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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
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16-4-8.喧嘩!

 怒りに瞳を爛々と輝かせるブリティは身を低くして構えを取る。獲物に襲いかかる猫科の猛獣…のような雰囲気が全身から発せられる。


「くノ一の本当の力を見せてやるにゃ!ビビりミリアのくノ一なんか、チョチョイのチョイでぺったんこなんだからにゃ!」


 ひとつだけ補足しておくと、ふざけているように聞こえるが…ブリティは至って真面目である。

 その事実を把握しているのは当の本人は勿論の事で、あとは…付き合いの長いミリアだけ。

 ミリアはブリティが本気で攻撃をしてくる事を感じ取り、迎撃の体制を取る。油断すれば…一瞬で意識を刈り取られてしまう。

 本人達の本気具合とは別に、その他の観客達はブリティとミリアが盛り上げるために行なっている小芝居だと勘違いして盛り上がる。

 くノ一同士の忍者バトル…こんなに血が滾るイベントには中々お目にかかれないのだ。女の魅力を前面に出す女性コスプレイヤーが多い中、男のように強さを演出する存在は稀有なのだ。

 ブリティから発せられる威嚇の気合に負けじと対峙したミリアは声を張り上げる。


「いいよっ!私も容赦しないからっ。」


 ミリアもブリティも武器は…出さない。どんなに怒っていても、その辺りの分別は残っているようである。

 睨み合う2人の気合が高まっていくのを感じ取った観客達は…次第に静まり返っていった。これから始まるであろう激闘を予想し、一挙一動を見逃さまいと目を凝らす。

 先に動いたのは…ブリティだった。


「行くにゃよ!」


 タンっと軽い音を足下から響かせたブリティは、一直線にミリアへ向けて突撃した。

 そして、ミリアへ激突する直前に足を前に出してランウェイを蹴り、直角に進行方向を変化させる。その先でも、その先でも、どんどん進行方向を鋭角に変え続けるブリティ。ミリアはその動きから法則性を見つける事が出来なかった。

 つまり、ブリティが直感に従って進行方向を変えているという事である。

 故に…このランダムな軌道から放たれる攻撃を予測する事は難しい。タンッタンッタン!という音が響く中、ブリティの移動速度は更に早くなっていく。

 下手に隙を見せたら最後。ブリティの鋭い一撃が叩き込まれる事は間違いなかった。

 だからこそ、ミリアは目を閉じた。この状況下で視界に頼っていてはブリティの攻撃を読む事は出来ない。頼りにすべきは音と肌が感じる感覚。そして、ミリア自身の直感だった。

 そして、この判断が功を奏する。周囲の其処彼処から聞こえる足音の中で、1つの足音だけ強く響いて聞こえたのだ。ミリアはその方向へ向けて回し蹴りを叩き込んだ。


「しっ!」


 口から鋭い息を吐きながら放った回し蹴りは、強い衝撃を伴って止まる。


「ぐにゃ!やるにゃ…!」

「へへんっ!だよ!」


 見事命中だった。ブリティの飛び蹴りを迎撃する形でミリアの回し蹴りが炸裂していた。

 とは言っても相打ち。互いにダメージはほぼなく、ここからの攻防が勝敗を左右する場面だった。


「フニャニャニャニャ!!!」


 ミリアの回し蹴りから受けた反動を利用して回転しながら着地したブリティは、気合の声を連打しながら高速連続猫パンチを繰り出す。

 これに対してミリアが取った行動は回避。ブリティのパンチを潜るようにして避け、足下に向けて拳を叩きつけた。


「いっくよっ!」


 その着拳点から炎が噴き上がる。


「うにゃ!?」


 突然噴き出した炎の直撃を受けたブリティは宙高く飛ばされてしまう。

 そのブリティ目掛けて…ミリアは両手に炎を宿して跳躍した。そして、両手の炎を使って生み出した推進力を利用して、突きと蹴りのコンボを叩き込む。

 空中で身動きの取れないブリティは咄嗟に体の前面で両腕をクロスにしてガードを試みるが、ミリアの放つ攻撃の衝撃はガードを突き抜けてブリティの体にダメージを蓄積させていく。


「ぐ…まだ、まだにゃぁぁぁ!」


 このまま勝負が決まるか!?…と思われたが、流石のブリティがそれを許すはずも無かった。

 両手をブワン!と広げたブリティから魔力の波が放たれる。 所謂、無属性衝撃波というやつである。


「きゃっ!?」


 同じタイミングで下からの突き上げを放とうとしていたミリアは、この無属性衝撃波を無防備に食らってしまい、可愛らしい女の子風な短い叫び声を上げて…下に吹き飛ばされた。

 急降下するミリアに物凄い勢いでランウェイが近づいてくる。この速度のまま落ちれば…全身の骨が砕ける事必至。

 しかし、ミリアは落下速度を緩める事が出来ずにランウェイに激突した。

 ドガァン!…という短い音が響き渡り、ランウェイが凹む。

 観客からは女性の悲鳴などが発せられた。頭を抱えて「マジかよ!」みたいなポーズを取っている者も多数。

 観客達が衝撃を受ける中、玉緒は楽しそうに肩を揺らしていた。


「くぅくっぅっくっぅぅぅ。中々ぁにハイレベルぅな戦闘でぇすね。得物を使わずぅしぃて、このレベルというのは…かぁなり期待がぁもぉてますぅねぇ。」


 まさか戦闘(実際はただの喧嘩)が始まるとは思っていなかった玉緒は、ウキウキワクワクだった。自分が護衛を依頼した者達の実力を見る事が出来るのが。こんな好都合な展開は無かった。

 しかも、彼女達が展示品を護衛しているとなれば、迂闊に盗む事もできなくなる。一石二鳥の結果を生み出す最高のショーなのである。


「さぁ、もっとぉ楽しませぇて下さいぃぃぃねぇぇ。」


 愉快に玉緒が笑うなか、凹んだランウェイからはミリアがヒョコっと顔を出して観客達を驚かせていた。少し離れた位置に着地したブリティが唸る。


「むむぅにゃ。炎の力で勢いを殺して無傷とか…ズルイにゃ!」

「そんな事言われても…。あのまま落ちてたら大怪我だよ!?」

「そんなの知ったこっちゃないにゃ!ミリアのばぁぁぁか!」

「むむぅぅぅ!」


 小学生みたいな挑発をするブリティと、これまた小学生みたいに頬っぺたを膨らませて怒るミリア。本人達がどんなに真剣でも、周りからしたら相変わらずプチコントのようにしか見えなかった。

 2人は再びランウェイを蹴り、激突する。乱打と連打の応酬は観客達の視線を釘付けにし、オーケストラが2人の動きに合わせて奏でる音楽も熱が帯びていく。

 喧嘩は終わらない。ミリアもブリティも実力はほぼ互角。問題は決定打がない事だ。

 どちらも自身の武器を使っていない事で、決め手となる攻撃がイマイチ決まらない。


「ふにゃぁ!」


 ミリアの裏拳を避けながら、ブリティがサマーソルトキックを放つ。ミリアは裏拳を放った勢いをそのまま利用して体を横に回転させ、蹴り上がる足を辛うじて避けるとランウェイに手をいて体の方向を変える。

 ブリティはサマーソルトキックの後に着地した足でミリアへ再びの突撃。

 2人の魔力を込めた回し蹴りが空中でぶつかり合った。

 魔力と魔力が鬩ぎ合い、弾ける事で、周囲に魔力の輪が広がった。

 まるでそれは大きな花火のようで…これが図らずとも戦い終了の合図になったのだった。

 というのも、観客達が戦いを軸にした2人のショーの締めの技だと勘違いした為だ。


「ブラボー!!」

「最高だぜ!」


 どっと爆発的に歓声が上がる。


「へっ!?」

「ふにゃ!?」


 この歓声を浴びる事で、自分達がコスプレショーのランウェイにいる事を思い出したミリアとブリティ。

 自分達が観客の前で本気で喧嘩していた事を理解し…ブリティは「テヘヘ」と笑い、ミリアはズガァンと落ち込んだのだった。

 そして、そんな2人を他所に…会場は次のコスプレイヤー登場へと切り替わっていく。




 ランウェイからの退場を余儀なくされた2人は、会場の裏手で静かに座っていた。

 つい先程までの喧嘩が嘘だったかのように…静かだ。


「ねぇブリティ。」

「なににゃ?」


 話しかけるミリアの視線はランウェイで激しい回転をするコスプレイヤーの方を向いている。


「さっきはごめんね。」

「…アタイも悪かったにゃ。」

「うん。」


 短い謝罪。

 それだけで十分だった。

 色々と言い合って喧嘩をしてしまったが、それは本当に仲が良いからこそ。心の底から嫌いになる訳がなかった。

 なぜなら…2人は信頼し合う仲間だからだ。

 今回の喧嘩は、それを再認識する良い機会になっていた。

 2人は考え方も戦闘スタイルも大きく異なる。だからこそ、互いの弱点を補い合う事で様々な依頼をこなしてきたのだ。

 そう。それはこれからも変わらない。2人が守らなければならない展示品をしっかりと守る為にも…協力をしなければならないのだ。


「この後も頑張ろうねっ。」

「まっかせるにゃ!」


 顔を見合わせたミリアとブリティは、満面の笑みを浮かべたのだった。




 尚、コスプレショーの優勝者はミリアとブリティ。

 …とはならなかった。

 別の忍者コスプレイヤー4人衆による影分身から始まる忍術ショーが大いにウケ、結果として彼らが優勝に選ばれたのだった。

 流石に優勝してしまうと目立ち過ぎるので、ミリア達としては願ってもいない結果だった。

 因みに…玉緒がハンカチを噛んで悔しがったのは言うまでもない。




 コスプレショーが終わった後、ミリアとブリティは展示品の護衛を続けたが…この日は特に何も起きずに終わったのだった。


 そして、コスプレショー2日目が始まる。

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