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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
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16-4-4.探偵風イケメンとの遭遇

 英国紳士風のイケメンはニヒルな笑みを浮かべると、ミリアの顎に優しく指を添える。顔が…近い。拒否出来たはずなのに、何故か自然と受け入れてしまっていた。

 そのまま数秒間ミリアを見つめたイケメンは指を離すと天を仰いだ。因みに空は当然の如く見えず、絵画の天井しかない。ここで大事なのは天を仰ぐという動作なのである。


「あぁ!なんて素敵な美貌をお持ちなんだ!今日この日に君と出逢えたのは運命かもしれないね。」


 歌うような口調で、むず痒くなる台詞を堂々と言ってのけるイケメンは、ミリアを見ると優しく微笑んだ。


「それで、君はどこの所属なのかな?」

「えっと…私はモデルじゃないですよ?」

「なんとっ!?」


 驚愕の表情を浮かべ、歌劇のワンシーンのように崩れ落ちたイケメンは嘆きのポーズを取る。


「君のような可憐な女性がモデルをやっていないなんて…宝の持ち腐れ甚だしいとはまさしくこの事!」

「あの…用事がないなら…良いですか?」

「おっと。待ちたまえ。」


 シュピッと立ち上がったイケメンは周りを見まわすと、ミリアに再び近く。そして、小声で話しかけてきた。


「つまり、君がモデルではないという事は…考えられる可能性は1つだ。モデルなのであれば今回のイベントでコスプレをする為に来ているという想像は難くない。しかしだ、モデルではないという事はコスプレとは関係ないという事になる。そしてイベント前日である今、この場所にいるという事はイベント運営の関係者の可能性が高いね。しかも、その美貌だったら、この僕が運営関係者で覚えていないわけがない。つまり…運営関係者に呼ばれてこの場所にいるという事。更に!その手に持つのは見取り図。しかも先程から周りを見まわしながら歩いていることを考えると…展示品の護衛をする為にこの場所に呼ばれた人物だと推測が成り立つ。更にもう1つ言おう。君の身のこなしは一般人からはかけ離れている。これらの要素を合わせて考察する事で導き出される答えはただ1つ。君は…鎧塚玉緒が依頼した展示品の護衛を行う為にこの場所にいるんだろう?」


 なんとも長ったらしい台詞だが…その推測の結論は確かに間違っていなかった。


(この人…怪しいけど、実はそうでもないのかな?)


 ミリアは判断に迷ってしまう。このイケメンが何者なのか。それを判断する材料があまりにも少なすぎた。

 …と思っていたのだが、イケメンは自分から語り出した。


「その表情は僕の推理が正しいことを物語っているようだねっ。ふふっ。僕はこの黒水と雪の都で探偵を行なっているのさ。そして、今回の『武士魂は永遠に』のイベントで現れるであろう盗人がどんな手口で強奪をするのか…その手法について教えて欲しいと依頼を受けてここにいる。」


 つまり…目的はミリアと同じという事。色々と見透かされている気がしてきたミリアは、イケメンの話に乗ることにした。


「っていう事は、私と同じですねっ。」

「そうさ!だからこそ君とここで出逢えた事は運命なのさ!僕が展示品を直接守る事は無いけど、君と僕の目的は同じだ!あぁ、なんていう運命なんだ!」


 イケメンはハットの向きを直しながらミリアへ問いかける。


「そこで敢えて君に問おう。盗人はどんな手段で展示品を盗もうとすると予測するのかな?」


 最早イケメンのペースに巻き込まれてしまったミリア。通常であれば警戒をして会話の中で探りを入れるべきなのだが、話している感じで特に悪意を感じなかったので、素直に話す事を選択した。


「その盗む手段なんだけど…ちょっと予想が付かないんだ。入り口は1つしかないし、窓は無いし…床も壁も分厚いから物理的な方法だと難しいんじゃないかなって。」


 ミリアの見解を聞いたイケメンはピンっと人差し指を立てた。


「そうかい。確かに君の推論は正しいといえるね。そして、今の推論に辿り着いているという事は…物理的では無い方法、つまり魔法を使った盗みを推測しているのだね?」

「あっ、はい。そうです。」

「ふっふっふっ。けれど、君はこうも思っている筈だ。転移系の魔法は対抗魔法を準備していれば抗うことが出来る。他に盗みに使えるような魔法は無いのではないか…とね。しかしだ、それでは考えとしては甘いと言わざるを得ない。」

「え…どうしてですか?」


 イケメンはスッと笑みの種類を変える。明るい笑みから…暗い笑みへ。

 そして、それ迄よりも低い声で、囁くように、静かに言葉を紡ぎ始めた。


「盗みとは結果的にそのブツが手元に来れば良いという事。極論の考え方をすればね。つまりだ、ブツを手に入れるまでの過程なんて関係がないという事さ。なぁに簡単さ。このドンカーレ宮殿内に即効性の毒ガスでも散布すれば良いのさ。そうしたらどんな魔法使いだろうと…気づく前に命を失う。それだけで邪魔する者が居なくなるんだ。まだまだあるよ?転移ではなく空間だけを切り取るなんて手法もあるよね。人質をとるのも良い。誰かを殺して騒然となっている隙に盗んでも良い。大量のモンスターにドンカーレ宮殿を襲わせ、戦っている隙を見て盗み出しても良い。いや…それよりも展示品の護衛をしている人を暗殺した方が早いかな?」


 次々と挙げられる強奪手段にミリアは何も言う事が出来ない。

 イケメンの言う内容は…最早重大犯罪となるべきものだった。しかし、それが現実に起きないとは限らない。いや、起きると考えて対処を練る必要があるのかも知れない。

 その気付きを与えてくれたこのイケメンには感謝しなければいけない。…だが、ミリアは疑問を持ってしまう。


(この人はなんでそんなに色々な強奪手段を思いつくんだろ?それを私に話す意図が何かあるのかな…?)


 こんな時にクルルが居れば、論理的な話をぶつける事で相手の真意を探り出してくれるのだろうが…。

 もしかしたら目の前にいるイケメンは…展示品を盗もうとしている張本人なのかも知れない。その上で敢えてミリアに色々な手法を提示する事で「守ってみせろ」と挑発しているのかも知れない。


(でも、でも…私はこの人から悪意を感じないんだよねっ…。)


 そう。まさしくそこが悩めるポイントなのだった。

 ミリアは生まれつき…いや、気付いた時には悪意を敏感に感じ取る事が出来ていた。この感覚は、ミューチュエルで数多の依頼を行う中の判断軸として間違った事がない。

 それならば…。


「よしっ!決めたよっ。」

「…ん?」


 黙り込んだミリアを静かに見ていたイケメンは、ミリアが突然元気な声を出したのに反応して目を丸くする。


「私は、あなたを信じるっ!」

「…ほぅ。まさかそんな言葉が出てくるとはね。あぁ…運命はかくも翻弄をするのかぃ!」

「私ね、あなたから悪意を感じないんだ。だから、さっきの内容は探偵風なあなたのアドバイスだと信じる事にしたんだっ。」


 ミリアの純粋な瞳に射抜かれたイケメンは胸を押さえて崩れ落ちる。


「な、な、なんと!あそこまでおどろおどろしい内容を話す男を信じるというのかい!君はなんて澄んだ心の持ち主なんだ!あぁ!やはりこの出会いは神様が与えてくれた運命なのだね!」


 演劇の世界に入り込んでいくイケメンを見ながらも、ミリアはイケメンが与えてくれた気づきを元に自分が何をすれば良いのかを考える。


(人を殺すっていう事が手段に入るなら…可能性は沢山あるよねっ。それなら…盗人さんがどんな手段を取ってきても対抗できる準備が必要かな。)


 考えるは易し、行うは難し。とは正にこの事である。

 だが、やるしかない。下手をすれば大勢の人が命を失うかもしれないのだから。

 約5分程だろうか。ミリアは思考に耽り、イケメンは一人で運命の出逢いお芝居を続けるという…誰もが近付きたくない異様な光景が繰り広げられる。

 その後、芝居を終えたイケメンは、ちょっとだけ真剣な顔でミリアに顔を近付けた。


「運命的な出会いをした君に…僕からひとつだけ忠告を与えようじゃないか。街圏って知っているかい?」

「街圏?…あ、私達がいる都圏とは別の星の集まりの圏の事?」

「あぁそうだ。その…街圏は今大変な事になっているらしいんだ。」

「え…それってどんな風に?」

「それはね…おっと、警備兵が来てしまったみたいだ。僕は本来この建物に入る事を許されていない身だからね。では、これで失礼するよ。」


 ニコッと悩殺スマイル(ミリアには効果が無いが…)を披露したイケメンはひらりと身を翻すと走り去ってしまった。


「き…君!いまここで怪しい人物を見なかったかね!?」


 部屋の中に駆け込んで来た警備兵が息を切らしながらミリアに問いかける。


「えっと…怪しいかは分からないんですが、イケメンのお兄さんとは話してましたよ?」

「イケメン…やはりあいつか!!くそっ。また逃したか!」

「有名な人なんですか?」

「有名も何も…探偵気取りで色々なところに現れる変人だよ。大体あいつが現れる所では何かしらの事件が起きるんだ。それなのに、あいつは何もしない。事件を防ぐ為のアドバイスだけをするっていう変人さ。事件を裏で手引きしてるっていう人もいるし、事件を防ぐために奔走してるって褒める人もいる…。ただ、俺からしたら防ぐ手段とかを知っているなら自分で動けってんだ!ちっくしょぉ。今日こそは捕まえてやる!」


 警備兵は怒りのままにドタドタと走り去っていったのだった。

 状況について行けずに取り残されたミリアは再びポカンとするしかなった。


「…うん。良く分からないけど、私は私に出来る事をしないとだよねっ。うんっ!」


 意識的に気持ちを切り替えたミリアは、再び展示室に向かうことにした。

 先程の探偵風イケメンが教えてくれたアドバイスをもとに、色々と検証をするのだ。

 レア品が狙われるだけならまだしも、そこに人の命が関わるかもしれないと分かった以上、のんびりと待っているわけにはいかなかった。


 それにしても…あのイケメンは「依頼されて」と言っていた。

 誰が彼に依頼をしたのだろうか。

 そして、依頼をされたイケメンがわざわざミリアに情報をくれた意図とは…。

 頭の中に疑問が駆け巡る。

 だが、この疑問の答えが今の段階で見つかる事はない。

 イベントの準備で次第に慌ただしくなるドンカーレ宮殿で、ミリアは会場内の下見を続けながら準備をしっかりと行った。


 因みに…ブリティはヴェンツィアで目的の煮干しをちゃっかりとゲットして帰ってきていた。

 怪しい人物もとっ捕まえたらしいのだが、全員がイベントのコスプレをした人々だっただけらしく…収穫は無し。

 残念な事に、事前に盗人関連の有用な情報を得る事は出来ずに終わっていた。


 そして、念入りに対策と準備を行ったミリアは…『武士魂は永遠に』のイベント当日を迎える。

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