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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
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16-4-3.ドンカーレ宮殿

 玉緒に続いてドンカーレ宮殿の中に入ったミリアとブリティは思わず息を飲む。

 建物の中に使うには相応しい表現ではないかもしれないが…ドンカーレ宮殿内部は絶景だった。


「凄いねっ…!」

「これはヤバイにゃ。」


 想像もしたことがないような光景だった。

 建物内部の全ての壁と天井に金の額縁に入った絵が敷き詰められているのだ。

 四角い絵や丸い絵など、様々な絵の額縁は金色で統一されていて、それらが繋がっている事で何かの模様を表現しているかのようにも見える。

 ドンカーレ宮殿の中はまさしく芸術で溢れていた。

 宮殿内観に圧倒される2人を見て嬉しそうに笑う玉緒は、英国紳士のようにミリア達のエスコートをしようとする。


「さぁーさぁ!こちぃらですよぉ。」


 行動に対して気の抜ける話し方をする黒人の玉緒が手を差し出してくるが、それをやんわり断りながら、誘導されるがままに宮殿の中を奥へ進んでいく。


(凄いけど…なんかあの屋敷の絵を思い出しちゃうな…。)


 ミリアがふと思い出したのは、お化け屋敷の依頼を行った時の…ループする部屋だ。

 何度か同じ部屋へ進んだ後…壁に掛けられている絵の人物がだんだんと近寄ってきて叫んだのは今でも鮮明に覚えている。

 夢に見る程のトラウマにはなっていないが…それでも絵画を見た時にふと思い出してしまう程度には嫌な思い出になっている事は確かだった。


「…ミリア、大丈夫かにゃ?」


 表情を曇らせたミリアを心配したブリティがミリアの服をチョンっと引っ張って顔を覗き込んできた。


「あ、うんっ。大丈夫だよ!」


 絵画の事で変に心配をかける必要はない。ミリアは笑顔を作るとブリティの頭を撫で撫でする。


「ほんっと凄いよね。なんか…王様にでもなったみたい。」

「…まぁいいにゃ。王様の気分はアタイも賛成にゃ!煮干しに囲まれた生活が出来る王様になるにゃっ。」

「それは…流石に煮干し過ぎじゃない?」

「問題ナッシングにゃ〜。」


 軽口を叩き合いながらも、ミリアは追求を重ねてこないブリティへ心の中で感謝するのだった。

 そうこうしている内に1つの大きなドアの前に到着する。

 玉緒は顔だけ振り向くと…歯をキラリと輝かせた。やだ。黒人のキラリだなんてイケメン。


「お待たせしぃたぁですねぇ。ここぉが今回のイベントの展示室でぇすぅよ。お入りぃなぁさい!」


 ゴゴォォォォン。という音がしてドアが開く。

 ドアの向こうにあったのは…。


「…凄い。」

「これはお宝部屋にゃ?」

「今さっき展示室とぉ言ったぁじゃなぁいですぅか。」


 玉緒曰く展示室の中は…戦国武将に因んだアイテムが展示されていた。

 どれも分厚いガラスケースに入っていて、それだけで超レア品である事が窺える。

 ダイヤが散りばめられた刀。黄金の甲冑。アートな世界観を構築した天守閣の模型。豪快な筆のタッチで描かれた巨大戦国絵巻…。

 やったるで鑑定団で鑑定したら…恐らく目玉が飛び出る程の金額が提示されそうな品々ばかりである。


「明日から2日間行われぇるイベントぉで、来場者たぁちがどの展示品がぁ1番すぅきぃかを投票するぅんでぇすね。見てわかぁるとぉり、全てレア品でぇす。あなた達ぃには…これを護衛してもらぁいますぅ。」


 玉緒が指し示したのは…展示品の1つ、黄金の甲冑だった。


「他の展示品は護衛しなくて良いんですか?」

「良いのでぇす。それぞれの展示品にぃは、私ぃのように担当者ぁが付いているぅのです。その担当者ぁがそれぞぉれ護衛する人ぉを雇っているぅのですよ。」

「そうなんですね。分かりましたっ。」

「……アタイは感動にゃ!こんな甲冑があるなんてマロンにゃ!」


 栗…?


「ブリティ…ロマンじゃない?」

「そうだったにゃ!マロンロンロマンにゃ!この黄金甲冑は誰が出品しているにゃ!?」

「そぉれぇは言えませぇん。」

「…そんにゃ!」

「教えてしまぁうと、イベントの趣旨に反するぅのでぇすよ。」

「ブリティ。」


 ここは深掘りしない方が良いと判断したミリアが目配せすると、ブリティは渋々…といった様子ではあったが聞くのを諦める。


「…分かったにゃ。アタイは大人だから聞かないにゃ!感謝するにゃ玉緒!」

「はぁっはっぁはっ!ブリティは面白いのでぇすね。」


 相変わらず興奮しているようで気色悪い笑い方である。

 一頻り笑った玉緒は、ポケットから1枚の紙を取り出すとミリアへ手渡した。


「これぇはこの宮殿の見取りぃ図でぇす。明日からイベントが開催されぇるので、それまぁでぇにどうやって護衛をすぅるのかを2人で打ち合わせぇておいてくだぁさいねぇ。」

「ありがとうございます。」

「むむっ?という事は、明日玉緒はアタイ達と一緒に行動しないかにゃ?」

「そうなぁのでぇす。なんとぉ言ったってぇ、代表でぇすからぁね。挨拶とか名刺交換とぉか色々あぁるのでぇすよ。」

「偉いと大変にゃ!大船に乗った狸のつもりで安心してお仕事するにゃ!」

「狸…?ま、まぁお願いすぅるのでぇす。これから打ち合わぁせをしてくるので、明日までぇは自由に行動してぇ良いのでぇす。」


 人差し指と中指を揃えておでこからビビッとイケメンさよならポーズを決めた玉緒は、周りにいる係員達へ陽気に声を掛けながら歩き去って行った。


「よしっ!じゃぁ…。」

「黒水と雪の都の煮干し調査に行くにゃよ!」

「えっ、ブリティ…!?」

「煮干しがアタイを呼んでるにゃぁ!さっきボートに乗っている時に高級煮干しの気配を感じたにゃ!ついでに怪しい人物も見かけたから一緒に調べてくるにゃ!ラジャーにゃ!」


 ミリアが止める間も無くブリティは走り去っていった。


「え…?こんな事ってある?」


 あまりにもエネルギッシュで突然なブリティの行動に呆然と見るしか出来なかったミリアなのであった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 展示会場に1人取り残されたミリアではあるが、不貞腐れる事なく真面目に見取り図を使いながら護衛プランを考えていた。


「えーっと…入り口は1つしか無いよね。…私だったらどうやって盗もうとするかな…。」


 グルっと見回す。正方形に近い部屋の中にある展示品は全部で20個だ。

 どれもこれも貴重な品らしく興味があるが、今考えなければならないのは…展示品を狙う不届き者が出口が1つしか無いこの部屋でどうやって盗もうとするのかだ。

 守る側の視点ではなく、盗む側の視点で考察する事で思わぬ抜け穴を見落とす確率が低くなるのだ。


(とは言っても…出口が1つっていうのが本当に難しいよねっ。)


 良い方法が全く思いつかないミリアは腕を組んだまま首を傾げてしまう。

 敢えて言うのなら…夜になるのを待ち、部屋を真っ暗にして起きる混乱に乗じて持ち出すという方法。だが、この方法では各展示品の護衛をしている人達が入り口付近の守りを固めればすぐに失敗で終わってしまう。

 せめて窓でも付いていれば窓を突き破って侵入とか、脱出を図ることが出来るのだが。


(物理的な方法が難しいとしたら…魔法を使って?)


 転移魔法を使って対象の展示品を任意の場所へ転移させるという方法もあるが、当然ミリアは魔法による干渉を防ぐ結界を張るつもりだ。そうする事で転移魔法発動に対する防御措置も取れるし、万が一発動したとしても実際に転移が完了するまでの時間稼ぎをする事が出来る。

 上手くいけば転移の無効化や弾き返しも行えるかもしれない。

 こう考えると…いまいちこの場所でイベントを行なっている時間に盗もうとするメリットが感じられなかった。

 安全に盗むのなら展示をしている時ではなく、輸送をしている時の方が良いのでは無いか…とも思えてくる。最も、移動時の危険性は展示品の持ち主も分かっているはずなので、警備も万全の体制ではあるだろうが…。


「う〜…分からないなぁ…。」


 展示室の中に居ても盗むまでのプロセスがいまいち思いつかないミリアは、気分転換も兼ねてドンカーレ宮殿の中を散策する事にした。何かしらのヒントを見つけれられるかもしれないという期待も勿論ありだ。

 展示室を出たミリアは各部屋の絵を眺めながらのんびりと歩き回る。

 どの部屋でもイベントの準備が着々と進められており、絵画と武士というなんとも絶妙なコラボレーションが実現しつつあった。

 1階を見終わったミリアは2階へ進む。2階から1階へ床を突き破って盗みを働くなんて方法もあるのでは…なんて思ったからだ。

 そんな視点で各部屋や廊下を観察しながら歩くミリアは、2階の角部屋に入ると突如後ろから声を掛けられた。


「やぁ。君はどこかのモデルさんかな?」

「へっ?私?」


 振り向くと…そこに立っていたのは英国紳士風の出で立ちをしたイケメンだった。

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