16-4-6.コスプレショー開始!
係員の後に続いて歩くミリアとブリティは、コスプレイベントの様子を楽しみながら歩いていた。
護衛対象の展示品から離れる事に不安はあるが、何かあった場合は依頼主である玉緒の指示だったと主張すれば…恐らく大丈夫だろう。
そして、そんな不安感を消し飛ばすほどに『武士魂は永遠に』のイベントは魅力的だった。
とある部屋では武士の格好をした男達が武士ヒーローの演劇を演じていたり、とある部屋では鎧とビキニを掛け合わせた不思議な服装の女性達がカメラマン達のレンズを惹きつけている。女豹のポーズなどを取りながら色気を振りまく女性コスプレイヤー達。
最早ビキニ良いのではないだろうか…なんて疑問は不粋。鎧ビキニだから表現できる力強さと色気の融合があるのだ。
鎧ビキニは確かに不思議な服装だが…色気を感じさせるのは、絶妙なバランスのデザインがあるからこそなのだろう。
他にも落ち武者が大道芸を披露していたりと…最早文化混合も良いところだが、それでも参加者達がとても楽しそうに笑い、お互いのコスプレを称賛し合っている姿はキラキラと輝いていた。
「ん?あそこ…揉めてる?」
そんな楽しい風景を見ながら歩いていたミリアが見つけたのは、コスプレイヤーの1人が揉めている…というよりは、纏わり付かれている場面だった。
「あらやだぁ!可愛いわねぇん!その薄い唇をジュルジュルに吸いたいわぁん!」
一瞬、ミリアは思考が停止してしまう。今のセリフを言ったのは、コスプレイヤーに纏わり付いている…男だ。だが、ミリアの中の常識では男があのような話し方をする事はない。…いや、鎧塚玉緒も似たような話し方かも知れないが。
とにかく、その男はくねくねと体を動かしながらコスプレイヤーに迫りまくっていた。
「ちょっ!ちょっと待って下さいって!なんなんですか!?」
「あらぁ照れちゃって可愛いわねん!そんな風にちょっと抵抗する所とか…私の心の琴線をビンビンに震わせるのよん!!」
周りにいる人達も、オカマ口調の男がやばいことに気づいているのだろう。チラチラと視線を送ってはいるが、目線が合うのを恐れているのか…コスプレイヤーが絡まれている場面を凝視する人は誰1人とていなかった。
その場面を見ているミリアに気づいた先を歩く係員が、小さい声で教えてくれる。
「あの人には関わらない方が得策ですよ。毎年このイベントの時に来る人なんですが、過去に何人も犠牲になっているので。」
「そうなんですね…。」
「あの人は凄いにゃ。ぶっ飛んでるにゃ。」
「しかも、今は男にすり寄ってますが、男女関係なく被害者が多数出ているので…。早くこの場所から離れましょう。」
「そうなんだ…。」
「アタイは襲われたくないにゃ…!ミリア!早く行くにゃ!」
ブルルと震えたブリティはミリアの後ろに回ると、歩くのを急かすように背中を押し始めるのだった。
もう少し見学していたい気もあったミリアだが、忠告する係員がかなり真剣な眼差しをしていたこともあって、素直にその場所から離れて行く。
途中、数人の男達が集まって小声で話しているのがチラリと聞こえた。
「おい。あいつってド…だろ?しかも…のだよな?」
「そうだね。」
「って事はさ…あいつは故郷を……てここにいんのか?」
「いやぁそれはどうでしょうか?」
「なんだよ?…か違うか?」
「そもそも…の…について、詳しい…が…ってませんよね。」
「まぁ…そうだけど。」
「だから、変な推測は…方が良いと…す。」
「それはそう……けどよ。」
イマイチ重要なポイントが聞き取れないが、彼らの視線から察するに、オカマ口調の男について話しているのだろう。
(あの人…有名な人なのかな?)
毎年このイベントで多数の男女が被害にあっているとは言っても、彼らが話している内容はどうもそれとは違う内容な気がしてならないミリアだった。
そんな変な人たちを見たりしながら、ミリアとブリティは…ドンカーレ宮殿にあるホールの近くに連れられてきていた。
係員は多数並んでいるドアの1つを開けると中に入るように促す。
「はい。ではこちらに入ってお待ちください。」
「あ、はい。」
「はいにゃ!」
これからなにが起きるのだろうか。何を見れるのだろうか。…と、ちょっと心を躍らせながら部屋に入ったミリアは…絶叫する。
「えっ!???ちょっとコレって…!!??」
バタン!
だが、物凄い勢いで閉まったドアがミリアの叫び声を中に閉じ込めたのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
『武士魂は永遠に』の大きな見所は3つある。
1つはミリア達が護衛を担当している展示品だ。一般人がどんなに足掻いても手に入れることが出来ないレベルのレア品は、見る者の心を魅了する。
そのレア品を観察し、如何に自分のコスプレのレベルを引き上げるか。これが都圏におけるコスプレイヤー達の動力源にもなっているのだ。
だが、それだけではない、他にもこのイベントでレア品を展示する意味があるのだが…。
2つめが2日目に行われる決戦イベントだ。これはイベント名が表している通りの内容で、コスプレをした人々が合戦を行う。このイベントでどの陣営が勝つのか。それを予想する賭けがあるのも人気である所以だった。
そして…3つめが間も無く開催するコスプレショーだ。数多くのコスプレイヤーが自慢のコスプレを披露するのだ。このイベントで優勝するために人生をかけている人もいるレベルのショーである。
優勝者は1年間のスポンサー契約を得る事が出来て、プロのコスプレイヤーとして名を馳せる事が出来るのだ。まさしくプロコスプレイヤーの登竜門と言えるだろう。
そのコスプレショーが今まさに始まろうとしていた。場所はドンカーレ宮殿のホールだ。
会場内には多数の観客が集まり、ショーが始まるのを今か今かと待ち構えている。
ホールの中央には長いランウェイが敷かれていて、その両サイドに観客という配置だ。このランウェイでどんなパフォーマンスをするのか。それが審査の評価を左右する大きなポイントだ。
踊るのか。演武を披露するのか…それは全てコスプレイヤーに任せられていた。
「さぁ皆様おまたせしたでござる!」
マイクを使ってござる口調で話し始めたのは、赤い甲冑を身にまとった男性。このコスプレショーの司会者だ。
ざわめいていた観客は、司会者の登場を認めると一瞬で静まり返った。
「これより拙者達コスプレイヤーの栄光あるナンバーワンを決めるショーを開始するでござる!今から先の時間は神聖なる時間。皆の衆は…静かに待ち、大いに盛り上がるでござる。それでは…開始でござる!」
司会者が剣を抜き放つ。銀色の刀身が光を浴びてギラリと輝いた。
これが合図だった。ランウェイの入り口付近に待機していたオーケストラが演奏を開始する。大太鼓が響かせる鼓動に合わせて弦楽器が躍動感のあるメロディーを奏で、管楽器が色やダイナミクスを追加していく。
戦国ドラマで流れるような壮大な曲が会場内を包み込み…突如ゲーム音楽みたいな曲へ切り替わった。
そして、1人のコスプレイヤーがランウェイに登場する。
「ウォォォォオオオオオ!!!」
同時に、観客達から歓声が上がった。野太い歓声は会場を揺るがし、オーケストラの音がかき消される程。
1番手を担う女性コスプレイヤーはニコニコと笑顔を振りまきながらランウェイを歩いていく。
服装は…過激だった。ゴツゴツとした男らしい鎧を身にまといながらも、後ろ姿はプリップリのお尻をTバックと共に晒し、豊満な胸の横乳が鎧の隙間から見えている。しかも、歩きながら豊満なそれが揺れる様を見せつけるという絶妙仕様。
女性コスプレイヤーはランウェイの中央に到着すると、艶かしい情熱的な踊りを披露する。
その動きに合わせて観客の熱もヒートアップしていき…会場を熱気が支配していく。
1番手のコスプレイヤーによって大盛り上がりする会場の裏手では…出番を待つコスプレイヤー達がソワソワしながら表の様子を伺っていた。
「おい…あいつのパフォーマンス…去年より更に磨きがかかってんぞ。」
「確かにエロさもレベルアップしてるな。こりゃぁ今年のコスプレショーはシビアな戦いになりそうだな。」
「ワァァァァァアアアア!」
一際大きな歓声が上がると、オーケストラの演奏する曲が切り替わる。
今度は尺八で演奏しているような…和テイストの音楽だ。
「ふぅ…今年も最高のショーが出来たわね。」
1番手で会場を賑わせた女コスプレイヤーが裏手に戻ってきた。何故か甲冑が消えていて、鎧風の極小ビキニに変わっていた。一体どんな仕掛けをしたのやら…。
その暴力的な姿を見てガチガチの鎧を着たコスプレイヤーの何人かが、前屈みになりながらその場を離れたのはご愛嬌。
会場内は2番手の男コスプレイヤーの演武を見て大いに盛り上がっている。
表も裏も熱気に支配される中…イマイチ盛り上がり切らない1組の女性コスプレイヤーがいた。
それは…ミリアとブリティである。
くノ一コスプレをしたピンクのブリティと、ブラックのミリアは壁際の椅子に座りながら呆けた表情で周りのコスプレイヤーを眺めていたのだった。




