魔法を発動する事も可能なのである。

 この最上級魔法を…西軍は発動をしようとしていた。

 その事に一番最初に気付いたのはブリティだった。呪文魔法の詠唱が始まった瞬間に耳をピクピク動かしたブリティがミリアに小声で告げる。


「ミリア、あの呪文はかなりの魔力が錬成されているにゃ。相当強い魔法を放つに違いないにゃ。」

「相当強いって…上級魔法くらいっ?」

「うんにゃなのにゃ。多分だけど、最上級魔法レベルにゃ。」

「えっ…!?そんな魔法を使ったら死人が出ちゃうんじゃ…。」


 ちょっと理解出来ない展開だった。

 相手がルールに密かに追加されていた魔法使用を認める隙を突いて有利に立っているからといって…その報復に相手を死に至らしめる魔法攻撃を放つ必要があるのか。


(…どうしよう、考えている隙がない…!)


 魔力が錬成されていく雰囲気からして、あと30秒程で魔法発動の準備が整いそうな雰囲気だった。数十人単位での合同魔法の為、最上級魔法レベルにも関わらず、錬成の速度が早い。


「玉緒…!このままじゃ死人が出ちゃうよ。」

「これは困りまぁしたねぇ。イベント中止を掛け合うのでぇす。」

「でも…それじゃぁ間に合わないっ!」


 玉緒がイベント中止を掛け合っている間に、東軍がドンカーレ宮殿の中に雪崩れ込み、そこに西軍の魔法が叩きつけられるのは目に見えていた。

 そんなスピード感での対応では間に合わない。もっと画期的な、全ての状況をひっくり返すような手段が必要だった。


(こうなったら…!)


 ミリアが1つの覚悟を決める。


「おい!なんだこれ!?」


 しかし、西軍の合同呪文魔法を詠唱する者達から疑問の叫び声が上がる。


「なによこれ!?呪文の構成が変わっていくわ…!?」


 合同呪文魔法が進むにつれて、彼らの周りに現れていた輝く魔力がギギギ…!と、形を変えていた。

 いや、正確に言えば魔法が放たれる『方向』が捻じ曲げられていた。その矛先が向いたのは…展示室の中だった。


「おい…!止めろ!呪文魔法を止めるんだ!」


 リーダー陣の1人が必死の形相で叫ぶ。周りの魔法使い達も異変に気付いて呪文詠唱を止めるが…。


「駄目よ…!魔法が勝手に動いてるわ!」

「おい……に、に、逃げろ!!!!」


 だが…遅かった。西軍が慌てて展示室から逃げ出そうとした時には…合同呪文によって練り上げられた閃光魔法が展示室の中へ解き放たれていた。

 ミリア達含む展示室内の人々の視界を白が埋め尽くす。

 音が消える。

 そして…次の瞬間、ミリアとブリティの両手に破壊的な圧力が叩きつけられた。


「おぉおおお!!これぇはどうした事ぉでぇすか!?」

「ちょっと黙ってて下さい!」


 ミリア達の後ろに立つ玉緒が慌てた様子で黄金の甲冑が置かれた台座に抱きついている。

 変な図だが、突っ込む余裕が無い。

 ミリアとブリティは全力で魔法障壁を張って閃光が荒れ狂う魔法を受け止めていた。


「グググ…!ヤバイにゃ…。」

「…。」


 2人で張っている魔法障壁にヒビが入り始める。

 このままではもって30秒が良いところだ。それまでにこの閃光魔法が収まれば良いのだが…そんな気配は全くない。

 どうにかして防ぎ切らなければ…展示品を護るとかいう以前にミリア達が吹き飛ばされ、最悪命を落としてしまう可能性すらあった。

 マンガみたいに苦しみの声をあげるブリティの横で、ミリアは静かに耐えていた。


(このままだと本当に大変だよねっ…。)


 背に腹はかえられない。

 ミリアは覚悟を決める。


(光魔法でこれだけ視界が悪いし…きっと大丈夫!)


 チラリと後ろを確認すると、今にも吹き飛ばされそうな玉緒が必死の形相で台座にしがみ付いていた。


「玉緒!何かあった時の為に、もう1つ結界を周りに張るねっ!」

「お願いするぅのでぇぇえす!」


 玉緒の返事に力強く頷いたミリアは、玉緒の周りに周囲が見えなくなる結界を張る。勿論、防御力は折紙付きだ。ついでに、遮音効果も付与してある。


「ミリア…力を使うのかにゃ?」

「うん。このままだと危ないからね。」

「大丈夫かにゃ?」

「大丈夫!…行くよ!」


 ブワッとミリアの周りに炎が出現してミリアの体を覆い尽くす。

 そして、炎の中から紅いミリアが現れた。

 比喩ではない。実際に輝く金髪と赤い瞳が紅に変わっていた。


「久々に見ると凄いにゃ…!」

「ありがとっ!すぐに決めるよ!」


 細劔を取り出したミリアは、気を集中させて小さく言葉を紡いだ。


「惺炎【静】。」


 細劔から炎が迸り、ミリアの周囲に広がっていく。

 そして…ミリアの炎が触れた光が次々に収束していったのだった。

 

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