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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
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16-3-1.依頼『お化け屋敷の秘密を解き明かせ』

 白金の都は円心状に建物が並んでいる。中心に都会議事堂、その外側に商業地区、1番外側に住宅地区と続いていく。

 そして住宅地区の外側には紅葉林が広がる…という構図だ。

 至って平穏で、都圏の他星からの観光客も多いのが白金と紅葉の都という星の特徴である。


 その住宅地区で異変が起きていた。


 とある老夫婦が数年前まで住んでいた屋敷が異変の発生源だった。

 その屋敷は老夫婦が住んでいた時は子供の笑い声がよく聞こえていた。子供好きな富豪夫婦が子供達の遊び場として庭を開放していたのだ。

 何故、異変が起き始めてしまったのかは誰にも分からない。

 誰かの仕業なのか。それとも…この世に在らざる者が何かを伝えようとしているのか。


 はっきりしているのは1つだけ。

 それは、呻き声が夜になると屋敷の中から聞こえてくる…という事。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 ミューチュエルにて。


「えっ…。お、お化け?」


 引き攣った顔で言うのはミリア。


「うん…。夜になると聞こえるんだ。毎日塾の帰りにあの家の前を通らなきゃいけなくて、どうにかして欲しいの!」


 目に涙を浮かべて言うのは、小学6年生の男の子だ。

 つまり、今回の依頼人は小学生と言うことになる。


「そうね…。1つ確認をしたいんだけど、その家でお化けを見たのは君だけなのかしら?」


 腕を組んで眉根を寄せながら質問をしたのはクルルだ。

 いかにも怪しい依頼内容が故に、判断を悩んでいるのだろう。

 男の子はクルルの難しい表情にややビビりながらも、気丈に返事をした。


「うん!僕の友達も沢山聞いたって言ってる!それに、窓に人影が映ってるのを見たって話も聞いてるよ!」

「ちょっと…怖くない?」

「そうね…。その家に住んでいた人達はどこに行ったのか知ってる?」

「それは…。」


 怖がるミリアを置いておいて、クルルは男の子へ質問を重ねていく。

 しかし、家の住人の話になった途端…男の子の勢いが衰えた。


「どうしたのかしら?」

「えっと………。」

「住人について…何か知っているのね。」

「そうなんだけど…でも…。」

「言いにくいのかしら。…。そうね。貴方がその知っている情報を話さないのなら、私達は依頼を受ける事が出来ません。」

「…何で!?」

「私達は慈善事業でこの仕事をしているわけではないんです。きちんと報酬も頂きますし、何よりミューチュエルで依頼に携わるミリアとブリティを守る義務がわたしにはあります。不確定な情報の中で、無闇に危険な場所へ飛び込む事は…基本的に出来ません。」

「でも…だって…。」

「あなたが知る情報を全て話した上で、その情報から仮説を立て、私達は依頼を受けるかを判断します。あなたが子供だとかは関係ありませんよ。あなたは…自分の依頼でミリアやブリティが死んだ場合、その償いを出来るのですか?」

「ちょっとクルル…!それは言い過ぎ…!」


 小学生相手にかなり厳しい物言いをするクルルへミリアが抗議するが、ビシッと口に手を当てられてしまう。


「ミリア…あなたは静かにしていて下さい。私達は何でも屋ですが、便利屋ではないのです。さ、君は選ばなければなりません。話さずに帰るか、話して依頼受諾の可能性にかけるのかを」


 男の子は下唇をグッと噛みながら、下を向いてしまう。

 あまりにも可哀想なその姿に、助け舟を出そうとするミリアだが、クルルの視線を受けて断念した。

 クルルが意地悪をしているのではなく、優しさから厳しいことを言っているのに気付いたのだ。

 それは、男の子が「自分が依頼をしたせいで。」という罪悪感に苛まされながら人生を送らない為の厳しさなのだろう。


 沈黙が続く。


「…分かった。話すよ。」


 そう言って顔を上げた男の子は、この数分間で一回り成長をした顔をしていた。覚悟をした男の顔だった。

 その覚悟を受けたクルルとミリアは頷き、男の子が言葉を続けるのを静かに待つ。


「あのね…あの家に住んでたおじいちゃんとおばあちゃんは…凄く優しかったんだ。いつも休みの日はお庭に行って遊ばせてもらってたの。でも、僕が小学5年生になった時に…突然いなくなっちゃったの。」

「突然…事故で亡くなったんですか?」

「ううん。本当にいなくなっちゃったの。前の日は一緒に遊んでたのに、次の日の朝にね、いつも挨拶してくれるのにいなかったんだ。学校の後に遊びに行っても門が開かなくて…。」

「そうですか…。あなたの親御様は何か言ってましたか?」

「何も言ってなかったの。それでね、この話はしちゃダメだって言われたの。」

「…分かりました。ミリア、どう思う?」


 男の子の話を聞いて考え込んでいたミリアは、顎に手を当てて探偵風に話し始める。


「うーん。大人は家の人がいなくなった理由を知っているか…勘付いてはいそうだね。」


 真剣な表情のミリアを見て、男の子は拳をギュッと握りしめていた。自分の話している内容が信憑生に欠けていることを分かっているのだろう。

 断られる事を覚悟した目で、それでも縋るようにクルルとミリアを見ていた。

 そして、少年の視線を受けるクルルはテーブルに置かれていた紅茶を口元へ運ぶ。もう聞く事は終わったからだ。後の判断は…ミリア次第だった。

 クルルは情報から分析し、ミリアは直感的に悪意を感じる事に長けている。

 この時点でクルルが何も言わないという事は、彼女は依頼を受ける事に問題が無いと判断しているという事。

 少しの間考え込んだ後、ミリアは力強く頷いた。


「うん。よしっ!お化けの正体をおねえさんが暴いてあげる!」

「ほ、ほんと!?」

「もっちろん!ただし、お母さんに話を聞かせてもらえるかな?」

「うん!お母さんには嫌って言わせないよ!」


 パァっと顔が輝いた少年を見てクルルは口元を綻ばせていた。

 そして、バーカウンターでジュースを飲んでいたブリティは…固まっていた。


「ま、マジかにゃ…?」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 翌日。

 ミリア、クルル、ブリティの3人は依頼人である男の子の家へ訪問していた。


「急にお邪魔してしまって申し訳ございません。お話を聞いているかとは思いますが、住人の方が突然いなくなったというお屋敷についてお話を伺いたく考えております。」

「……どうぞ中へ入って下さいまし。」


 出迎えた母親の顔は強張っていた。明らかに歓迎されていない雰囲気だが、クルルは気にした様子もなく家の中に入っていく。


「本当に話を聞くにゃ?話したくなさそうにゃ。」

「うん。でも話を聞かないと依頼が解決できないと思うんだ。」

「そもそもこの依頼の報酬がおかしいにゃ。なんでミューチュエルの宣伝をするのが報酬になるのにゃ?」

「それは…クルルに聞かないと私も分からないよっ?」

「2人ともどうしたの?待たせたら失礼だから早く来なさい。」


 家の玄関からクルルが催促する。彼女にしては珍しく断り難い雰囲気を醸し出していた。


「うー分かったにゃ。」

「はーい!」


 元気に返事をするミリアと、いまいち乗り切らない返事をするブリティは家の中に入っていく。


 応接室に通された3人は、母親に出してもらったお茶を一口飲むと、早速本題を切り出した。


「では奥様、早速本題に入らせて頂きます。最近夜になると老夫婦が住んでいた屋敷から声が聞こえるという話を息子さんから聞きました。」

「そんな幽霊話みたいなものについて私が分かるわけないのです。」

「いえ。その原因については私達が調べる予定なので大丈夫ですよ。お母様に聞きたいのは、その屋敷に住んでいた老夫婦についてです。」

「…!?……私は何も知らないわ。」

「そうですか…。何か聞けるかと思っていたのですが…残念です。」


 潔く諦める姿勢を見せるクルルの応対に、ミリアとブリティは目を見合わせてしまう。

 しかし…その心配は杞憂だった。


「それでは質問を変えさせて頂きますね。」


 クルルが目線を向けたのは…男の子だった。


「あなたはお化けの声を聞いた…ではなく、見たと言ったわね?」

「えっ…!?」


 動揺する男の子。覚えがないのかもしれないが、確かに「お化けを見たのか」という質問に「うん」と答えていた。


「つまり、変な声が毎晩聞こえる屋敷に忍び込み、そこでお化けを見たのよね?」

「えっと…。」

「お母さん。この意味が分かりますか?」

「…どういう意味かしら?」

「つまり、息子さんはお化けが出るという屋敷に忍び込み、お化けの姿を見ました。そのお化けの正体が本物にせよ、偽物にせよ…姿を見た息子さんを放っておくとは思えません。」

「…!?」

「だからこそ、息子さんに危害が及ぶ前にお化けの正体とやらを突き止める必要があるのです。老夫婦のこと…話していただけないでしょうか?」


 唇をキュッと結ぶ母親。そして、自分が屋敷に忍び込んだことを怒られないかビクビクする少年。

 だが、クルルは少年への助け舟も出すのだった。


「念の為お伝えしておきますが、屋敷に忍び込んだ息子さんを責めても仕方がないですよ。子供というのは好奇心から危ない事をするものです。そして、成長していきます。お母様は息子さんに老夫婦の真実を隠した。その事実が息子さんの好奇心をより掻き立てたのです。」


 クルルの言葉を聞いていた母親は…溜息をついた。


「分かりました。話しましょう。」


 そして、母親は老夫婦に起きた事…その知りうる全てを話したのだった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 問題の屋敷は門と塀に囲まれた豪邸だった。但し、豪邸と言っても慎ましやかさを感じる豪邸だ。門は人の身長ほど出し、塀もちょっと背伸びすれば庭を覗ける程度の高さしかない。

 この家を建てた人の警戒心が薄い…というよりも、周囲との調和を大事にしていたのではないかという雰囲気である。実際に子供達が庭で遊べるように開放していた事も考えれば、強ち間違った推測とも言えないだろう。


 この屋敷の前にミューチュエルの3人は立っていた。時刻は15時を丁度回った頃。夕方にもなっていないので、お化けに遭遇する確率は低いはず。

 …なのだが。


「も、も、も、もう帰るにゃ。祟られたら終わりにゃ!」


 何故かブリティがビビりまくっていた。


「え!?そんなに怖い?」


 首を傾げるミリアにブリティがしがみ付いた。


「駄目なのにゃ。ここにはいるのにゃ。危ないにゃ!」


 かなり必死なブリティ。


「そのいるって言うのは…何がかしら?私にはこの屋敷の中に誰かがいるようには感じられないわ。」

「そうだね。私も誰もいないと思うよ。」


 しかし、そんなミリアとクルルの反応にブリティは涙目になっていた。


「駄目にゃ駄目にゃ怖いにゃ危ないにゃ祟られるにゃ!」


 あまりにも普通ではないブリティの様子に、クルルは小さく頭を横に振った。


「このまま調査をするのは難しそうね。時間帯もまだ早いし。改めて出直しましょう。」

「は〜い!」

「ありがとうにゃ!ありがとうにゃ!」

「ただし、依頼を途中破棄することはないので、そのつもりでお願いね。」

「お、鬼にゃぁぁ!」


 寂しいブリティの叫び声が静かになった住宅街に響き渡ったのだった。

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