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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
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16-4-9.コスプレイベント2日目

 2日目の朝。

 展示品の前に立つ玉緒を見つけたミリアは鬼の形相(ミリアとして…なので、玉緒からしたら可愛いものではある)で詰め寄った。


「玉緒!昨日のはどういう事!?コスプレショーに出るなんて聞いてないよっ?」


 だが、玉緒は余裕たっぷりの態度で掌を上に両腕を広げ、肩をすくめてみせた。


「おぉーう!そんなに怒らないで下ぁさいぃねぇ。」


 女に詰め寄られる黒人を擁護するために、ブリティが仲裁を試みる。


「まぁまぁ、ミリアもそこまで怒らなくて良いと思うにゃ。アタイは楽しかったにゃよ?」

「ブリティは楽しかったかもだけど、私は楽しくないのっ!」

「おぉーうぅ!怖いでぇすねぇぇ。」


 両手で自分の体を抱きかかえるようにして大げさに怖がる玉緒。違和感バリバリである。

 だが、本当に怒っているミリアからすれば、馬鹿にされているとしか感じない行動だった。


「だからね…!」


 プンプンモードから激オコモードへ突入しようとしたミリアを引き留めたのは…意外にも玉緒の一言だった。


「まぁまーぁあ、落ち着ぅいて下さぁいよ。今回ぃーのコスプレショーぉ参加にぃは、意味がぁあるのぉですよ。」

「どういう事?」

「それはぁでぇすね、あなた達ぃがコスプレショーで目立ぁつ事で、展示品の護衛がやりやすぅくなると思ったぁんでぇす。まぁーあ、コスプレショーで貴女たぁちの実了が示せぇればと…薄い期待ぃでぇしたが、結果は最高なパフォーマンスぅでぇしたよ。」


 玉緒の言う事は、ある意味で最もな内容だった。

 ミリアとブリティが実力者であると周囲に知れ渡れば、それだけで彼女達が護衛する黄金の甲冑を狙う輩が減るだろう。その実力者だと知れたのがただの喧嘩であるところが悲しいところだが。

 まぁ、その代わりに別の展示品が狙われる可能性が高い事については…玉緒としては関係が無いのだろう。


「むぅ…。」


 勝手にコスプレショーへ参加させられた点については怒りが収まらないのだが…確かに2日目の今日、ミリア達が歩いている時に周囲から向けられる視線は1日目と大きく異なっていた。

 何というか、羨望の眼差しが増えているといった印象だ。

 そもそも忍者コスプレで顔を隠していたのだから、正体はバレにくいのでは…?と思うが、そこは生粋のコスプレイヤー情報網を甘くみてはいけないという事だろう。

 結果的に、良くも悪くも玉緒の思惑通りになったという訳だ。


「そぉれにぃ、今日の決戦イベントぉにサプライズ参加はしないので、安心しぃて欲しいのでぇす。」


 これは不思議といえば不思議な発言だった。

 そもそも、ミリアとブリティの実力を示すのであれば決戦イベントの方が妥当な筈だからだ。

 そんな疑問を持ったミリアを見て玉緒はニヤリと笑う。


「やるにゃ!決戦イベントやるにゃ!血が騒ぐにゃ!」


 そして、何故かやる気満々で拳を振り上げるブリティ。

 しかし、玉緒は「まぁまぁ。」といった動作でプリティを落ち着かせる。


「今日行う決戦イベントぉは、正直なところ…お遊戯感がぁ強いぃのでぇす。それぇに、展示品の展示はぁ今日が最後なのでぇす。つまぁり、狙うなら今日なのでぇす。」

「お遊戯ってどういう事にゃ?」


 展示品のくだりに触れず、あくまでも決戦イベントに話題をフォーカスするブリティ。本業を忘れているだろうという突っ込みは致し方無し。

 だが、そんなブリティのノリが分かってきたのか、玉緒は自分のテンポを崩さず、丁寧に説明を重ねた。


「つまぁり、本当の武具を使ったぁら怪我人が出るのでぇす。だぁから、全員が怪我をしないプラスチック製のおもちゃみたいな武器を使って戦うのでぇす。お遊戯の合戦という事なのでぇす。」

「それは…面白く無いにゃ。」


 よっぽど楽しみにしていたのか、耳と尻尾を垂らして項垂れるブリティなのであった。一騎当千の天下無双状態で大暴れでもしようとしていたのだろう。

 さて、ブリティが静かになったところでミリアが話し始めるといういつものパターンに落ち着いたので、ミリアは玉緒の話を聞いていて感じた疑問を投げかける。


「展示品が今日までって事は、明日は護衛無しって事ですか?」

「違ぁいまぁす。最終日の明日、最後にコスプレイヤーと展示品がこの都をパレードするのでぇす。そのパレード終了後、白金と紅葉の都に展示品を送り届ければ依頼完了なのでぇす。」

「なるほど…。でも、そうなると動きながら展示品を守らなきゃいけないんですよね?」

「そうでぇす。しかぁも、パレードに参加できるのはコスプレイヤーのみでぇす。」

「そっかぁ……。……え?」


 思わず聞き返してしまうミリア。


「それってまさか…。」


 引き攣った顔のミリアへ玉緒はグッと親指を突き出した。


「そうでぇす!に…」

「忍者コスプレでパレードにゃっ!」


 美味しい台詞を取られて落ち込む玉緒と、テンション爆上がりで復活を遂げたブリティ。

 そして、再びのコスプレという衝撃に…両手を口の前に当ててフリーズするという奇妙なシーンが生まれたのだった。


 こうして、任務の為に否応もなくパレード参加が決まったミリアとブリティなのであった。しかも忍者コスプレ確定。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 3日目にパレード参加が決まったと言っても、任務は続いている。

 2日目の今日に展示品を強奪しようとする輩が現れる可能性がある以上、気を抜くことは出来なかった。

 コスプレの衝撃からなんとか立ち戻ったミリアは展示室の入り口と反対側の門に、ブリティは入り口付近をウロウロする形で警備を開始する。


 警備を開始して1時間ほど経った頃だろうか。ミリアは不審な人物を発見した。


(…あの子、何か探してる?)


 それは男の子だった。お腹にこっそり何かを隠し持っているかのような動作で、周りを伺いながら展示室に入って来たのだ。

 明らかに怪しい。展示室に入ってくる人の多くは、滅多に見ることができない超レア品に目を奪われ、目をキラキラさせながら入ってくる。

 その中でやや挙動不審の少年は大きく目立っていた。


(あの子が隠し持ってるのが対象物を転送する魔道具だとしたら、私達が張った防壁が防ぐはずだけど…ちょっと心配だよね。)


 物事に絶対なんて言葉は適用されない。ミリアはこれまで様々な依頼を遂行する中で、その事を嫌というほど体感していた。

 絶対にお漏らししないと親が言った子供が盛大にお漏らししたり。

 絶対に美味しいと言われたお寿司の酢飯が異様に酸っぱくて気持ち悪くなったり。

 絶対に依頼料を後日払うと言ったのに、行方をくらましたり。(尚、クルルがしっかり見つけ出して搾り取っている。)

 絶対にうちの子が万引きをするはずがない!と豪語する親の依頼で調べたら、調べれば調べるほど万引きの証拠が見つかってしまったり。

 …依頼に関係無い内容も混ざっていた気がするが、要は100%約束された未来など存在しないのだ。

 だからこそ、視線の先で歩く少年が行う行為が招く絶対的な未来を予想することは出来ないのだ。


(どうしよう…行動を起こす前に捕まえちゃうのもアリだと思うけど…。でも、それをする事で黒幕みたいな人が居たとしたら、その隙に盗まれちゃう気もするな。)


 判断に迷うところである。捕まえるか。泳がすか。

 ミリアの周りにいる別の展示物を守る者達も、少年の動きを警戒して観察している。


(ん…。でも、何もしないで後悔する方が良くないよねっ。)


 意を決したミリアは少年に近づくべく一歩を踏み出す。

 その時だった。

 少年がコケた。それもバナナの皮を踏んだかのようにズベッと。しかも…顔から落ちて床にキスをするという痛々しい転び方だった。

 そして、少年が懐に隠していた物が展示室の床に撒き散らされたのだった。


「……えっと?」


 それを見たミリアは戸惑わざるを得ない。

 何故ならば、床に散らばって四方八方へ転がるそれは…大小様々のビー玉だったのだ。

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