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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
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16-2-8.ミリア〜日課と趣味〜

 微睡みの中で見ていたのは…素性の知れぬ青年との出会い。


「う…ん。……朝かな?」


 窓から差し込む陽の光で目が覚めたミリアは、目を細めながら外へ視線を向ける。

 カーテンの隙間から覗く空は青い。どうやら本日は快晴のようである。白金と紅葉の都は円状に建設された白金の都を取り巻く形で紅葉林が広がっており、特に快晴時の紅葉林は絶景のひと言に尽きる。

 この紅葉林を目当てに訪れる都圏の観光客も多く、ミリアも好きな光景のひとつだった。


「いい天気だねっ!よし、今日は快晴コースでいこうかなっと。」


 ピョンっとベッドから飛び降りたミリアはパパッと着替えを済ませると、部屋を出て階段を降りていく。


「おはよー!」

「おはようにゃ!今日の朝ごはんは焼き魚にゃ!」


 全身から音符マークを出しながらテーブルに座っているのはブリティ。

 彼女の言った通り、朝ごはんは焼き魚のようで、部屋の中は魚が焼かれた香ばしい香りで充満していた。


「あら、ミリアおはよう。今日は焼き鮭よ。今日も行くんでしょ?」

「クルルおはよっ!もちろん行くよ〜!毎日やらないと意味ないもんっ。」

「ふふっ。そうね。じゃあすぐに食べれるようにするから待っててね。」

「うん!」


 元気に返事をしたミリアはブリティの隣に座る。


「しししししし…。焼き魚にゃ…。」


 ブリティの様子がおかしい……のはいつもの事。猫の亜人である彼女は、そのまま魚が大好物なのだ。因みに…ブリティの好物No.1は煮干である。


「はい。お待たせ。」

「おぉ!美味しそう!」

「ヨダレが止まらないにゃ!」


 クルルが用意した朝ごはんは完璧だった。粒が立った白米。焼き鮭にはキュウリと大根の浅漬けが添えられている。そして味噌汁には豆腐、ナメコ、ネギ。


「うにゃー!!」


 ブリティが眼を爛々と光らせながら食らいつく。

 そこから焼き魚をめぐる壮絶な攻防が繰り広げられ、クルルからお叱りの鉄槌が下されたのは推して知るべし。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「じゃあ行ってきまーす!」


 朝ごはん戦争の終結を迎えたミリアは元気な声を出してミューチュエルから飛び出した。

 クルルは食器の片付け中。ブリティは頭から煙を出してノックダウン中である。


「よーし、今日もやるぞー!」


 ぐんっと伸びをした直後にミリアは走り出した。

 道路を駆け抜け、目指すのは高さのあるビルだ。その正面玄関に到達したミリアは、跳躍してビルの壁を登り始めた。


「ほっほっほっ…よっっと!」


 そこまで凹凸が多くないビルの壁面を登る姿は、さながら猿の様な身軽さである。


(やっぱりこのコースは魔法無しだと難しい…ねっ!)


 通常の日課であればここまで高いビルの壁面を登ることはしない。

 補足しておくと、もうお気付きの事と思われるが、このロードワークはミリアの毎朝日課である。

 但し、今日は特別コースだ。それは本日の快晴に起因する。


「着いたー!よーし!」


 ビルの最上部に到着したミリアは、気合いを入れて無詠唱魔法を発動する。発揮するのは身体能力の強化だ。

 そして、50m以上離れた隣のもっと高いビルに向けて失踪し…跳躍した。

 ビルの隙間を流れる風に一瞬体がグラつくが、手を広げて風の流れを掴んで体勢を立て直すと壁面に着地。ビルから出ている棒を使って体を回し、遠心力の力を使って更に上へ上へと跳躍を重ねて行く。


「ほっ!」


 こうして幾つかのビルへビルへと移っていったミリアは、白金の都で2番目に高いビルの屋上に到着すると足を止めた。


「後は…この最難関だけだねっ。」


 目の前に聳え立つのは白金の都で1番高いビル…都会議事堂である。ただ高いだけではない。白金の都の政治の中心部であるこの建物は、警備体制もハイレベルなのだ。

 監視カメラも至る所に設置されているし、各階ごとに警備員が配置されている。ちょっとのそっとで超えられるものでは無かった。


「警備員さん達〜!!行くよ!」

「お、ミリアか!」

「待ってたぞー!今日は登らせないからな!」


 大声で乗り込む宣言をしたミリアは、警備員達からの返事を確認すると、楽しそうに笑い…助走をつけて都会議事堂に向けて跳躍した。

 ミューチュエルとして活躍するミリアは警備員達の知り合いも多く、快晴の日に都会議事堂で行うこれから始まる攻防は、最早警備員達の間でイベントのようになっているのだった。


「ひやぁあ〜!」


 比較的長距離に近い跳躍が生み出す微妙な落下感がミリアの五感を襲う。

 

「よぉっしっ!」


 しかし、ミリアは落下感に対して恐怖というよりも高揚を感じている表情をしながら、壁面に足を付けると出っ張りを使って上へと登り始めた。

 各階のバルコニーやベランダ、窓などの様々な位置で待ち構える警備員は巧みな妨害をミリアへと仕掛けてくる。

 刺又を横から突き出してきたり、バルコニーに足を乗せた瞬間に上下階から攻撃魔法を放ってきたり。


「おっ!?ほっ!ほっ!ひゃぁぁあ〜今日は一段と激しいね!」


 ひゃぁぁあ〜などと言っているが、警備員達の妨害を難なく避け続けるミリアは10分ほどの攻防を経て都会議事堂の屋上に到着したのだった。


「くそっ!今日もダメか〜!」

「いや、今回は少し光明が見えたぞ!さっきの連携に…。」


 階下では警備員達が既に反省会を始めていた。

 そもそも、ミリアが都会議事堂の屋上に登るという行為自体が一般的観点からすればNGなのだが、そこには触れないお約束になっているのだった。

 さて、屋上に到着したミリアは目の前に広がる光景を見渡して両手をグンっと広げた。


「やっぱりいい景色っ!」


 絶景だった。どこまでも広がる青空に、白を基調にしてキラキラと輝く白金の都。そして、その都を丸く取り囲むように彩る紅葉林。

 ミリアは自分が育ったこの星の、この光景を見るのが大好きだった。

 だからこそ、白金の都に住む皆の役に立つミューチュエルという何でも屋の仕事をしているのだ。

 皆が幸せに笑う日々を過ごす手伝いをするのが、ミリアが仕事をする上でのやり甲斐になっているのだ。


「よしっ。じゃぁ降りるかなっ!」


 もう1度クルッと回って景色を眺めたミリアは、ピョンっと都議会議事堂の屋上から飛び降りた。

 仮に1フロアの高さが3mだとしても300m。その高さからの自由落下にミリアは動じることなく落ちていく。

 両手を広げ、風を全身で受けながら落下するミリアは途中でフワッと落下速度を減速させた。


「ん〜と…あった!」


 体から発現させた魔力の膜のようなものを操って落下方向を調整したミリアは、大通りにある1つの店に向かって落下…飛翔?していく。

 順調に見えた落下行程だったが…どうやら細かい調整は難しかったようで。


「あ〜危ない!どいてどいて〜!」


 と、通行人達に避けてもらいながらフワッと静かに着地したミリアは、周りの人達に謝りながら着地地点のすぐ横にある店を見て眼を輝かせた。


「イルカちゃんあるかなぁ〜!」


 音符マークを浮かべながら彼女が入って行ったのはぬいぐるみ屋さんだった。

 このぬいぐるみ屋訪問も、勿論日課の1つである。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 30分後。

 店から出てきたミリアは残念そうにブスッと頬っぺたを膨らませていた。


「むー、やっぱりカルルンちゃんが無いよー。」


 ミリアが探していたのは、自身で店を出るなり悲しそうな声で言ったイルカ人形のカルルンちゃんである。

 通常のカルルンちゃんは水色をしているのだが、探しているプレミアの人形はなんと…銀色なのだ。カルルンちゃんファンからしたら垂涎もののアイテムで、ファンの1人であるミリアも時間がある時にはカルルングッズを探し歩いているのだ。

 だが、プレミア人形が市場に出回る数は非常に少なく…。


「カルルンちゃんは諦めるしかないのかなぁ…。」


 と、意気消沈するミリアに繋がるのであった。

 このまま他の店にカルルンちゃん探し歩きの旅に出かけたい所だが…。


「あ、もうこんな時間!早く帰らないと依頼が全部終わらなくなっちゃう!」


 時計を見たミリアは慌ててミューチュエルに向けて走り出した。

 基本的に受諾した依頼の不履行があれば、ミューチュエルの信頼問題に繋がってしまう。その点に関してクルルはとても厳しく、それを知っているからこそ、依頼開始の時間厳守はミューチュエルのメンバーでは暗黙の了解事項なのだ。


「よぉぉし!今日も頑張ろ〜!」


 カルルンちゃん人形が見つからなかったとは言え、すぐに切り替えた元気なミリアの声が白金の都に響くのだった。


 今日も白金の都の住民の困った問題解決の為に奔走する1日が始まる。

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