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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
946/994

16-3-7.屋敷に現れた者

 霊寄石を破壊してから1週間の間。

 ミリアとブリティは日替わりで屋敷の監視を行っていた。

 子供達が安心して遊べる屋敷に戻ったのかを確認するためである。本当に幽霊や変な声が聞こえなくなったのか。その確認が取れなければ依頼達成とは言えないのだ。

 しかし、そもそもにおいて誰が霊寄石をあの場所に設置したのか…。クルルが調べた所によれば、霊寄石はかなり希少なアイテムらしい。テーマパークのお化け屋敷に設置する為に、大手企業が大金を払ってでも手に入れるほどの価値があるそうだ。

 少し深く考察すれば、霊を引き寄せるのにも関わらず、お化け屋敷に設置できるレベルで害が無いという点も、希少である理由の1つだと分かってくる。

 そうなると、あの屋敷に設置した人が誰なのか、目的は何なのか…それが非常に重要なポイントになってくる。

 更に言えば突然姿を消した老夫婦はどこに行ったのか。自ら立ち去ったのか、それとも事件に巻き込まれたのか。

 『お化け屋敷の秘密を説き明かせ』という依頼は、屋敷から変な声が聞こえなくなり、幽霊の目撃が無くなれば解決となるだろう。

 しかし、関わる周辺情報が未解決なままというのは…気持ち悪いことこの上なかった。


「ふぅ…もうお化けは出なさそうだねっ。」


 屋敷近くの建物の屋上で様子を確認していたミリアは、足をブラブラさせながら隣に座るブリティに話し掛けた。

 ピクピクと耳を動かして屋敷を観察していたブリティも頷く。


「だにゃ。これで呪われることは無さそうにゃ。」

「あとは、子供達があの屋敷でまた遊べるか…だよね。」

「アタイは最悪遊べなくても良いと思うにゃ。」

「えっ?なんで?」

「今回の依頼はお化けをどうにかして欲しいっていう話だったにゃ。だからお化けが出なくなったら、それで良いのにゃ。人が住んでない屋敷で子供達が遊ぶのは危ないにゃ。だから怖くなくなっただけでオーケーなのにゃ。」

「うーん…。」


 ブリティが言うにしては、珍しくまともな内容だった。言っていることは的を得ていて間違い無いのだが、ミリアはどこか釈然としない気持ちを抱えていた。

 子供達が屋敷に住んでいた老夫婦と笑いながら遊んでいた風景を想像してしまったからだろうか。

 お化けをどうにかしただけでは…依頼を持ち込んだ男の子が本当に望んでいる事を叶えていない気がするのだ。

 恐らくは…突如消えた老夫婦に……。


「むっ。誰かが来たにゃ。」

「えっ?」

「姿を隠すにゃっ。」


 ババっと屋敷から姿が見えにくい位置に移動する2人。陰からミリアが覗き見ると、屋敷の前に黒塗りの車が止まっていた。


「誰だろ?」

「分からないにゃ。もしかしたら…老夫婦失踪事件の真犯人かも知れないにゃ…!」


 そもそも犯人が捕まっていないのだから真犯人という表現は微妙に違うのだが…ミリアはスルーした。


「だとしたら…あの車に乗っている人が霊寄石も設置したのかな?」

「その可能性はあるにゃ。…あ、降りて来たにゃ。」


 車のドアを開けて降りて来たのは…、強面っぽい雰囲気の男だった。

 スーツを着ていても鍛えている事が窺える体に、黒髪オールバックを後ろで小さく結んだ顔は黒光りするサングラスを掛けている。

 明らかに一般人とは違う雰囲気の男の登場に、ミリアとブリティは思わず息を潜めていた。

 男は両手をズボンのポケットに突っ込んだまま、身動きせずに屋敷を眺めている。


「なにをしてるんだろ?」

「分からないにゃ…。でも、あんな普通じゃない人が屋敷をただ眺めるためだけに来たとは思えないにゃ。」


 いつになく冴えた発言をするブリティ。

 ミリアは真剣な顔で頷くと、男の観察を続ける。何か動きがあれば…そこから今回のお化け騒動に関わるヒントを得られるかも知れないのだ。

 そうして観察をしていると…車の運転席のドアが開き、もう1人の男が降りて来た。

 これまたオールバックで丸メガネをかけた男は…場に似合わず燕尾服を着こなしている。さながら執事といったところか。

 その男はサングラスを掛けた男に近づくと、恭しく小さな礼をして何かを囁いた。

 そして…それを聞いたサングラスの男がゆっくり振り向き、ミリアとブリティがいる場所を見たのだった。

 慌てて頭を引っ込める2人。


「え…ちょっと、見つかっちゃったかな?」

「分からにゃいけど…こっちを見たときのプレッシャーが半端なかったにゃ。やっぱり只者じゃないにゃ…!ヤクザにゃ。ヤクザに違いないにゃ!極道の極みにゃ!」


 ガクガクブルブルするブリティの背中に手を当てながら、ミリアは今見た男2人の顔を反芻していた。


(なんだろう…2人ともどこかで見た事があるような気がする。)


 どこで見たのかが重要なのだが、朧げすぎる記憶のため何とも言えないのがもどかしい。

 少しの間身を潜めていると、ブルルンという車のエンジン音が聞こえ、遠ざかっていった。

 ミリアとブリティは目を見合わせると、頷き合い…恐る恐る顔を出して屋敷の方の様子を窺う。


「…いないね。」

「だにゃ。災厄が去ったにゃ。」


 ふっと体の緊張を弛緩させる。

 もし、あの時に見つかって戦闘にでも発展していたら…と考えると、逃げる事ですら難しそうだと予想させる程の雰囲気を持つ2人だった。


「これは…今回の依頼は達成したけど、油断できないかもしれないね。」

「うにゃ…。でも、お化けが出てこないならアタイは受けて立つにゃ!お化けが出てくるならミリアにお願いするにゃ!」

「え〜っ!?それってズルくない?私だって怖いんだよ?」

「ふっふっふ…。アタイはミリアを見捨てたりしないにゃ!」

「今お願いするって言ったよね!?」

「ハテ…?にゃ。」

「ブリティ…。」

「げげっ。ミリアが怒ったにゃ。…逃げるが勝ちだにゃ!」


 ピュピューんと走り去るブリティ。


「むっ。逃がさないよっ!?」


 それを追いかけて隣の建物の屋上へ跳躍していくミリア。

 ついさっきまでの緊張したものから随分と早い切り替えだが、これが彼女達の持ち味と言えば持ち味でもある。良くも悪くも…ではあるが。


 彼女達2人が屋敷で経験したのは…本当に心霊現象だったのか。それとも、別の何かだったのか。

 今この時点ではそれを導くための手がかりが余りにも少ない。

 しかし、意図的に引き起こされたものだったとしたら…ミリアとブリティは既に逃れられない何かに巻き込まれているかも知れないのだった。


 ミリアとブリティが走り去った後、屋敷の前の空間がグニャリ…と歪んだ。その歪みから出てきたのは、つい先程ミリアとブリティが様子を伺っていたオールバック2人組…サングラスを掛けたスーツの男と、丸眼鏡に燕尾服を着込んだ男だった。


「…今の2人は?」


 サングラスの男が、燕尾服の男に問い掛ける。


「遠目でしっかりと見えなかったので確実とは言えませんが、何でも屋『ミューチュエル』の構成員ではないかと思われます。」

「ミューチュエルか。そうか。」

「はい。今回の件については明日の午後に詳細を報告致します。」

「期待しているぞ。」

「はい。ご期待に添えるかと。」

「ふん。その自身は相変わらずだな。」

「それでは…会合の時間が迫っておりますので。」


 次へと促す燕尾服の男の言葉に、サングラスの男は肩を竦める。


「はぁ…。馬鹿な奴等はコネや裏の繋がりで仕事をし過ぎたとは思わないか?」

「そうかもしれません。しかし、だからこそ彼等に利用価値がある…というものではないでしょうか?」

「そうだな。だからこそ俺は今の場所にいる。全ては真実に近づくためだ。」

「はい。辿り着くまでお供をさせて頂きます。」

「期待している。」


 恭しく頭を下げる燕尾服の男。

 そして周囲の空間が歪んだかと思うと、2人の姿は蜃気楼のように消え去っていた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 そして、屋敷の前にまた人が現れた。

 パールホワイトのロングヘアを揺らすスーツ姿の女性は、屋敷の門前で立ち止まると…腕を組んで小さく溜息をついた。


「ミリアもブリティも不用心ね。幽霊が出ないか監視するのに、逆に監視みたいにされてるじゃない。それにしても…。」


 そう言って屋敷を見上げる。

 女性の名は…御察しの通りクルルだ。

 屋敷を見上げるクルルの目には…何かしらの感情が込められていた。懐かしむような、悲しむような瞳。


「…変わらないわね。」


 呟くと…クルッと背を向けて歩き始めた。

 その手がギュッと握りしめられていたのは…何を意味するのだろうか。


 いくつかの謎を残しながらも、依頼『お化け屋敷の秘密を解き明かせ』は完了となったのだった。

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