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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
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16-2-10.ブリティ〜煮干しな日々〜その2

 首を傾げるブリティ、顔を引攣らせる魚屋店主、身を強張らせる少年達の視線を受けながら、クルルは組んだ腕をゆっくりと解く。

 そして、顔の横に右手を持ってくるとピンッと人差し指を立てた。


「今回の悪餓鬼大将を捕まえる依頼を警察より受けた時から、何となくおかしいとは思っていたんです。白金の都の警察は優秀ですから。その警察が幾ら魔法を使う少年達だとはいえ、捕まえられないというのには違和感がありました。」

「…それが何だって言うんだ?」


 低めの声で感情を押し殺したような話し方をする魚屋店主の額を一筋の汗が流れ落ちる。


「つまりです…警察が悪餓鬼大将を捕まえられない理由があると言う事です。私が予想したのは2つ。悪餓鬼大将をサポートする者達が存在する可能性。そして、警察が悪餓鬼大将達を捕まえる事に躊躇をしている可能性。後者の場合は、私達ミューチュエルという警察外の人間が捕まえる事で問題が解決される事も想定されました。」

「……。」


 魚屋店主は目を閉じた。それは何かを悟ったのか、それとも諦めたのか。

 しかし、クルルが続けた言葉に驚き、再び目を開けるのだった。


「そして、私が情報を集めた中で判明したのは…両方の仮説が正しいと言うことです。」

「なに…!?」

「クルル!意味がわからないにゃ!わかりやすく説明を希望するにゃ!」

「分かったわ。」

「ど、どういうことだ…?警察が悪餓鬼大将を捕まえられない理由があるだと…?」


 魚屋店主の動揺も分かりやすいが、悪餓鬼大将達にも動揺が広がっていた。


「一応言っておきますが、だからと言って貴方達大人が悪餓鬼大将を裏でサポートしていた事実が消える事はありませんよ?」

「う…!」


 ズバッと真実を突いたクルルの言葉に分かりやすい反応をしてしまった魚屋店主は、観念したように首を振った。


「こりゃあ敵わないな…。あぁそうだよ。俺達は博愛党が強行した高額な課税に反対しているんだ。政権交代を起こす為に、悪餓鬼大将達が博愛党の裏金を世間に露呈させる手伝いをしていた。」

「ま、待て!魚屋のおっさんは何も悪くねぇ!悪いのは俺達だ!」

「まぁ、静かにして下さい。悪餓鬼大将…貴方が両親を失ったのは分かっています。その原因が博愛党が推し進める高額な税制に起因する事も。復讐…なんですよね?」

「……!?…あぁそうだ。俺は両親を失った。博愛党の奴らが悪いんだ!」


 クルルは静かに頷く。


「そうでしょう。博愛党の政策が目に余るのは事実です。」

「だったら…!」

「しかしです、銀行を襲撃して裏金を露呈させるのでは自分達も悪党になってしまいます。今まで貴方達は犯罪と認定される行為は行なっていません。引き返すなら今です。」

「……。」


 ギリギリ…と歯軋りの音を漏らしながらクルルを睨みつける悪餓鬼大将。


「…分かっていないようなので言いますが、警察が貴方達を捕まえられない理由は2つあります。1つは今言った…貴方達が犯罪行為をギリギリのラインで踏み越えていないという事。そして、もう1つは貴方達を捕まえたら博愛党の裏金の存在が世間に露呈されてしまうという事です。」

「ん〜?なんでにゃ?悪餓鬼大将を捕まえれば、それで口封じが出来て終わりじゃないかにゃ?」


 首を傾げるブリティを見てクルルが微笑む。


「一般的に見ればそうです。しかし、警察が悪餓鬼大将を捕まえられるのは彼らが犯罪を犯した時だけ。そして、悪餓鬼大将が捕まれば様子見をしているメディアが黙っていません。恐らく裁判にも大勢の報道陣が詰めかけるでしょう。そうなれば…あとは悪餓鬼大将が法廷で真実を話すだけです。彼が有罪になろうと、無罪になろうと、真実が晒されます。」

「成る程にゃ!流石クルルは頭が良いにゃ!だからアタイ達の出番ってわけにゃ。アタイ達が悪餓鬼大将達をボッコボコにして反省させれば、警察は何もしないで事件解決ってわけにゃ。」


 ビクッと悪餓鬼大将達が反応する。涙目の子供も数人いるので、笑顔で物騒な事を言うブリティが怖いのだろう。


「ブリティ…しかし、それでは私達は警察の思惑通りに踊らされるだけよ。何でも屋『ミューチュエル』の名が廃るわ。」

「むぅ〜?そうしたらどうするのが良いにゃ?」

「それは…私に任せなさい。」


 そう言ったクルルは悪戯めいた笑みを浮かべたのだった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 クルルが悪餓鬼大将に話をした数分後…。


 銀行前の大通りに複数の子供達が現れた。

 その姿を見た通行人達はギョッとして思わず足を止める。その理由は簡単。子供達全員が鬼のお面を被っていたのだ。

 鬼のお面を付けた子供達が次々と現れる光景は…ホラー映画を連想させるほどに異様なものだった。迫り来る殺人鬼がお面を付けるのは、洋画で時々見られる演出の1つでもある。


「おいおい…なんだこれは?」

「もしかして何かの撮影かしら?」


 様々な憶測が飛び交う中、銀行の近くに偶然立っていた男は慌てて大きい鞄の中からビデオカメラを取り出した。


「こりゃぁ…スクープの予感だぞ…!」


 カメラのレンズは鬼の仮面を付けた子供達が銀行の入り口に殺到する様子を確りと捉える。


「銀行の偉いやつ出てこい!」

「そうだそうだ!」

「悪いお金を隠すのはやめろ!」

「そうだそうだ!」


 鬼の仮面を被った子供達は警備員に侵攻を抑えられながらも、大きな声で叫びつづける。

 しかも…子供の数はどんどん増えていき、総勢50人程に膨れ上がっていた。

 これに比例して野次馬の数もどんどん増えていく。


「こら!君達!悪ふざけはやめなさい!ここは銀行だよ!」


 必死に警備員が子供達を宥めようとするが、効果はない。寧ろ火に油を注ぐかの逆効果。


「うるさい!悪者を庇うお前も同罪だ!」

「みんな!倒せ〜!悪者を捕まえろ〜!!」

「「「お〜!」」」


 子供達の行為が「悪ふざけ」から「犯罪」へ切り変わろうとしていた。

 そして、その様子を銀行と反対側の建物の陰から見守る集団がいた。


「よし…遂に奴らが犯罪行為を犯すぞ。」

「しかし、本当に捕まえるんですか?これで逮捕をしたら子供達が何を目的に暴動を起こしたのかが白日の元に晒される事になります。」

「あぁ。だが、犯罪は犯罪だ。それに…俺達は政治家の為にあるんじゃない。俺達は白金の都の住民達が安心して過ごす為にいるんだ。権力に負けてはいけないんだ。」

「…!分かりました!」

「よし…カウントで一気に制圧するぞ!」


 御察しの通り、警察部隊である。彼らは政治という圧力によって悪餓鬼大将達の逮捕について色々と面倒臭い状況に陥っていたのだが、リーダーを務める男は権力に屈しないという信念を持って逮捕を断行しようとしていた。


「お前ら待つにゃ〜!」


 しかし、警察部隊に出番が訪れることは無かった。

 彼らが飛び出す前に、1人の亜人が銀行の屋根から子供達の前に飛び降りたのだ。


「あいつは…ミューチュエルのブリティ…!」


 ここに来てリーダーはミューチュエルへ依頼をした上層部を恨まざるを得なかった。

 もし、ここで悪餓鬼大将含む子供達がブリティによって制圧されれば、暴動の原因に関する情報統制が非常に取りやすくなるからだ。それはつまり…警察上層部が必死に守ろうとしている情報が守られ、政治という権力と警察という権力の結びつきをこれまで以上に強める結果となってしまうのだ。

 それは、どんな権力にも屈しないというリーダーの信念に大きく反するものだった。

 しかし…時既に遅しである。


「みんなのヒーローブリティの登場にゃ!子供達!どうしてこんな事をしているのかを話すにゃ!そしたら…えっと…なんだったかにゃ?えっと……はっ!思い出したにゃ。そしたらブリティが代わりに悪者を懲らしめるにゃ!」


 一瞬、場を静けさが支配した。

 子供達を捕まえようとしていると思いきや、どちらかというと子供達の味方寄りの発言なのだから当然だ。

 そして、その発言に子供達は思いの丈をぶつける。


「お父さんとお母さんが悪い政治家に殺されたんだ!」

「博愛党は裏金をこの銀行に隠してるんだ!」

「僕たちの税金が悪いことに使われるなんて許せない!」


 ふむふむ。…と一通りの話を聞いたブリティはニカッと笑う。


「分かったにゃ!その話が本当なのか、銀行の支配人に聞いてくるにゃ!」


 クルッと銀行の入り口に体の向きを変えたブリティは、躊躇することなく走り出した。


「駄目だ!今、この銀行にはいるのは許さない!」


 銀行の入り口からゾロゾロと現れて立ちはだかったの20名を超える警備員だ。

 全員が本気の目でブリティを迎え討とうとしていた。鬼気迫る表情は、何人たりとも中にはいれないという覚悟を感じさせる。

 そして、警備員とブリティの大乱闘が始まった。途中から子供達も加わり、そこに呼応した通行人も加わり始め…最終的には反対側の建物の陰に潜んでいた警察部隊が慌てて飛び出し、事態の鎮圧に奔走する大事件に発展したのだった。


 この事件はその日の夜から翌日に掛けて大きく報道された。

 事件映像を偶然にも収めることに成功したカメラマンは、各報道局から高額な報酬を受け取ったらしい。

 そして肝心の裏金について世間から疑惑の目を向けられる事となった博愛党は弁明を繰り返し、鬼の仮面を被った子供達はヒーロー扱いをされる事となった。とは言え、仮面を被っていた為に誰1人とて素性がバレずに済んでいたので、実名を公開される事は無かったのだが。


 こうして悪餓鬼大将を中心にした博愛党裏金事件は無事に幕を閉じる事と相成ったのである。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 「全く…こうも上手く話が進むとは驚きだな。はっはっは!」


 大口を開けて笑う魚屋の店主の前ではクルルが日本茶を啜っていた。


「それにしても…あの銀行前の騒動を誰も映像で収めてなかったら少し危なかったんじゃないか?」


 茶碗を静かに置いたクルルは笑う。


「ふふっ。私がそんな賭けに出ると思いますか?あそこには知り合いのカメラマンを事前に呼んでいました。」

「ま、マジか。…って事は、俺たちと話す前からあーゆー方針で動く事になるって分かってたのか?」

「今回はそれが最善策でしたので。」

「こりゃぁ…参ったぜ。」


 頭をポリポリ掻く魚屋店主は目線を横にいるブリティ(煮干しの海に埋もれて幸せそうに昇天している)へ向ける。


「本当に今回の報酬がこの煮干し1箱で良いのか?」

「えぇ、構いません。今回は最初から報酬を当てにしていませんでしたから。寧ろ頂けるだけ幸せなものです。」

「そうか…本当にありがとうな。悪餓鬼大将達も今回ので反省したみたいで、真っ当なやり方で政治を正すなんて意気込んでたよ。あいつの親とは俺も友達だったからな。本当に…ありがとう。」

「そうですか…。本当に気になさらないで下さいね。お陰様で色々なツテを見つける事が出来たので。それだけで十分です。」


 2人がそんな話をする中、煮干しの海に溺れたブリティはブツブツとつぶやいていた。


「もう…煮干しさんは食べれないにゃぁ…。」


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